平成18年度長野市の決算数値を発表しました。
市長としては、平成18年度当初予算編成の段階では、市の貯蓄
である基金を40億円も取り崩さなければならない状況であったの
に、決算段階では、9億円の取り崩しで済んだ、そして市債の残高
も順調に減少していましたので、良い方向に向かっていると自信を
持っていたのですが、国が決めたルールに沿って長野市の財政状況
を指数化してみますと、一部の指標が警戒ラインに入るという結果
となり、正直ショックを受けました。
すなわち、自治体の財政状況を表す、「経常収支比率」「実質公
債費比率」の二つの指標が警戒ラインを超えてしまったことです。
「経常収支比率」は、平成16年度に警戒ラインを超え、平成
18年度もさらに上昇することとなり、平成17年度には問題ない
範囲であった「実質公債費比率」も上昇し、どちらの指標も警戒ラ
インを超えてしまったのは、正直参りました。
私は市長就任以来「入りを量りて出ずるを為す」をモットーにし
てきました。
ただ、国の「三位一体の改革」により、国税から地方税へと税源
が移譲された一方で、国からの補助金や地方交付税が減ってきてい
るので、数値が徐々に悪化してきていることはやむを得ないとして
も、「警戒ラインを超える」というのは、どうも納得できませんで
したし、市民の皆さんにも分かりにくい話であり、何よりも経済界
出身の私(市長)にとっては、市民の皆さんが期待していたことに
対し、裏切ってしまったのではないか・・・本当に慙愧(ざんき)
に堪えない思いを感じています。
そこで、市議会での議論や財政部局からの説明を聞いて、私自身
が学んだことを市民の皆さんにもご理解いただきたい、そんな思い
でこのメルマガを書いています。
まず用語の説明をしますと、
「経常収支比率」というのは、自治体の財政状況を表す指標の一
つで、自治体財政の硬直化の度合いを示す指標です。
地方税や普通交付税、地方譲与税など、経常的に見込める収入に
対して、職員人件費や公債費(毎年度の借金返済額)、福祉や医療
などの扶助費のほか、市の施設の維持管理費や継続的に交付する補
助金など、毎年度経常的に支出される経費(言い換えれば義務的な
支出)がどの程度占めているかという割合です。
この比率が高くなればなるほど、経常的に見込める収入の多くが、
経常的に支出される経費に充てられてしまい、結果的に、緊急的な
財政支出や新たな政策経費に充当する余地が少なくなってしまうこ
とは、お分かりいただけると思います。
この「経常収支比率」は、一般的には70%~80%が適正ライ
ンといわれていますが、近年、厳しい自治体財政を背景に多額の財
源を必要とする公共事業が減少する一方で、社会の変化に伴う市民
ニーズの多種多様化によって、自治体の行政サービスは、ハードか
らソフトに転換が図られてきているため、この比率の上昇は全国的
な傾向のようです。
長野市の比率は、全国の他の自治体と比べ、比較的低いようです
が、それでも合併した平成16年度には81.9%と適正ラインを
超え、平成17年度83.9%と上昇してきました。
平成18年度は、84.5%とさらに上昇してしまう見通しです
が、少子高齢化の進行に伴って、福祉施策の経費が増加したことや、
退職者の数が多かったことによって人件費(退職金)が増加したこ
となどが大きな要因となっているようです。
次に「実質公債費比率」は、経常収支比率と同様、自治体の財政
状況を示す指標の一つで、自治体の財政規模に対する借金返済の度
合いを示す指標として、平成17年度の決算から新たに用いられて
います。
この比率は、より的確に自治体の財政状態を把握するため、単に、
一般会計の「公債費」として表れる表面的な借金返済額のみならず、
一般会計が「繰出金」として負担する、上下水道事業や病院事業な
ど企業会計の借金返済額のほか、市の関連団体の借金返済額に対す
る元利補給金などの「公債費に準ずる経費」を広く借金返済額とし
てとらえ、その借金返済額が自治体の財政規模に対してどの程度占
めているのかを表す比率として用いられています。
この比率が高ければ高いほど、財政的な体力に比べて、毎年度の
借金返済額が大きいということになり、18%が警戒ライン、25
%が危険ラインとされ、25%を超えると新たな借金が一部制限さ
れます。
平成17年度16.9%だった長野市の比率は、平成18年度か
ら比率の計算ルールにおいて、「公債費に準ずる経費」の範囲が拡
大され、結果として、警戒ラインの18%を超え、18.6%まで
上昇する見通しとなってしまいました。
このルール変更は、常に18%を意識していた長野市にとって痛
かった、でも自治体の財政状況を正確に表すためには仕方ないと感
じてはいます。
ただ私としては、この指標の扱い方について不満もあります。と
言うのも、長野市には、現在300億円を超える基金、いわゆる積
立金を持っています。
これら積立金のうち、約100億円は、福祉や教育、環境など、
特定の政策目的を持ったものでありますが、残り約200億円は、
毎年度の財源調整のために使うことのできる積立金です。
長野市の積立金の規模は、他の自治体と比べ、比較的多いようで
す。確かに長野市の場合、オリンピックの開催に伴って財政の体力
以上に借金が残っており、「実質公債費比率」などの各種指標にも
表れているのは事実ですが、一方でその返済の財源ともなる積立金
の規模など、長野市の返済能力が的確に反映されていないのではな
いかということが、私にとっては不満なのです。
私が市長に就任した当時は、大きな借金と大きな貯蓄があるので、
金利差を考えれば貯蓄を崩して借金返済をすべきだ、と主張したこ
とがあります。ただ、財政のことを勉強するうちに、企業とは根本
的なところで違うということが分かってきました。
すなわち、借金を勝手に返すことは認められないし、必要な資金
を勝手に借りることもできない、ということです。企業のように銀
行と話して、必要な資金だけ借り入れるということが自由にはでき
ないのです。
それなら、金利が低い今の時代なら、金利差はそれほど考える必
要はなく、新規事業に取り組んだり、不測の事態に対処するために
は、流動性を大切にすることが良い、すなわち借金もあるけれど、
基金(貯蓄)もあるという状態が良い、と考えることにしました。
今回、この「実質公債費比率」が警戒ラインを超えることとなり
ましたが、この結果が直ちに長野市の財政に大きな影響を及ぼすも
のではありません。
でも、今後、毎年度の借金返済額が体力以上のものとならないよ
う、計画的に公債費負担の軽減を図っていくことは必要なことと考
えています。
今年度から国の臨時特例措置により、過去に借り入れた高い金利
の市債の繰上償還がしやすくなりました。
このことは、長野市もこれまで、過去に高い利率で借り入れた市
債の金利負担が重くのしかかり、一部前倒して返済しようと思って
も、国が認めるハードルが高く、自由にはなりませんのでしたので、
長野市にとっても朗報です。
今年度からの3年間、自治体の財政状況に応じて、そのハードル
が緩和されるとのことですので、対象となる市債の償還を積極的に
進め、残高の縮減と将来の公債費の負担軽減を図っていきたいと考
えています。
少々長くなりましたので、今回はここまでとさせていただき、次
回は合併による影響と将来負担比率などの新たな指標についてお話
ししたいと思います。