2月1日(火)、中山間地域のあり方について事例発表や意見交
換を行う「中山間地域市民会議」が開催されました。会議には、該
当地域の区長さんをはじめ地元住民の皆さん、そして中山間地域活
性化懇話会委員の皆さんや長野市の担当課、さらに、中山間地域の
活性化について長野市との共同研究に取り組んでいる早稲田大学の
後藤春彦研究室の皆さんが一堂に会しました。また今回から、合併
により新たに戸隠、鬼無里、大岡地区がメンバーに加わりました。
中山間地域は、都市部にはない自然環境に恵まれていますが、生
活条件や経済条件で不利な面を抱えており、人口の流出や高齢化の
進行による農業の担い手不足から耕作放棄地が増え、地域活力の衰
退が進んでいることは、皆さんご存知のとおりです。
長野市では、「地域資源を生かした地域づくり」「生活環境の整
備」「農林業の振興」を基本方針として掲げ、各地域で取り組まれ
ている具体的な事例の発表や後藤研究室との共同研究の報告を基に
意見交換を行う中山間地域市民会議を毎年開催し、中山間地域の活
性化に取り組んでおります。今回は、その報告をさせていただきま
す。
(1)浅川地区「21世紀の生活を考える会」の炭焼きを核とした
取り組み事例。
グループでボブスレー・リュージュパーク(スパイラル)
の近くに炭焼き窯を建設し、原木の集荷と材料の加工(薪割
り)そして炭焼きに取り組んでいる。浅川小学校の児童が体
験学習をしたり、荒れた山林の手入れをしたり、金儲けでは
なく、機能の低下した森林の大切さを訴え、地域コミュニテ
ィーの再生を願って活動しておられます。そして、白炭は売
れ行きが順調で、燃料用卸売り業者のルートができ、また、
市内のうなぎ屋さんの大口需要も獲得したとのこと。中国か
らの炭の輸入が減ったという幸運にも恵まれたようです。
(2)小田切地区の「あくなしワラビ苗」の普及活動の事例。
遊休農地を活用し、「高齢者でもできる手間の掛からない
山菜を」ということでワラビの普及を考え、ワラビの苗が高
いことに目をつけ、遊休農地で栽培してみたら非常によく生
育した。今後は大量に栽培して地区内の希望者に安く分けて
普及を図る考え。製品は農協の女性部が販売するとのこと。
その他、森林を整備して自然のキノコを栽培・供給して都市
部と交流を図っていきたいという意欲的な計画でした。
(3)若穂地区では、「地域を元気にしたい」ということで、「実
験農場」設置の取り組み事例。
遊休農地活性化委員会が「ふれあい実験農場」を設置し、
普及したい作物を順次作付けしている。また、清水寺を中心
としたボタンの復活にも取り組んでいるほか、温泉地(永保
荘)でのマレットゴルフ場や里山を活用したトレッキングコ
ースを検討しているとのことでした。
(4)七二会地区「春日山農村公園」の取り組み事例。
北アルプスの素晴らしい眺望を取り戻そうと、雑木林等の
伐採を行い、また、遊休化した桑畑の抜根、整地、造成を行
って公園化し、梅や山ぶどうの栽培にも取り組んでいます。
(5)鬼無里地区の「酒米」生産の取り組み事例。
地元の13名が酒造好適米「ひとごこち」を栽培し、酒造
会社と提携して、鬼無里の地酒「水芭蕉」を発売。地区内へ
の波及効果もあり、古代米を使った日本酒や地元産のそばを
原料にした焼酎の生産・販売も始まり、今後さらに栽培面積
を拡大していきたいとのことでした。
(6)芋井地区の農業未経験者による遊休水田を活用した「水稲栽
培事業」の取り組み事例。
農業経験のない3人が休日などを利用して、農林地の荒廃
による多面的機能の崩壊や食糧自給率の低下を憂い、稲作農
業に挑戦したという事例です。中山間地域の活性化を図るた
めには、新しく地域に入ってくる住民の方に、どのようなこ
とを提供できるかが重要になるなど、いろいろな提言をして
くださいました。
(7)各地域における取り組み事例の発表に引き続き、早稲田大学
の後藤春彦教授、そして学生さんも全国各地の事例を分析し、
長野の実情に照らしてどうすれば良いか、遊休農地や空き家
の活用事例などを具体的なモデルを示しながら一生懸命に話
してくださいました。
これらの発表をお聴きして、皆さんの努力には頭が下がるものの、
中山間地域の活性化というのは大変難しい問題で、現在の行政施策
が充分機能しているとは言い難いとつくづく感じました。国に文句
を言うわけではありませんが、日本中どこにも決定打と言える政策
が無いというのが、現実ではないでしょうか。
事例発表が行われた後、早稲田大学の後藤教授からお話がありま
した。概要は次のようなものでした。
(1)山に住む人を「人(にんべん)」に「山」と書いて「仙人」
といい、里に住む人は「人」に「谷」と書いて「俗人」と呼
ぶ、という前置きがあり、この調査を始めた頃は、地域にお
伺いしてもなかなかお話をお聞きできず、正直言って居心地
が悪かった。でも、何度か地域にお伺いしているうちに、今
は大変に居心地が良いものとなっている。
(2)中山間地には「役に立つ過去」と「懐かしい未来がある」。
2005年をピークとして、今後、総人口が減少していく社
会の中で、20年後の日本には20年前の日本の姿があり、
将来を研究していく上で、都市部に比べ開発が遅れ、人口が
減少しつつある今の中山間地域を見つめ直すことは、非常に
大切になってくる。すなわち、「過去の中に未来のヒントが
ある」。
というものでした。
最後のまとめの中で、私は次のように申し上げました。
(1)毎回実施している事例発表会ですが、確実に各地域の取り組
み事例は増えており、中山間地域を何とか活性化しようとい
う意識は高まってきていると感じる。
(2)ボランティアの方々が手助けしてくれるのは、本当にありが
たいことですが、行政の目標は定住人口を増やすことにある。
そのためにはまず交流人口を増やす必要があり、その後、ど
のように工夫したら定住者が増えることに資するかどうか・・・
ここが難しいところと感じました。少なくとも地域の特産を
生かした産業を興し、商品に地域のブランドとしての付加価
値を付け、安売りすることなく商品を提供していくべきであ
る。FS(*フィジビリティー・スタディー)をきちんと行
い、決算をきちんと行い、記録をとって、どうやればもっと
稼げて、多くの人に参加してもらえるか、工夫する必要があ
ると感じました。
(3)芋井地区の発表で感じたことですが、従来から住んでいる方
と新しくその地域に住み始めた方たちとのコミュニケーショ
ンは、なかなか難しいものがある。今回の発表はうまくいっ
た事例として貴重だと思う。そして、何事につけてもコーデ
ィネーターの存在の大切さを痛感しました。
以上、中山間地域の活性化を考える市民会議に出席させていただ
いた感想です。中山間地域が拡大した新長野市、いろいろなご意見、
ご提案をお聴きする中で、皆さんとの協働により、何とか活性化し
ていきたいと考えています。
*フィジビリティー・スタディー(feasibility study)
企業化調査。採算可能性調査。 新規分野に参入しようとするとき、
それが採算に合うかどうかを知るときに行う調査。