前々回のかじとり通信に引き続き、「市長3期目の折り返し点を
迎えて(その3)」として、「今日的な話」についてお話しします。
地方自治体の長として、直接権限のない事柄について発言すべきか
どうかについては、依然迷っています。しかし、「物言えば唇寒し」
で、黙っていれば無難に事が過ぎていくであろうというのは、卑怯
(ひきょう)であると考えることにしました。
言いたいことはたくさんありますが、「TPP交渉参加」「消費
税率アップ」の2つに絞りました。
初めは、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加についてです。
11月9日の定例記者会見でのTPPに関する私の発言は、記者
の質問に答える形のものでしたので、若干、言葉足らずの部分があ
り、正確に話の意図が伝わっていないように感じています。
まず、わが国の経済が自由貿易体制下で発展してきたことを考え
ると、TPP自体を直ちに否定すべきでないと考えています。
一方で、TPPの交渉分野は21分野と幅広い上、議論の前提と
なるTPP参加による多方面への影響なども、国の統一見解として、
ほとんど開示されていません。開示されていないというよりは、交
渉にも入っていない現段階で、おそらく示すべき正確な情報などが
ないというのが実情だろうと推測しています。
それは、内閣府、農林水産省、経済産業省からおのおの出されて
いるTPP参加による国内総生産への影響試算額が全く異なること
を見ても分かります。
私は、いきなり門前払いをするのではなく、きちっとした形で交
渉に入り、その交渉の経過や結果をできる限り国民に明らかにする
中で、もう少し自由でオープンな国民的議論があってもいいと考え
ています。
また、TPP参加により、特に大きなマイナスの影響が予想され
ている農業分野については、わが国の農業と農業者をどのように守
っていくのかという点について、国において具体的な方策を示すと
ともに、相当に慎重な対応、判断が求められることは言うまでもあ
りません。
現状は、賛成派、反対派の双方が、かみ合うことのない、いわゆ
る「ためにする議論」をしているように感じています。
今回のTPP参加問題を契機として、食の安全や食料自給率など
国民にとって非常に重要な農業の在り方を含む、将来の国のかたち、
そのために選択すべき進路について、よく考えるべきだと思ってい
ます。その結果が、TPPへの不参加ということであれば、それは
非常に納得のいく結論だろうと思います。
しかしながら、仮に結果が不参加ということであっても、後々に
なって交渉に加わらなかったことを悔やむことがあってはならない
とも思います。
今は立ち止まることなく、勇気を持って一歩前に出てみる時では
ないかというのが私の考えです。
加えて、現時点では無論のこと、TPP参加に賛成しているので
はなく、あくまでも交渉の舞台に立つべきであると申し上げている
ことをご理解いただきたいと思います。このことは、14日に開催
された長野市農政懇談会(長野市農業協同組合協議会、長野市農業
委員会、長野市議会経済振興議員連盟の3者で行っている農政に関
する懇談会)の席上でも申し上げました。
先般、野田首相は、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入
ることを正式に発表されました。これからは、私が申し上げた趣旨
に沿って、十分に検討されることを切望します。
次の話題に移ります。消費税率アップについてです。
先日、和歌山市で開催された中核市サミットの基調講演で、中核
市市長会相談役の石原信雄(元内閣官房副長官)さんが次のことに
言及されました。
それは、日本の消費税率は、他の先進国に比べ極めて低い。日本
の財政状況を考えれば、このままやっていけるはずがなく、いずれ
大幅な税率アップは避けられないということでした。
このことは、私の年来の主張でしたので、「わが意を得たり」と
感じました。しかし、講演の中で石原さんは、具体的な実施時期に
ついては、はっきり話されませんでした。そこだけは残念でした。
私は、なるべく早くやるべきとの意見です。
日本の国の債務残高(借金)は、本年度末には1,000兆円に
達する見込みで、年金をはじめとする社会保障にも多額の税金を投
入しなくてはならない状況に加え、原発事故による被害を含めた東
日本大震災の復興費、そして厳しい経済状況、停滞する景気に輪を
掛けるような円高。日本の財政は、非常に厳しい状況です。国債は、
ほとんど国内で消化されているから大丈夫といった話を聞いたこと
がありますが、安心していることはもう許されない状況だと私は感
じています。ギリシャでの信用不安に続いてイタリアでも首相が辞
任する状況になったのは、財政問題が原因です。
借金の状況だけを考えれば、日本はイタリアより悪いと言われて
います。財政規律は、国家の最重要課題であります。個人の場合で
も、借金の始末をきちんと付けることは当然です。「入りを量りて
出(い)ずるを為す」は、どんな場合にも真理です。
消費税率1%の引き上げで2.5兆円の増収と言われており、消
費税しか安定した増収を図る道はないと思います。これだけのデフ
レ状況においては、消費税の増税により仮に10%物価が上がって
も、個人生活の場では、それほど影響がないと思われますし、景気
が大きく落ち込むことはないでしょう。
ただ、消費税率アップに反対する一つの理由として一般的に言わ
れているのは、消費税の逆進性、すなわち所得が低い層への影響が
大きいということです。
そこで出てくるのが、中谷巌(いわお)さん(一橋大学名誉教授、
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社理事長)が主張す
る還付金付き消費税です。還付金付き消費税とは、例えば、消費税
の税率を仮に10%とした場合、各世帯に年間10万円を還付する
という仕組みです。そうすれば、年間の消費額が100万円の世帯
では、消費税額10万円と還付金10万円が相殺され実質税額は0
円になります。200万円の世帯では消費税額20万円のところ、
10万円還付され実質税額が10万円に、1,000万円の世帯で
は、消費税額100万円ですから、実質税額は90万円という計算
になります。
この方法は、消費税は逆進性が高いという批判を克服できる論で
あると私は考えています(厳しいのは、中小企業を含めた企業側で
しょう。増税による消費縮小を抑えるため、商品価格を下げざるを
得ない状況が想定できるからです)。
また、消費税率引き上げに伴う低所得者対策として、食料品など
生活必需品の税率を特例で低めにする「軽減税率」も検討されてい
ますが、還付金付き消費税も含めて当面見送りとの方針を政府・民
主党が固めたとの報道がありました。軽減税率については、対象品
目の線引きが難しく、混乱が予想されることから見送りとなったよ
うですが、軽減による減収分をどこかで穴埋めしなければいけませ
んし、とにかく複雑な制度になることが明らかです。単純明快な制
度にするべきだと考えています。“シンプル イズ ベスト”なの
です。
いずれにしろ、日本の財政は、待ったなしの状況であるという危
機感を国民が共有し、生活レベルを極端に下げることなく、何とか
国の借金を減らすことを考えるべきでしょう。それもスピード感を
持って・・・。
日本以外の先進国では、消費税率が20%以上の国が多く、中で
もスウェーデンやデンマークの税率は25%とのことです。
以上、3期目の折り返しを迎えて、長野市政として取り組むべき
こと、国の法改正の必要性、そして今日的な話題について、3回に
わたりお話しさせていただきました。いずれにせよ、世の中で起き
ていることは、何らかの形で私たちの生活に影響を与えることを考
えると、何一つ無関心ではいられないと思っています。
みんなの声が「ながの」をつくる。みんなの声が「日本」をつく
るという思いから、書かせていただきました。