2011年9月1日木曜日

住民投票条例の直接請求(その2)


 今回のかじとり通信では、前回に引き続き、市役所第一庁舎およ
び長野市民会館の建て替えと住民投票条例制定の直接請求について、
お話ししたいと思います。

 住民グループからの住民投票条例制定を求める直接請求に対して、
私は条例制定は不要であるとの意見書を付けて、議会に諮りました。
理由としては、大きく二つあります。

 一つ目としては、前回のかじとり通信でもお話ししたとおり、市
役所第一庁舎と長野市民会館の建て替えについては、既に3年もの
間議論を重ね、市民の皆さんに説明し、十分に意見をお聴きしまし
た。その上で市民代表である議会と協議し、方針を決定し、議会の
議決を経て進めてきました。しかし、こうした手順を踏んで積み上
げてきたにもかかわらず、さらに住民投票を行うということは、こ
れまでのプロセスや合意を全て無にすることになり、市民の皆さん
や議会を巻き込んで、市政が大混乱に陥ると考えたからです。

 二つ目としては、この事業は、単に賛成・反対の投票だけで決定
できるような一面的な問題ではないと考えるからです。賛成といっ
ても、また反対といっても、実はそれぞれにさまざまな考え方があ
るわけです。それ故、市民の皆さんの意見を十分お聴きし、世論の
動向(大震災・安全安心・文化芸術振興も含めて)をきちんと把握
し、市の将来的な財政負担や財政計画も十分検討した上で、進めて
きているのです。

 現在の地方自治制度では、議会の議員と首長とがそれぞれ選挙に
より選ばれる二元代表制が採られていますので、両者が対立すると
何事も一歩も前に進まなくなってしまいます。ですから、市民の皆
さんへの説明と対話により、市民の皆さんの声を十分に把握した上
で、議会と議論を尽くして決定していくのが、本来の地方自治の進
め方だと考えています。市役所第一庁舎と長野市民会館の建て替え
については、市も議会も、この手続きをしっかり進めてきたわけで、
その結果である議会の議決は大変重いものと考えています。

 今回の直接請求に関する私の意見書や市議会の議決に対して、
「住民投票は地方自治法で定められた制度で、それを否定するとは
何事か」というような論調がありましたが、これについては、若干
の誤解もあるようですので、私の考えと併せて申し上げたいと思い
ます。

 地方自治法で定められた制度は、有権者の2%以上の署名があれ
ば、条例の制定や改廃を直接請求できるという、住民から市政への
発案制度です。しかし、この制度自体には、「住民投票」という文
言はどこにも入っていません。住民投票はこれだけの署名があれば
実施できるという規定ではないのです。
 そして、直接請求に基づく条例の制定・改廃の適否を判断するの
は議会です。今回は、住民グループからの発案が住民投票条例の制
定であったわけで、それを議会が不要と判断したこと自体は、法の
制度に沿ったものです。

 私は、直接請求自体を否定しているわけではありません。ただ、
住民投票という地方自治制度にとって重く大きな発案が、有権者の
わずか2%の署名があればできるという点には疑問を感じています。
住民投票は、議会制民主主義という地方自治における意思決定方法
の例外に当たるわけですから、それなりの発案要件や成立要件など
を含めて、しっかりと議論されてしかるべきだと思うのです(この
考えは、前回のかじとり通信でも自治基本条例の話の中で申し上げ
ています。また、住民投票制度については、国と全国知事会や全国
市長会などの地方六団体で議論になっているようです)。
 既に議会が決定した事項でさえも、有権者の2%が直接請求すれ
ば、住民投票の議論をしなければならないというのは、制度的にも
少し無理があるのではないか、と感じています。

 それから、大震災による財源への懸念や、子どもたちの将来の財
政負担を心配される意見もお聴きしました。これについても、あら
ためて説明したいと思います。
 建て替えの一番大きな財源として合併特例債があります。合併特
例債は、市債(市の借金)ですが、市が元利償還する際に、国がそ
の7割を交付税で措置をしてくれる有利な借り入れです。

 合併特例債について、資金繰りの話をしますと、国からすぐお金
が入るわけではなく、当面は長野市が銀行などから借金して(市債
を発行して)建設を行います。第一庁舎や市民会館の建設の場合で
すと、主な返済は平成29~30年ごろから始まり、その時点で国
が手厚く支援してくれる、そんな仕組みなのです。
 従って、「そんな資金があったら被災地に回すべき」とのご意見
に対しては、手元に資金があるわけではないと申し上げなくてはな
りません。市債を発行して建設が進んで、その市債の返済時期にな
って、初めて国の支援が受けられるのです。
 また、国では、大震災の復興経費は通常予算とは別枠との見解を
示していますので、復興支援が地方財政に影響することも、市の事
業が復興の妨げになることもないと考えています。合併特例債につ
いても、国と地方の約束ですし、全国で500以上の自治体が現に
活用していますので、これを減額や廃止するという事態はあり得な
いと思っています。

 このように、合併特例債を活用することにより、市の実質負担は
小さくなります。また、市では建設基金を積み立ててありますので、
両施設建設の全体事業費119億円~134億円のうち、市の新た
な負担は3億5,000万円~10億円で済むと試算しています。
 合併特例債は、国の支援を得ながら、建設から大体10年間で返
し終わる予定です。市では、中期的な財政推計を行いながら、市全
体の事業を計画していますので、今後、大規模プロジェクト事業に
より、平成27年度ごろまでは一時的に予算規模と起債残高が増加
しますが、その後は、これまでの水準に落ち着いていく予定です。

 また、長野市は被災地に対し、精いっぱいの支援をしています。
今後も、被災地の要望に沿って支援を継続していくつもりですし、
他市と比べても支援内容に全く遜色はありません(これも前回のか
じとり通信に書きましたのでご覧ください)。
 被災地の支援も、第一庁舎と市民会館の建設も、もちろん通常の
事業も、財政的には十分対応できるのです。

 いずれにしても、市役所第一庁舎は、市の防災拠点として、市民
の安全・安心を守る中心的な役割を担うとともに、さまざまな市民
サービスを提供する、行政機能の拠点としての役割を担います。ま
た、長野市民会館は、市民が日常的に文化芸術に触れ、それに携わ
り、長野市の文化や市民の皆さんの力を発信する拠点となる施設で
す。
 いずれも、長野市の将来のまちづくりと元気づくりに向けて、欠
かせない施設の一つであり、将来を担う世代のためにも、必要で優
良な「投資」となることを確信しています。