2013年1月17日木曜日

国への依存


 「地方自治体は自立していない」・・・私が時々使うフレーズで
す。
 「地方の時代」という言葉を知ったのは、故夏目忠雄先生が市長
を辞めて出馬した1974(昭和49)年の参議院議員の選挙のと
きで、夏目先生がこのフレーズを使っておられました。第1次オイ
ルショックの直後でしたから、もう40年近く前の話です。
 もちろん敗戦後、時代が変わり、民主主義の時代になったが故に
「地方の時代」という考え方はもともとあったのでしょうが・・・
夏目先生が選挙活動の際に、あらためて、このフレーズを主張しな
くてはならなかったということは、戦後30年近い年月が経ってい
たにもかかわらず、「地方の時代」にはなっていなかったことの証
左でしょう。
 2000(平成12)年には、地方分権一括法(地方分権の推進
を図るための関係法律の整備等に関する法律)が施行され、現在、
形式的には地方の時代がかなり進んできたようには思いますが・・
・。

 私の主張を申し上げれば、「いまだに地方自治体は自立していな
い。自分の足で立っているとは言えない」のです。一番の問題は財
政です。ストックとフローに分けて考えてみると、まずストックと
して地方自治体には借金がありますから、返済する必要があり(借
金をするときは、原則として国や県への申請が必要です)、フロー
としても国の財政支援(補助)を頼りに動いており、それがなくて
は地方自治体は支払いができないのです。
 国と対立して、「補助はいらない」とけんかができるのは、東京
都だけだろうと思います。このたび、本市出身の猪瀬直樹氏が都知
事に就任されましたが、雄大な構想でスタートしたあの新銀行東京
が資本金の1000億円を失っても東京都には大きな打撃はないよ
うですから・・・うらやましい限りです。

 いくつかの問題点を申し上げます。
 一つは、税源の問題です。大都市を中心とした地域とそれ以外の
地方とでは、極端に片寄りがあり、税制度の設計が間違っているの
ではないかと感じます。具体的に申し上げましょう。長野市の財源
は、市民税などの市税が約40%で、そこに国や県から来る交付金
や交付税などで本来長野市の固有の収入と考えて良いものを加えて
も60%ぐらいでしょう。あとはいろいろな収入や繰越金、国庫補
助金などの国・県の支援でようやく現在の財政規模を維持できてい
るわけで、私は「長野市の財政は大丈夫です」と胸を張ってたびた
び申し上げていますが、それは国の支援があっての、そして今の財
政ルールを国が守るという前提条件が付いての話なのです。つまり、
地方自治体は、どうしても国や県から財政的支援をもらわないと駄
目ということで、そのためには、官僚や政権の力を借りる必要があ
るというのが実態です。
 国が集めている税金の相当の部分を地方に回してもらっているこ
とは事実ですし、徐々に地方の取り分は増えてきています。そのお
かげで、地方は辛うじてやっていると感じています。

 もう一つは、会計の単年度主義が、じっくり仕事をしていくこと
を難しくしています。複数年度会計を採用できないのか。そして、
行政の会計制度に複式簿記が導入されていないことも問題です。複
式簿記導入は、私の元来からの主張で、今の単式簿記だけでは長野
市の財務状況を正しく表すことができない上、他都市との比較がで
きません。導入されていない理由は、道路や河川などを含む保有土
地の評価が難しく、評価額の算定が困難なことなどがありますが、
それならば、土地勘定を除外して、貸借対照表を作るべきと私は考
えています。土地は減価償却ができない特殊な資産ですから、地方
自治体は土地を買ったら、全部国に寄付して、利用権だけを取得す
ることにしたらどうでしょうか(社会主義に近い考えですかね・・
・)。

 真に自立するとはどういうことか。企業でいえば無借金経営のこ
とですし、地方自治体においては、やりたいことが自治体独自の判
断でできるということでしょう。そうした財政的に恵まれた自治体
の首長は、国に対しても格好良く自らの主張を声高に訴えることが
できるのでしょうけれども・・・その勇気は本当にうらやましいで
すし、私も・・・。しかし、国や県とけんかをして、長野市民が得
することはありません。長野市の現状を訴え、財政支援の必要性を
説明し、予算を獲得してくることが長野市のためになるわけです。
歴代の市長、他都市の市長も同様に考え、同様に行動しているでし
ょう。

 東日本大震災の直後、長野市の大規模プロジェクト事業をやめて、
その事業に充てる補助金分の予算を国に返すべきだというご意見を
頂きました。確かに、国全体を考えればそうした考えを持つ人がい
ることは理解できますが、国が全体として予算を減らし、その分を
復興費用に充てるということなら納得せざるを得ないのでしょうが、
長野市だけが独自にそうした対応をしても大きな財政的効果は見込
めませんし、長野市の大規模プロジェクト事業とは同列には考える
べきではないと判断しました。私はこの考え方で、長野市は被災地
の復興のために見舞金1億円を支出し、市の事業は全て行うことと
決断しました。
 しかも、今回国は、無制限に復興予算を出すようですし、それぞ
れの地域が元気になって頑張ることが復興につながると理解されて
きたのではないかと思います。企業会計では律し切れないものが、
国・県・市町村の財政にはあるのです。

 以前、当時の長野県知事が決定した予算に係る補助金を国に返上
したことがありましたよね。それを喜んだのは他県の知事だったそ
うです。長野県が予算を返上したおかげで、その分が他県に配分さ
れるということで・・・。長野県の失われた10年間でした。

 地方自治体の財政は、私がよく使うフレーズ「入りを量りて出ず
るを為す」ようになっていないことは事実です。自らの収入以上の
ことをやっているのです。地方自治体が悪いといえばそれまでです
が、やらざるを得ないというのが実情でしょう。福祉などの義務的
な経費や市民の要望はどんどん膨らんでいきますし、サービスを向
上させ、他の市町村と横並びにしようとするのは仕方のないことで
す。市町村間でサービス競争が激化する原因は選挙制度にも関係し
て、選挙対策として取り組まなくてはならないことも事実でしょう。
 私が市長に就任したのは2001(平成13)年11月、それま
での長野市の予算項目で一番大きかったのは土木費でしたが、翌
2002(平成14)年度の予算編成では、民生費(医療・福祉関
係費)が土木費を追い越してしまい、以後、今日まで逆転すること
はありません。

 私が市長に就任して一番びっくりしたのは、企業社会で当時一番
問題になっていた退職手当引当金を積み立ていないことでした。
2002(平成14)年度の予算編成時にそのことが分かって、で
はどうするのかと担当者に問いただしたのですが、答えは、翌年度
の予算編成時にその年度の退職予定者数に退職金を掛け合わせて予
算に盛るとのことでした。それでは退職者が多い年度はどうするの
かと聞いたところ、同じことですとの答えでした。それが行政のル
ールなんだと分かりました(私はこれをすぐに改善し、現在は退職
手当に充てるための基金(退職手当基金)を積み立てています)。

 市町村合併のときもびっくりしたことがあります。長野県町村総
合事務組合(県内の全町村が加入している一部事務組合で、現在は、
長野県市町村総合事務組合)から長野市に対し、11億円近い請求
が来たのです。町村は、職員の退職金について、組合に負担金を支
払い、退職者が出るたびに組合から退職金が支払われていたのです
が、実は退職金が負担金を上回っていたため、退職金が足りず、組
合が不足分を肩代わりしていたのです。そこで、合併の際に、合併
町村が組合から脱会するに当たって、過去の不足分が組合から長野
市に請求されたということです。

 まあ、合併とは良いことも悪いことも全て引き継ぐわけですから
仕方ないのでしょうが、割り切れない思いをしたのは私だけではな
いと思いますし、行政の仕組みはどう考えてもおかしいと感じまし
た。合併時、長野市がその11億円を支払えなかったらどうするの
か・・・時間をかけて組合に支払うのだそうです。問題の先送りで
すよね。

 地方自治体は自立していないということを書こうと思いながら、
話は変な方向に行ってしまいました。今後、道州制の導入といった
ような大改革が行われるときには、こういう問題は放置できないの
かもしれません。