2011年11月24日木曜日

3期目の折り返し点を迎えて(その3)


 前々回のかじとり通信に引き続き、「市長3期目の折り返し点を
迎えて(その3)」として、「今日的な話」についてお話しします。
地方自治体の長として、直接権限のない事柄について発言すべきか
どうかについては、依然迷っています。しかし、「物言えば唇寒し」
で、黙っていれば無難に事が過ぎていくであろうというのは、卑怯
(ひきょう)であると考えることにしました。
 言いたいことはたくさんありますが、「TPP交渉参加」「消費
税率アップ」の2つに絞りました。

 初めは、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加についてです。
 11月9日の定例記者会見でのTPPに関する私の発言は、記者
の質問に答える形のものでしたので、若干、言葉足らずの部分があ
り、正確に話の意図が伝わっていないように感じています。
 
 まず、わが国の経済が自由貿易体制下で発展してきたことを考え
ると、TPP自体を直ちに否定すべきでないと考えています。
 一方で、TPPの交渉分野は21分野と幅広い上、議論の前提と
なるTPP参加による多方面への影響なども、国の統一見解として、
ほとんど開示されていません。開示されていないというよりは、交
渉にも入っていない現段階で、おそらく示すべき正確な情報などが
ないというのが実情だろうと推測しています。
 それは、内閣府、農林水産省、経済産業省からおのおの出されて
いるTPP参加による国内総生産への影響試算額が全く異なること
を見ても分かります。
 私は、いきなり門前払いをするのではなく、きちっとした形で交
渉に入り、その交渉の経過や結果をできる限り国民に明らかにする
中で、もう少し自由でオープンな国民的議論があってもいいと考え
ています。

 また、TPP参加により、特に大きなマイナスの影響が予想され
ている農業分野については、わが国の農業と農業者をどのように守
っていくのかという点について、国において具体的な方策を示すと
ともに、相当に慎重な対応、判断が求められることは言うまでもあ
りません。

 現状は、賛成派、反対派の双方が、かみ合うことのない、いわゆ
る「ためにする議論」をしているように感じています。
 今回のTPP参加問題を契機として、食の安全や食料自給率など
国民にとって非常に重要な農業の在り方を含む、将来の国のかたち、
そのために選択すべき進路について、よく考えるべきだと思ってい
ます。その結果が、TPPへの不参加ということであれば、それは
非常に納得のいく結論だろうと思います。
 
 しかしながら、仮に結果が不参加ということであっても、後々に
なって交渉に加わらなかったことを悔やむことがあってはならない
とも思います。
 今は立ち止まることなく、勇気を持って一歩前に出てみる時では
ないかというのが私の考えです。
 加えて、現時点では無論のこと、TPP参加に賛成しているので
はなく、あくまでも交渉の舞台に立つべきであると申し上げている
ことをご理解いただきたいと思います。このことは、14日に開催
された長野市農政懇談会(長野市農業協同組合協議会、長野市農業
委員会、長野市議会経済振興議員連盟の3者で行っている農政に関
する懇談会)の席上でも申し上げました。

 先般、野田首相は、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入
ることを正式に発表されました。これからは、私が申し上げた趣旨
に沿って、十分に検討されることを切望します。

 次の話題に移ります。消費税率アップについてです。
 先日、和歌山市で開催された中核市サミットの基調講演で、中核
市市長会相談役の石原信雄(元内閣官房副長官)さんが次のことに
言及されました。
 それは、日本の消費税率は、他の先進国に比べ極めて低い。日本
の財政状況を考えれば、このままやっていけるはずがなく、いずれ
大幅な税率アップは避けられないということでした。
 このことは、私の年来の主張でしたので、「わが意を得たり」と
感じました。しかし、講演の中で石原さんは、具体的な実施時期に
ついては、はっきり話されませんでした。そこだけは残念でした。
私は、なるべく早くやるべきとの意見です。

 日本の国の債務残高(借金)は、本年度末には1,000兆円に
達する見込みで、年金をはじめとする社会保障にも多額の税金を投
入しなくてはならない状況に加え、原発事故による被害を含めた東
日本大震災の復興費、そして厳しい経済状況、停滞する景気に輪を
掛けるような円高。日本の財政は、非常に厳しい状況です。国債は、
ほとんど国内で消化されているから大丈夫といった話を聞いたこと
がありますが、安心していることはもう許されない状況だと私は感
じています。ギリシャでの信用不安に続いてイタリアでも首相が辞
任する状況になったのは、財政問題が原因です。
 借金の状況だけを考えれば、日本はイタリアより悪いと言われて
います。財政規律は、国家の最重要課題であります。個人の場合で
も、借金の始末をきちんと付けることは当然です。「入りを量りて
出(い)ずるを為す」は、どんな場合にも真理です。

 消費税率1%の引き上げで2.5兆円の増収と言われており、消
費税しか安定した増収を図る道はないと思います。これだけのデフ
レ状況においては、消費税の増税により仮に10%物価が上がって
も、個人生活の場では、それほど影響がないと思われますし、景気
が大きく落ち込むことはないでしょう。
 
 ただ、消費税率アップに反対する一つの理由として一般的に言わ
れているのは、消費税の逆進性、すなわち所得が低い層への影響が
大きいということです。
 そこで出てくるのが、中谷巌(いわお)さん(一橋大学名誉教授、
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社理事長)が主張す
る還付金付き消費税です。還付金付き消費税とは、例えば、消費税
の税率を仮に10%とした場合、各世帯に年間10万円を還付する
という仕組みです。そうすれば、年間の消費額が100万円の世帯
では、消費税額10万円と還付金10万円が相殺され実質税額は0
円になります。200万円の世帯では消費税額20万円のところ、
10万円還付され実質税額が10万円に、1,000万円の世帯で
は、消費税額100万円ですから、実質税額は90万円という計算
になります。
 この方法は、消費税は逆進性が高いという批判を克服できる論で
あると私は考えています(厳しいのは、中小企業を含めた企業側で
しょう。増税による消費縮小を抑えるため、商品価格を下げざるを
得ない状況が想定できるからです)。
 また、消費税率引き上げに伴う低所得者対策として、食料品など
生活必需品の税率を特例で低めにする「軽減税率」も検討されてい
ますが、還付金付き消費税も含めて当面見送りとの方針を政府・民
主党が固めたとの報道がありました。軽減税率については、対象品
目の線引きが難しく、混乱が予想されることから見送りとなったよ
うですが、軽減による減収分をどこかで穴埋めしなければいけませ
んし、とにかく複雑な制度になることが明らかです。単純明快な制
度にするべきだと考えています。“シンプル イズ ベスト”なの
です。

 いずれにしろ、日本の財政は、待ったなしの状況であるという危
機感を国民が共有し、生活レベルを極端に下げることなく、何とか
国の借金を減らすことを考えるべきでしょう。それもスピード感を
持って・・・。
 日本以外の先進国では、消費税率が20%以上の国が多く、中で
もスウェーデンやデンマークの税率は25%とのことです。

 以上、3期目の折り返しを迎えて、長野市政として取り組むべき
こと、国の法改正の必要性、そして今日的な話題について、3回に
わたりお話しさせていただきました。いずれにせよ、世の中で起き
ていることは、何らかの形で私たちの生活に影響を与えることを考
えると、何一つ無関心ではいられないと思っています。
 みんなの声が「ながの」をつくる。みんなの声が「日本」をつく
るという思いから、書かせていただきました。

2011年11月17日木曜日

2つのサミット


 10月26日・27日、「彫刻のあるまちづくりサミット」に参
加するため、山口県宇部市へ行ってきました。
 「宇部は遠いなあ!」と思っていましたが、羽田空港から約1時
間30分で山口宇部空港に到着(そこから宇部市街地へは何と車で
5分の近距離です)。長野・東京間とほぼ同じ所要時間ですが、東
京からだと、何だか長野市より宇部市の方が近い感じがしました。

 宇部市は、大正10年に市制施行し、今年で90周年になるとの
ことで、その記念事業として、本年1月から来年3月までの1年3
カ月間を「イベントイヤー」と位置付け、いろいろな事業に取り組
んでいます。
 その中で、昭和36年から始まった野外彫刻展が50周年を迎え
たので、市制90周年記念事業の一環として、このサミットを開催
することになりました。長野市は、野外彫刻事業に熱心に取り組ん
でいる市であることから、今回招待されたものです。同じく招待を
受けたのは北海道旭川市で、サミットは、宇部市、旭川市、長野市
の3市長が参加して開催されました(札幌市も招待されたのですが、
市議会の会期が延長されたため欠席でした)。

 宇部市の野外彫刻は、約400点あるそうです。人口は約17万
人で、面積は約287平方キロメートルです。長野市の面積は約
834平方キロメートルですから、その約3分の1です。しかし、
長野市の野外彫刻は約200点ですから、長野市の2倍の作品があ
る宇部市は、まさに街じゅうに野外彫刻があるといった感じがしま
した。特に、最初にご案内いただいた「ときわ公園」には、作品が
集中的に配置された「彫刻野外展示場」があり、大変見事でした。
いろいろな種類の作品がありましたが、子どもたちにも大人気とい
う電車をかたどった作品が、とても楽しい感じがして一番印象的で
した。

 さて、宇部市の野外彫刻事業は、長野市の方法とはかなり違って
います。2年に1度、UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)を開
催し、2年間その出品作品を展示しておき、市や企業が買い上げた
り、あるいは作者がその間に別の買い取り先(嫁入り先といった感
じでしょうか)を探したりするそうです。そしてまた次の彫刻展を
始める、これを繰り返しているようでした。本年は39カ国から
363点の模型応募があり、その中から20点の実物作品が選ばれ
て、「ときわ公園」に展示されています。応募数の多さにびっくり
しました。

 一方、旭川市は、釧路生まれで旭川にゆかりのある彫刻家中原悌
二郎(ていじろう)を記念した賞を創設し、2年に1度、国内の公
募展で発表された秀作から選考しているそうで、野外彫刻は現在約
120点あるとのことです。

 宇部市を訪問し、一番興味を持ったことは、市の歴史です。
 宇部市は昔、炭鉱の町として、地元企業の宇部興産(株)を中心
に栄えていました。ところが、石油が使われるようになってから石
炭産業は斜陽となり、北海道や九州の炭鉱においては、中央資本が
引き揚げてしまいました。後の夕張市の財政破綻も結果として、そ
れが遠因といってもよいでしょう。
 しかし、宇部興産は見事でした。炭鉱が衰退しても宇部市からは
撤退せず、セメントや化学事業を興し、見事なまちおこしを行った
のです。その転身ぶり、地域企業の生き残り戦術、そして地域に密
着した企業文化は、「見事」というよりほかに言葉がありません。
先ほどの「ときわ公園」にある石炭記念館では、炭鉱の櫓(やぐら)
が展望台になっていて、当時の炭鉱の様子、そしてまちの歴史を感
じることができました。
 その後現在に至るまで、宇部市と共に宇部興産は歩んでいるよう
です。UBEビエンナーレ1位の大賞は「宇部市賞」ですが、2位
は「宇部興産株式会社賞」です。ここからも、宇部市における宇部
興産という企業の存在感が分かります。

 さて、「ときわ公園」ですが、約100ヘクタールのため池「常
盤湖」を中心に、面積が何と約189ヘクタールもある広大な公園
で、宇部市のシンボルとのことでした。湖の周りを広場やスポーツ
施設、キャンプ場、ランニングコースなどが取り囲んでいる公園で、
市民が楽しめる施設がたくさんありました。前述の彫刻野外展示場
以外にも多くの彫刻が公園の至る所にあって素晴らしかったです。
そして何よりも、公園内の遊園地には、私の好きな観覧車があり、
たくさんの遊具もありました。

 宇部市は、市のキャッチフレーズのとおり「緑と花と彫刻のまち」
で、そして、昔の炭鉱の名残を持ちつつ、新たな工業分野でも発展
を続ける瀬戸内海に面した景色の素晴らしいまちでした。

 彫刻のあるまちづくりサミットは27日に開催され、会場には約
200人の市民や関係者が集まり、3市長がパネリストとしてそれ
ぞれの市の野外彫刻事業について事例報告・意見交換をしました。
そして最後には、以下の内容の決議文を作成・調印し、サミットの
成果を確認し合いました。
 「長野市、旭川市、宇部市3市は、まちに野外彫刻を設置して潤
いのあるまちづくりを進め、市民とともに個性豊かなまちなみを形
成してきました。設置された彫刻と彫刻を含む景観は、次代に引き
継ぐべきかけがえのない財産となっています。わたしたちは、連携
と交流をすすめ、文化の振興、潤いのあるまちづくりの推進に取り
組むことを決議し、その具体的な取り組みとして、
1 彫刻のあるまちづくりを国内外に広げていくため、共同企画の
 開催や情報発信に努めます。
2 次世代を担う子どもたちの豊かな心を育むため、彫刻に関する
 教育の推進を図ります。
3 都市の財産を末永く継承するために、多様な形による市民のボ
 ランティア等の参画を更に推進します。」
 さらに勉強して、長野市の野外彫刻は日本一と呼ばれるようにし
たいと思いました。

 もう一つのサミットは「中核市サミット」で、11月1日、和歌
山市で開催されました。現在41ある中核市の市長が一堂に会し、
当面する諸問題について話し合い、検討する会合で、長野市からは、
新友会や公明党の市議会議員さんも、他の中核市についての勉強や
調査などのために参加されました。

 基調講演では、元内閣官房副長官の石原信雄氏が「東日本大震災
後の地方行政を取り巻く環境の変化と中核市の対応」と題し話され
ました。その中で、石原氏は、被災地の復興財源として消費税の増
税の必要性を明言され、そして「自分たちの地域は自分たちでつく
る」という都市内分権の必要性を話されました。特に、都市内分権
については、長野市が進む方向性と一致しているという点で、さら
に事業推進の意を強くしました。

 その後4つのテーマごとに分科会が開催され、私は「これからの
財源確保と事業選択について」をテーマにした分科会に参加しまし
た。「少子高齢化」「公共交通の再生」「農地の荒廃」が各市の共
通課題として整理され、続いてそれぞれの市が取り組みや力を入れ
ている施策について発言しました。その中で議題となった「社会保
障と税の一体改革」について、私は先ほどの石原氏の講演内容も踏
まえ、喫緊の課題として消費税の引き上げを含む税制の抜本的な改
革を挙げるとともに、消費税の引き上げに際しては、低所得者層に
配慮する仕組みが必要であることについて話しました。その後、
11月10日の読売新聞に、消費税率を10%に引き上げる場合に
は、低所得者に対して税金の一部を還付する案について検討すると
いった記事がありました。国民的な合意形成を図る上で、今後の重
要なポイントになりそうです。
 また、社会保障に関する地方自治体の過度なサービス合戦をやめ
るべきだと主張しました。そのためには、国・地方が行う社会保障
の範囲および水準を国がしっかり決める必要があることは言うまで
もありません。

 翌日は中核市市長会議が開催され、「権限移譲」「財源確保」
「地域自律に向けた都市制度再編」の3つのプロジェクト活動報告、
そして「国の施策・予算に関する提言」などの採択を行いました。
このように中核市の総意として国に要望・提言することは、必要な
ことです。
 それらの提言のうち「地方公務員給与と都市自治体の自主性に関
する決議」は、今年度の人事院勧告の実施を見送り、臨時特例法案
により平均7.8%の減額を目指す国家公務員の給与に、地方公務
員の給与についても準じるべきとの政府内の動きに対し、地方のこ
れまでの行政改革や地方分権などを理由に、国の押し付けは許され
るものでなく、自治体の自主性を尊重すべきと意見するものでした。
確かに、国の方針によって、地方の自主性が失われることはおかし
いと思います。しかし、国の非常時に、地方行政をリードする中核
市市長会が、単なる要求団体であってはならないと考え、会議全体
を通しての発言の場で、中核市は、自らの身を削る覚悟で今何が必
要かを議論すべきだと申し上げました。また、全国の中核市の市長
が集まっている会議です。さまざまな角度からもっと突っ込んだ議
論をして、中核市自らが覚悟を持って取り組む姿勢を共有すべきだ
と感じています。中核市サミットについては、現在その在り方を見
直していますので、次回のサミットに期待したいと思います。

 実は、今回ぜひ見てみたいと思っていたのが、会議後の視察コー
スにあったニット製作機械製造・販売の(株)島精機製作所です。
手袋編機からスタートしたという同社は、1本の糸から縫い合わせ
のない手袋を編み上げるノウハウを発展させ、今では無縫製ニット
ウエア製造機械の分野で世界トップ企業にまでに成長しました。広
大な敷地に広がる工場を見学しましたが、「ものづくり」の原点や
大切さをあらためて感じ、地元和歌山から離れることなく、今の社
長一代でここまでの大企業に育てられたことに深く感銘を受けまし
た。

 最後に、和歌山電鐵貴志川線を視察しました。地方鉄道再生の成
功例としてご存じの人も多いと思います。猫の「たま」駅長といえ
ばお分かりになるでしょうか。  
 そのたま駅長に出迎えられ、貴志駅から和歌山駅まで実際に乗車
した電車は「たま電車」で、車両のペイントから椅子や窓まで、と
にかく、ネコだらけでした。こうしたユニークな取り組みや再生に
向けての継続的な取り組みもあり、利用者が増加しているとのこと
でした。元気がある地方鉄道を見て考えさせられるところがありま
した。

大変勉強させられる有意義な機会を得ることができました。      

2011年11月10日木曜日

3期目の折り返し点を迎えて(その2)


 前回のかじとり通信では、あと2年の任期の間にやるべきことや、
めどを付けておきたいことをお話ししました。そして、これまで
「所与の条件」の下で、市政を最良の方向に進めるよう、かじ取り
を行ってきたこともお話ししました。しかし、それだけでは解決で
きないこともたくさんあることを感じています。今回は、過去10
年間の市長経験で感じていること、とりわけ法改正の要望などにつ
いてお話しします。

 まず、地方自治法に関してです。
 現在の行政の会計制度は、単式簿記であり、これだけでは行政
(長野市)の財務状況を正しく表すことはできません。そこで、行
政にも複式簿記の採用が必要だと考えています。将来、国などの関
与を受けず、市が独自の市債を発行して資金を調達する時代になっ
た場合に、正確な将来計画や財務内容を示すことができなければ、
プライムレート(最優遇金利)ではなく、高い金利が課されるとい
った不利な条件になるでしょう。

 複式簿記にできない理由の一つは、従来面積だけで管理していた
道路や河川などを含む保有土地の評価が難しく、評価額の算定が困
難なことです。そこで現在は、国が例示する評価方法(平成19年
10月の通達)のうちから、昭和44年度以降に取得した土地につ
いて、取得原価で評価する簡便な方法を採用して評価しています。
つまり、昭和43年度以前から保有している土地の評価額は、0円
ということになります。例えば、後町小学校の土地については評価
していませんから土地勘定では0円ですが、売ってしまえば大きな
資金が入ることになり、本来ならば変わらないはずの貸借対照表の
財務状況が大きく改善することになります。
 それであれば、全ての土地を不動産鑑定すれば良いと思われるで
しょうが、それには多額の経費と時間が掛かり、あまり意味があり
ません。土地勘定は欄外に出して、土地勘定抜きの貸借対照表を作
るべきでしょうか。
 
 会計制度のことで、もう一つぜひ見直していただきたい制度があ
ります。それは予算の単年度主義です。
 行政が行う仕事は、数年にまたがることが少なくありません。と
いうより大型事業は常に何年かにわたって行われることになります。
しかし、例えば、かなり前から行っているJR長野駅東口の土地区
画整理事業は国庫補助事業ですので、毎年国の予算がいくら付くか
によって、その年の事業量が左右されてしまいます。もし、複数年
度にわたる事業として、10年間にいくら補助金を出しますと決め
てくれたら、市債も計画的に発行しながら、長野市の判断でどんど
ん事業を進められるはずですし、前倒しも可能になるはずです。そ
うすれば、事務費なども格段に少なくて済むはずですから、市債の
発行に伴う金利も、大して問題にならないでしょう。
 しかし、国庫補助の決定前に地方が勝手に事業に手を付けると、
国からの補助金がもらえないというのが、今の制度ですから、市の
思いのままやるわけにはいきません。
 公共事業のスピードアップは、とても大切なことです。ただ、実
際の工事に時間がかかるのではなく、前段階の手続きに時間がかか
っている現状は、何とかしたいものです。

 市議会と理事者の在り方についても触れてみたいと思います。
 市議会で議決していただかなければならない案件は、条例や予算、
決算認定、金額の大きな契約の締結、議会承認人事などが挙げられ
ます。この中で、例えば、決算の認定について、議会の認定が得ら
れなかった場合、決算の効力そのものには直接影響は及ばないので
すが、予算を執行した理事者の政治的責任はどうなるのか・・・。
 また、監査委員(長野市では、市議会議員2人、識見を有する者
2人)の監査では適切とされた決算であっても、議会では「認定し
ない」と判断する場合もあるわけで、これは、監査委員が財務に関
する事務の執行と経営に関する事業の管理について、その合法性や
財政運営の効率性、経済性などを監査するのに対し、議会では政策
的な判断が加わるなど、視点の違いによるものでしょうが、市民の
皆さんには分かりづらいと思います。

 次に、直接請求制度に関してです。
 有権者の2%以上の署名を集めれば、首長に対し条例の制定や改
廃を直接請求できるというもので、このことについては、9月1日
配信のかじとり通信でも、「市役所第一庁舎・長野市民会館の建設
の是非を問う住民投票条例」制定を求める直接請求についてお話し
しました。直接請求制度自体は必要な制度だと思いますが、住民投
票という地方自治にとって重く大きな条例発案までも、有権者の2
%以上の署名があれば直接請求できるというこの規定はどんなもの
でしょうか。いかにも軽すぎます。論理的には署名が集まれば繰り
返し直接請求できると考えられますし、これでは、安定した行政運
営ができません。発案には少なくとも有権者の20%程度の署名は
必要ではないでしょうか。1桁小さいと感じています。

 住民投票の実施に当たっての具体的な方法などが法律に書かれて
いないことも問題です。どんな場合に住民投票ができるのか、どん
なテーマで行うのか、投票に要する費用は誰が負担するのか、条例
案の周知をどうするのか、反対運動は可能なのか、同じテーマで再
度賛否を問うことは可能なのか、署名活動のやり方のルールはどう
すべきか、どのくらいの投票率を成立要件にすれば良いのか、既に
市民の代表である首長と議会が決定したテーマを扱うことは可能な
のか。また、単なるポピュリズムに陥る恐れはないのか。悩ましい
問題です。
 県内においても、佐久市の総合文化会館計画や小諸市役所庁舎と
県厚生連小諸厚生総合病院の併設案に係る住民投票のように、首長
が提議して住民投票を行うという話はありましたが・・・。
 いずれにしろ、二元代表制を補完するのが直接請求制度ですから、
どうあるべきかをもっときちんと法律で定める必要があると思いま
す。     

 次に、選挙制度についてです。
 平成の大合併により市域が広がり、その中で住民の声をどう聴い
ていくかが大きな課題と感じています。長野市では市内全32地区
に設立された住民自治協議会が軸となり、「自分たちの地域は自分
たちでつくる」という理念の下、新たな自治の仕組みづくりを進め
ています。
 一方、従来からの自治の仕組みである、選挙制度の改革も必要で
はないでしょうか。
 特に、政令指定都市では区の区域が選挙区となるように、中核市
以下の市でも選挙区を設けることを容易にしてはどうでしょうか。
 例えば、1人2票にして、市内を小選挙区に分けて選出される議
員と、市域全体から選出される議員を別々に投票するのはどうでし
ょうか。定数や区割りをどうするかなど課題はあるでしょうが、地
域住民の声を市議会により届けるために、そんな改正にも取り組ん
でみたいものです。

 選挙制度についていえば、衆議院議員選挙の「1票の格差」是正
の動きが盛んに報道されていますが、公職選挙法そのものにも問題
が多いと感じています。
 選挙運動における「インターネット利用」や「戸別訪問」の是非、
「禁止される事前運動の定義」なども問題点として検討されるべき
です。

 併せて、全ての選挙について言えることですが、特に市レベルの
選挙における投票率の低下は大変危険な兆候です。このことは、選
挙結果が必ずしも民意を正しく反映していないとも考えられます。
市長就任後、姉妹都市であるアメリカ・フロリダ州クリアウォータ
ー市を初めて訪問した時、長野市長選の投票率が40%台で困った
と申し上げましたら、「それは上出来。クリアウォーター市では
30%に届かない」と言われ、びっくりしました。ある意味、投票
率の低下は、世界的な傾向なのかもしれません。しかし、アメリカ
大統領選挙などは、結構投票率が高いのですから、全ての選挙で投
票率が低いということではないようです。
 地方自治体の選挙には、間接選挙を採用するとか、電話やインタ
ーネットなどによる投票とか、何か抜本的な対策を考える必要があ
ります。投票は「権利」と見みるか「義務」と見るかでも状況は変
わると思います。

 農地法の改正も重要です。確かに農地を守らなくては、将来の食
料生産が心配になることは事実ですが、荒廃農地がこれだけ増えて
しまったのに、その対策は迷走していると言ってよいでしょう。施
設や建物の中で、農作物ができる時代です。法律を変えても良いの
ではないでしょうか。

 農地を宅地などに用途変更する場合は、原則として国や県の許可
が必要です。最近話題のメガソーラー施設の建設候補地として長野
市が県に申請した土地には、荒廃農地が含まれていました。耕作は
放棄されていても農地には規制がかかるため、選定からは外れてし
まいました。
 現地の実情は、市町村と市町村農業委員会が把握しているわけで
すから、それぞれ地域ごとの土地利用については市町村の意向を尊
重し、農地転用や農用地区域(青地)の除外などの権限を市町村に
任せるべきではないでしょうか。青地・白地(青地以外)といった
区別は、土地改良事業で農業生産力向上のために国や県が補助金を
出していた名残でしょう。
 農地の有効利用については、今以上に地方自治体に任せていただ
き、その代わり、市町村は国に必要な農地面積の確保を約束する、
あるいは食料の目標生産の量を設定するというのは、どうでしょう
か。

 所有者の分からなくなっている土地の問題についても困っていま
す。法務省や司法関係の人と話をする際には常に申し上げているこ
とですが、特に中山間地域の土地については相続登記が行われてい
ない場合が多く、3世代、4世代ぐらい経過すると、法的な相続権
のある人がどんどん増えてしまいます。極端な例を挙げれば、公共
事業で必要な土地を購入するために、ブラジルまで印鑑をもらいに
行ったという話もあるようです。こうした問題は、今後中山間地域
だけでなく、空洞化が進む都市部でも発生する可能性があると思い
ます。
 所有者の分からない土地については、裁判所に土地代を供託する
ことにより所有権を行政に移すことが一番良い方法のように感じて
います。

 話は違いますが、土地などの収用も、もう少し簡単にできるよう
にしたいものです。土地は個人の財産ですが、公共の用に供する場
合には、誰か別の人の土地で代替できるというものではないのです
から、その土地の提供は国民の義務といえるのではないでしょうか。

 以上、国や県に物申す形ではありますが、より良い市政運営のた
めに主張していきたいと考えています。
 もう少し今日的な話については、後日、3期目の折り返しを迎え
て(その3)として書きたいと思います。

2011年11月3日木曜日

3期目の折り返し点を迎えて(その1)


 3期目の市長職も、11月10日で4年の任期の半分が終わり、
いよいよ折り返し点を迎えることになります。残り2年間でやり遂
げたいプロジェクトはいろいろあります。全てやりたいのですが、
それは無理でしょう。どこかで踏ん切りを付けなくてはならないと
思っています。
 今後やり遂げなくてはならないことについては、その完成を目指
し努力することは当然ですが、任期中に完成させることは無理でも、
「入りを量りて、出ずるを為す」の精神を基本にめどだけは付けた
いと考えています。

 現在、策定中の第四次長野市総合計画後期基本計画には、今後の
長野市の方向性や目標、つまりやるべきこと、やらなくてはならな
いことなどが過不足なく書き込まれています。

 しかし、長期計画ですから、策定したからといって必ずそのとお
りにできるとは限りません。また、社会情勢の変化の中で、変更す
べきこともあるかもしれません。できるだけ実現させようという強
い意志を持つことは当然ですが、極端な話、市長が代わった場合は、
計画内容を変えることも十分考えられます。
 また、この計画の策定段階では、やりたいけれど、方向性を練り
上げられなかった事業もありますし、今後、民間活力を利用するこ
とで、行政が支援に回る事業もあるでしょう。また、国や県の方針
の変更により計画を見直すこともあり得ると思います。

 そこで、後期基本計画には書き込むことができなかった事業も含
め、私が今後2年間でやり遂げたいこと、少なくともめどは付けた
いことについて、以下のとおり整理してみました。

1 ソフト部門
(1)都市内分権の着実な推進と市民の自立・自治意識の確立
   市内32地区の住民自治協議会が発足して1年半が経過し、
  一括交付金の増額や事務局長配置などの新たな要望が出されて
  います。また、今後、住民自治協議会と支所との関係について
  も組織や業務内容について整理していく必要があります。こう
  した課題を一つずつ解決し、住民自治協議会の自立、地域コミ
  ュニティーの再生を目指し、積極的に取り組んでいきます。
(2)中山間地域の振興
   中山間地域は、市内の13地区にあり、その面積は市域の約
  4分の3を占める一方、人口は市全体の約1割であり、若年層
  を中心とした住民の流出とそれに伴う高齢化、農作物の野生鳥
  獣被害など重く大きな課題を抱えています。こうした中山間地
  域に住む皆さんの生活を維持し、地域の活力が減退することな
  く魅力的な地域であり続ける政策を推進していきます。
(3)公共交通機関の再生
   マイカーの便利さに押されて利用者の減少が続くバスや鉄道
  などの公共交通を新しい発想で再生・活性化させ、都市のイン
  フラとして将来にわたって維持していくことが重要です。その
  ための一つの方策として、平成24年10月から、バス共通I
  Cカードの本格的な導入を予定しています。
(4)長野市民病院の黒字化
   市民病院の経営健全化については、「長野市民病院中期経営
  健全化計画(公立病院改革プラン)」に沿って取り組んでいま
  す。引き続き、救急医療やがん診療を充実させ、市民の皆さん
  に選ばれる病院を目指し、計画に掲げる平成25年度の黒字化
  を前倒しして達成するようにしたいと考えています。
(5)飯綱高原スキー場と戸隠スキー場の経営改善
   スキー場は、長野市の冬の重要な観光資源だと常々思ってい
  ます。民営化などを含め、スキー場のさらなる魅力アップや経
  営効率化の検討を進めて、黒字化の道筋を何としてでも付けた
  いと考えています。
(6)飯戸鬼(いいとき)構想の進展
   飯綱、戸隠そして鬼無里地区が連携し、お互いの魅力を高め
  合う事業を展開します。具体的には、アウトドア体験を気軽に
  楽しめる飯綱高原、人気のある戸隠神社やスキー場、キャンプ
  場を有する戸隠、奥深い自然が魅力の鬼無里、3地域それぞれ
  の魅力を結び付けた観光振興を図ります。
(7)歴史、文化、芸術を大切にするまちづくり
   長野市は、有形無形の歴史・文化財産の宝庫だと自負してい
  ます。平成16年度から行っている「イヤーキャンペーン」で
  も、住民の皆さんと一緒に、市内外にその魅力を発信してきま
  した。引き続き、歴史・文化の魅力があふれるまちづくりを推
  進していきます。
   また、市内にある200を超える野外彫刻を活用した潤いの
  あるまちづくりを推進し、教育や観光振興につなげるとともに、
  新たに芸術作品や伝統芸能などをデジタルアーカイブ化して発
  信することを検討しています。

2 ハード部門
(1)市役所第一庁舎と長野市民会館の建て替え 
   平成26年度の完成を目指し、現在長野市民会館の解体工事
  を進めています。市役所第一庁舎は、市民の皆さんが利用しや
  すく、かつ、いざという時の防災拠点の機能を備えた施設に、
  また、長野市民会館は、本市の文化芸術拠点となる質の高い、
  使いやすい施設にします。
(2)ごみ焼却施設の建設
   長野広域連合の環境アセスメントが終了次第、地元の皆さん
  と十分な協議をしながら、合意形成に向けたステップを着実に
  踏み出します。
(3)斎場2カ所の建て替え
   大峰斎場は、来年度に建設工事に着手する予定です。松代斎
  場については、できるだけ早く地元合意が得られるよう努力し
  ます。
(4)市立小・中学校の耐震化対策 
   事業の前倒しを図ってきた結果、現在の耐震化率は80%で、
  かなり進展してきていると感じています。残りについても早期
  耐震化に向けて計画的に進めています。もう一頑張りです。
(5)JR長野駅東口周辺整備
   主な道路の築造工事が進むにつれ、東口周辺整備が本格化し
  てきたと実感しています。引き続き、地権者の皆さん、関係す
  る皆さんと連携を取りながら、事業を進めたいと思います。
(6)中心市街地(JR長野駅善光寺口前・中央通り・権堂地区)
  の活性化 
   中心市街地の活性化は、まちづくりを進める上で、大変重要
  なポイントです。門前町としての魅力を高め、長野市の顔とし
  て、そして、そこに住む人、そこを訪れる人にとって快適なま
  ちづくりを進めます。

 そして、これから新規に行いたいハード事業がありますので、以
下に記します。
(7)Jリーグ対応のサッカースタジアム
   スポーツは、まちに活力を与えます。スポーツを軸としたま
  ちづくりを進めている本市にとって、JFL(日本フットボー
  ルリーグ)に所属するAC長野パルセイロを応援することは大
  きな意味を持つと考えています。今後、Jリーグ昇格を見据え
  たサッカースタジアムの建設を検討する際は、市の財政負担の
  軽減に考慮する必要があります。また、ファンドまたは出資を
  はじめとする民間活力の利用について十分検討したいと考えて
  います。
(8)茶臼山動物園・自然植物園の再整備とモノレール建設
   茶臼山一帯は、長野市の大きな観光資源と考えています。動
  物園には「レッサーパンダの森」のような新しい展示手法を取
  り入れ、自然植物園はボランティアの皆さんによる植栽イベン
  トなどにより植栽の充実を図るなど、茶臼山エリアの再整備を
  行いたいと考えています。しかし、この区域は傾斜地のため、
  エリア内を移動することがとても大変です。そこで、新たな移
  動手段として、モノレールのような乗り物を計画しています。
   
3 ソフト・ハード両面に関する部門
(1)全ての施策において、省エネルギーの観点を基本とする設計
(2)太陽光発電、小水力発電、木質バイオマスエネルギーなどの
  自然エネルギーの活用 
(3)次世代エネルギーパークの整備
(4)新エネルギーの研究と開発

 前述しました第四次総合計画後期基本計画に位置付けた市の方向
性を実現するためには、私がやり遂げたい具体的な内容である上記
1~3の項目を進めることが何より重要だと思っています。

 国の政権交代の後、国、そして地方自治体という政治の世界に、
新しい動きを模索する動きが出てきているように感じています。
 東日本大震災、福島第一原発の事故、台風12号、15号に見ら
れるような大きな被害、TPP(環太平洋連携協定)参加問題、沖
縄の米軍基地問題、歴史的な円高問題、ギリシャに端を発したヨー
ロッパの信用不安、中近東や北アフリカの混乱など・・・、日本人
全体が、何か鬱屈(うっくつ)したもの、言い知れぬ不安を感じて
いると思います。
 地方自治体においても、「大阪都構想」や「新潟州(新潟都)構
想」の動きも、先行きが読めない状況です。

 私は、従来、市長として権限のないことについて語るのは、犬の
遠ぼえのようなもので、それについては発言しないことを旨として
きました。また、長野市には、国や県に口出しするほどの力はない
と感じていました。所与の条件の中で、最大限、長野市民の幸せと
将来を考えて、市政を運営してきました。その結果として、財政に
ついては現段階において、皆さんにご心配をお掛けしない状況を築
き上げてきました。
 しかし、今後については、市長在任の10年間の経験からもう一
歩踏み込んで、地方自治法や農地法の改正などについて国や県に提
案をしていきたいと考えています。