2012年2月2日木曜日

財政赤字が日本を救う


 年末年始のマスコミ報道は、日本を元気にするような明るい話題
に乏しく、いささか残念に思いました。昨年1年間の報道を振り返
えると、東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故と広がる放射
能汚染、尖閣諸島問題、沖縄米軍基地問題、ヨーロッパの金融不安、
日本財政の危機的状況、社会保障と税の一体改革、TPP(環太平
洋経済連携協定)、政治主導、消費税率アップ、北朝鮮問題、野田
政権誕生、衆参ねじれ、閣僚の相次ぐ不適切発言などがありました
が、各社とも同じような論調で伝えているものが多かったように思
え、見出しだけは独自性を主張しているようですが、中身は似たよ
うなものと感じました。
 できるだけ多くの報道から最新かつ良質の情報を収集したいので
すが、内容に差異がなく、興味を失ってしまうことが、一番困った
ことでもありました。マスコミには、国民が政治・経済や文化、国
際社会などに興味や関心を持てるような工夫を、そして鋭い切り口
からの報道を望みます。

 そのようなことを思いつつ、東京へ行った際、何か興味を引く本
がないかと東京駅八重洲口にある大型書店に立ち寄ってみました。
何冊か手に取ってみましたが、いずれもこれまでのマスコミの主張
とほとんど同じで、あまり食指が動きませんでした。しかし、一冊
だけ目に留まった本がありました。「2012年 大恐慌に沈む世
界 甦(よみがえ)る日本」(三橋貴明さん著・徳間書店)です。
「大恐慌に沈む・・・」、この本も、また悲観的な内容の本かと一
瞬目をそらしかけましたが、「大恐慌に沈む世界」の中で、「甦る」
のは「日本」とあり、「これは、ちょっと違うぞ」と思い、購入し
てみました。
 
 三橋さんは著書の中で、まず、「財務省やマスコミは、やたら
『財政健全化』あるいは『財政黒字』という言葉を好む。(略)国
内マスコミは日本の財政について、『日本の国の借金はGDP(国
内総生産)の2倍にも達している!破綻だ!』と叫び、国民の危機
感を煽(あお)っている」。(略)しかし、「実は、日本の国の借
金は、少なくともここ数年間はそれほど増えていない」。一方、
「中国や韓国は確かに政府の負債残高が凄(すさ)まじいペースで
増えてはいるが、GDPもその分だけ拡大している。(略)そもそ
も資本主義とは、各国の経済主体(企業、家計、政府など)が負債
(借金)を増やし、投資を拡大していくことが成長の基本である。
(略)日本の財政の問題は政府の負債残高増大そのものではない。
GDPが成長していないことこそが、問題なのである」。したがっ
て、「『国の借金が大変だから、増税しよう』という主張はマクロ
的に間違っている」とし、マスコミや一部の政治家が「国の借金」
の本質を理解していないことを酷評されています。
 
 そして、財政健全化の方法には、デフレ下とインフレ下では真逆
となり、
「デフレ下の国では、財政赤字を増やすことこそ健全な財政」
「高インフレ率の国では、財政黒字を増やすことこそが健全な財政」
と主張されています。

 この本の中で三橋さんは、日本では1990年代のバブル崩壊後、
企業は投資を回避して経費削減にひた走り、家計も投資が激減し、
過剰貯蓄状態となった。そこに輪をかけるように、政府までもが財
政再建のためにと増税や公共投資などの支出の削減に乗り出したた
めに、GDPがマイナス成長となり、日本は長期デフレ状態から脱
却できないままでいると説明しています。これを打破するためには、
「日本政府が国債を発行(借金)し、(場合によっては)日銀が長
期国債を買い取ることで政府の資金調達をサポートし、国内の『有
効需要(公共投資など)』となるように支出を拡大すればいいだけ
なのである」と主張されています。これにより、雇用が創出され、
税収が上がり、ひいては国の借金が減ることになるのです。財政赤
字がさらに膨張した場合、デフォルト(債務不履行)の危険性が増
大するのではないかとの疑問に対しては、「日本やアメリカなどの
先進国の自国通貨建て国債のデフォルトなど、考えられないという
より、あり得ない。何しろ、国債を発行する中央政府は、『徴税権』
及び『通貨発行権』を持ち合わせているのである。通貨を発行でき
る中央政府が、自国通貨建ての国債のデフォルトなど起こすはずが
ない。(略)中央政府は中央銀行に命じ、国債を買い取らせてしま
えば済むのである」と論破されています。そして、「日本、スイス、
アメリカ、ドイツの4カ国は、『国債のデフォルトが決して起きな
い4カ国』」と主張されています。ただし、国債償還のために通常
以上に通貨を発行すれば、当然インフレを引き起こすことになりま
すが、これに対して三橋さんは、「『政府のデフォルト』と『イン
フレ率上昇』は全く別の現象であり、解決策も異なる」と言うので
す。

 難しい本で、簡単にまとめることはできませんが、要は、自国通
貨建ての国債であればデフォルトの心配はないのだから、日本は、
財政赤字を増やしてもっと公共事業を行い、需要を喚起してGDP
の成長を促すべきであるということです。三橋さんは、具体的な公
共事業として、まずは、東北復興と福島第一原発事故終息のための
事業、次に、既存の原発や皇居、国会議事堂といった政府の重要施
設の耐震化事業、そして、高度経済成長期に建設され50年が経過
した道路や橋梁(きょうりょう)など(私見ですが、建築物も含ま
れると思います)のインフラの補修事業を挙げられています。こう
して、「日本が正しいデフレ対策を実施し、内需が拡大すれば、外
国からの輸入が増える。これは、アメリカは無論のこと、需要不足
に悩む欧州、さらにはアジアの輸出国をも助けることになる」と、
次の経済覇権国は日本だと主張されています。

 また、三橋さんはこの本の中で、現在のように税収の「源」とな
る名目GDPが成長しない状況下では、国の借金を減らそうと増税
をしても結局減収となり、そうなればさらに増税をするという負の
連鎖に陥ると訴えられています。

 社会保障と税の一体改革の議論の中で、これまで消費税増税は適
切な手段であると考えていましたし、賛成の立場で何度か「かじと
り通信」にも書きました。しかし、この本を読んでみて、確かに増
税は必要かもしれませんが、今このタイミングは適切ではない、あ
るいは今このタイミングで行うのであれば、せめて大規模な公共投
資と一緒に行うべきではないかとも考えるようになりました。また、
三橋さんは、アメリカのオバマ大統領が打ち出したアメリカ国内の
雇用創出を目指す「輸出倍増計画」の実現が目的のTPP交渉につ
いても触れており、TPPに対し、少し考え方を変える必要がある
のかなあとも感じています。TPPに関しては、農業分野に限らず、
あらゆる分野、そしてその背景・目的などについて十分検討される
べきであると思います。

 そして、あらためて市長として、今何をすべきかを考えてみまし
た。
 まず、国と地方自治体の一番の違いは、国は通貨を発行できます
が、地方自治体は当然のことながらできないということです。市債
なりで借金はできますが、これも国との協議が必要です。つまり、
地方自治体として大事なことは、やはり限られた予算の中で「入り
を量りて、出ずるを為す」を基本理念に、必要な公共事業を必要な
時期に行い、市内にお金を流すことではないかと考えています。

 いずれにしても、平成24年度予算編成に当たって重点的な予算
配分とした「小・中学校耐震化事業」など大規模プロジェクト事業
を中心に、Jリーグ基準のサッカースタジアム整備や茶臼山再整備
計画、さらには農業法人を含む中小企業の育成など将来を見据えた
公共事業を計画的に進めることによって、景気を回復し、雇用を創
出していくことが大変重要であると再認識しています。