平成22年4月1日、住民自治協議会がいよいよ本格的な活動に
入ります。
平成13年の市長就任以来、私は長野市の地域コミュニティーの
再生を常に念頭に置いて行動してきました。その原点を申し上げれ
ば、昭和40年代の早いころ(もう40年以上前の話です)、長野
青年会議所に所属して勉強する中で考えていたことにあります。
戦後、経済の再生によって日本社会が発展したことは良かったの
ですが、社会には個人主義がまん延し、「隣は何をする人ぞ」とい
う流れになってしまいました。人と人とのつながりが希薄になって
しまったことを憂い、長野青年会議所時代、そんな流れを何とかし
たいなあと、私はいつも考えていました。
市長には、さまざまな思いを持って就任したつもりです。でも、
具体的に何をどうするか、就任後しばらくはあまりよく分からず、
無我夢中で走っていました。そんなある時、ふと「青年会議所時代
の理想が実現できる場を与えられたのではないか」ということに気
が付いたのです。
市長になってから私は、努めて市有施設などを回り、自分の目で
確かめるようにしてきたのですが、支所回りをする中で、市役所組
織の欠点が見えてきました。痛感したのは、行政のセクト主義、す
なわち縦割り組織はどうにもならないということです。別に職員が
悪いのではありません。国の予算、システムから来ている宿命なの
でしょうが、総合的に考えていくとか、統合すればどうなるかとか
を考えることは、まず無かったように思います。そのようなことを
考えること自体、余計なことなのでしょう。
ある時、何げなく、ある部長に、「昨年まであなたの担当だった
仕事のことだが、このことについてどう思うか」と聞いてみました。
すると、「それは後任の部長のテリトリーですから、私からは言え
ません」という返事。良く言えば「他人の仕事を尊重する」、悪く
言えば「他人のことに口出しはできません」ということでしょう。
“縦割り組織に、横軸を一本通そうよ”これが私の呼び掛けでし
た。今考えると、分かりにくい表現だったなあと感じていますが、
言い換えれば、他人の仕事でも、良いと思ったら遠慮しないで口を
出そうよ、隣の組織に遠慮せず意見し、手伝おうよ、総合的に考え
ようよ・・・ということだったように思います。
縦割り組織には、それはそれで良い点もたくさんあります。予算
がきちんと決まり、誰がそれを執行するか、責任は誰が負うのか、
といった点がはっきりしますから、効率も上がるのです。
一方、“横軸を一本通そう”という総合的な組織は、どうしても
責任があいまいになりがちですし、みんなでワイワイガヤガヤにな
りそうです。でも、その中から何かが出てきそうですし、総合的に
物事を考える癖が付いてくるのではないでしょうか。縦割り組織が
崩れるはずはないと思いながら、でも、必要なことなのだと自分に
いつも言い聞かせていました。
地域では、市役所のように仕事で役割を決められません。何役も
こなさなくてはならない、行政的に見ても総合行政が必要なのです。
そんなことをしばらく議論していたら、職員から「都市内分権」
というのはどうでしょうか、という話が出てきたのです(後で調べ
てみると、そのころ結構有名な先生方が打ち出しておられた考え方
のようでした)。
私は、その発想に強く引かれ、その話を聞いて「それ面白そうだ、
やろうよ」と乗ってしまいました。地域に根差した組織なら、地域
に密着した組織なら、職員はすべてのことに対応せざるを得ない、
いや応なしにすべてのことを勉強せざるを得ない、総合的に考えざ
るを得ない・・・縦割りのままではいられないはずだと簡単に考え
たのです。
そのころ、すでに4町村との合併がスケジュールに入ってきてお
り、市域が広くなることが予測できましたし、大きくなった長野市
をどうやって運営するか、考えている最中でもありました。
そして、平成17年1月1日、4町村との合併が完了。より広域
になった行政にどのように取り組むか、現実の課題はますます大き
くなったのです。
そしてその後、平成18年度を「都市内分権元年」と宣言。以来、
その基盤になる市内30の地区に、住民自治協議会を設立していた
だくようお願いしてきました。
各地区の住民自治協議会が発足するに当たり、私は三つの条件を
提示させていただいてきました。
(1)その地区を代表する組織であること
(2)役割分担ができている組織であること
(3)計画性を持った組織であること
この三つが満たされていれば、あとは自由、地域ごとに決めてく
ださい、ということです。ですから、モデル規約を提示することも
当初は遠慮させていただきました。
いろいろなご意見があり、混乱もあったことを記憶しています。
ですが、幸い、市民の皆さんのご理解を頂き、目標より1年早く、
昨年3月に30地区すべてで住民自治協議会を設立していただくこ
とができました。
そして、同じく昨年3月、市と住民自治協議会の関係を規定する
「長野市及び住民自治協議会の協働に関する条例」が市議会の議決
を経て制定。翌4月には、住民自治協議会の会長さんとの間で、こ
の条例に基づく協定の締結式を行うことができました。
本年1月の合併で誕生した信州新町地区と中条地区でも、つい先
日、住民自治協議会が設立され、協定を締結することができました。
これにより新年度、4月1日から、住民自治協議会の本格的な活
動が32地区で一斉にスタートできることになったわけです。私個
人としても、長年の夢が一歩進んだと喜んでいます。
32の住民自治協議会、すべて異なります。たくましく独自性を
訴えておられます。
一番初めに住民自治協議会が発足した若槻地区と、最後の信州新
町地区・中条地区とでは、4年の差があります。当然、考え方も、
熟度の違いもあるはずです。中心市街地、市街地周辺部、中山間地
域・・・それぞれ違います。でも、その違いこそ、各地区の特徴で
あり、住民自治協議会を組織する意義でしょう。
これまでに、住民自治協議会を応援するさまざまな施策も準備し
てきました。
まず、都市内分権元年と宣言した平成18年度には、支所と地域
振興課の業務に地区のまちづくり活動の支援を明確に位置付け、以
来、住民自治協議会の活動を含む地区のまちづくり活動全般を総合
的にバックアップしています。
そのほか、活動するための資金はどうするのか、という問い掛け
に対しては、「地域いきいき運営交付金」や「地域やる気支援補助
金」といった財政支援策を用意しました。議会の議決はこれからで
すが、総額で2億7千万円弱です。この中には、住民自治協議会が
独自に雇用する職員の人件費(1地区当たり100万円)も含んで
います。
中山間地域の地区からは、そもそも活動するにしても人材が不足
しているという訴えを頂き、昨年から中山間地域を抱える住民自治
協議会に地域活性化アドバイザーを派遣しています。今年4月から
予定する合併地区も含め、派遣先は全部で13地区です。
このほか、この13地区には、地域社会での助け合い機能拡大を
促進するために「やまざと支援交付金」(総額780万円)の交付
も予定しています。
住民自治協議会へは、これからも必要に応じ、追加応援もしてい
くつもりです。
いずれにしても、これでスタートラインに立てたということでし
ょう。これからは、それぞれどんな運営がされていくのか、そして
どんな活動が始まるのか、私は期待しています。