長野市総合防災訓練の翌日の9月1日に若穂川田地籍で林野火災
が発生しました。私は連絡を聞き、すぐに現地に向かいましたが、当
日は強い風が吹いており、現地は山のあちこちから煙があがっており
ました。通常の火災の範囲を超えていることや急峻な地形からみて、
消火作業がなかなか進まないと判断し、災害対策本部設置を決定しま
した。
火災の発生原因は、お年寄りが果樹栽培用の袋を燃やしていたと
ころ、折からの強風に煽られ、雨が少なくて乾燥しきっていた林野に
一気に燃え広がったようです。普段は日常的にやっていたことなの
でしょうが、予想も出来なかった大きな災害になってしまったという
ことです(昨年安茂里で発生した林野火災も焚き火が原因とのこと
です)。
消火活動は、長野県はもとより近隣県(群馬、山梨、埼玉、岐阜)
へ消防防災ヘリコプターの出動を要請しました。また、自衛隊のヘリ
コプターにも県を通じて消火活動の要請を行い、空から大量の水を
散水してもらいました。各県の消防防災ヘリは1回に概ね1tの水を
犀川や千曲川からくみ上げましたし、自衛隊のヘリは大型ですので
概ね7tの水を小田切ダムや犀川からくみ上げ散水したのですが、
その威力はすさまじく、見ていて大変頼もしく感じました(結局ヘリ
コプターは全部で10機飛来していただき、林野火災に対する有効性
を実感させていただきました。この火災では、消防防災ヘリ及び自衛
隊のヘリが435回にわたり空中消火を実施し、全放水量は622t
に達したとのことです)。
しかし、空からのヘリでの散水は効果が大きいのですが完全には
消えません。また、まずいことに、火災現場に高圧送電線が通過し
ているため、その付近の消火活動には危険が伴いました。このため、
陸上では、長野市消防局職員、長野市消防団の皆さん、そして北信
地域5消防本部からの応援もいただきましたが、消火作業は難航し、
一箇所の火が消えたと思うと、離れた場所から煙があがり、しばら
くすると消えたはずの場所からまた炎があがるといった状況で、活
動する皆さんの疲労は想像を絶するものがありました。一台約80
kgある「小型動力ポンプ」を担ぎ上げたり、20kgもある「背負式
消火水のう」を担ぎ、山を登って消火活動を続ける、そして、徹夜の
監視という重労働を想像してみてください。
3日間に及ぶ消火活動には、延べ1,692人の方が消火活動に
従事していただき、また地元の若穂の方々にも炊き出し等に、ご協力
いただいたことは大変ありがたく、様々な場面でご協力いただいた
全ての皆様に心から感謝申し上げます。
幸いなことに、火は2日目の夕刻には、大きな炎が見えなくなり、
ヘリコプターは撤収いたしましたし、3日目は残火の処理に明け暮
れましたが、その夜、待望の雨が降ったおかげで完全に鎮火し、人
家に被害が出ることなく終わりました。
この林野火災で感じたことをいくつか書かせていただきます。
1.長野県消防相互応援協定の存在は大変ありがたかった。長野
県の協力はもとより、緊急連絡で4県の防災ヘリが飛来して消
火活動をして下さったことは頼もしかった。ただ最高時10機が
飛来したための騒音と砂埃は、これは非常時であることは分か
っていただいたとしても、近隣の方々には大変ご迷惑をかけた
と思います。
2.現地指揮本部を設置した松代消防署若穂分署内でも、情報の整
理と今後の対策のための作業が夜通し行われました。このこと
もご近所の方々にご迷惑をかけたことと思います。
3.近隣の消防本部との協力関係もありがたいことでした。消防機
材も長野市のものだけでは足りず、関係機関から調達させてい
ただきました。
4.非常災害であっても、消防局の職員を全て投入するわけにはい
かない。他にも災害発生の可能性はあるわけで、現に発生日に
は火災も起きていました。その戦力の補完をしていただける消
防団の力は、ありがたいものです。その機動力、活動力は大き
な役割を果たしていただきました。消防団員も普段は自分の仕
事を持ち、一種のボランティアとして活動していただいている
わけですが、災害時には大きな役割を果たす組織です。
5.火災がなかなか沈静しなかった原因の一つには、松くい虫の駆
除のために伐採した木に火が燃え移り、それが上から転がり落
ちてきて燃え広がるということも原因の一つだったようです。
松くい虫対策の方法も考え直さないといけないのかも知れませ
ん。
6.消火活動中、何人かの負傷者が出てしまいました。幸い比較的
軽い怪我であったとの報告ですが、1日も早い回復をお祈りい
たします。
7.普段何気なくやっていることからでも、何かの拍子に大きな災
害になってしまう、お互いに気をつけなくてはいけないと思いま
す。長野市の統計では非火災に分類していますが、渇水期に芝が
燃えたとか、畑のゴミを燃やしていたら枯草に火がついたとか、
そういう類の事故は毎日のように起きています。一歩間違えば、
今回のような大火災につながる可能性がありますので、常日頃か
ら火の用心を心がけていただきたいと思います。
8.ヘリの運航には多額の費用がかかりますが、今回、他県から応
援いただいた消防防災ヘリに関する出動経費等は、(財)全国市
町村振興協会が交付してくれる規定があるそうです。この規定
は、大規模災害発生時に都道府県の範囲を越えて、迅速かつ
円滑な応援活動を促進し、被災市町村の負担を軽減するという
目的のものです。
しかし、県内で応援に来ていただいた消防機関の費用は、それ
ぞれの消防機関が負担するということです。災害の時はお互い
様ということなのでしょう。今年3月下旬に発生しました松本
市の本郷林野火災、上田市の下之郷林野火災には長野市消防局
からも応援出動いたしましたし、これからも他の市町村で災害
があったときは、全力で応援してまいりたいと思います。
それにしても、今回は本当にありがたかった。
市民の財産と生命を守ることは、行政にとって最も基本的な役割
であるということは以前にも申し上げたことがあります。今後も市民、
関係機関及び行政の連携を密にし、災害の未然防止と被害の抑制
に努めていきたいと、この災害を通して改めて感じました。
最後に余談ですが、災害に際して緊急車両に乗ることになりまし
たが、しかし、サイレンを鳴らしながら走る車の前を平然と車が走
行している、交差点でもなかなか止まってくれない。緊急車両には
一刻も早く現地に着かなくてはいけないという大きな役割がある。
ぜひご理解とご協力をいただきたい。併せて道に車を停めて火事を
見物されている方にも、ご協力をいただきたいと感じました。