「元気なまちづくり市民会議」は、市内32地区ごとに、各地区
の主催で開催していただいていることはご存じのとおりです。6月
27日の篠ノ井信里地区から始まった本年度の会議もあと4地区を
残すだけとなりました。会議は、今年4月の住民自治協議会の活動
本格化を受け、本年度からすべての地区で住民自治協議会の主催に
なっています。
住民自治協議会の主催になり、会議の進め方も少しずつ変わって
きました。各地区の独自色が出てきていると感じています。
そのような中で、他地区との違いが際立っていたのは松代地区の
市民会議です。ここでの会議は、昨年度に引き続きパネルディスカ
ッション方式でした。
この方式の市民会議は、地区の課題を深く共有するには良い方式
だと思っています。また、これまでの会議とは違う新鮮味もあるで
しょう。ただ、まったく別分野の提案をしたいと思っている皆さん
もいるでしょうから、そのような皆さんには物足りなさを感じる面
があるかもしれません。
今回、松代地区の会議では、私もパネリストの一人として参加さ
せていただき、「農業振興による松代地区の活性化」をテーマに約
2時間、しっかり討論させていただきました。
討論のコーディネーターは、松代地区住民自治協議会区長会副会
長の北原正雄さん、私以外のパネリストは、農業委員の半田孝一さ
ん、松代地区住民自治協議会区長会会長の中島嘉一郎さん、長野県
農業会議事務局長で松代町柴区特別会計の白石芳久さん、専業農家
の花見敏史さんです。
討論の柱にしたのは、「遊休農地・耕作放棄地」、「有害鳥獣被
害等」、「収益を生む農業」、「新規農業従事者を探る」の4点で
す。これらのことは、松代地区のみならず、全市的、さらには全国
的な課題でもあり、すぐに決定的な結論が出るような内容ではあり
ません。
しかし、だからこそ、市民の皆さんや行政などが一緒になって地
道に課題を出し合い、解決策を探り、試行錯誤を繰り返す以外に方
法がないと思っています。その面では、今回のこの会議は有意義だ
ったのではないでしょうか。
以下は、今回の討論の中で出されたことの抜粋です。
遊休農地・耕作放棄地について
・荒廃農地を復元したら、その後作付けした作物に応じて一定の所
得が確保できることが大事であり、荒廃農地対策には販売面のフ
ォローが必要。
・ソバは、中山間地域だけでなく、基盤整備された平地でも作れる。
農地は、荒れることなく作付けできているということが大事。
・野菜生産組合に所属する人を中心に農業生産法人をつくり、契約
栽培でタマネギを作付けしたい。また、農産物加工施設を造り、
販売できる会社と提携したい。
・戦後の農地解放の影響からか、公が関与しないと農地の貸し借り
が進まない。市農業公社の組織を強化したらどうか。公社の松代
支所があってもいい。
有害鳥獣被害等について
・徹底的に防護柵で囲うことが必要。電気柵で囲ってから被害はな
い。ニホンジカは柵を飛び越えるので、今とは違う防護柵が必要。
・薬草は被害に遭わない。イノシシは見向きもせずにまたいで行く。
ただ、栽培技術が確立し、普及するまでの間は「戸別所得補償」
的な支援ができないか。
・猟友会が高齢化して駆除が難しい。
・有害鳥獣は、農地だけでなく、生活の場にも危害をもたらすよう
になってきた。農家だけではなく、住民総意で取り組むべき。
・イノシシ牧場のような場所を作り、不要な農産物をそこに出し、
食べに来たイノシシを一網打尽にしてはどうか。
収益を生む農業について
・「定時」、「定量」、「定質」がないと産地間競争に負けてしま
う。契約栽培、地産地消など多様な販売方法を構築していかなけ
ればならない。
・JAの直売所ができてから意欲が出てきた。自分で売ってみるこ
と、販路確保が大事。
・観光資源がある松代の中心地区で販売拠点を確立して農産物を売
りたい。加工所も併設したい。ロスがない販売ができれば、農家
も育つし、若い世代も出てくる。B級グルメはどうか。
・市が奨励作物へ補助することは素晴らしいが、補助金単価が下が
ってやっていけない。販売も含めて市でコーディネートしてもら
えれば独立できる。
・地元にいながら地元の優れた農産物を知らない。地産地消で地元
の農産物を消費することが大事。
新規農業従事者について
・就農者が絶対的に足りない。Iターンも含めた若者を受け入れる
システムが必要。国や県でも多くの支援策があるが、市として地
元として、地元でなければできない支援が不十分ではないか。
これらのことについては、市としてもさまざまな支援や対策を進
めています。
例えば、遊休農地対策の一つとしては、市農業公社で遊休農地を
借り上げて集積し、貸し出す事業を始めていますが、なかなか農地
がまとまらないのが実情です。有害鳥獣対策では、わなや防護柵の
設置、駆除、緩衝帯整備などに対する補助制度を用意しているほか、
駆除したイノシシを食肉加工して販売することも研究しています。
本来、農業はとても付加価値が大きな産業です。市内には“8桁
(けた)会”、すなわち年間1千万円以上の収入を得ている農業者
だけのグループもあるのですから、条件を整えて苦労をいとわなけ
れば、十分収益を得られるはずだとも思っています。そのために、
法人化の支援もしています。
ただ、いずれも、一朝一夕でできることではありませんし、確実
な決め手もありません。あらゆる手段を講じていくことが大切です。
これからも、市として必要な施策を進め、少しでも前進できるよう
にしていきたいと考えています。
住民自治協議会の話題でもう一つ。鬼無里地区の皆さんを中心に
した有志21人が、“ソフトモビリティー(環境に優しい交通手段)”
の研究のため、自費でオーストリアのザルツブルク州ベルフェンベ
ンク村へ視察に行ってこられたとのことで、先日、その報告のため
に、市役所へお越しくださいました。
ベルフェンベンク村は、アルプスのふもとに位置しており、標高
は900メートル前後、人口は900人余り。日本で言えば、典型
的な中山間地域で、限界集落とも言えそうなのですが、人口は増加
傾向で、10年前より約200人も増えているそうです。そして、
住人の平均年齢は36.5歳というのですから、驚いてしまいます。
村の主な産業は、農業と民宿業。この村には、滞在型の旅行者が
多く、1週間から10日間程度滞在して軽い登山やウオーキングな
どを楽しんでいくそうで、農家は酪農と民宿で生計が立つそうです。
そして、この村の売りは、徹底的な環境対策にあります。村では、
観光客の移動手段として電気自動車、電動アシスト自転車、馬車な
ど、ソフトモビリティーを用意して、自家用車を使用させないよう
にしているそうです。また、住民自身も暖房などには薪(まき)を
利用し、電気も村内の太陽光発電所や、木質バイオマスにより発電
した電力を使用しているというのですから、徹底しています。景観
が良いことに加え、環境の良さからも人口が増えているのでしょう。
村外に通勤している住人もいるようです。
視察してこられた皆さんは、鬼無里地区でも環境に配慮した移動
手段を普及し、観光の目玉にしていきたいと考えています。ミズバ
ショウやブナ原生林など、自然を売りにしている鬼無里地区ですし、
市としても奥裾花自然園への小水力発電施設設置を検討していると
ころですから、ベルフェンベンク村は良いお手本になるかもしれま
せん。
いずれにしても、自費でオーストリアまで視察に行ってこられた
という熱意には、敬意を表する次第です。