2013年10月24日木曜日

高山村と中部電力浜岡原子力発電所への訪問

 現在、10月20日告示で27日投開票の長野市長選挙が真っ最
中です。有権者の皆さん、長野市政に関心を持って、ぜひ投票して
ください。
 私は、3期12年間、市長を務めさせていただき、過日「次の市
長選には立候補しない」と宣言させていただきました。その後、5
人の方が出馬されました。私が初めて長野市長選に立候補した
2001(平成13)年10月の選挙も、私を含めて5人が立候補
したように記憶しています。それぞれの皆さんの健闘を祈っていま
す。
 少し前の話になりますが、私の任期満了まであと約1カ月という
10月8日に、どうしても自分の目で確かめたいことが2つありま
したので、日程を何とかやりくりして、視察に伺わせていただきま
した。
 まずは、上高井郡高山村の訪問です。村を挙げてソルガム(イネ
科の1年草の作物です)の栽培に取り組んでおられるということで、
以前から興味がありました。高山村は須坂市の東側、山手に広がる、
農業が盛んで観光資源(特に温泉は有名ですね)に恵まれた場所で
す。ソルガム栽培の実態を見たいとお願いしたら、お忙しい中にも
かかわらず、久保田勝士村長をはじめ担当の職員の方が村長室で事
業の概要を説明してくださり、その後、現地に案内していただきま
した。
 頂いたパンフレットによると、村で栽培しているのは「子実型
(実の収穫量が多い)」と「兼用型(実と葉、茎ともに収穫できる)」
に分類される3品種で、そのほかにソルゴー型、スーダン型、スー
ダングラス型など、何種類もあるそうです。背丈が2メートル前後
のものや1.5メートル以下のもの、実の収穫量が多いもの、2度
収穫が可能なもの、茎が太くて汁と糖分が多いものなど、いろいろ
あるようです。私たちが子どものころ、代用食で食べたコーリャン
も同じ系統のものだそうで、印象としては「ヘー」という感じでし
た。
 耕地30アール当たり約30万円の収入を想定していて、そのう
ち「実」の販売による収入が約8~9割を占め、残りは葉と茎によ
るものとのことでした。栽培には、村の畜産農家から出る牛ふんを
堆肥として使っているそうです。そして、大きな魅力は、やはり種
まきや草取りなどにあまり手がかからないということでしょう(以
前から長野市では薬草栽培をやろうと試みていますが・・・もうひ
とつ成果が上がっていないのが現状です)。
 「実」は、雑穀米、お菓子、みそ、麺として食品に加工され、葉
と茎は、キノコ培地やお茶に加工され、さらに使用済みのキノコ培
地は、牛ふんや生ごみと混合し、堆肥として利用されています。高
山村の取り組みは確かに素晴らしいものでした。調べてみましたら、
ソルガムは長野市内でも栽培されていました。
 私が注目したのは、(1)中山間地域の農業従事者が高齢化する
中、ソルガムであれば高齢者でも比較的楽に栽培できるのではない
か(2)荒廃農地はなかなか集約化できず、土地利用が制限されて
いるが、農地があまりまとまらなくても、ソルガムの栽培には問題
ないのではないか(3)栽培面積に対して収入が比較的高いのでは
ないか(4)水がいらない、農薬もいらないということで、荒地で
も栽培可能、という点です。
 さらに私が考えたのは、バイオマス(主にメタンガス)発電の原
料として有望ではないかということです。これなら全ての荒廃農地
でたくさん作っても、売り先に困ることはない。新しい中山間地域
の産業になるのではないか。ただしこの場合は、発電施設をどう造
るかが問題だろうと思いました。
 高山村にはソルガム活用推進協議会があり、その副会長を信州大
学工学部の天野良彦教授が務められています。天野先生は、信州大
学と地方自治体などが連携して中山間地域の活性化などの地域課題
解決に取り組む「信州大学地域戦略センター」の副センター長でも
いらっしゃるので、ぜひ専門的なお話をお聞きしたいとお願いした
ところ、わざわざ22日に同センター長の笹本正治同大学副学長、
同センターの林靖人准教授、中澤達夫特任教授とご一緒に市長室に
おいでいただき、ソルガムの栽培、利用方法、地域産業、さらに地
域における熱・電気エネルギーの活用や供給手段の確保と、夢のあ
るお話を聞かせていただきました。特にドイツでは、トウモロコシ
などを燃料とするバイオマスガス発電所がいくつも稼動していて
(ここまでは私も新聞記事で知っていました)、それも発電所1基
が2億円で建設できたケースもあると聞いて、これはいい!と大変
興味を引かれました。
 ちなみに、笹本先生は、「真田氏三代」という本を出版されてい
て、池波正太郎さんの「真田太平記」とは違う意味で、素晴らしい
記録を残された方です。
 大量にソルガムが作られたときのことを考えると、ぜひバイオマ
ス発電に取り組んだらどうか・・・。まあ、まだ夢の段階で、FS
(Feasibility Study:実行可能性検証)の検討
もしていませんが、地域分散型の発電所を造って、ソルガムを全て
買い上げ、発電して電力会社に電気を売る・・・自然エネルギーと
いう、自然に優しい事業で環境問題にも貢献でき、中山間地域の活
性化はもとより新しい産業モデルになる。そんな意気込みを持って、
これからもっと研究してみたいと思いました。
 高山村を視察したその日の夕方、中部電力浜岡原子力発電所(以
下、浜岡原発)の見学に出発しました。新潟県の東京電力柏崎刈羽
原子力発電所は、前職の会社の関係で知っていましたが、浜岡原発
は、今後発生が予測される東海・東南海・南海地震という3つの大
地震の真ん中にある原発ということで、当時の菅直人首相がとにか
く止めてしまった原発です。そうした経過があったこともあり、ぜ
ひ行ってみたいと思っていたところ、長野東ロータリークラブの皆
さんが職場例会で行くという話をお聞きし、忙しい視察日程ではあ
りましたが、公務をなんとか調整して、割り込ませていただきまし
た。
 長野新幹線から東海道新幹線こだまに乗り換えて掛川駅で下車。
随分遠くまで来たなあ・・・それにしても、「こだま」に乗ったの
は、最近の記憶では2回ぐらいでしょうか。かなり乗車する機会が
減りました(「こだま」には、今では珍しく喫煙車両が2両あり、
最近肩身の狭い思いをしている愛煙家への、JRのささやかな心配
りがとてもうれしかった・・・)。駅では、中部電力の稲垣透長野
支店長にわざわざお出迎えいただき、そこから原発のある御前崎市
のホテルまでタクシーで40分ぐらい移動し、夜9時ごろホテルに
到着しました。
 翌日、ホテルをバスで出発し、浜岡原発到着前に風力発電装置を
視察しました。原発のそばに11基の風力発電装置があり、大きな
風車が回っていて、羽根が風を切ってブーン、ブーンと結構大きな
低い音を出していました(住宅地の近くでは音が問題になるかもし
れません)。1基当たりの建設費は4~6億円で、秒速4~25メ
ートルの風力で発電し、秒速25メートルを超えると危険回避のた
め運転を止めるそうで、稼働率は年間で26.5パーセントとのこ
とでした。後で知った話ですが、風力発電装置1基の年間発電量を、
浜岡原発5号機ではたったの4時間30分で発電することができる
とのことで、自然エネルギーとして風力発電にも期待を寄せていた
私は、ちょっとがっかりしました。
 浜岡原発は、広大な敷地に、従業員数約3千人、1~5号機まで
計5つの原子炉があります。1号機は1976(昭和51)年、2
号機は1978(昭和53)年に運転を開始しましたが、2009
(平成21)年に耐震補強に多額の費用が掛かるという理由で運転
を終了し、現在廃炉作業を進めています。また、3、4、5号機は
現在定期検査中ということで発電していませんが、総電気出力は約
360万キロワットだそうです(ちなみに、先ほどの風力発電装置
11基の総電気出力は2万2,000キロワットですから、その差
は歴然です)。
 今年7月に政府の原子力規制委員会の決定による新規制基準が施
行されましたが、それ以前から中部電力は自主的に津波対策や炉心
の著しい損傷、使用済み燃料プールに貯蔵する燃料の著しい損傷な
どのシビアアクシデントに対応するための対策工事を進めてきたそ
うです。今回の新規制基準の施行に伴って、今後は新たな基準に照
らして安全対策を実施して、国の審査を受けるそうです。
 また地震対策のほか、竜巻対策、火災対策、注水機能強化、電源
機能強化などを行っていくとのことでした。中でも、放射性物質の
放出につながるようなこと、および影響緩和対策などには力を入れ
ているそうです。新規制基準の中には、意図的な航空機衝突(たぶ
んテロ対策でしょうが)などもあって、正直びっくりです。
 まあ、専門的なことは私もよく分かっていませんから、このぐら
いにしますが、二重、三重の安全対策どころか、六重、七重の対策
に取り組んでおられ、すごいことだなあと感じました。これが、私
の一番の感想です。
 規制委員会の新規制基準をクリアしないと3、4、5号機の運転
許可が出ないとのことです。運転再開に向け、多くの専門家が英知
を絞っていることですから、私のような素人は、その人たちの知識
と中部電力のノウハウ、そして国内外の意見、情報などを総合して
お聞きする以外、正直言って口をはさむ余地はないなあと感じまし
た。
 今回の視察とは違いますが、原子力発電が必要かどうかについて、
意見を言わせていただきます。
 少し前まで、二酸化炭素の増加が大問題と喧伝(けんでん)され
ていました。地球温暖化がいろいろな問題を引き起こしていること
は、事実でしょう。限界がある石油などの地下資源の大量消費も大
きな問題です。
 ドイツでは原発を全廃するとの話です。しかしドイツは、原発大
国フランスと地続きであり、原発でつくられた電気をフランスから
分けてもらえる環境にあります。日本は島国ですから、電気の輸入
は無理でしょう。
 自然エネルギーによる発電方法はいろいろあります。いろいろお
聞きしてみると、風力は上述のとおりですし、地熱発電、水力発電、
潮力発電、バイオマス発電のほか、まだまだありそうですが、いず
れも日本の電力を安定的に賄うには無理があるようです。一番古く
から実績がある水力発電も、条件の良い主な場所は開発され尽くし
ているとの話ですし、温暖化を気にしなければ、石油、石炭そして
天然ガスが安定したエネルギーとしては優れているということでし
ょう。
 結局、石油、石炭ぐらいしかないのが、現段階での日本のエネル
ギー事情ではないかと思います。エネルギーの無い社会は日本では
考えらません。原発反対は理念としては分かりますが・・・現段階
では全廃は無理と判断し、原発は必要という意見があることも理解
できます。いずれにしても、将来の持続可能な社会を目指したバラ
ンスのとれたエネルギー政策の構築に向けた議論は、まだ尽くされ
ていないことが一番の問題だと私は思います。
 自然エネルギー開発を一生懸命やって、そこで生まれるエネルギ
ー分だけ原発をやめる・・・というのが、せめてものことではない
でしょうか。
 現在、原子力発電の技術は、世界中で日本の技術が最高のようで
す。福島第一原発の事故を教訓にして、絶対に事故が起こらない、
そしてどんな小さなトラブルにも素早く対応し、終息できる技術力
を付けることが一番大切なことでしょう。