2009年2月26日木曜日

構造改革のもたらしたもの(2)


 先週に引き続き、このテーマで書かせていただきます。

 日本は、「失われた10年」を、産業再生法の発動と大手銀行に
対して資本注入したことにより立ち直った、と言われています。で
も、今回のアメリカの状況は、日本だけでなく、ヨーロッパや新興
国も巻き込んで底なしの世界恐慌になりそうで、一国だけの問題で
済みそうもないと言われています。ただ、各国とも同じではありま
せんが、過去の日本の前例に倣った政策で、立ち直ろうとしている
ように感じています。

 アメリカの上院は、総額72兆円に上る景気対策法案を議決した
ようです。しかし、その中に、アメリカ製品の購入を義務付けるバ
イ・アメリカン条項が入っているとのことから、アメリカで保護主
義が台頭してくる可能性が指摘されており、各国で批判が高まって
います(オバマ大統領がカナダを訪問して、保護主義にはならない
という意味のことを、カナダの首相に語ったという記事が新聞に載
ってはいましたが・・・)。1930年代の世界大恐慌の際にも、
バイ・アメリカン法が成立したそうですが、そのためか、各国とも
防衛のために保護主義的傾向が強まり、結果として、第二次世界大
戦へ突き進んだと言われています。

 ただ、1930年代とは違い、各国は連携し協力することの大切
さを知っているはずですし、戦争の愚かさも知っています。また、
どうしようもないほど、経済・社会は入り組んでしまっていますか
ら、一国だけでの独自解決などできるはずがありませんが・・・国
はきっと最良の政策を採用してくれると信じることにしています。
地方自治体としては、もちろん、この事態に対する解決法は、残念
ながら持っていないのですから。

 先日の内閣府の発表によると、昨年10月~12月期の日本の国
内総生産(GDP)の成長率は、年率換算でマイナス12.7%に
なるとのことです。世界同時不況と言われる中でのこの数値は、先
進国の中でも際立って高い数字なのだそうで、外需に頼りすぎてい
た日本の経済構造の弱さが表面化した現象とも言われています。
 ただ、この数字は、一時期の瞬間風速みたいなもので、あまり過
大に心配するべきではない、円高が進行していることは、日本経済
の健全さを表しているとも言われていますし、金融界の落ち込みは、
アメリカや欧州より少ないと言われているのですから・・・。

 問題は分配の問題で、構造改革により“1億総中流社会日本”が
崩壊したという主張は、かなり納得できるように思います。内需拡
大や正規・非正規問題といった雇用問題の解決が政策目標になって
くるのは、当然の帰結だろうと感じています。

 先週紹介させていただいた中谷巌氏の著書『資本主義はなぜ自壊
したのか』を読ませていただくと、新自由主義・グローバル資本主
義(市場原理主義)は、果たして日本人を幸福にしたのか、地球環
境の破壊を推し進めているのではないか、中流社会ニッポンが消え
うせた・・・日本の社会から「安心・安全」あるいは「人と人との
信頼関係や絆(きずな)」が失われる事態を引き起こしたなど、い
ろいろな指摘がなされています。私個人としては、これらは理念と
してかなり納得できる説だと感じています。

 ただ、中谷氏は次のようにもおっしゃっています。
 構造改革には一定の意義があり、「構造改革」そして一連の「規
制撤廃」は、政・官・業の癒着体質を打ち破り、国民の税金や「郵
貯」や「簡保」の資金が意味のない公共投資に垂れ流されることに
対して、くさびを打ち込んだのは間違いのない事実である・・・日
本には改革の余地がたくさん残っていると言っても過言ではない・
・・しかし、これまでの路線で構造改革を続けるということであれ
ば、今や「功」よりも「罪」の方が大きくなってきているのではな
いだろうか・・・。

 そして、マーケット(市場)メカニズムも限界を抱えた次善の仕
組みであるということで、イギリスのウィンストン・チャーチル元
首相が民主主義について述べた言葉を引用して「マーケット・メカ
ニズムが完全で賢明であると見せかけることは誰にもできない。実
際のところ、マーケット・メカニズムは最悪の経済システムという
ことができる。これまで試みられてきたマーケット・メカニズム以
外のあらゆる経済システムを除けば、だが」とまで言い切っておら
れます。

 中谷氏は、もう一つ、グローバル資本主義がもたらす深刻な現象
として「地球環境の破壊」を指摘しておられます。グローバル資本
主義は、利益追求が最大の使命であるが故に、限られた地域で強い
られる環境破壊への自制は不必要で、環境を汚染し、資源を無駄遣
いしても、それが直接企業経営にマイナスに働くとは限らない・・
・とおっしゃっています(言い換えれば、地域に密着した企業は、
地域に縛られているが故に、地域にマイナスの仕事はできない、と
いうことかもしれません)。

 若干の異論はありますが、これらのことにはかなり説得力があり、
正直ショックを受けました。私も、基本的には構造改革の支持者で
あり、民営化推進論者だからです。ただし、国家レベルと地方自治
体レベルでは違いがあると考えています。故に、このことに関して
長野市としては、今までの政策は間違っていないと信じており、今
後も信じるところを推進していくつもりですが・・・。

 地方自治体に当てはめてみると、例えば大型ショッピングセンタ
ー(SC)が進出すると、周辺の小さな商店はとても大きな影響を
受けることになります。これは経済の論理のもとでは仕方がないこ
とです。しかし、市外の資本による大型SCは、経済環境の変化に
よりあっという間に撤退してしまう可能性もあります。そして、大
型SCがなくなった後には、疲弊した地域が残され、周辺の住民は
買い物にも困ってしまう、そんなまちづくり、規制緩和はできない
と感じています。
 そこで、長野市では、市街化区域の出店可能な地域以外への進出
については、遠慮していただくことにしました。でも、地権者の皆
さんからは随分ご意見をいただいていますし、大型SCの利便性を
市民が享受できないことになる面もあるわけで、それは、申し訳な
いことだと感じています。

 中谷氏の論点から、関係がないような地域の話になってしまい恐
縮です。要は、地域社会では、徹底して構造改革、規制緩和の方向
をたどってきたわけではありませんから、中谷氏のマクロの視点に
立った反省は、必ずしも当てはまらないと思っています。まだまだ
民営化を含む構造改革は必要なのだということを申し上げたかった
のです。

 話は戻りますが、理念・理想論は別として、短期的には景気を良
くしなくては、今の状況が良くならないことは事実だと思います。
地方自治体としては、できることを最大限行います。その上に立っ
て中谷氏の論を十分生かしていきたいと思っています。

 現段階では、生産力が内外の需要を上回っているわけですから、
需要が増えてくるまで我慢の時代が続くのかもしれません。でも、
国内大手自動車会社の増産方針や太陽光発電システム関連への増産
投資、金属や化学などの素材産業の減産緩和による工場稼働率の引
上げといった明るい報道もなされています。過去と同じような回復
はあり得ないと思いますが、「朝の来ない夜はない」という言葉も
あるとおり、麻生首相の言う「全治3年」を信じてみるのもよいと
思っているのですが・・・。