2004年8月19日木曜日

浅川ダムに関する長野市の意見(その2)


 今週は、浅川の治水対策に当たり、長野市が懸念している事項や
関連事業への影響などについてご説明申し上げたいと思います。

1.現段階までに示されている県の代替案について

(1)従来計画のダムが持っていた目的や機能の一部を、上流域に
   存在する溜池に持たせることについては、その効果を否定す
   るものではありません。しかし、溜池管理者(浅河原土地改
   良区)やその水を利用する人々の了解が得られるのか。また、
   どれだけの治水(あるいは利水)機能が数値的に可能である
   か、住民には全く知らされていません。また、溜池の中には
   永禄年間築造・明暦年間築造などかなり古い堤体を持つもの
   があり、堤体破壊に起因する土石流発生等の過去の歴史から
   その安全性を心配している住民もいますので、県が安全を確
   認し発表することは浅川治水と切り離してでも必要であると
   思います。

(2)河道外遊水地(県による造語か)については、檀田や田子川
   合流点付近での建設案が示されていますが、地元の反対はも
   とより、特に檀田の場合、住宅地に近接して建設される案で
   は傾斜地ということもあって安全性に大きく問題があり、土
   地の高度な利用や農業など生産活動が可能な地域での設置は
   不可能だと、私は考えています。

(3)河道内遊水地で洪水調節を期待し河川をせき止める施設とし
   て、穴開きダムが発表されています。国内には白川水系立野
   ダム(建設中)など同様な事例が他にもあると聞いています
   が、ダムサイトに造られる施設では、従前のダム計画と比較
   し、治水効果やその大きさに対応した効果の差異、安全性等
   について住民に早急に説明をすべきであり、発表された約
   30mの高さは、実質ダムです。これを含めて過去にダム建
   設に賛成した、あるいは反対してきた住民に対し、県は説明
   をきちんと行いその責任を果たすべきであります。このこと
   は検討中だと前置きをしつつも提案した案が、単なるリップ
   サービスだったという批判を受けないためにも、河川管理者
   に課せられた責務のはずです。

(4)そのほか、水田を利用するとか緑のダムとかは、一定量まで
   の流出を抑制する機能しか認められず、住民や識者の失笑を
   買いました。さらに、河川改修案として既に浅川に架かって
   いる橋の幾つかを持ち上げて流下能力を高める、堤防のかさ
   上げをする、あるいは河床の掘り下げとそれに伴う護岸の補
   強などの案は、住民や流域自治体の猛反対を受け、すっかり
   影を潜めてしまいました。これは、県のダムに替わる治水方
   針の樹立がほとんど不可能に近く、非常に難しいということ
   を意味しています。

2.今後考えなくてはならないこと

 7月中旬の梅雨前線末期の活動による新潟県五十嵐川・刈谷田川・
能代川等の破堤による水害は、基本高水は絶対に下げられないとい
う教訓になりました。もしかすると、最近の異常気象を考えると、
もう少し治水安全度のレベルを上げなくてはいけないのではないか
と思わせるほどです。
 
 基本高水や治水安全度を下げることでしか攻め口を無くしてしま
っているダム反対派の人々に対しては、この現実をよく考えてもら
いたいと思っています。この被害をみて、既往最大で良いとの主張
は完全に根拠を失ったのではないでしょうか。
  
 浅川治水における基本高水毎秒450tの設定は、既に建設大臣
(当時)が認可した事項であり、国も引き下げに安易に同意をする
とは考えられませんが、私としても流域住民の安全性や土地の利用
状況、配置されている施設の状況や今後の経済発展等を考えると、
100年に1度の確率で採用された治水安全度は、特に死守すべき
条件だと考えています(基本高水流量の説明については、過去何回
かメルマガで触れさせていただきましたので、今回はあまり詳しく
申し上げることは、避けさせていただきます)。

 日本の国土の特徴として、川は急峻な山岳地から平野部に短距離
で流れ下るが故に、平野部における急激な増水や山間部における土
砂崩落・土石流等の危険が常に付きまとっているとのことです。土
砂の流出は場合によれば天井川にもなり、その結果、水害を被る危
険性はどこの河川にもあり得るわけで、そのバランスをとってきた
のがダムや砂防堰堤であります。理屈がきちんとしてダム建設を止
めるのなら結構ですが、既往最大の治水があればよいというのは、
その川沿いに住んでいない似非(えせ)評論家の意見です。

 海外ではダムは造らない、あるいはダムを壊しているという事例
を語る人もいますが、それらの意見は国土が持っている特徴の違い
を考慮しない短絡的な意見としか言いようがありません。

 もう一つ、浅川ダムは多目的ダムということで、長野市水道局が
水道水を確保するために、県と共同事業者となり、費用振り分け
(コストアロケーション)により分担金を既に支払っているという
問題があります。中止ならお金を返していただくことは当然でしょ
うが、それだけで済む問題ではないはずです。確かに長野市の水道
水は、現段階において足りていることは事実ですが、しかし将来を
考えると二つの点から、ぜひ欲しい水源です。一つは、干ばつや水
源の油混入事故など、もしもの場合、水源は沢山あるほうが危険性
の回避になります。もう一つは、水は高い所から低い所へは自然流
下が可能であり、浅川ダムからの取水は、コストがかからない水源
になる可能性があります。特に蚊里田浄水場への野尻湖水源が不安
定な現在、長野市としては確保したい水源です。

3.新幹線車両基地についての確認書の存在について

 平成5年4月26日、長沼地籍に新幹線車両基地を受け入れると
いうことについて、長野市長沼地区新幹線対策委員会、日本鉄道建
設公団北陸新幹線建設局(現、独立法人 鉄道建設・運輸施設整備
支援機構 鉄道建設本部 北陸新幹線建設局)、長野県長野新幹線
事務所(現、長野県北信新幹線事務所)、および長野市の4者で確
認書が取り交わされています。この確認書の合意事項には、地元要
望に対する回答が含まれており、浅川ダム関連についての県の回答
は、

(1)浅川ダムの完成は平成12年頃を目途としておりますが、当
   地域の諸状況を勘案し、早期完成に努めてまいります。

(2)浅川改修については、関係者等の協力を得ながら早期完成に
   努めてまいります。

(3)以上のことの他に問題が生じた場合には、誠意を持って円滑
   に解決するよう双方で協議をする。

 となっております。

 田中知事による「脱ダム宣言」以降、円滑に解決するための協議も
無く、一方的で、当時確認された事項が守られていないのが事実です。
このまま行けば、北陸新幹線は長野市分だけ完成しない状態となり、
飯山以北から北陸の住民の皆さんに大変なご迷惑をかけることになり
ます。長野新幹線建設当時、軽井沢で立ち木トラストという反対運動
(当時、田中知事もこの活動に参加していました)が行われましたが、
それとは本質的に違い、たぶん土地収用法も適用できない事態になる
可能性があると思います。

 また、千曲川左岸の堤防強化については、昨年から国と長野市が共
同で「桜づつみモデル事業」を始めました。さらに、浅川改修は従来
計画に基づいた事業で本年から県が再開することになりました。

 行政の長にとって、市民の生命と安全を守ることが最も大切な責務
であるとするなら、安全については無制限に強化をしたいと考えるの
は当然のことです。しかしそれでは経済的負担が大き過ぎますし、技
術的にも不可能と思われますので、一定のところで妥協せざるを得な
いのです。もし、可能な限りの手を尽くしたうえで災害が起きた場合
には、その復旧に全力をあげるのが、社会の仕組みでしょう。

 この4年間の長野県の動きは、行政の責任を放棄し、市民の安全度
を値切っていると言えるのではないでしょうか。

 脱ダム宣言も、約束した代替案の説明ができないとすれば、結果が
見えない理念だけを発信したことになり、著しい行政倫理の欠如と言
わざるを得ません。要は単なる脱ダム論者の意見の受け売りでしょう。
それに振り回されている私も含め、県民は迷惑千万のはずですが県民
の皆様はどの様にお考えでしょうか。