長野市が、県に対し「田中康夫さんの住所について、泰阜村と長
野市で話し合いましたが、不調に終わりましたので、住民基本台帳
法に基づき決定を求めます」と申し出たことは、ご存知のことと思
います。
それに対し、県知事は「知事と田中個人が同一人なので、審査委
員会を設置して検討してもらう」ということで、突然3人の委員を
選任され、発表されました。このことについて、皆さんはどうお考
えになりますか?
そして5月2日(日)に第1回審査委員会が開かれ、県の説明が
あったあと、委員から「次回の5月8日には、県知事、長野市長、
泰阜村長の出席を求める」との発言があったようです。私は出張先
でその話を聞き、「出席する必要は無い。でも一応庁内で検討して
おいて欲しい」と、その時は伝えました。
私が出席する必要は無いと考えた理由は、三つあります。
一つ目は、審査委員会を設置する理由は無い。知事は自分で引き
起こした問題ですから、自分で判断すればよいことで、税金を使っ
て(開催費用は、委員さんに払うお金だけで1回約10万円かかる
そうで、土曜日ですから県職員の手当や電気料金等の経費まで入れ
たらいくらかかっているのでしょうか?)第三者に判断の責任を押
し付けることでは無いと考えているからです。
二つ目として、今回選任された委員さんについては知りませんが、
県の設置する委員会の人選は、いつも片寄っており(条例上では
県知事の専管事項で仕方ないのだそうですが)、しかも曖昧な理由
しか示さないで多数決で決めた結論が多いと私は感じています。多
数決で決めるということならば、委員会設置時点で結論は決まって
いるのではないかと考えました。
三つ目は、私が出席することで、そういう問題のある審査委員会
に正当性を与えてしまうのではないか?それならば出席しないほう
が良いと考えたからです。
ただ連休明け、出張から帰って庁内の打ち合わせをしましたら、
庁内での意見は真っ二つに分かれました。出席すべき意見としては、
「欠席することでマスコミや市民の受け止めが心配、出席すること
は不本意でも、言うべきことはきちんと言った方が良い」というも
のでした。考えた末、出席するがなるべく事務的に済ませたいので、
私の発言は冒頭のみとし、質疑応答は同行する長野市職員が答える
という役割分担を決めて出席しました。何故なら私がしゃべると、
どうしても感情的になってしまったり、政治的な思惑を抱かれる危
険性があると思ったからです。
審査委員会の内容は、テレビや新聞の報道でご存知の方も多いと
思いますが、知事擁護的な質問が多かったようですし、私の受け止
めも、まあ知事が選んだ委員さんですから仕方ないかなあという感
想です。でもどんな結論を出されても最終的な決定権は知事にある
のですから、あまり意味は無いと感じています。
ある委員さんから「住所を二つ以上持っても良いという学説があ
る」という発言がありましたが、それは机上の理論であり、実務を
執っている私ども自治体にとっては、はなはだ迷惑な話です。長野
市は可能な限りの調査を行い、資料を集め、そして法的な根拠も示
した中で「昨年9月26日から本年3月26日までの知事の生活の
本拠は長野市にある」ということを申し出ているわけで、そのこと
に対し、知事がどう決定するかだけです。
私は委員さんの質問と同席した市職員の回答を聞きながら、本当
にむなしくなりました。少なくとも全く非現実的な話です。こんな
問題、私とすれば放っておきたい、どうでも良いと思いたいのです。
田中知事は、「自分が好きな自治体へ税金を払う」と言っていま
すが、そのようなことが許されるなら、どこの自治体でも必死にな
って住民登録を増やそうとするでしょう。でも、それは極めて非現
実的な話であり、そのようなことがもし是認された場合、地方自治
体はそこに住む市民のためのサービスができるのでしょうか?おそ
らく地方自治というものが壊れてしまうでしょう。
住民基本台帳法に基づく住所というものは、税金だけではありま
せん。選挙権、国民健康保険、教育、福祉、環境など、全ての地方
自治に関する事務と関係しているのです。小さい自治体ほど危険に
さらされるでしょう。
国の合併方針に反して「小さくても合併しないで頑張っている自
治体を応援したい」という個人的な理念は別として、それなら何故
泰阜村なのですか?小さいながらも頑張っている自治体、先人たち
の残した資産を大切に守りつづけている自治体など、どこの自治体
も精一杯頑張っているのが現実ではないでしょうか。
審査委員会での委員さんの質問で気になったことが一つあります。
長野市の提出した知事の生活根拠に関する調査がかなり精密であっ
たが故でしょうか、「一般的にこんな詳細な調査をするのか、それ
とも知事だから特別やったのか?」との質問です。当たり前すぎて
つい私も口を出しましたが、知事がこのようなパフォーマンスを大
っぴらにやっているから、長野市も知事の行動が違法であることを
立証せねばならず、苦労して調査したのです。
今回の住所認定問題について、大げさかも知れませんが、市民社
会を守るための論争であると考えています。法を守るということは
最低限の必要なルールです。でも確かに、法は必ずしも全てを決め
てあるわけではありませんから、曖昧な部分、穴みたいな部分はあ
るのです。でもそれは社会の常識が補っているのだと私は思います。
仮に今回の知事の行動が許されたとすれば、そのために社会が払う
費用は気が遠くなるほどでしょう。行政に携わる公人たるもの、法
が想定していないことを敢えてやり、社会を混乱させることは絶対
に許されないことです。