2011年1月13日木曜日

新年に考えたこと


 暮れから新年にかけて、各地の雪による被害が報じられましたが、
幸い長野市では大きな被害が発生することもなく、無事、新年を迎
えることができました。平地では雪が少なくて除雪費用が掛からず、
スキー場は適度な積雪でお客さんに来ていただける・・・大変あり
がたい状況です(除雪にご協力いただいている事業者のことを考え
ますと、複雑な思いでもあります)。被害のあった地域の皆さんに
は申し訳ありませんが、雪が長野だけ避けてくれたのか・・・そん
な気すらしてしまいます。

 年末年始の休みを終えて、再び日本の政治・経済が動き始めまし
た。以前にも申し上げましたが、私は、極力、国政や県政の批判を
しないようにしているつもりです。ただ、新年のマスコミの論調を
見聞きする中で、これだけは言うべきと感じたことがあります。

 まず、「迷走日本政治」と題された1月3日付けの読売新聞「社
説」から、冒頭部分を抜き出してみます。
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 内外の懸案に機敏に対処できない政治体制が続いている。このま
までは国民の政治不信は一層増大し、日本は国際社会の競争からと
り残されてしまう。危機的な状況にあるのに政府・与党には切迫感
がない。
 課題は、はっきりしている。
1.米軍普天間飛行場問題を解決し、日米同盟を立て直す。
1.安定した社会保障制度を築くため消費税率を引き上げる。
1.環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する。
 国の行方を左右する喫緊の課題を、迅速かつ適切に処理できる政
治体制を築かねばならない。衆参で与野党逆転の「ねじれ国会」で
はそれができまい。政界再編が今ほど求められている時はない。
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 そのほか、「政治とカネ」の問題はまったくの論外としても、与
野党の駆け引き問題、中国やロシアとの外交問題、マニフェストの
見直し問題等々、今の政府・与党、ひいては日本の政治全体がさま
ざまな課題を抱えていると言えます。
 全て喫緊の課題です。中でも、消費税率の引き上げは、地域主権
を実現するためにも、そして、TPPに参加して弱点である日本の
農業政策を見直すためにも、さらには、増大する社会保障関連経費
に対応するためにも、そして、ある意味では最大項目と言えそうで
すが、財政再建、財政規律を回復するためにも必要な政策でしょう。
 そのためにはどうすればいいか。結局、何を言いたいかというと、
“がらがらぽん”つまり、政界再編が必要なのではないかというこ
とです。そして、緊急時ですから、早急な決断と実行が必要という
ことです。

 話は変わります。「市町村行政は総合行政である」ということは、
昔から知っていたつもりです。市長になり、実際にそれを経験して
みると、なるほど確かに「総合行政」だということを実感できるよ
うになりました。
 「総合」であるが故に、偏った判断はできないなあと思っていま
す。そして、「総合行政」ということを考えれば考えるほど、また、
人の話をお聴きすればするほど、そして、新年の数多い新聞の特集
記事や本を読めば読むほど、あれもこれもやらなくてはならないと
思ってしまい、難しいなあ、長野市には今後も課題がたくさんある
なあ、ということをあらためて痛感しているところです。

 昨年11月11日のこのメルマガで、市長任期である今後3年間
でめどを付けたいテーマとして、14項目を列記しました。ただ、
市は「総合行政」ですから、あらゆることを考えなくてはいけませ
ん。そういう意味では、14項目ではとても足りない、ということ
は理解しているつもりです。
 他方、14項目だけでも、全てを実現することは難しい、欲張り
過ぎだ、ということもありそうです。だからこそ、何とかめどだけ
でも付けたいと思っているのですが・・・。

 あのメルマガ以降に、AC長野パルセイロのJFLへの昇格が実
現しました。14項目のうちの1つに挙げた「スポーツによる市民
の求心力の創出」という面で、パルセイロは求心力になり得る最有
力候補ですから、この機会をしっかり生かしていきたいものです。
 ただ、そうなりますと、さらに上へ、つまりJリーグへ昇格する
ための準備を始める必要があります。これはこれで大変なのですが、
めどだけでなく、ぜひとも実現にこぎ着けたいものです。

 もう一つ、具体化しようと考えていることが出てきました。それ
は、農業の再生に向けて、具体的に新規就農者を募集していこうと
いうことです。社会を変えるためには、小手先ではなく、時間がか
かっても根本的な解決、すなわち「教育」ということを考えるのが
重要だということに思いが至りました。具体的には、昨年最後のメ
ルマガで書かせていただいたとおりです。
 この「農業の再生」ということについては、14項目の中の「コ
ミュニティーの再生、新しい住民自治の確立」に書き込んでいまし
た。そのため、14項目の中では前面に出ていませんでしたが、め
どを付けたいと私が考えていることの重要な1項目であることに変
わりありません。「総合行政」であるが故に、一つの課題を解決す
るためには、さまざまな面からのアプローチが必要で、農業を再生
することも大事な事項の一つです。

 「総合行政」であるが故の難しさもあります。
 まず、市民の皆さんの多様な意見を一つにまとめることの難しさ
です。全ての市民の皆さんが望む方向性を示すこと、さらにそれを
実現することは、無理なことだなあというのが実感です。
 結局、大多数の市民の皆さんの意向を推測して、これが皆さんの
意思だと結論付けるのですが、それが正しい意見だと正確には言え
ない場合がありそうです。

 また、ただ単に“市民の皆さんが望んでいるから”、逆に“望ん
でいないから”というだけで政策判断をするのでは、ポピュリズム
(大衆迎合主義)だと批判されてしまうことも事実でしょう。真実
は、あるいは大切なこと・必要なことは、必ずしも市民の皆さんの
支持を得られることばかりではないはずです。「良薬は口に苦し」
ということも心していかなくてはならないと感じています。

 例えば、古くなった市営住宅について、「あれはひどいよ!建て
なおすべき!」という意見があります。確かに、古い市営住宅を全
て建て替えれば、住んでおられる市民の皆さんには喜んでいただけ
るはずです。
 ただ、行政としては、建設資金が掛かりますし、住んでおられる
人、これから住むことになる人だけが恩恵を受けるわけですから、
家賃は上げさせてもらいたいということになるわけです。でも、そ
れでは困るということになるでしょう。民間で経営しておられる貸
家や賃貸アパートの経営を圧迫する、という側面もありそうです。

 市営住宅が次々に建てられたのは昔のことで、当時の国の政策に
より補助金を受けて造ったものです。そして、民間の賃貸住宅が余
っている現在でも、長野市は市営住宅を造るために承認を受けた用
地を保有しています。用地は空き地のままですから、市民の皆さん
から見れば、早く何とかすべきだということになるわけですが、そ
う簡単にはいきません。
 確かに、何十年も前ではありますが、市営住宅の建設計画を政策
決定し、大臣の承認まで得たのですから、簡単に変えられないこと
も事実なのです。

 ただ、このところの日本の事情と同じように、長野市の事情も変
わってきています。具体的には、人口減少時代に入っている、低成
長時代に入っている、住宅は数の上では余っている・・・さらには、
お年寄り世帯の入居者が増加するなど、市営住宅の果たす役割自体
が変化していることもあり、本当に過去の計画のまま進めて良いの
か、個人的には疑問も残っています。

 結局、このことについても、先ほどの政府のことについても、結
論は私がよく引用させていただくフレーズに行き着くと思っていま
す。藤原正彦さんの著書『国家の品格』からの抜き書きです。

 「どんな論理であれ、論理的に正しいからといってそれを徹底し
ていくと、人間社会はほぼ必然的に破綻に至ります。」