いじめ、不登校、自殺、そして殺人まで、・・・現在の教育が混
乱していることを何とかしなくてはいけないということで、政府の
教育再生会議が、第一次報告書を安倍首相に提出しました。中身は
幅の広い教育の分野のうち、義務教育を中心に、ゆとり教育の見直
しなど「7つの提言」と今年度中の体罰の基準の見直しなどを求め
た「4つの緊急対応」で構成されています。
「7つの提言」
(1)授業時間を10%増加するなど、「「ゆとり教育」を見直し、
学力を向上する」
(2)いじめを繰り返す子供に出席停止処置など、「学校を再生し、
安心して学べる規律ある教室にする」
(3)高校での奉仕活動必修化など、「すべての子供に規範を教え、
社会人としての基本を徹底する」
(4)不適格教員を教壇に立たせないなど、「あらゆる手だてを総
動員し、魅力的で尊敬できる先生を育てる」
(5)第三者機関による学校の外部評価導入など、「保護者や地域
の信頼に真に応える学校にする」
(6)国、教育委員会、学校の役割分担明確化など、「教育委員会
の在り方そのものを抜本的に問い直す」
(7)家庭、地域、企業で子供の教育にあたるなど、「「社会総が
かり」で子供の教育にあたる」
「4つの緊急対応」
(1)暴力など反社会的行動をとる子供に対する毅然たる指導のた
めの法令等で出来ることの断行と、通知等の見直し(いじめ問題
対応)
(2)教育職員免許法の改正(教員免許更新制導入)
(3)地方教育行政法の改正(教育委員会制度の抜本改革)
(4)学校教育法の改正(学習指導要領の改訂及び学校の責任体制
の確立のため)
首相は、第一次報告の実現に向けて全力を挙げることを明言、そ
の上で緊急対応のうち、(2)(3)(4)の三法案の通常国会提
出を文部科学大臣に指示したとのことです。
この報告は、既に成立した教育基本法のもとで、教育三法を見直
すために、安倍首相が最も力を入れている項目と聞いています。ま
だ報告段階で、これから提言が整理され法案となって国会に提出さ
れる、その前段階で、メディアを含む各界から意見や考えなどが述
べられています。1月25日に出された新聞各紙の見出しから気が
付いたものを拾ってみました・・・
(信濃毎日新聞)
「教員免許を国家試験化・・・ゆとり教育転換」 「「神話」まで
登場 復古調」 「首相の意向なぞる」 「古典や武道通じ徳目や
礼儀作法 正月・盆・彼岸に家族の価値考える」 「さながら修身」
「「ゆとり」見直し、授業不十分だった」 「いじめ出席停止、公
正判断できるか」 「不適格教員排除、現行評価にも疑問」
(読売新聞)
「荒れる子厳罰 先生苦渋」 「対抗手段心強い 居場所なくす」
「脱ゆとり教育 提言」 「首相、3法案提出指示」 「官邸リー
ド 文科省慎重」 「文科相「中教審に諮る」実現へ課題も」
「体罰基準見直し」 「次は骨太の議論期待」 「「社説」国民的
議論のたたき台ができた」
(朝日新聞)
「教育再生 見切り発車」 「教委改革詰め切れず」 「授業10
%増「現場を無視」」「法案作り時間不足」
(中日新聞)
「教員免許に更新制導入」 「「ゆとり」見直し」
(毎日新聞)
「「社説」せいては百年の大計を誤る」
(産経新聞)
「授業1割増など盛る」 「ゆとり見直し評価も 「教科書改善
を」「現場見て」」
(日本経済新聞)
「教育再生、難題抱え始動」 「「ゆとり」転換前面に」
「「授業時間10%増」学校先取りも」 「「免許更新制」講習
の修了厳しく」 「「体罰や出席停止」現場の理解必要」 「「復
古色」濃く、神話や道徳充実」
以上、すべてを網羅しているわけではありませんし、見出しと記
事の内容は必ずしも同じとは思いませんが、おおむねメディアの論
調はお分かりいただけると思います。メディアの記事が、批判的・
野党的論評がベースになることは分かりますが、一つくらい「素晴
らしい答申だ」という意味の論評があってもよいと感じてはいます。
また、各政党の意見も出ていますが、ここではあえて紹介しません。
まあ、皆さんのお考え通りだと思います。
なぜこんなことをご紹介したかといいますと、私は教育に関して
は10人いれば10の意見がある、全国民が評論家になれると思っ
ています。従ってどんな案に対してもすべての人の同意はあり得な
いと思っています。
教育関係の会議で私はいつも申し上げています。10年前あるい
は20年前と現在を比べて教育は良くなっていますか?逼塞(ひっ
そく)感があるとすれば、そして良くなったと言えなければ変えま
しょう。理念はもうみんな分かっているのです、必要なのは具体論
です。現状を変える勇気が必要だと思っています。
えています。
2007年2月22日木曜日
教育再生会議の第一次報告
2007年2月15日木曜日
浅川治水問題が解決に向けて、一歩前進しました
平成12年10月、田中知事が誕生し、11月に突然、浅川ダム
本体工事の一時中止が表明され、すでに本体工事を発注して平成
18年度末の完成を目指し着工していた浅川ダムの建設が止まって
しまいました。翌平成13年2月には「脱ダム宣言」が発せられ、
以来6年の歳月が流れました(その間県内8カ所のダム計画もすべ
て中止になり、田中前知事の目玉政策になっていました)。
代替案はあると称して出直し知事選(平成14年8月)を圧勝し
た田中前知事は、4年たってもきちんとした代替案を示さないまま
昨年8月退任し、村井知事が誕生して半年が経過しました。
その間、村井知事は、議会や記者会見で「基本高水流量450ト
ン/秒、治水安全度百分の一は堅持する。ダムを含めたすべての選
択肢を検討する。現地を視察し、多くの皆さんの意見をお聞きする。
土木工学・河川工学の最高の知見を結集する。できるだけ早い時期
に結論を出す。」と言い続けておられました。実に慎重でした。
長野市とすれば、直接の被害を受ける流域市民の安全の問題です
から、安全を値切ることは絶対にできないという立場で、村井知事
の主張しておられることに満腔(まんこう)の敬意を表し、その決
断をかたずをのんで待っていました。
平成19年2月8日(木)午前11時、村井知事が臨時記者会見
を開き、浅川河川整備計画について、大略次のように決断したこと
が発表されました。その内容を示しますと浅川治水について“減災”
は、県知事としての責務であるとした上で、
(1)外水対策は、治水専用ダム(いわゆる穴あきダム)と河川改
修(従来計画)で、治水安全度百分の一、基本高水450トン/
秒で行う。このことについて、県は昨年11月から国土交通省関
東地方整備局をはじめ、国土技術政策総合研究所、独立行政法人
土木研究所からの助言をいただく中で検討を重ね、この結論に至
ったとのこと。
(2)内水対策は「昭和58年9月と同規模の洪水に対して、床上
浸水被害を防止する」ことを目標として、当面、浅川排水機場の
増強を河川整備計画に位置付け、実施するとして、遊水地、二線
堤については引き続き検討・協議を続ける。
(3)その他、流域対策の一環として、治水対策が完了するまでの
暫定的な治水安全度の向上策として、当面20年間をめどに、大
池・猫又池のため池容量の一部を県が借用し、流出抑制を行って
いく。
市の担当も県河川課と再三打ち合わせを重ねてきており、私とし
ても技術的・経済的な面からも最善の手法による計画であると考え
ています。
村井知事の記者会見の後、長野市でも各メディアから取材の申し
入れを受けましたので、合同取材の場を設け、県の計画発表につい
て、長野市長として心から感謝し、敬意を表しました。
2月9日(金)、腰原副知事が浅川総合治水連絡協議会に出席し
て、県の治水案を説明し、協議会からは満場一致で了承を得ました。
2月11日(日)、村井知事が長沼地区北陸新幹線対策委員会に
出席し、県の今までの対応と姿勢のおわび、地区対策委員会の今ま
での善意の対応へのお礼、浅川治水対策案の説明と、浅川治水対策
だけではない要望事項の協議を今後も誠意をもって行うことを確約
し、善意の基に用地交渉に入らせていただきたいとの要請をされま
した。私(長野市長)も同席し、地区対策委員会の今までの善意と
努力に感謝しながら、私からも、用地交渉に入れる環境を整えてい
ただきたいとお願いしました。
長沼地区北陸新幹線対策委員会の深瀬委員長さんからは、概略次
のような意見が表明されました。
(1)過去、新幹線用地問題が進まなかったのは、長沼地区が原因
ではなく、有効な代替治水案を示さなかった県の責任であること
を確認してほしい。
(2)説明された治水対策は、高く評価するが、流域住民皆さんの
了解の下に対応されるべきである。長沼地区については、浅川河
川整備計画と車両基地周辺の内水対策を総合的に検案して、水害
等の被害を受けない生活を一日も早く実現してほしい。
(3)新幹線建設に至る協議は浅川治水問題がすべてではないので、
他の要望事項を含めて誠意をもって対応し履行してほしい。
(4)用地交渉に入る環境整備については、ここで即答はできない
が、今後皆さんと相談して前向きに検討する。
終了後、記者に囲まれた村井知事は、地区対策委員会の皆さんに
も説明しておりましたが、「穴あきダム」本体について、「おおむ
ね10年以内での完成が目標」とし、2010(平成22)年8月
末までの任期中に着工する考えを明らかにされたとのことで、地区
対策委員会の方々には、ぜひ村井知事を信頼してほしいと考えてい
ます。
以上が、村井知事が就任されて以降、特に2月8日の県の対策案
発表後の一連の動きです。
何度もこのメルマガで論じてきたテーマですから、少し「くどい」
と言われそうですが、浅川治水問題が一つの解決に向かったこの段
階で、私なりに総括してみたいと思います。
(1)「脱ダム宣言」は、県庁内の議論なし、国との交渉もなし、
田中前知事の独断だった。こういうテーマの場合、普通は選挙前
に打ち上げ、当選後、庁内組織を固めて意見統一をはかってから、
打ち出さなくてはまず実行は難しいし、県民合意は得にくいので
はないでしょうか。
(2)「治水・利水ダム等検討委員会」が設置されたが、委員の人
選は知事が行い、ダム反対意見の持ち主が主体だった。そしてそ
の委員会の結論は、意見の一致を見ることなく、多数を優先し
「ダム無し」が決められた。知事はその案を採用した。
(3)宣言後、「治水・利水ダム等検討委員会」の席上、ダム反対
派は「代替案」を提示する(結局はできなかった)と称したが、
県は「代替案」を出す立場にはないと拒否、結局最後まで、代替
案はできなかった。田中前知事も、不信任後の知事選において、
「代替案はある」と称して圧勝したが、4年間、流域住民の合意
できるような治水対策案は何も出せなかった。ダム反対派が代替
案を出せなかったのは仕方ないとして、浅川治水に責任がある県
が「検討委員会」に対し「(当時の県は)代替案を出す立場にな
い」と主張したことは、責任放棄であり、今日までの混乱の原因
であると考えられる。
(4)浅川は一級河川ではあるが、同じ一級河川の千曲川や犀川と
は違い、国から県に管理を委託されている河川である。すなわち、
国と十分な意見交換をし、国の認可を得なければ、補助金等が交
付されないので、県の単独資金でやらなくてはならないため不可
能だったのでしょう(脱ダム宣言後、長野市議会で、県がやらな
いなら、市でやったらどうかと言う意見を頂いたこともあります
が、これも国の認可は得られないでしょう)。
(5)田中前知事の6年間、途中、「緑のダム」、「ため池利用」、
「田んぼ利用」そして「穴あきダム」、「導水路案」、「遊水地」
、「二線提」などの提案(多分県が依頼したコンサルタントの意
見だと思います)が出されました。ただいずれも、既に学術会議
でダムの代わりにはなりえないと結論付けされているものもあり、
技術的に実施可能でも経済性等において優位性が確認できない、
また流域住民の理解を得ることが困難であるなどの理由で、整合
性のある案にはならず、国の了解を得られなかったようで、いつ
の間にかうやむやになってしまいました。
(6)そのなかで「穴あきダム」については、長野市の庁内でも検
討の価値ありと考えられており、先例などを調査していたのです
が、ダム反対派から「結局ダムだ!反対!」と言われ、田中前知
事は引っ込めてしまいました。今思えば、田中前知事としては惜
しかった(結果として)でしょうね(穴あきダムとなれば、長野
市として利水のことは、あきらめざるを得ないかなと、覚悟はし
ていました)。
(7)そして村井知事の誕生、大部分の住民が納得しそうな、そし
て国の認可をほぼ得られそうな案が発表されました。
以上、私なりの総括です。6年間を長いとみるか、短いとみるか
ですが、先日の記者会見でもその思いを聞かれました。私は「失わ
れた6年間という思いもある。でも、地域の皆さんにご心配をかけ
たという点では申し訳ないが、いろいろな意見が出て、市民の皆さ
んにも分かりやすい議論ができて“意義があった”と思いたい」と
申し上げました。
まだ、すべてが解決したわけではありませんが、今までの閉塞
(へいそく)感が打ち破られたことは事実です。この上は一日も早
く、浅川治水問題が解決され、新幹線が北へ延伸することを願って
います。
2007年2月8日木曜日
入札最低制限価格について
1月18日に開催された長野市建設業協会の新年会にご招待いた
だきあいさつをさせていただきました。その際の私の入札差金に関
する発言に対し、反発の声が続出したという記事が、業界紙のコラ
ム欄に載っていました。
記事を読む限りでは、反発の内容は詳しくは分かりませんが、私
の発言内容の真意が必ずしも理解されていないと感じる部分もあり
ますので、書かせていただきます。
財政が厳しいことは、いずれの自治体も似たり寄ったりであると
思いますが、長野市でも平成18年度の予算を組む段階では、
約40億円の基金を取り崩して組まざるを得ませんでした。ただし、
基金にも限度がありますから、このような状況を長く続けることは
できません。従って予算執行段階においては、市の全部局に対し、
なるべく節約するように、要請しているところであり、今年の場合
はそんな努力もあり、取り崩し額は何とか20億円以下に圧縮でき
そうだということです。
そこまで圧縮できた理由ですが、国・県からの補助金・交付税な
どが予算編成段階より増えたり、企業収益が上がって税金が多少は
増えたり、不要になった予算もでたり・・・そんな中の一つの要素
に入札差金があるということは事実であります。私とすれば、建設
業界の皆さんはまちづくりに貢献されていますし、結果として長野
市の財政にも貢献していただいているということを、申し上げたつ
もりです。
もうひとつ、最低制限価格について、長野市は現在設計価格のお
よそ75%程度となっているのですが、85%にしてほしいと業界
の皆さんから陳情を頂いていることも話し、それは「難しい問題だ
と思うが・・・ただ数字を変えれば良いという問題ではないと思う」
と申し上げました。それは市長の独断で申し上げることでは無いと
思ったからです。
いずれにしろ、この問題は、実情を明らかにすることで、長野市
の財政の実態と業界の努力を広く知っていただくことが良いと思い、
お話したことです。
当日の話とは別に、この問題はいくつかの問題を含んでいると思
います。
(1)公共における入札制度については、建設土木業界の問題だけ
でなく、物品購入、ITソフト購入など、いろいろな業界に関係
がある話です。
(2)入札方法については、日本中が悩んでいる問題で、今のとこ
ろこれで良いという決定打はないと思っています。
(3)最近問題になっている知事の汚職・辞任、価格漏洩(ろうえ
い)事件、選挙に絡む金の問題・・・これらは全て同根の問題で
あり、人間社会において、昔から何度言われてもなくならない、
繰り返し起こる悲しい出来事ですね・・・。
(4)現段階、私のできることは、「正直に」「明らかに」するこ
とであろうと思っています。そして難しいのですが、最良の方策
を求めて努力することだと思っています。
「正直に」「明らかに」ということで、内部の話までしてしまっ
て反発を頂いたとすれば、私の不徳の致す所と思うよりほかにあ
りません。業界のことを思って話したつもりだったのですが仕方
ありません。
(5)市としては公共事業の積算基準となる基礎資料については、
国・県の基準によって行うしかないのが実情です。
(6)入札制度の最良の方策については、簡単ではありませんので、
いずれ稿を改めて、きっちり議論したいと思っていますが、先日
当選された宮崎県の東国原(そのまんま東)知事が記者会見で電
子入札について言及しておられました。また、指名競争入札をや
めて、全て一般競争入札にせよ、という意見もかなり説得力を得
てきているように思います。
私も先日の発言の最後に、全て(金額制限はつけるとしても)企
画・設計も含めた提案コンペ方式にしたらどうか・・・ということ
を私見として申し上げています。いずれにしろ長野市の入札制度研
究委員会などで十分検討していくべきテーマだと思っています。
2007年2月1日木曜日
日本経済と地方経済
日本の経済は上向いており、税収は上がっているという報道が多
くなっています。確かにマクロ経済でみると、間違いなく企業の利
益が上がっており、それに伴って税収も上がっているようです。
このことは大変うれしいことです。失われた10年といわれたあ
の平成大不況、不良債権の山だった日本経済・・・金融不安で日本
が全く元気を失っていた1990年代、株価が下がり、地価が下が
り、底なしのデフレ現象をみせていた時期、「改革なくして成長な
し」として、しゃにむに不良債権を整理し、郵政民営化を中心に、
「地方でできることは地方に」「民間でできることは民間に」を掲
げて、一応最悪期を脱したことは、少なくとも小泉前首相の政策が
正しかったと言えるかもしれません。従来のやり方では多分もっと
時間が掛かったと思いますから、小泉-竹中ラインの経済政策は、
的を射ていたのだと思います。
ただ問題が無いわけではありません。日本社会にいくつかのひず
みを生み出してしまっていると私は思います。
(1)マクロ経済の好調が、地方に及んできていない。地方は今ま
で公共事業頼りだったからいけないと言われればその通りでしょ
うが、それは過去の日本経済の運営形態だったのでしょう。急に
は変われないのです。結局経済の構造が変わってしまったが故に、
地方経済は疲弊し、地方企業は元気を失い、自治体も税収は伸び
ないし、三位一体の改革に伴い地方交付税も減ってしまい、全体
的に収入が落ちてしまった。地方経済はシュリンク(縮小)せざ
るを得ない、大都市との格差は確実に開きつつある・・・そんな
思いがしています。
(2)民間活力の導入が絶対に必要ということは、小泉前首相の登
場前から言われていました。小泉さんはそれを劇的に取り入れた
のだと思います。コスト削減、より良い市民サービスを求めて、
私も積極的に取り組んでいますが、一直線に進めることは難しく、
色々な試行錯誤があってもよいのではないかと思うようになって
います。郵政民営化などをみると、その後にどんな社会が生まれ
てくるかが見えていないのではないでしょうか。すなわちJR、
NTTの成功と同じ結果になるか(JRやNTTにしても、すべ
てが良かったとはいえませんが・・・)、まだ見えていません。
これもいわゆる格差拡大の一つの要因となるかもしれません。
(3)人材派遣法などの労働法の改正の影響もあるとは思いますが、
企業は正規社員を減らし、パートタイマーや嘱託職員を増やして
います。パートと正社員の待遇の差は歴然ですから、利益を上げ
ることが至上命題の企業にとって、ある意味当然の行動です。し
かしその結果、格差が広がってしまったことは事実であり、一時
的には仕方なかったと思いますが、それに対する対策ができてい
なかったのではないでしょうか。
実は企業だけでなく、地方公共団体もこの問題については責任が
あります。行政コストを削減し、小さな政府をつくるべきという
世論の後押しもあって、長野市も現在、正規職員数の削減に取り
組んでいますが、市民サービスのレベルを低下させられないが故
に、嘱託・臨時職員も相当多くいるのが実情です。
一つの政策に徹することは、ある時期必要であるとは思いますが、
そのことに徹した場合、その陰の部分が出ることは当然だと思いま
す。何度も引用させていただいていますが、もう一度あの文章を思
い出してみましょう。
『どんな論理であれ、論理的に正しいからといってそれを徹底し
ていくと、人間社会はほぼ必然的に破綻(はたん)に至ります。言
うまでもなく、論理は重要です。しかし、論理だけではダメなので
す。どの論理が正しくて、どの論理が間違っているかということで
もありません。これは日常用いられるすべての論理に共通した性質
です。』
私が以前感激してご紹介した藤原正彦著「国家の品格」の一節です。
民営化は正しい選択だったと思いますが、その陰の部分をきちん
と把握して、どんな分野を民営化すべきか、その手法はどうすべき
か、そして民営化後の社会の在り方は、さらにどこまで徹すべきか
・・・もう少し説明責任があってもよかったと思います。
国レベルの民営化として成功した例といえるのは、JRとNTT
でしょうが・・・郵政もその仲間に入れるかどうか・・・私も郵政
民営化に賛成の立場ですので、これからが正念場だと思っています。
気になることがあります。
政府与党が企業減税を決めたことです。理由は企業の国際競争力
を高めるためということだそうです。私も経済界の出身ですから、
企業減税はうれしいのですが、どうも優先順位が違っているような
気がしてなりません。
中小企業は現在あまり利益が上がっていない、すなわち法人税を
あまり払っていませんから、減税のメリットは極めて少なく、利益
を上げている大企業に利することになるのでしょう・・・大企業は
現在利益が上がっている、すなわち競争力はかなりあると思うので
す。今、日本の優先順位は、もし余裕があるなら財政再建です。減
税よりむしろ借金の返済をする方が、先決ではないでしょうか?
もう一つ気になること、それは知事などの地方首長の選挙で、一
部の政党が相乗り禁止を打ち出したこと。政党の勢力拡大に向けて
の一つの論理なのでしょうが、地方自治体レベルでは迷惑な話です。
国家レベルの話は大いに論争していただく、地方は是々非々で考
える・・・それでよいのではないでしょうか。地方自治体の経営は、
地方自治の時代といわれても、財政を考えると所与の条件の中で最
大限の政策効果を上げることが大切なのです。わざわざ地方をギス
ギスさせる原因を作る必要はありません。議会の場合は複数の議員
を選挙することから、各党派が候補者を立てますが、一人を選挙す
る首長選挙の場合は違います。なるべく地域住民の総意で施政を行
えれば一番良いことだと思っています。だから政党無所属の首長が
多いのでしょう。
地方自治体に、対立的な住民感情など選挙の後遺症は残さないほ
うがよいと私は思います。
以上、私は、地方自治体の長は、所与の条件の中で精いっぱい頑
張るのが、現状では最良であると考え、国家レベルの批判をしない
ようにしてきたつもりなのですが、最近の日本の政治・経済の動き
はどうもおかしい。そんな思いから、あえて今まであまり取り上げ
なかったテーマを選ばせていただきました。