前回、前々回の2回のかじとり通信では、昨年からの市政運営を
検証し、3期目の任期の残り1年間でやらなくてはならないことを
項目ごとに整理してみました。そして、今後について概括的に考え
てみると、新幹線が金沢まで延伸し、善光寺御開帳も開催される
「2015(平成27)年」が長野市にとってエポック(新しく画
期的な年)となる予感がします。現在、それに合わせ、長野駅善光
寺口駅前広場整備事業、中央通り歩行者優先道路化事業に取り組ん
でおり、さらには市役所新第一庁舎・新長野市民会館もその年に
しゅん工する予定です。
冬季オリンピック開催以来の変革期を迎えて、長野市が大きく変
わろうと動き出している中、そのかじ取りを担う立場にあって、常
に留意すべきと考えている重大な課題があります。
一つは、何といっても少子化問題です。日本の構造的な問題であ
るが故に、大変深刻です。社会の営みは、全て循環で成り立ってい
ます。これは、経済にしても環境にしても、全てに共通する原則で、
持続可能な社会は、循環なくしては成り立ちません。この循環が
滞ったり途切れたりすると、社会は衰退や破綻に向かいます。少子
化は、こうした社会の循環にブレーキをかける根本的な原因になる
大きな問題です。
特に、少子化に伴う労働力人口の減少は、経済や国家・地方財政
の縮小につながり、社会も必然的に縮小せざるを得ません。今後も
出生率の上昇が見込めない中、労働力を確保するための対策として、
女性の社会進出促進や定年退職年齢引き上げ、高齢者の再雇用、外
国人労働者や移民の受け入れなどが考えられますが・・・。いずれ
にしても、これまで右肩上がりの経済を基調に構築してきたさまざ
まなシステムを見直さなければ、社会が成り立たなくなるのではな
いか。社会を将来にわたって持続可能な規模にまで、徐々に縮小し
ていかざるを得ないのではないかと心配です。
加えて、国の社会福祉政策について、地方自治体を悩ますテーマ
があります。
例えば、地方自治体が担っている社会保障給付サービスの中に、
子どもへの医療費給付があります。少子化対策・子育て支援の役割
も担うものとして、重要であることは事実ですが、地方自治体がそ
れぞれの判断により対象年齢の引き上げなど独自の施策を取り入れ
ています。こうした施策は、子育て家庭にとっては、経済的負担の
軽減につながりますが、これに伴う経費は地方自治体の負担になり
ます。社会保障給付サービスの上乗せは、地方自治体間での過度な
サービス競争や不均衡を生じさせる結果となっています。
誰が責任を持って取り組む施策なのか、国なのか、地方自治体な
のか、そして、国民を含めた負担割合をどのようにするのか、本来
確立されるべきことが確立されていない。国は、適正な基準、そし
て地方との役割分担を明確にすべきだと考えています。私は、この
ことやその不条理さについて、これまでに中核市サミットや総務大
臣との懇談会において主張してきました。そして、今年の中核市サ
ミットでは、分科会のテーマの一つとして大いに議論されました。
子どもへの医療費給付だけでなく社会保障給付サービス全般にい
えることですが、こうしたサービスの適正水準は、ナショナル・ミ
ニマムとして国がその責任において確保すべきであり、国の基準を
超える地方自治体の上乗せ給付は廃止すべきだというのが私の主張
です。早急に解決、是正しなければならない問題であると常日頃か
ら感じています。
一方、国の規制緩和も必要です。例えば、保育所や幼稚園、学校
について言えば、国が子ども1人当たりの面積基準を決めていたり、
先生の配置基準を決めていたり・・・、基準の枠に縛られずに、保
育や教育環境を改善したいと意欲を持って取り組もうという人は、
随分不合理に思われるのではないでしょうか。先日の田中真紀子文
部科学大臣の3大学不認可騒動は、独断的かつ唐突で、批判は当然
ですが、大臣の頭の中には、学生数の減少により経営が成り立たな
くなることへの心配や大学の設置・規制は官僚支配の最たるものと
いう考えがあったとすれば、一概に否定できないなあと感じていま
す(長野県短期大学の4年制化については、県内の大学収容力(*)
が全国最低水準であることや、4年制化に対する地元高校生や企業
のニーズが高いことから、別の問題と考えています)。
次の課題は、今後行政の重い足かせとなるであろう、既存インフ
ラについて膨らみ続ける維持管理費問題です。少子化は、行政活動
の規模、とりわけ公共施設の在り方についても影響を与え始めてい
ます。
以前、かじとり通信でもお話ししましたが、1960年代の高度
経済成長期に次々と建設された都市基盤となる大型建築物、道路、
橋、水道などのインフラが老朽化し、今後膨大な維持費、更新費用
が掛かってくることが予想されます。景気の低迷が続き、今後大き
な税収増が見込めない中、こうしたインフラの維持・更新費用の増
大に自治体はどう対処すべきか、とても深刻な問題です。また、新
たに公共施設を建設する場合は、国の補助メニューがあるのですが、
建設後の維持管理費に対しては国の補助メニューがないことも地方
自治体にとっては痛い話です。
そのため、現在、長野市の「公共施設白書」を作成しようと、全
部局長に指示をして、今ある公共施設の規模や建設年度、当時の建
設費用、耐用年数など全ての状況を洗い出す作業を始めています。
そして、それが出来上がった後は、「公共施設再配置計画」の作成
を検討することにしています。つまり、今後新たな施設を建設する
際には、それと競合、もしくは重複するような既存施設の統廃合を
義務付けるというものです。
その結果、行政サービスを縮小、あるいはやめざるを得ない事態
も十分考えられるわけで、そうなった場合は市民の皆さんからの激
しい反発は自明の理です。行政側も、問題を解決するためにはもの
すごいエネルギーが必要になるでしょう。しかし、人口が減少する
時代を迎え、避けては通れない問題であり、市民の皆さんのご理解
がなければ解決できない問題であると考えています。
持続可能な社会をつくるために、将来の維持費、建て替え費用な
どを検討する中で、「公共施設再配置計画」の作成が大切なのです。
このように申し上げると、前回のかじとり通信では、ハード分野
として10を超える大型事業を示しておきながら、今回の内容は矛
盾するではないかとお叱りを受けそうです。それはごもっともなの
ですが、やはり、社会が循環していくためには、新たなニーズに応
じたインフラも並行して整備していかなければならないことも事実
です。何事もバランスが大切ということでしょう。
全て廃止、縮小では、将来に何の夢も抱けません。まちづくりは
木や森を育てることと似ていると思っています。今ここにこんな木
がほしい、森がほしいと思っても、それを見越して、何十年も前に
種をまき、苗から少しずつ大きく育てていかなければ、その実現は
不可能でしょう。都市の文化や魅力は、じっくりと時間をかけてつ
くり上げていくものです。
今整備しようとしているハード事業は、そうした将来への布石に
もなるものだと思っています。常に夢を持ちながら、将来に投資し
ていくことも必要です。
3期目の任期残り1年を迎え、これからも、市民の皆さんと夢を
語り合いながら、市政のかじ取りをしていきたいと決意を新たにし
ています。
(*)県内の大学収容力:県内大学入学者数を県内18歳人口で
除したもの。長野県の大学収容力は15.1%(平成22年)で全
国平均50.9%の3分の1以下であり、全国最低の水準(46位)
である。(出典:長野県短期大学の将来構想に関する報告書 平成
23年7月)