前回は初めてのメールマガジンということで、私の思い描く長野
市の将来ビジョンについて、全体的な話をさせていただきました。
今回は、もう少しテーマを絞ったお話をしたいと思います。
この4月に長野市の副市長に就任する前の、長野県職員であった
ころのことですが、民間企業に研修に行く機会があり、東京の丸の
内にある「タリーズコーヒー」で3カ月間働いたことがあります。
そこでは、今盛んに言われている、おもてなしとCS(顧客満足)
について多くを学ぶことができ、まさに民間感覚を肌で感じること
ができました。
さて、そのタリーズコーヒーでは、初めのころはレジを担当し、
その後いわゆる「バリスタ」というコーヒー職人としての仕事に携
わりました。レジを担当していたときのことですが、毎朝7時に来
る女性のお客さんがいました。その人は、毎日ミルクティーを注文
し、たいていは温かいものを、たまに冷たいものを飲んでいました。
あるとき、「おはようございます。いつもと同じものでよろしいで
しょうか」と聞くと、「はい」とのこと。続けて、「あったかいの
にしますか、冷たいのにしますか」と聞きました。そのお客さんが
帰られた後、店長から「『あったかい』ではなく、『あたたかい』
または『ホット』という言葉を使ってください」と言われました。
「あったかい」では相手に近づきすぎだ、と言うのです。
確かに、お客さんに対して親しみを込めることは大切だと思いま
すが、ある程度の距離を置いて、親しみを感じてもらうことが大切
なのです。これは、市役所においても全く同じで、庁舎内を歩いて
は職員が接客している姿を見るようにしています。職員には、市民
の皆さんに、適度な距離感を取るとともに親しみを感じてもらえる
ような対応を求めていきたいと考えています。
また、タリーズコーヒーでは別の店舗に行く機会があり、そこで
店内のトイレを利用しました。鏡に曇りは無く、水滴も落ちていな
い、とても奇麗に清掃されていたのです。そして、数十分後にもう
一度同じトイレを見てみました。その間に、トイレを利用した人は
何人もいるはずです。しかし、奇麗になっているのです。どうやら
その店では、店員が定期的にトイレに入り、誰ともなく掃除をして
いたようなのです。食べる所が奇麗なのは当たり前で、トイレにま
で手入れが行き届いているのは、こんなに気持ちがいいものかと感
じました。
ワンコインのコーヒー1杯のために、これだけのことをやってい
ます。
当たり前の話ですが、人間は「食べ」れば、「出す」ものです。
になるのでしょう。
私が副理事長を務める長野市開発公社が管理・運営するそれぞれ
の施設には、設備は新しくなくても、そのような場所の手入れを徹
底し、「一流」を目指してほしいと呼び掛けています。
前回のメールマガジンでお話ししたように、長野市は平成27年
を境に大きく変貌を遂げます。その長野市をたまたま訪れた人が、
「街で道を尋ねたら適度に親しみのある心地よい対応をしてもらえ
た」「飲食店や宿泊施設を利用したら、トイレまでしっかり手入れ
が行き届いていて、気持ちのいい滞在ができた」となれば、今度は
家族を連れて訪れようと思うかもしれません。
今や観光名所や食事、商品など形のあるものだけに対価を払う時
代ではなく、このようなガイドブックにも載っていない、「おもて
なし」や「ホスピタリティー」を買う時代が来ているのだと感じて
います。