2007年2月1日木曜日

日本経済と地方経済


 日本の経済は上向いており、税収は上がっているという報道が多
くなっています。確かにマクロ経済でみると、間違いなく企業の利
益が上がっており、それに伴って税収も上がっているようです。

 このことは大変うれしいことです。失われた10年といわれたあ
の平成大不況、不良債権の山だった日本経済・・・金融不安で日本
が全く元気を失っていた1990年代、株価が下がり、地価が下が
り、底なしのデフレ現象をみせていた時期、「改革なくして成長な
し」として、しゃにむに不良債権を整理し、郵政民営化を中心に、
「地方でできることは地方に」「民間でできることは民間に」を掲
げて、一応最悪期を脱したことは、少なくとも小泉前首相の政策が
正しかったと言えるかもしれません。従来のやり方では多分もっと
時間が掛かったと思いますから、小泉-竹中ラインの経済政策は、
的を射ていたのだと思います。

 ただ問題が無いわけではありません。日本社会にいくつかのひず
みを生み出してしまっていると私は思います。
(1)マクロ経済の好調が、地方に及んできていない。地方は今ま
 で公共事業頼りだったからいけないと言われればその通りでしょ
 うが、それは過去の日本経済の運営形態だったのでしょう。急に
 は変われないのです。結局経済の構造が変わってしまったが故に、
 地方経済は疲弊し、地方企業は元気を失い、自治体も税収は伸び
 ないし、三位一体の改革に伴い地方交付税も減ってしまい、全体
 的に収入が落ちてしまった。地方経済はシュリンク(縮小)せざ
 るを得ない、大都市との格差は確実に開きつつある・・・そんな
 思いがしています。
(2)民間活力の導入が絶対に必要ということは、小泉前首相の登
 場前から言われていました。小泉さんはそれを劇的に取り入れた
 のだと思います。コスト削減、より良い市民サービスを求めて、
 私も積極的に取り組んでいますが、一直線に進めることは難しく、
 色々な試行錯誤があってもよいのではないかと思うようになって
 います。郵政民営化などをみると、その後にどんな社会が生まれ
 てくるかが見えていないのではないでしょうか。すなわちJR、
 NTTの成功と同じ結果になるか(JRやNTTにしても、すべ
 てが良かったとはいえませんが・・・)、まだ見えていません。
 これもいわゆる格差拡大の一つの要因となるかもしれません。
(3)人材派遣法などの労働法の改正の影響もあるとは思いますが、
 企業は正規社員を減らし、パートタイマーや嘱託職員を増やして
 います。パートと正社員の待遇の差は歴然ですから、利益を上げ
 ることが至上命題の企業にとって、ある意味当然の行動です。し
 かしその結果、格差が広がってしまったことは事実であり、一時
 的には仕方なかったと思いますが、それに対する対策ができてい
 なかったのではないでしょうか。
 実は企業だけでなく、地方公共団体もこの問題については責任が
 あります。行政コストを削減し、小さな政府をつくるべきという
 世論の後押しもあって、長野市も現在、正規職員数の削減に取り
 組んでいますが、市民サービスのレベルを低下させられないが故
 に、嘱託・臨時職員も相当多くいるのが実情です。

 一つの政策に徹することは、ある時期必要であるとは思いますが、
そのことに徹した場合、その陰の部分が出ることは当然だと思いま
す。何度も引用させていただいていますが、もう一度あの文章を思
い出してみましょう。
 『どんな論理であれ、論理的に正しいからといってそれを徹底し
ていくと、人間社会はほぼ必然的に破綻(はたん)に至ります。言
うまでもなく、論理は重要です。しかし、論理だけではダメなので
す。どの論理が正しくて、どの論理が間違っているかということで
もありません。これは日常用いられるすべての論理に共通した性質
です。』
私が以前感激してご紹介した藤原正彦著「国家の品格」の一節です。

 民営化は正しい選択だったと思いますが、その陰の部分をきちん
と把握して、どんな分野を民営化すべきか、その手法はどうすべき
か、そして民営化後の社会の在り方は、さらにどこまで徹すべきか
・・・もう少し説明責任があってもよかったと思います。

 国レベルの民営化として成功した例といえるのは、JRとNTT
でしょうが・・・郵政もその仲間に入れるかどうか・・・私も郵政
民営化に賛成の立場ですので、これからが正念場だと思っています。

 気になることがあります。
 政府与党が企業減税を決めたことです。理由は企業の国際競争力
を高めるためということだそうです。私も経済界の出身ですから、
企業減税はうれしいのですが、どうも優先順位が違っているような
気がしてなりません。
 中小企業は現在あまり利益が上がっていない、すなわち法人税を
あまり払っていませんから、減税のメリットは極めて少なく、利益
を上げている大企業に利することになるのでしょう・・・大企業は
現在利益が上がっている、すなわち競争力はかなりあると思うので
す。今、日本の優先順位は、もし余裕があるなら財政再建です。減
税よりむしろ借金の返済をする方が、先決ではないでしょうか?

 もう一つ気になること、それは知事などの地方首長の選挙で、一
部の政党が相乗り禁止を打ち出したこと。政党の勢力拡大に向けて
の一つの論理なのでしょうが、地方自治体レベルでは迷惑な話です。
 国家レベルの話は大いに論争していただく、地方は是々非々で考
える・・・それでよいのではないでしょうか。地方自治体の経営は、
地方自治の時代といわれても、財政を考えると所与の条件の中で最
大限の政策効果を上げることが大切なのです。わざわざ地方をギス
ギスさせる原因を作る必要はありません。議会の場合は複数の議員
を選挙することから、各党派が候補者を立てますが、一人を選挙す
る首長選挙の場合は違います。なるべく地域住民の総意で施政を行
えれば一番良いことだと思っています。だから政党無所属の首長が
多いのでしょう。
 地方自治体に、対立的な住民感情など選挙の後遺症は残さないほ
うがよいと私は思います。

 以上、私は、地方自治体の長は、所与の条件の中で精いっぱい頑
張るのが、現状では最良であると考え、国家レベルの批判をしない
ようにしてきたつもりなのですが、最近の日本の政治・経済の動き
はどうもおかしい。そんな思いから、あえて今まであまり取り上げ
なかったテーマを選ばせていただきました。