2008年4月17日木曜日

地方分権の流れと都市内分権 (2)


 前回は、地方分権の流れについて述べさせていただきました。今
回は、長野市が選択した「都市内分権」について書かせていただき
ます。

 歴史的に考えれば、長野市は合併を繰り返して大きく成長してき
ました。それぞれの地域には、それぞれの特徴があります。長野市
としての一体感を大切にし、行政のスリム化も達成しながら、すべ
ての地域が生き生きと発展する仕組み、それが大切です。
 そこで新しい地方自治の仕組みが必要になったのです。長野市が
「都市内分権」を選択した動機です。

 ますます広大になる市域、行政が遠くなることへの住民不安、厳
しい財政状況、そのほか限界集落の出現、地域コミュニティの弱体
化などを考えると、これからの自治体には、自治体内の小地域が自
らの意思によって自己実現を図る場が必要だと思います。自らのこ
とは、自らが決めるシステム、それも昔のような「ムラ社会」では
なく、近代的な共同体として役割を分担する仕組み、すなわち地方
分権の市内版と言ってもよい仕組みが必要なのです。

 旧来のシステムを全部壊すことは現実的ではないことから、長野
市では市内の30地区すべてにまず住民自治協議会を結成して、当
面は区長さん方を中心に地区内の団体を結集し、住民の意思決定組
織にしていきたいと考えています。加えて、市では、結成された住
民自治協議会が充実するよう支援していくとともに、従来個々の団
体それぞれに交付していた補助金を住民自治協議会に一括交付する
ことで地域の自由度を高め、住民が主体的にまちづくりに取り組む
ことができるように進めていくことにしています。

 当然のことながら、以前から存在する地縁団体と、NPOなどの
新しく生まれてきた諸団体との連携・協働も大切なテーマです。地
縁団体だけではとかく古い体質になってしまいがちで、ある意味、
心配もあると感じています。NPOなどの新しい力と連携すること
で、真の地域活性化につながるのではないかと期待しています。

 従来申し上げてきたことですが、住民自治協議会に必要な基本的
なことについて、私のメモから幾つか抜き出し、以下に整理してみ
ました。

(1)住民自治協議会の原則
  ・地域を代表する組織であると大多数の住民が認める組織
  ・役割分担ができている組織
  ・計画性を持った組織
  この3原則以外は、各地区の自由であり、規約も含めて自主的
  に決める。ただし、住民自治協議会の結成以後、行政との合意
  に基づき、市から依頼する事務(必須事務)と住民自治協議会
  が選んで実施する事務(選択事務)に分けて、取り組んでいた
  だく必要はある。

(2)補完性の原理
  ・自分でできることは自分や家族で行う(自助)
  ・自分でできないことは、地域で行う(共助)
  ・地域でできないことは、行政が行う(公助)
  補完性の原理は、「問題はより身近なところで解決されなくて
  はならない」というキリスト教社会倫理に由来していると言わ
  れている。この原理は、EUの「ヨーロッパ地方自治憲章」で
  条文化され、国連の「世界地方自治憲章草案」にも盛り込まれ
  ている「個人の自立」を前提とした社会の構成原理。日本では、
  平成15年の第27次地方制度調査会の「今後の地方自治制度
  のあり方に関する答申」の中に、国と地方で役割を分担する考
  え方として提示され、分権・協働型社会への転換を支えている。
  コミュニティ組織やNPOなど、さまざまな団体による活動と
  行政との新しい協働の仕組みづくりにも適用されている。

(3)限界集落の出現・拡大。中山間地域は市域の約70パーセン
   ト。活性化しなくては長野市全体の元気を失いかねない。
  ・市街地とは別の施策が必要
  ・農業公社の活用、中山間地域の住民自治協議会との連携
  ・生活支援要員の採用、生活できる収入を稼ぐ場づくり
  などのことが必要になりそう。

(4)その他
  ・市職員が、住んでいる地域の住民自治協議会へボランティア
   で参加することの要請
  ・NPOなどの参加も期待したい

  さらに、今後検討していきたいテーマは、何らかの形で企業に
  住民自治活動へ参加してもらいたいということであり、このこ
  とへの期待を表明したい。
  ・企業が社会的存在であることを意識すれば、企業の地域貢献
   が大切なことは十分理解されるはずだし、結果的にはそれが
   企業利益にも通じるはず
  ・地域としても、経済団体、企業の協力が必要な時代にあるよ
   うに思う。特に商工会議所、商工会には、地域の総合経済団
   体として期待したい
  ・格差是正が求められている時代、社会の安定・発展のために
   も企業の行動を期待している
  ・企業の社員として・・・企業所在地の住民自治協議会への参
   加、あるいは社員が住んでいる地域の住民自治協議会への参
   加を期待したい

 「住民自治協議会」「市議会」「行政」それぞれの関係は、いず
れ調整する必要が出てくるのではないかとも考えています。今後、
住民自治条例を制定するかどうか・・・。
 また、地域の自由度が高まるにつれて、市内一律の制度では地域
の要請に応えることが難しくなっていくことも予想されます。意欲
的にまちづくりに取り組もうとする地域で市民の皆さんが満足感や
達成感、充実感を得ていくためには、国の「構造改革特区」の長野
市版というような仕組み、例えば、地域性や近接性などから、同じ
課題を抱えた複数の地域が、一緒になって「特別区域」として課題
解決に取り組んでいくような仕組みを検討する必要があるのではな
いかとも考えています。
 いずれにしても当面の目標とすれば、コミュニティの再生、地域
活性化、そしてお任せ民主主義の打破といったところでしょうか。
最終的には、当たり前ですが、市民の幸せを実現するということで
しょう。
 現時点ではいろいろなことが思い浮かんできますが、それぞれ機
が熟せば検討してみたいと思っています。