収束の気配がなかなか見えない今回の原発事故。放射性物質の拡
散は重大な懸念事項です。
気象関係者の話を聞くと、長野市は福島第一原発と距離は遠いし、
東風が少ないので多分大丈夫でしょうとのことでしたが、どんなも
のでしょうか。私は偏西風を考えると長野市では福井県若狭湾岸の
原発が怖いと思っていましたが、これも距離的に遠いとのことで、
やはり一番怖いのは最も近い柏崎刈羽原発ではないかとのことでし
た。
菅総理大臣が中部電力浜岡原子力発電所の全面停止を要請し、中
部電力は5月9日にそれを受け入れました。浜岡原発は、東海地震
の想定震源域にあり、マグニチュード8クラスの大地震が、今後
30年間で87%の確率で発生するとのことから、この要請になっ
たわけです。
浜岡原発の停止により、中部電力の電力供給能力が下がり、その
供給範囲にある長野市にも、大きな影響が出そうだと感じています。
ただし、この要請は浜岡原発だけで、国内の他の原発は全て安全だ
そうですが・・・。
この場合、私たちがまずやらなくてはならないことは、節電です。
これは、今すぐにもできることで、当然のことながら全市民、全国
民が取り組まなければならないことだと思います。それと同時に、
節約でしょう。これは、私たちの生活スタイルを見直すことになる
ため、本当に大変なことだと思います。今の社会や生活を相当縮め
なくてはならないかもしれません。ものづくりの分野でいうと、電
力不足でものがつくれなくなった場合には、日本の輸出などに相当
影響が出るかもしれませんし、工場の海外移転も心配です。
また、代替エネルギーの活用がどこまでできるのかといった問題
もあります。
原子力発電は日本の発電量の約3割を賄っているとのことですが、
この分を火力発電に頼るとしたら、二酸化炭素の問題、地球温暖化
の問題も当然出てきます。ヨーロッパや北米のように隣国と地続き
の国ならば、電気を買うという選択肢もあるようですが・・・。
いずれにしても、省エネルギー化(節電)と代替エネルギーでど
こまでやれるのかを国全体で努力して、将来の計画をきちんと立て
る必要があるわけです。長野市としても、できるだけエネルギーの
地産地消を行いたいと思いますが、どの程度のことができるのか。
これから研究して、実行していかなければならないと考えています。
例えば、エムウェーブに太陽光発電設備を設置することをはじめ、
太陽光、水力、風力、バイオマス、ごみ発電など、あらゆることを
検討する、やれることは何でもやっていく必要があります。
放射能の拡散についてですが、農作物に被害が出る可能性もあり
ますが、東京の混乱を見ていると、「水」については考えておきた
いと思います。長野市の水道水の主な水源は、表流水、伏流水と深
井戸です。この中で、表流水は放射性物質が広がってくると心配で
す。
もし、水源としている表流水から放射性物質が検出された場合に
は、上下水道局では取水源を伏流水や深井戸に切り替えることを計
画しています。表流水から切り替えることができない地区について
は、安全確保のため乳幼児への摂取制限を実施するとなれば、給水
車を出動させて、乳幼児や妊婦さんのいる家庭を中心に安全な飲料
水を給水することにしています。
都市のインフラの維持は、決定的に重要です。電気・ガス・水道
・通信手段の確保が主たるものでしょうが、これらも、もしもの時
はどうするか、考えておく必要があると思います。
特に電気ですが、県内には数多くの水力発電所があり、発電量で
見るとその多くが東京電力系統で、次いで関西電力、中部電力の順
番となっているようです。長野市の電力は、中部電力により東海地
方から信濃幹線という送電線を通じて送られているとのことです。
数年前から、直江津港に中部電力が上越火力発電所を造っていま
す。信濃幹線に事故が発生したとき、上越火力発電所からの送電に
切り替えるという話を聞いたことがあります。私はそれを聞いたと
き、重要なことで、素晴らしい方策だと感じました。お金も掛かる
ことですが、いざという時に備えて、道路も含めインフラは、常に
2つ以上の選択肢を持つことが大切である、余裕を持つことが重要
であると私は思っています。
今、上下水道局では、配水ブロック化事業に取り組んでいます。
これは1カ所で問題が発生した時、そこだけに影響をとどめ、他の
ブロックに影響が出ないようにして、被害を最小限にしようという
取り組みです。
そして災害対策で忘れてはいけないことは、「予防活動」の重要
性です。
防火対策としては、消防局職員が市内のホテルや事業所などの立
入検査を行い、火気の取り扱い方や、階段や通路に避難の際に障害
になる物を置いていないかなどの問題点を指摘し、改善指導をして
います。また、住宅火災による死者の減少と被害を最小限に食い止
めるため、「住宅用火災警報器」の設置促進も図っています。都市
計画道路などは、防火帯の役割を果たしているはずですが、中心市
街地の裏通りなどは、火事が発生しても消防車が入れない場所がま
だあります。
長野市は現在、宮城県塩竈(しおがま)市と名取市へ行政事務支
援のため職員を派遣しています。被害はどちらも甚大ですが、塩竈
市の方が、死者は若干少ないようです。その理由は、地域として津
波を想定しての防災訓練に熱心に取り組んだことにあるようだと派
遣した職員から報告を受けています。また、テレビ番組の中で、名
取市の方は、ここまでは津波は来ないだろうと考えていたと話され
ていたそうです。都市内分権による地域の絆の再生、これが根本的
に重要だと痛感させられています。
長野市では、3年に一度、長野市総合防災訓練を実施しています。
この訓練は、長野市および自衛隊や県といった関係機関ならびに住
民自治協議会、さらには、ライフラインに関係するガスや電気の事
業者、建設事業者などが連携して、総合的に訓練を実施することに
より、災害対応技術の向上と相互協力体制の確立を図ることを目的
に実施しています。こうした訓練に地域の皆さんも参加していただ
き、地域住民同士の連携の強化を図り、さらには、防災意識や知識
の高揚を図っていただくことが大変重要だと考えています。
近年多く発生している局地的な豪雨や土砂災害に対する訓練を土
砂災害特別警戒区域や土砂災害警戒区域に指定されている地区で毎
年実施しています。災害時における情報伝達・収集手段および適時
適切な避難勧告の発令など、住民の避難方法や避難場所の確認など
を行っています。今年は、5月28日に松代町東条地区で実施する
予定です。
市職員の防災教育の一環として、危機(防災)意識の向上と水防
活動に必要な土のうなどの備蓄を強化するための職員防災訓練も毎
年実施しています。今年は、5月11日降雨の中、136名の職員
が参加し、風水害などに備え、約7,800袋の土のうを作成し、
市内の支所、消防署、消防分署などへ備蓄を行いました。
この他、消防局および消防団が中心となった水防訓練や、市内に
結成されている自主防災会の防災訓練があります。
多くの皆さんが訓練に参加し、防災に関する必要な知識や技術を
日頃から習得しておくことが重要だと思います。
「長野市の安全・安心を求めて行動する」。口では簡単に言えま
すが具体的に実行していくことは、なかなか難しいことです。“絶
対”はないと考え、あらゆる場面を想定して準備をしておくことが
重要でしょう。「天災は忘れた頃にやってくる」・・・寺田寅彦の
名言と言われており、常に念頭に置いておくべきことであろうと思
っています。
それともう一つ。今回の大震災の初期活動の段階で、組織的にし
っかり活躍できたのは、自衛隊、警察、消防、そして水道だったと
思います。自衛隊の活動は本当に頼もしかった。それと長野市消防
局もその重責を十分果たしてくれました。
これは、国全体として、災害対応のルールが確立していたことが
理由だと思います。3月11日14時46分の地震発生直後、総務
省消防庁から県を通じ代表消防機関である長野市消防局に、宮城県
へ支援に出動してほしいとの指令が来ました。長野市消防局はすぐ
対応し、県内の消防本部をまとめて、3月11日の夕刻には出動し、
翌12日午前には、塩竈市、多賀城市、七ケ浜町で救出活動を開始
しています。
これは、日頃から各消防本部間の連絡調整がうまく機能していた
証拠です。地方分権の時代とはいえ、このたびのような大震災では、
国の危機管理対応ルールの確立が、あらゆる面で重要なことを痛感
しました。
なお、東北地方に向かっていた兵庫県と奈良県の緊急消防援助隊
(345人)が、12日未明に発生した長野県栄村を中心とした地
震を受け、急きょ目的地を変更して長野県に入るなどの対応もあっ
たようです(実際、栄村では人命に関わるような被害がないという
ことで、再び東北地方に出発したとのことです)。
さらにもう一つ。支援対象を絞ることも重要と感じました。被害
の大小にもよりますが、例えば「長野市は、この地域を支援せよ」
と国が指示してくれたら、具体的な活動方針も明確になり、職員の
士気が高揚し、そして支援効果も上がります。全般に目を向けるの
ではなく、役割分担を明確にし、局所に限って必要なことを独自判
断で行うことが可能になれば、対応も早くなったのではと感じてい
ます。
以上、災害発生時の長野市の対応について、私なりに考えてみた
ことを羅列してみました。いざということがないことを望みながら、
常に最悪の事態を想定して対策を練ることの重要性を改めて痛感し
ています。他の地域の方には申し上げにくいことではありますが、
長野市は本当に恵まれているなあと感じています。近年では、昭和
60年に発生した地附山地すべり災害は大きな被害をもたらしまし
たが、それ以外に人的被害を伴う甚大な災害というものは、ほとん
どないといってもよい地域です。それだけに、他の地域に被害があ
った場合には、率先して支援体制を組んでいかなくては申し訳ない。
そんな気持ちでいっぱいです。