普通地方公共団体には、都道府県と市町村があることはご存じの
とおりです。そして、その規模は、県のような大きな自治体のほか、
県内の市町村では長野市のように人口が40万人近い市も、
1,000人に満たない小さな村もあり、千差万別の状況です。
小規模自治体には、小さいなりの良さがありますが、一方で効率
面、そして人材確保の面から厳しいことも多くあります。
国ではそういう状況を解決するために、広域行政を行うための制
度を整え、効率化を図ろうとしてきたことは事実です。
広域行政には、幾つかの方式があります。
(1)第一には、市町村合併です。
長野市も平成16年度に豊野町・戸隠村・鬼無里村・大岡村の4
町村、平成21年度に信州新町・中条村の2町村、計6町村を編入
合併しました。合併にはメリット・デメリットがありますが、現段
階では順調に推移していると思っています。
全国的に見ると、市町村数がまだ多いとおっしゃる方もいらっし
ゃいますが、平成の大合併が始まる前、全国に約3,000あった
市町村が1,700ぐらいになったようです。
(2)もう一つは、広域連合制度です。
これは、幾つかの自治体が集まって、広域的に実施することでメ
リットがある事業を共同で行うための制度で、長野市も長野広域連
合の一員として事業に取り組んでいます。構成市町村は、長野市、
須坂市、千曲市、坂城町、小布施町、高山村、信濃町、小川村、飯
綱町の9市町村です。
長野広域連合では、老人福祉施設の設置・運営、ごみ処理施設の
建設、介護保険制度における介護認定審査などを行っています。
ただ、これはあくまでも私の見解ですが、この“広域連合”とい
う組織には決定的な欠点があります。それは、構成市町村全てが同
意しないと何事も実行に移せないということです。
この全会一致ということにはかなり無理があります。コンピュー
ターシステムの共同化、教育委員会の共同設置、GIS(地理情報
システム)の共同導入、産業誘致・観光政策の共同実施など、私個
人とすれば、共同でやれば効果が上がるだろうと考えている施策が
いろいろあるのです。しかしながら、それぞれの自治体の歴史、立
場、思惑が複雑に絡み、一致しないため、実施に移すことは難しい
と感じています。
また、地方自治法上では、連合長や連合議会の議員を一般選挙で
選ぶことも可能になっていますが、利用されてはいないようです。
広域連合については、全国的に見て長野県が最も進んでいると言
われてきました。長野県では、県の助言もあり、県内10広域圏ご
とに広域連合が設立され、広域行政に取り組んでいます。全国的に
は、後期高齢者医療や介護保険など、国の施策導入に伴って設立さ
れた広域連合が多く、地域の特有課題を解決するための組織として
は、まだ十分に活用されていないようです。
一方で、長野県では広域連合が有効に機能したために、市町村合
併があまり進まなかったという側面もあるようです。
このほか、市町村が共同で行政事務を実施する方法として、一部
事務組合の設置や市町村相互の委託・受託という方式もあります。
長野市では、し尿処理、斎場、消防業務などでこれらの方式を採用
しています。
(3)新たに「定住自立圏構想」という制度が動き出しました。
正直、私としても理解しきれていない部分もあるのですが、総務
省のホームページなどを参考に紹介します。
この制度は、“都市は都市らしく、農山漁村は農山漁村らしく”
ということで、地方圏において、安心して暮らせる地域を各地に形
成し、地方圏から三大都市圏への人口流出を食い止めるとともに、
三大都市圏の住民にもそれぞれのライフステージやライフスタイル
に応じた居住の選択肢を提供し、地方圏への人の流れを創出しよう
とするもので、総務省が全国的見地から推進しています。平成21
年4月から全国展開されており、各地で取り組みが進み始めている
とのことです。
文言から受ける印象では、すぐにも飛び付いてみたくなるのです
が、具体論では、なかなか難しい面もあるのです。
制度の要綱から、具体的な部分についてお話しします。
まず、以下の三つの要件を満たす市が、「中心市宣言」を行うこ
とが必要です(まだ宣言していませんが、長野市は「中心市」の要
件を満たしています)。
(ア)人口5万人程度以上
(イ)昼夜間人口比率が1以上
(ウ)三大都市圏の区域外にある市
そして、中心市と連携する意思のある周辺市町村の意向に配慮し
つつ、地域全体のマネジメントなどにおいて中心的な役割を果たす
意思を表明することが必要とのことです。
一方、周辺市町村とは、中心市と近接し、経済、文化、または住
民生活において密接な関係を有する市町村で、通勤通学割合10%
圏などの要素も考慮して、関係市町村が判断するとされており、あ
くまで周辺市町村の自主的判断ということのようです。
この中心市と周辺にある市町村が、1対1の関係でそれぞれの議
会の議決を経て「定住自立圏形成協定」を結びます。この協定は、
あくまで自治体と自治体との個別協定であり、広域連合とは大きく
違います。また、協定を結んだ市町村の範囲が“定住自立圏”とい
うことになります。
協定では、「集約とネットワーク」の考え方を基本に、役割を分
担・連携して定住を図るために必要な生活機能を確保するという観
点から、以下の三つの政策分野ごとにそれぞれ一つ以上、連携する
具体的な事項を規定することになっています。
(ア)生活機能の強化
医療や福祉、教育、土地利用、産業振興の取り組み
(イ)結びつきやネットワークの強化
地域公共交通や地産地消、地域内外の住民との交流・移住促進
など
(ウ)圏域マネジメント能力の強化
中心市等における人材の育成、圏域内市町村の職員等の交流な
ど
その上で中心市は、定住自立圏形成協定の締結により形成された
定住自立圏全体を対象として、将来像や、協定に基づいて推進する
具体的取り組みを記載した「定住自立圏共生ビジョン」を策定し、
公表することになっています。
以上が、定住自立圏構想の概要です。
この制度に対する長野市の考え方ですが、現状では以下のように
整理しています。
(ア)二度の合併もあり、長野市は長野地域において中心的な役割
を果たしてきていると認識している。
(イ)広域連合のほか、一部事務組合や事務受委託で、必要かつ具
体的な事業を共同で取り組んできている。
(ウ)平成20年度に要綱が示された新たな制度であり、メリット・
デメリットを含め、制度導入による効果が必ずしも明確ではな
く、動向を見極める必要がある。
とにかくこの定住自立圏構想は、中心市が圏域全体の暮らしに必
要な都市機能を集約的に整備するとともに、周辺市町村においては
必要な生活機能を確保し、農林業の振興や豊かな自然環境の保全を
図るなど、互いに連携・協力することによって、定住を促進し圏域
全体の活性化を図ることが目的です。すなわち、中心市と周辺市町
村が結ぶ協定で、いかに具体的・効果的な取り組みができるかとい
うことが重要だと思っています。
実は、今年になって、非公式ではありますが、ある自治体から、
この定住自立圏構想について研究会を設置したらどうかとのお話を
頂いています。長野地域で唯一の中心市要件を満たす市として、ま
た、この地域全体の活性化を図るためにも、研究会を立ち上げて検
討することは大いに結構なことだと考えています。
そのこともあり、今回、あらためて資料に目を通したのですが、
要綱によりますと協定の期間は原則として定めがなく、廃止は一定
の制限はあるものの可能とのことです。一番びっくりするのは、中
心市が属する県とは異なる県に属する周辺市町村とも協定を締結で
きることです。まだまだ理解できない部分もあり、これからも勉強
が必要だと感じています。