私が40年間中小企業の経営に携わり、その後市長になったこと
は、前にメルマガで書かせていただきました。市長就任以来約6年
たって、社長時代のことは忘れかけていることも多いのですが、当
時、企業社会に対する税制度など、このルールは不合理だと主張し
ていたことが幾つかありました。
前からこのことをぜひメルマガで書きたいと思っていましたが、
いざ書く段階で改めて、現在のルールを調べてみたら、随分変わっ
ていました。6年前、私が社長時代不満に思っていたことは、だい
ぶ改善されてきているなと感じました。
現在、大企業は好調なところが多いようですが、中小企業はまだ
まだ不況で苦しんでいます。これではいけないと感じたのでしょう
か、あるいは国も中小企業に対する見方を考えたのでしょうか、税
制度はかなり変更されていました。うれしいことです。でも少し遅
すぎたようには感じていますが・・・。
日本経済の強さの要因は、いろいろあるでしょうが、私は、中小
企業がたくさん存在することによって、経済が支えられていること
にあると信じています。特に長野市のように、地域を引っ張ってい
く大企業(リーディングカンパニー)があまり存在していない地方
都市では、中小企業の存在こそが、地域の雇用や税収を確保し、地
域社会をけん引していく、まさに地域の核心であるといつも感じて
います。その中小企業が元気に永続性のある組織として成長・発展
をしていくためには、どうしたらよいか・・・難問ではありますが、
いずれにしても、中小企業にとって不合理と感じる政策が徐々に改
善してきており、この流れをさらに強めていきたいものです。
今回は、私が社長時代、何に不満を感じ、そして、それが現在ど
う変わったのか、書いてみることにしました。
(1)同族会社の留保金課税。これは今年度から中小企業が適用対
象から除かれたようです。そもそもこの税金は不合理であり、も
っと早く改善するべきだったと感じています。ご存じない方もい
らっしゃると思いますが、会社が利益を上げた場合、まず法人関
係税を納め、残った利益から配当や役員賞与などを支払い、そし
て将来のために、あるいは会社の成長のために社内に留保・積み
立て(留保金)することは当たり前のことです。しかし、私が社
長時代はその留保金に対して10~20%を課税するということ
が行われてきました。税金が高かったのです。私は過去何十年間
もこれを納めてきました。すべての企業に同じなら仕方ないです
が、この税は非同族会社には適用されませんでした。大部分の中
小企業は同族会社ですから、中小企業にとって極めて厳しい税制
度でした。
(2)次は、事業用資産に対する相続税の重さです。事業用資産は、
会社の将来を思って一生懸命に貯めた内部留保、古い取得原価の
安い土地を所有しているが故の含み益などありますが、そういう
ものも含めた自分の会社の株式評価が不合理なのです。少なくと
も企業の内部留保は所得税を納めた残りですから、相続の際に、
また課税されるのは、不合理です。
結果として、一株当たりの評価額は、通常の上場会社の株式に
比べて大変割高になる例が多いのです。今回これも手直しされる
ようで、先ごろの新聞報道によると、政府が来年の通常国会に提
出する予定の「中小企業事業円滑継続法案」では、中小企業の自
社株の相続に限り、民法で定める遺留分の特例を認めた上で、贈
与株式の評価額を贈与時に固定できる制度や、オーナー経営者の
生前に自社株の継承で他の相続人と合意して、家庭裁判所の認可
を受ければ、基礎財産から生前贈与された自社株を除外できるよ
うになるとのことです。
当時は、相続対策に相当神経を使わなくてはなりませんでした。
しかも自己株式(家業)ですから売るわけにもいかない、また売
れないと思うのです。結局、物納もできず年賦払いにしてもらっ
て、相続税を何年もかけて納めていく・・・これも極めて酷な税
金であると思っていました。私は父を早く亡くし、何の準備もな
かったため、株式に関する相続税の納税に10年間、大変苦労し
ました。
(3)寄付金税制。これも不合理と思える税制度です。企業の寄付
金は、原則損金算入はできない利益金処分ということになってい
ますが、一定額は会社の経費として認められています。その限度
額は確か資本と所得の金額で決められているはずですが、私の社
長時代、私の会社で年間10万円ぐらいだったと思います。
ですから資本金が大きい大企業にはある程度の枠があるのです
が、中小企業にとっては、極めて小額となるわけで、寄付を頼ま
れた場合、基本的には税金を納めた残りの中から出すことになり
ます。
何千万円、何億円といった大きな寄付金は大企業でしかできそ
うにもありません。地域社会での寄付金はそんなに大きくはあり
ませんが、お祭りへの寄付、PTAへの寄付、どこかのお祝い事
(ご祝儀も基本的には寄付と同じです)、今ならNPOへの寄付
もあります。せいぜい数万円から多くて何十万円の単位でしょう
が、これを会社の経費に認めないということは理解に苦しみまし
た。
商工会議所の副会頭時代、いろいろなイベントなどの事業資金
のため、寄付金集めに奔走しましたが、大変苦労しました。世の
中、というより地域企業は地域社会とのお付き合いが大切であり、
それはまた企業のためでもあり、地域活性化にもなると思うので
す。
例えばNAOC(長野オリンピック冬季競技大会組織委員会)
への寄付は、当時、大蔵省の特別許可があったから、制限なしだ
ったことを思うと、地域で生きる中小企業の経営者にとっては不
満があります。
(4)同族会社の行為計算の否認。これも不合理な制度と思われる
ものです。すなわち同族会社が行う行為について、ものによって
会社の経費とは認めないということでしょう。(3)と同じこと
かもしれません。会社の役員の賞与を経費に認めないというのも、
このたぐいのことかもしれません。最近は一定の金額は認められ
るようになり、逐次金額も増えているようです。行為計算の否認
というのは、企業が決算を組んで税務署に申告したとき、その申
告に対し、認めないということです。
以上、会社経営に携わっていた時に感じていたことを、書かせて
いただきました。基本的には、国の税制度は、まず税金をとること
を優先し、それが中小企業の自由な企業経営を制約しているのでは
ないか、当時はそんな思いがありました。
長くなりましたので、今回はこの辺にして次回、もう少し違う視
点で書いてみたいと思います。