2007年12月13日木曜日

中小企業の経営に携わった者として(2)


 前回は、中小企業の経営に携わった者の立場で不合理と思われる
ことについて書きましたが、今回は企業経営全般について、感じて
いることを書かせていただきます(番号は前回の続きです)。

(5)前にも書いたかもしれませんが、土地の減価償却を認めるべ
 きではないかということです。これは中小企業のことに限りませ
 んが、例えばバブルの時、高い土地を買ってしまった。それは経
 営者の見通しが悪かったのですから、仕方がないのですが、土地
 が極端に下がってしまった場合、企業が土地の評価を下げること
 が必要だと思います。しかし税法では土地の評価損を認めていま
 せんので、売って損を出すより仕方ないようです。
  でも必要な土地を売るわけにはいきませんし、買い戻すために
 は、新たな失費(登録免許税など)が発生することになり不合理
 です。不動産鑑定士の評価で、買った価格より下がっていたら、
 その下がった分は損として損金計上を認めるべきです。
  その代わり、上がっていたらその分に課税する必要はあるので
 しょうが(旧日本電信電話公社の発行した電話加入権の債券も償
 却を認めていたら、大きな問題にならずに済んだはずです)。
  いずれにしろ土地でもうけようというのは、問題があるとも思
 っているのですが・・・。

(6)次に、不良債権の問題。不良債権の問題が顕著化した時、国
 はこれを早期に解決するため「金融再生プログラム」を策定し、
 銀行を監督する金融庁から銀行に対し、不良債権の基準を厳格に
 して不良債権比率の改善を強く求めましたが、このことが結果と
 して、中小企業、特に名門といわれる小さな企業の破たんにつな
 がっています。バブル崩壊前は、銀行は、土地などの担保となる
 資産がしっかりとあれば、借り入れたお金をすぐ返せとは言わな
 かったのです。金利さえ払えば、元金まで返せとは言われなかっ
 たはずです。

  しかし、資産がデフレで減少する中で、期限までに元金を返せ
 ない場合は、不良債権と見なす、土地を売ってでも返さなくては
 ならない、いわゆる貸しはがしという現象が起きてしまったので
 す。

  銀行の立場からいえば無理もないことでしょう、不良債権処理
 により自己資本が減ると、例えば国際決済銀行として認められな
 くなるとか、さらに自己資本が無くなってしまうと信用を失い、
 銀行の倒産にもつながるわけで、現に幾つかの銀行は破たんしま
 した(一般の企業でも同じですが・・・)。

  企業は、結果として資金を銀行から借り入れしても、安心して
 経営に専念できない、返済期限までに何とかしなければならなく
 なり、手元の現金でやりくりするか、市場から株式やファンドと
 いう形で調達せざるを得なくなったのです。(これも安心して借
 りていられるわけではないのは当たり前です)。

  株式を発行して得た資金は、金利を払う必要はありませんし、
 返済の義務はないのですが(永久債といってよいでしょう)、配
 当を出す必要があります。配当は利益から税金を納めた残りから
 払うものですから、金利よりはるかにコストがかかりますし、経
 営に参加権のある株主の言い分や要求を聞かなくてはなりません
 から、金利分だけでは文句が出るわけで、無理をして配当を増や
 すこともありそうですし、赤字なら取締役の入れ替えも求められ
 ます。

  銀行からの借り入れで資金を得た場合には、銀行の意見を聞か
 なくてはなりませんが、銀行は企業の継続が大切ですから、一部
 の一般株主のようなむちゃは言いませんし(私はそれを信じてい
 ます、でもグローバル・スタンダードのルールの下では怪しくな
 っているようですが)、企業にとっては、はるかに資金コストは
 低くなるはずです。不良債権基準が厳格化されたことが、企業社
 会、地域社会を変えた一番大きな要因だったと思っています。

(7)ルールの問題とは違いますが、政府の経済政策について、企
 業の法人税の引き下げが議論されています(政府税制調査会の答
 申では当面見送るとされました)。理由はグローバル競争の中で、
 企業の競争力を強めるためだそうですが、ちょっと順序が違うの
 ではないか・・・と感じています。
  現在、大企業は好調で、利益が上がっている、法人税の減税の
 恩恵を受けるのでしょうが、中小企業は利益が上がっていない、
 つまり所得税の減税をしても、その恩恵をほとんど受けられない
 と言ってもよいのではないでしょうか。

  今、日本の喫緊の課題は財政の再建、すなわち国債の発行額、
 発行残高を減らすことではないか、そして次は格差是正(大企業
 と中小企業、大都市と地方、格差はいろいろあります)ではない
 かと思います。
  減税する余地があるなら、減税しないで財政再建を、あるいは
 格差是正を優先すべきと思うのですが、どうでしょうか。大企業
 の競争力は、現段階で十分強い、故に利益を上げているわけです
 から、順番としては、減税より財政再建、格差是正です。

(8)税金は国にとって、もちろん地方自治体にとっても、一番大
 切な財源ですから、納めることは当然ですし、国民として納税す
 ることは義務です。ただどこにどのような税金を求めるか、その
 ルールが難しい、極めて政治的な判断が絡んでくる問題です。そ
 して公平・公正でなければ誰も納得しないでしょう。
  各団体、業界は、自分たちが発展していくために、国に対して
 いろいろ働き掛けをしており、結果として、国はその内容も考慮
 し、公平・公正の視点を参酌して、現在の税制と補助制度ができ
 ており、国家が運営されているのです。

  中小企業はその折衝力、政治力が弱いと昔から感じています。
 ひところ中小企業大臣をつくるべきだという運動がありましたが、
 実現しませんでした。中小企業にとって不合理と思われる税制が
 長いこと存在してきたと感じています。そして、税制と補助金は
 密接な関係があります。社会全体としては、公平に税金を徴収し、
 政策的に必要とする分野に対して、補助金などを交付しているわ
 けです。中小企業は、商工会議所などへの団体補助は別として、
 個々の企業は直接補助金を受けていないことを自らの誇りとして
 きたのです。しかし、中小企業の現状を考えると、国はもっと個
 々の企業の実態を見て、政策を考えるべきではないでしょうか。
 また中小企業はもっと社会に対し、きちんと主張すべきことは主
 張すべきではないか・・・会社経営を離れて6年、中小企業の現
 状を第三者的に見れるようになって、私はそんな気分でいます。

 以上、二週にわたって、中小企業の経営に携わった者として不合
理と感じていた事柄について、思いつくままに書いてみました。既
に見直されているものもありますが、長い間、胸の中にあったもの
を吐露させていただいたということで、お許しください。