9月市議会定例会(今年は9月に市議会議員選挙が行われるため、
8月に開催されました)に提出された市民グループの直接請求によ
る「市役所第一庁舎・長野市民会館の建て替えの是非を問う住民投
票条例」と議員提案による「第一庁舎・長野市民会館建設基本計画
に基づく建て替えに関する住民投票条例」の両議案は、活発な審議
の結果、否決されました。
今回の直接請求の背景としては、3月に発生した東日本大震災に
より、事業の実施に対して市民の皆さんの中に漠然とした不安が生
じているという面もあろうかと思います。
市としては、震災発生直後に消防局職員(延べ173人)、上下
水道局職員(延べ18人)、保健師(延べ18人)を被災地へ派遣
することはもとより、市民の皆さんからの義援金および救援物資を
受け入れて被災地に届けるとともに、被災した岩手、宮城、福島県
の各市長会、盛岡、郡山、いわき市の中核市、そして栄村に合計1
億円の見舞金を支出しました。現在も、罹災(りさい)証明書発行
事務などに伴う行政事務職員(延べ88人)を派遣したり、被災地
からは市営住宅などに70世帯227人を受け入れたりしていると
ともに、夏休み期間中には一時的な避難として保科温泉に延べ
1,694人、1日平均48人(8月23日現在)を受け入れまし
た。震災発生以来継続的にこのような支援を行っていますし、今後
もできる限りの支援を行っていくことは、言うまでもありません。
その一方で、本市の将来を見据えたとき、市役所第一庁舎および
長野市民会館の建て替えは、安全・安心で活力あるまちづくりの実
現に向けて、必要かつ重要な事業であると考えています。
市の防災拠点としての機能を持つ庁舎建設が必要であることはも
ちろんのこと、「育む」「楽しむ」「創る」「つなぐ」の4つの役
割を持つ新市民会館は、市の文化力をさらに発展・向上させ、地域
文化を創造・発信し、都市としてのレベルアップをも担う、市民の
皆さんにとって大切な文化芸術拠点になるものと確信しています。
また、財政計画も考慮しながら着実に事業を実施していくことが、
行政の責務であると考えています。
本件につきましては、既に3年もの間、議論してきた経過があり、
関係資料の全戸配布や説明会などで市民の皆さんに説明し、十分に
ご意見を伺ってきました。その上で、市民代表である議会と協議し、
方針を決定するというように、丁寧に手続きを重ね、議論を尽くし
て決定したものです。
その結果、議会では、本年1月の臨時会で現市民会館の廃止を出
席議員の3分の2以上の特別多数議決で決定し(条例で定める重要
な公の施設を廃止する際は議決のハードルが高いのです)、また、
3月の定例会では、大震災後の3月23日、新しい市民会館の基本
設計費や現市民会館の解体費などを盛り込んだ平成23年度予算を
議決していただき、建て替えの意思を明確にお示しいただきました。
今回の定例会でのご決定により、議論には一定の区切りが付いた
ものと考えていますので、今後も市民の皆さんに分かりやすく丁寧
に事業計画を説明するとともに、地方自治の二元代表制の一翼を担
う議会との協議を通じ、平成26年度の完成を目指して、事業を進
めていきたいと考えています。
当面は、現在進めている施設の設計者選定を進め、設計作業に着
手するとともに、今年度予算で認められた現市民会館の解体工事に
も取り掛かる予定です。
なお、投資不足、需要不足とも言われるわが国経済の中にあって、
老朽化した社会基盤の整備や維持補修などへの投資は、需要喚起、
雇用吸収などの点で有効な施策です。本市としても、健全な財政を
堅持しつつ、必要な社会資本への積極的な投資などを通じ、まち全
体の活性化も図っていきたいと考えています。
住民投票が議論された今議会でしたが、都市内分権を進めている
本市としては、真の市民参加によるまちづくりを進めていくために、
住民自治協議会の成熟状況などを十分に見極めながら、近い将来、
自治基本条例の制定と向き合う時期が来るものと考えています。
その際は、自治基本条例の目的から始まり、法的な位置付け、ま
ちづくりの主体とその権利や責務、情報の公開や共有、市民との協
働の手法や機会、さらには住民投票に関する規定を盛り込むか否か
など、二元代表制との調和も考えながら、多岐にわたる分野での検
討が必要になるだろうと感じています。
いずれにしても、この条例制定は、将来の市政の根幹に関わる極
めて重要な事項でありますので、市民・議会・行政、それぞれの立
場での議論を尽くし、その集大成として制定に至ることが、単なる
理念にとどまらず真に実効性のある条例としていく上で不可欠だと
思っています。また、今後の国・県、そして世論の動向も注視しな
がら、検討していく必要があると考えています。
市議会定例会の質疑の中で、住民投票を「恐れてはいけない」と
の意見がありました。
私は、「恐れてはいない」とお答えしました。なぜなら、議会の
議決に至るまでには、市も議会も市民全体の意向をお聴きし、それ
を十分にくみ取ってきたわけですし、その上で両者が協議を行い、
理解し合った上で、修正すべきものは修正しています。過去の議決
は全てこの過程を踏んでおり、今回は、より丁寧にこの手続きを重
ねてきたのです。
このように市役所第一庁舎及び長野市民会館の建て替えについて
は、本来の手法で進めてきた事案ですから、この段階で住民投票と
いう単に賛否だけを問う方法で決めるべき問題ではないということ
を、ご理解いただきたいと思うのです。
以上、今回のかじとり通信では、9月市議会定例会での閉会のあ
いさつで申し上げた内容を中心に述べさせていただきました。
次回のかじとり通信では、引き続きこのテーマで私の考えを述べ
たいと思います。