本年最後のかじとり通信になりました。今回は、少し私の個人的
な言い分になりそうです。
昨年の夏から約半年間かけて、自宅にあるいろいろな本を、秘書
課に用意してもらった古い段ボール箱に詰めて市役所に運びました。
職員研修所が研修用の図書を管理しているため、職員に読んでもら
い何かの足しにしてもらえばと考えたものです。
私は昔から「活字中毒」なんて言われるほどかなりの活字好きで、
いつも何かの本を読んでいないと、どうにも落ち着かない性格だっ
たようです。ある程度本を運んだ時点で職員に何冊ぐらい運んだか
聞いてみると、2,000冊以上ということでした。その後も運ん
でいますから、相当な数になっているでしょう。自宅にまだあるの
ですが・・・、市役所に置くのに、あまりくだらない本では恥ずか
しいと考えて、昨年いっぱいで一応やめました。
家の中が本でいっぱいというわけではないのですが、一度読んだ
本をまた読みたくなることはあまりありませんし、かといって捨て
るわけにもいかず、どうしようか迷った末のことでした。初めは
「寄付する」と言ったのですが、市長が寄付することはできない
(公職選挙法違反だそうです)とのことで、それならば「貸す・・
・」ということにしました。市長を退任した後は、忘れたことに・
・・とも考えています。
職員に読んでもらえれば、本も本望だろうと思っていたところ、
本県出身でフリージャーナリストとして幅広く活動している池上彰
という本のことを書いていました。池上さんが紹介するショウペン
ハウエルの考え方にちょっとショックを受けて、慌ててその本を購
入して読んでみました。
皆さん、ショウペンハウエルという哲学者をご存じですか・・・
「デカンショ節」をご存じですか。昭和30年代前半、私の高校時
代、昔の旧制中学のバンカラの気風が残っていたせいでしょうか、
酒こそ飲みませんでしたが、コンパや合宿の時など、あまり意味も
考えずに、大きな声で歌ったものです。
デカンショ!デカンショ!で半年暮(く~ら)し、あとの半年
(はんとしゃ)寝て暮らす。
よーい、よーい、デッカンショ!ほら、デッカンショ~。
多分、「デ」はデカルト、「カン」はカント、そして「ショ」は
ショウペンハウエルの略で、いずれも高名な哲学者ですが・・・シ
ョウペンハウエルについては、正直に言って、私はあまり知りませ
んでした。
ショックを受けた一文を紹介します。
「読書は、他人にものを考えてもらうことである。本を読む我々は、
他人の考えた過程を反復的にたどるにすぎない。習字の練習をする
生徒が、先生の鉛筆書きの線をペンでたどるようなものである。だ
から読書の際には、ものを考える苦労はほとんどない」(訳:斎藤
忍随 岩波文庫)
本の表紙にも同じような文章がありました。
「『読書とは他人にものを考えてもらうことである。1日を多読に
費す勤勉な人間はしだいに自分でものを考える力を失ってゆく。』
一流の文章家であり箴言(しんげん)警句の大家であったショウペ
ンハウエル(1788-1860)が放つ読書をめぐる鋭利な寸言、
痛烈なアフォリズムの数々は、出版物の洪水にあえぐ現代の我われ
にとって驚くほど新鮮である」
要は、他人の書いたものなど何の価値もない、自分で考えろ・・
・とショウペンハウエル先生はのたまっているのです。これはショ
ックでした。結局、自分で考えることが大切ということなのでしょ
うが、凡人にはその力はありません。他人の書いてくれた素晴らし
い文章で、楽しみ、自分の知識を増やし、人間性を高めている・・
・のでしょう。
そして「読んだ本」の内容を、自分なりに納得できた本が、良い
本だと思ってしまう。そうでない本は、題名に引かれて購入して読
み始めても、すぐに飽きてしまって本棚の片隅に積んでおく(「積
読(つんどく)」というのだそうですが・・・)。私もご多分に漏
れず、随分無駄をやってきたものです。
ただ、ショウペンハウエル先生だからあんなことが言えるのであ
って、われわれ凡人はそんなことはできません。彼の主張は無視し
て、他人の知恵で気に入ったものをどんどん使わせてもらいましょ
う(著作権については、ここでは触れません)。
特に、市長という立場で発言するとき、自分独自の説を述べるだ
けでは、何となく権威や重みがないため、説得力に欠ける場合もあ
りますよね。そこで「著名な先生いわく・・・」というように書物
から引用すれば、大抵の人は納得するという便利さがあります。具
体的に申し上げると、よく使わせていただくフレーズは、藤原正彦
さんの「どんなに正しい論理でも、その論理をつきつめていくと社
会は崩壊する」というくだりです(著書「国家の品格」より)。
素晴らしい言葉や考え方は、これからも大いに使わせていただく
つもりです。多くの皆さんにお伝えできて、そして共感してもらえ
れば幸いです。ショウペンハウエルの言葉を借りるなら、われわれ
凡人にとって、思わずペンでたどってみたくなるような魅力的な
「鉛筆書きの線」に巡り合えることは大きな喜びなのです。
以下、思い付くままに、私の好きな作家を挙げさせていただきま
す。古い人、新しい人、ジャンルなどはいろいろです。
司馬遼太郎、寺田寅彦、山本七平、梅原猛、松下幸之助、童門冬二、
中谷巌、中西輝政、藤原正彦、山折哲雄、塩野七生、吉川英治、小
松左京、岸田秀(敬称略)
まだまだいらっしゃいますが、このくらいで、私の発想法がお分
かりいただけると思います。来年も、良い本にたくさん出会えるこ
とを願っています。
話は変わります。12月16日に衆議院議員総選挙が行われ、国
民の審判が下されました。自民党が単独過半数を大きく上回る議席
を獲得し、公明党との連立により、両党は参議院で否決された法案
を再可決できる3分の2以上の議席を確保しました。しかし、参議
院においては、自民・公明両党でも過半数の議席に満たない状態が
来年夏の参議院議員選挙まで続くため、ねじれ国会による政治の混
乱が続く可能性があります。安倍新政権には、衆議院で得た多数の
議席に慢心することなく、ねじれ国会における与野党の合意形成に
努め、政治の混乱を終結させること、また、国民の声、地方の声に
真摯(しんし)に耳を傾けながら、多面的、長期的視点に立って国
政運営に当たっていただくことを強く望みます。