行政には、常に悩み事があります。しかし、その悩みも基本的な
方向を定めることができれば、その方向へ市民の皆さんと市職員が
一緒になって粛々と努力することで実現できるのです。もちろん、
相手のある話も多いわけですから、どうしても理解が得られず、結
果として断念せざるを得ないこともあります。でも、方向さえ決ま
っていれば、道はあると信じることができるのです。
今回は、方向性が決まっていないことから、現在、長野市が悩ん
でいる問題についてお話しします。先日もこのメルマガで少し触れ
させていただいた長野オリンピック記念基金に関することです。
長野オリンピック終了後、40億円余りの余剰金(最終的には4
6億8,422万円)が残りました。先日も書かせていただきまし
たが、余剰金とは言え、オリンピックでもうかったわけではありま
せん。国も県も市町村も莫大(ばくだい)な負担金を支出していま
すし、テレビ放映権料やスポンサー収入、寄付金、あるいは人員派
遣などで、企業や団体など多くの皆さんに支援していただきました。
さらには、多くの皆さんが購入してくださった観戦チケット代も大
きな財源になり、長野オリンピックは大成功となったのです。
その余剰金をどうするか。NAOC(財団法人長野オリンピック
冬季競技大会組織委員会)では、考えた末、県が管理する基金をつ
くり、スポーツの振興に寄与することにしたのです。基金と言って
も、金利が安い時代ですから利息を当てにするのではなく、元金を
年間4億円ずつ使い、おおむね10年間で使い切ろうということが
合意されたようです。基金を運営するために、長野オリンピックム
ーブメント推進協会も設立されました。
市にとってこの基金は、大変有効な働きをしてくれました。年間
約4億円の助成金のうち、半分の約2億円が長野市に関係する事業
に助成されてきたのです(残りは、長野市以外の県内・県外のスポ
ーツ振興に使われたようです)。
スピードスケートやフィギュアスケート、ショートトラックスピ
ードスケート、リュージュ、スケルトン、バレーボールなどの世界
選手権・ワールドカップ、長野オリンピック記念長野マラソン、長
野灯明まつり、オリンピックデーラン・・・毎年、数多くの事業に
助成していただきました。長野市は、そのおかげで地方都市として
は有数の国際的スポーツ都市に成長したと言っていいでしょう。
そういえば、つい最近行われた国際アイスホッケー大会「長野カ
ップ2010」や、フィギュアスケートのエキシビション「NAG
ANO MEMORIAL ON ICE 2010」も基金の助
成対象でした。
今年、助成開始から12年を迎え、基金を活用した助成事業が終
了します。今後、基金の残金約3億円を県と市に配分し、基金を運
営してきた長野オリンピックムーブメント推進協会は解散すること
になるようです。
ただ、基金残金の配分額は、毎年2億円前後の助成金を頂いてい
たことからすれば、比較にならないことは当然で・・・さて、どう
したらいいか、困っています。
オリンピック開催後、市はこの基金に随分助けていただいてきま
した。今後は、この助成に代わる新たな資金を、毎年2億円は無理
としても半分ぐらいは用意して、スポーツの振興やオリンピックで
活用した施設の維持を図らないと、オリンピックを開催した長野市
の使命は果たせないと考えています。
では、資金集めをどうするか・・・景気が悪い時期ですから、な
かなか大変です。
一つのアイデアは、オリンピック施設のネーミング・ライツ(命
名権)の売却です。ネーミング・ライツについては、2年前にもオ
リンピック10周年ということで、施設のメンテナンス費用を生み
出そうと考え、検討したことがあります。
当時、JOC(日本オリンピック委員会)からは、その場合はオ
リンピック・シンボルマークや長野オリンピックのエンブレムすべ
てを下ろすことが条件にされました。想定されたことではありまし
たが、ちょっと決断することができなかった、というのが本音です。
当時は、長野オリンピックからまだ10年しか経っていないと考
えるか、あるいは10年も経っていると考えるか・・・市民の皆さ
んがどう思われるかと悩みました。
しかし、今回は、オリンピック記念基金が終了したという事実を
前に、背に腹は代えられないと感じています。オリンピック遺産を
守るためにも、ネーミング・ライツは、挑戦したい、お許しいただ
きたいプロジェクトです。
スポーツを振興したり、オリンピックで活用した施設を維持した
りするための費用ですから、行政が資金を負担しなければならない
ことは、理解しているつもりです。ただ、市だけで負担するにはあ
まりにも高額です。ぜひ、民間企業の皆さん、個人の皆さんにもご
賛同いただき、ご協力をお願いしたいと考えています。単年度の話
ではありません。少なくとも10年単位で持続できるスキームをぜ
ひ作り上げたいのです。それが、今を生きる私たちの責務ではない
かと思っています。
新年度、長野オリンピック記念基金の清算が完了し、基金の行方
が確定した段階で私は行動を起こし、皆さんの了解を求めていきた
いと考えています。
この問題のもう一方の側面として、エムウェーブとスパイラルが、
国のナショナルトレーニングセンター(NTC)競技別強化拠点と
して継続指定されるか、ということにも影響があるかもしれません。
現在のところ、NTC指定期間はバンクーバーオリンピックまでと
なっていますので、今年の3月が一つの期限なのです。
そんなこともあり、私としては、バンクーバーオリンピックでの
日本人選手の成績がとても気になっていました。幸い、エムウェー
ブを拠点に練習してきたスピードスケートの選手の皆さんが大活躍
をしてくれたことで、ホッとしています。もちろん、スパイラルで
練習してきた選手の頑張りもありました。安心はできませんが、必
ず国は指定を継続してくれるものと信じています。
夏季オリンピックの主な種目のNTCは、東京都北区の西が丘に
立派な施設があり、北京オリンピックなどで大きな力を発揮したと
されていますが、冬季競技のNTCは、各地の施設を利用して指定
することになっています。エムウェーブとスパイラルは、それぞれ
スピードスケート競技、ボブスレー・リュージュ競技のNTCに指
定されているのですから、これからも大切にしていきたいものです。