昨年の参議院議員選挙によって発生した衆議院と参議院のねじれ
現象は、衆議院(自民党)と参議院(民主党)が、話し合いによっ
て政策を決定していく条件が整ったということで、基本的には好ま
しい状況ができたのではないか・・・と私は考えていました。
ただ、現状は必ずしもそうではなく、党利党略と言っては申し訳
ありませんが、本質的な議論がされているとは思えないと私には感
じられます。
その中で、地方自治体が特に困っている問題は、租税特別措置法
などのいわゆる日切れ法案が3月末に期限が来て、失効になると、
ガソリン税等に掛かっていた暫定税率が廃止されるというものです。
結果としてガソリンの価格がリッター当たり25円程度安くなると
いうことです。
国民から見れば、税金が下がってガソリンの価格が安くなること
は歓迎でしょう。一方地方自治体にとっては、その税金が重要な財
源になっており、無くなったら困るというのが、本音です。しかも
地方団体は、暫定税率を前提とした譲与税を含む国から来る交付金
などを既に折り込んで、新年度予算案を組み、3月市議会定例会で
審議いただき、順調にいけば3月中には予算案は議決されるはずで
すから、今ごろになってそれは駄目ですと言われても、対応が難し
いのです。
仮定の話で恐縮ですが、もしそうなった場合、長野市にどんな影
響が出るか試算してみますと、直接的な金額だけで、現在組んでい
る予算の上では、年間15億円前後、歳入不足になりそうです。
その場合、どうするかですが・・・次の6月市議会で減額修正予
算を組むか(当然予定した仕事・サービスを止めることになります)、
あるいは借金をして収入不足の穴埋めをするか(借金ですからいず
れ返さなくてはなりません、想定外の借金は財政の悪化につながり
ます)、基金を取り崩すか・・・いずれにしろ困った話です。
この問題については、地方団体が困るというだけでなく、さまざ
まな意見があることは承知しています。
一つ目は暫定税率の“暫定”という言葉です。この方式は田中角
栄元首相のころから始まったようですが、本来暫定なら長くて「数
年間」というのが常識でしょう。私もそう思います。ただ自民党の
安定政権が続く中で、きちんとした議論もなされずに放置され、実
質的には、恒久的な税金として不思議に思われなかった、みんな当
てにしていたというのが、実態でしょう。
二つ目は、この税金の使い道は道路特定財源として、道路建設に
使うことを目的にしていることです。公共事業悪玉論のような話が
表面化し、「道路はもう要らない」、「無駄な道路建設反対」と言
った声が大きくなっています。そこで道路特定財源をやめて、福祉
や教育など何にでも使えるように「一般財源化せよ」という主張が
強くなっています。
この意見については、私も一部同意できる部分がありますが、
「道路は要らない」という声は、地方の実情を十分理解していない
意見だと思います。また、道路特定財源といっても、現実には解釈
によってかなり広範囲に使われているのが実態のようです。
現在、社会的な格差是正が叫ばれていますが、行政が一番是正す
べき格差は、「中央と地方の格差」であり、なかんずく道路整備が
重要であると私は思っています。毎年、市民会議などで出てくる話
題の中で一番多いのは、地域の生活道路であり、社会インフラが整
った地域からすれば、信じられないような話が出てきます。
少し前ですが、道路建設にも下水道整備と同じように終期設定を
したいと考え、現在のペースで道路整備をしていくとして、完了ま
でに何年かかるか概略の計算をしてみたのですが、市道だけで
100年以上かかることが分かりました。無駄な道路というものは
ありません。また、高速道路は、通っていない地域にとって悲願で
しょうし、これから治山事業に力を入れていこうとしているのに、
林道に接続する道路が無ければそれもできません。地方にとっては、
道路はまだまだ力を入れていく必要があるテーマなのです。
ガソリン税ということで、車関係の事業者も道路が良くなるから
高い税金を我慢している、一般財源化するなら少なくても暫定税率
だけでも廃止すべきだという意見もありますが、これは国全体の税
収をどこから頂くかという極めて政治的な問題であり、現にこれだ
けの車社会になっている以上、難しいのではないでしょうか。
三つ目は、地球環境を考えた場合、今税金を廃止して、ガソリン
を安くするのは時代に逆行するという意見です。この意見には、私
も賛成です。外国ではガソリン税を上げる方向の国があるとの話も
ありますし、なにより現在の車社会に少しブレーキをかけ、公共交
通機関を再生しよう、排気ガスを少しでも減らそうという地方の立
場からしても、ガソリン値下げは最善策ではあり得ません。少しで
も化石燃料を減らす方向は、重要なテーマであり、二酸化炭素削減
に向けて、大きな効果があるのではないでしょうか。
以上三つの意見に対し、私見を交えて述べさせていただきました
が、ではどうすればよいかですが、
(1)新年度予算および予算関連法案については、このまま政府予
算案を通す。
(2)そのあと、国会で十分議論して、道路特定財源にかかわらず、
一般財源化をどうするかについて結論を出し、平成21年度予算
に向けて実行できるようにする。
この2点を、ぜひ決めていただき、地方が安心できるようにして
いただきたい、心から願っています。
実はここまでは、3月以前に考えていたことをまとめたものです
が・・・2月末、自民党が衆議院で新年度予算案と予算関連法案を
強硬採決したことで、状況は少し変わってきたようです。
憲法の規定により、予算案は衆議院の議決から30日たつと自動
的に成立するということですから、3月末には予算成立ということ
です。それはそれで良いのですが、予算関連法案は、民主党など野
党が参議院で審議・議決しないときは、多分60日たたなければ、
成立しないということでしょう。暫定税率の継続も、1月末のドタ
バタの結果、衆参両院議長斡旋(あっせん)で、3月末までに一定
の結論を得るということになっているわけですが、民主党の主張で
は、自民党の強硬採決によって環境が変わったということで、宙に
浮いているような感じです。
地方自治体の立場から申し上げれば、予算案本体は成立する見込
みとなったわけですが、新年度の歳入不足という最悪の事態が回避
されたわけではないのです。国から地方への支出は予算化されても、
予算関連法案が成立しないと国の収入に穴が開くことになるわけで
すから・・・しかし、国も地方に対する責任もあると考えると、な
んらかの手はうってくるであろう・・・歳入に不足が生じないとな
ると、暫定税率継続で結束していた地方団体も意見がばらつく可能
性も出てくるような気がします。
加えて、暫定税率やその他関連法案が4月末にならないと成立し
ないとなると・・・複雑な状況になってきてしまいます。
問題は、暫定税率が1カ月だけ無くなるということで、その間だ
けガソリンの価格が下がるのでしょうか?小売価格に跳ね返るのは
いつなのでしょうか、石油元売り各社もどう対処するか、迷うでし
ょう。消費者も多分混乱するのではないでしょうか。