2008年10月23日木曜日

市長交際費の違法判決について


 長野市長の交際費に関し、9月25日、東京高等裁判所で一部の
支出が違法であるという判決が出されたことにつきましては、市民
の皆さまに、ご不快な思い、また、ご心配をお掛けしましたこと、
心からおわびいたします。
 ただ、今回の判決について、私としてはどうしても納得がいかな
い点も幾つかあるのです。しかし、訴訟を継続していくための時間
や労力などを考慮した結果、最高裁への上告はせず、違法と判断さ
れた事案7件、7万4,000円に遅延損害金を加えて、
8万4,190円を市に返還させていただきました。
 今回は、私の納得がいかない理由をお聞きください。

(1)まず、平成18年5月、住民訴訟が提起された事案は、62
  件、47万6,500円です。
(2)平成19年12月に長野地裁で判決があり、違法であると判
  断されたのは、そのうち7件、7万1,000円でした。詳細
  は次の通りです。
 1.北信政経会懇親会費 6,000円
 2.長野市交友会通常総会懇親会費(2人分)1万円
 3.長野市交友会市政懇談会懇親会費(3人分)1万5,000円
 4.宮司就任祝賀会費 1万5,000円
 5.長野県議会副議長就任祝賀会費 1万円
 6.すそばな会総会懇親会費 5,000円
 7.『名頭紋鑑』出版記念会会費 1万円

 この判決について、私なりに解説させていただきます。
 まず、提訴された62件のうち、違法であると判断されたのは7
件ですから、55件は違法性がないということです。そして、違法
であるとされた7件についてですが、
1.北信政経会の懇親会は、地元選出国会議員の衆議院議員選挙当
 選祝いと大臣就任祝いの会だったのですが、たまたま同じ時期に
 市長選挙も行われており、その案内状に私(市長)の当選報告会
 も兼ねるとされていたことがいけなかったようです。でも、ほか
 の議員さんの議長・副議長就任祝いにも出席しているのですが、
 こちらについては今回の長野地裁判決でも適法と認められ、また、
 同様の事例について最高裁判決でも適法と認められているのです
 から、この点についての判断基準があいまいだと思っています。
2.3.長野市交友会というのは、長野市職員OBの会であり、2
 回開催されました。会員の皆さんはすでに退職しているので、い
 わば外部の存在ということになります。その会合に、助役と収入
 役が私と同席して、会員の皆さんに行政の現状をお話し、意見を
 交わすことで、市政運営に必要なご助言をいただいたり、ご理解、
 ご協力をお願いさせていただいたりすることは、私は「公務」で
 あると思っていたのですが・・・疑問が残ります。
4.宮司就任祝賀会は、法務省が主唱する「社会を明るくする運動」
 の民間協力者であり、矯正業務に関して長野刑務所長表彰を受け
 ていらっしゃるなど、社会貢献されている方のお祝いをする会で、
 市内のホテルで行われました。しかし、政教分離という観点から
 すると、まずかったかもしれません。
5.長野県議会の副議長就任祝賀会も違法と判断されましたが、適
 法であるとする最高裁の判例が、現在の判断基準の趨勢(すうせ
 い)となっており、理解に苦しむところです。
6.“すそばな会”というのは、長野市職員の長野工業高校卒業生
 の会です。ところが適法とされた分に長野商業高校卒業生による
 “しらいわ会”が入っているのです。同じような会なのに、判断
 が異なるということは、一貫性が無いと言わざるを得ません。
7.出版記念会は、長野市技能表彰を受けた方が長い間努力をされ
 てできた本の出版で、長野市に関する貴重な記録と言えるでしょ
 う。問題になる理由がよく分かりません。

(3)このように、私としては、一審判決には全体的に事実が理解
  されていないと思われる点もあり、交際費の支出が違法になる
  かどうかの判断基準もはっきりしないと感じましたので、平成
  19年12月に控訴させていただきました。原告の方々も、附
  帯控訴ということで、28件、19万5,500円分を提出さ
  れましたので、合計35件について改めて判断を仰いだわけで
  す。
(4)平成20年9月、東京高裁で判決があり、35件のうち、7
  件、7万4,000円に違法性があるということで、額が
  3,000円増え、内訳も多少入れ替わりました。
 1.一陽会連合会総会懇親会費 3,000円(市議会議員立候
  補予定者の後援会で、一審では適法だったのですが、新たに違
  法とされました)
 2.北信政経会懇親会費(一審と同じく違法との判決です)
 3.長野市交友会通常総会懇親会費(一審で違法とされていた助
  役、収入役の会費に加え、新たに市長の会費5,000円も違
  法とされました)
 4.長野市交友会市政懇談会懇親会費(3と同様、新たに市長の
  会費5,000円も違法とされました)
 5.宮司就任祝賀会費(一審と同じく違法との判決です)
 6.すそばな会総会懇親会費(一審と同じく違法との判決です)
 7.出版記念会会費(一審と同じく違法との判決です)
  なお、長野県議会副議長就任祝賀会費については、適法とされ
 ました。

 今回、東京高裁の示した判断理由のうち、特に納得できない点に
ついて触れさせていただきます。

 市職員のOB会である長野市交友会には、総会と市政懇談会に出
席し、市政の状況についてあいさつさせていただいたり、講演させ
ていただいたりしました。当然、会員の皆さんは退職された方々で
あり、私の指揮監督権は及ばない、いわば外部の組織で、市政への
ご理解とご協力をお願いしたものです。
 しかしながら、東京高裁判決においては、会ないし会員の地域社
会における活動などについての具体的な主張立証がなく、地方自治
法第1条の2第1項に「地方公共団体は、住民の福祉の推進を図る
ことを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施す
る役割を広く担うものとする」と規定されている行政が、公費をも
ってお付き合いすべきであると客観的に見ることができるとは言い
難い、ということで、違法とされたわけです。でも、会員である職
員OBの皆さんは、区長など地元地区の役員に就いている方も多く、
行政には、大いに協力していただいているのです。

 “すそばな会”は、高校の同窓会であり、違法性がないとされた
“しらいわ会”とまったく同様の団体です。市役所内部の組織であ
れば、当然、交際費は支出しないのですが、これらの会には、市職
員のほかに学校長などの学校関係者、市議会議員も出席されていま
す。また、最高裁の判例では、学校の同窓会活動は外部の者が含ま
れるかどうかという点のみならず、それとは別の観点で「社会活動
の一つである同窓会活動を行う」という設立目的や会の活動自体か
らも外部性が認められているのです。

 このようなことを主張していたのですが、判断が示されなかった
と考えています。

 私は、正直なところ、非常に残念でなりません。金額が増えてし
まったからそのように言うわけではありません。もっときちんとし
た理由と、判断基準が欲しかったのですが、それがかなわなかった
ということです。
 今回の判断に対し、さらに判断を仰ぎたい気持ちもありますが、
時間と労力の問題、訴訟費用が公費でまかなわれること、そして市
民の皆さまにご心配をお掛けすることなどにかんがみて、上告をあ
きらめました。

 ただ、あいまいな判断であるが故に、私が従来、記者会見などで
主張してきたこと、すなわち「市長でなかったら出席しないであろ
う、市長であるがゆえに出席を求められる会合へ、市長として出席
依頼があった場合の会費は、市長交際費から支出する」ということ
を基本原則と考え、今後も対処していきたいと考えています。
 具体的には、平成18年4月に改定した交際費の執行基準に沿っ
て、政教分離の原則に反しないか、市の利益に資するものであるか
どうか、市長の指揮監督権が及ばない外部的なものかどうか、社会
通念上の儀礼の範囲かどうかなど、基本原則を踏まえつつ判例を参
考にしながら、個々具体的に判断することになると思います。もち
ろん、厳格に運用するとともに透明化を図り、執行状況のすべてを
市のホームページで公表していくことは当然です。

 最後に申し上げますが、今後、酒席を伴う会合だとしても、遠慮
させていただく予定はありません。と言いますのも、さまざまな会
に出席させていただき、市民の皆さまのご意見をお聴きして市政に
反映するとともに、私から市の政策などを直接ご説明させていただ
くことは、市長の重要な職務であると考えているためです。
 ただ、現在の私のスケジュールでは、出席されている皆さんとゆ
っくりお話しさせていただく時間をとることができないのも事実で
す。その意味では、会を主催されている方や出席されている方には、
かえって失礼になってしまっているのかもしれません。ですが、
「お酒は、和を大切にし、人と争わないように心掛けてきた日本人
の心」であるとおっしゃる方もいらっしゃいます。あらかじめ、中
座させていただくことをお断りした上ではありますが、私が出席さ
せていただくことで、市政に良い効果をもたらすのであれば、たと
え、酒席を伴ったとしても、出席させていただくことが良いのでは
ないかと考えています。
 今後も市民のため、長野市のため、臆(おく)することなく積極
的に市長職に取り組んでいく決意です。