市長になって、1・2年ころの話です。
ある地区の元気なまちづくり市民会議で、お年寄りが立ち上がっ
て、「わしは、この年になるまで、きちんと年金の保険料を払って、
今、年金をもらっている。しかし、保険料を払っていないにもかか
わらず、生活保護費として、わしより余計にもらっている人がいる
ことは、けしからん」といった趣旨の発言をされました。当時の私
は、行政経験もあまりなかったため、このご意見にすぐには答えら
れませんでした。事実なら確かに問題であり、ご老人が怒るのも無
理はないと思いました。ご老人がおっしゃったのは、生活保護費と
年金の受給額の問題です。
生活保護受給者が大変増えていることが心配されています。受給
者は全国で214万人を超え、過去最高を更新していますが、この
不況の中で受給者の増加傾向が続くのではないかと、マスコミでも
報道されています。
受給者が増加する原因はいろいろありますが、リーマン・ショッ
ク以来の不況が続いていることや、企業が固定費を極力増やさない
ようにするために非正規従業員を増やし、景気変動にいつでも対応
できる経営を志向していることが主な原因で、やむを得ないことだ
と思います。そうしなければ、工場の海外移転がさらに激しくなる
でしょう・・・。
終戦後、私が子どものころ見掛けた、道路工事などの失業対策事
業に従事する人々のことを思い出します。何もせずに、ただ、お金
をもらうことを潔しとしない。あるいは、厳しい労働環境の中でも
働かざるを得ない人々の存在・・・監督官みたいな人が1人いて、
十数人が道路工事に従事していました。厳しい労働環境であったと
思いますが、終戦直後では「背に腹は代えられない」社会だったの
でしょう。
何を言いたいかというと、要は、生活保護受給者に限らず自立を
促すシステムがないと、人間は全て安易な方向に流れ社会は混乱す
る。それを防ぐことが大切だということで、そのためには、生活保
護制度に関しては、「働いた分を収入とみなして、その分の保護費
を削減する」現行のシステムを変えた方が良いのではないかと言い
たいのです。
まず、受給者に関する調査をして、働けない人と、働けるけれど
も就業の機会に恵まれない人を厳密に分ける。
働けない人については、生活保護費をどのくらいにすればよいか、
純粋に福祉の観点から決定する(今と同じ方式でしょう)。
働ける人については、仕事を斡旋(あっせん)し、稼いでもらう
(現在も、長野市と長野公共職業安定所との間で協定を締結し、受
給者の就労支援を行っています)。この場合、稼いだお金は行政が
預かり、その時点では収入と見なさない。そして努力の結果、生活
保護の対象から外れるとき、金利分や補助金なども加算して本人に
返還する制度はどうでしょうか(国でも、就労収入の一部を積み立
てる制度を検討しているようです)。
それには、働く場があることが大切です。ほとんどの人は公共職
業安定所などで仕事を探すのでしょうが、今なら農林業に従事する
ことが、中山間地域の活性化といった点からも有益ではないかと考
えています。農林業については、従事者不足、耕作放棄地の増加な
ど、厳しい状況にありますし、実際、農林業に従事すること、そし
て、そこから十分な収入を得ることは大変ですが、しかし、農林業
には、努力次第で無限の可能性を見出すことができると私は思って
います。
こうした制度によって、「働かなければ収入は減る。働けば収入
は増える」というインセンティブ(意欲刺激)が働く・・・すなわ
ち、「働き損」の現行制度から、より公平な制度になるのではない
でしょうか。
額に汗して働いた人たちが、夢と誇りを持って生きていけるよう
な・・・反面、傷病や障害があり、働けない人には必要な保障があ
る社会・・・これが理想です。
ここに来て、生活保護の基準額引き下げについて、国で具体的な
検討が行われています。これは、生活保護の支給水準が、低所得世
帯の生活費を上回る場合があり、さらに、昨年マスコミにも大きく
取り上げられた不正受給問題や、生活保護費の支給額が最低賃金額
から社会保険料などを差し引いた労働者の手取り金額よりも多いと
いった「逆転現象」の問題がその背景にあるようです。増え続ける
生活保護費の抑制にはつながりますが・・・。
セーフティーネットとしての機能を損なうことなく、生活保護受
給者の生活を守ることを前提に、自立の努力をする人が報われるよ
うにする、また不公平感を是正する観点からの議論が必要であると
感じています。
話はまったく変わりますが、皆さんに報告します。
一昨日、長野広域連合が計画している広域ごみ焼却施設の建設候
補地である大豆島地区住民自治協議会長から、5つの条件を付して
建設に対する「基本同意書」を頂きました。
大豆島地区には、1962(昭和37)年から半世紀近くもの長
きにわたり、焼却施設を受け入れていただいており、施設の老朽化
やごみ処理の広域化に対応するため、2005(平成17)年に新
たな焼却施設建設をお願いしたものです。以来7年間、地区の皆さ
んには建設計画について真剣にご検討いただき、地区住民の皆さん
のさまざまな声を聴かれた上で、このたび建設について同意のご判
断をいただきました。これまでの長年にわたるご労苦に、そして、
建設同意に対し心より感謝申し上げます。
長野市長として、そして、長野広域連合長として、今回の同意は
大変重いものであると受け止めており、あらためて大きな責任を感
じています。今後、安定的なごみ処理体制の構築と同意条件の確実
な実施に向け、引き続き地元の皆さんと協議を行いながら、
2018(平成30)年度の稼動を目指し、最大限の努力をいたし
ます。