すっかり長野市の冬の風物詩となった「長野灯明まつり」が、今
年も2月11日~19日に開催されました。長野オリンピックの開
催を記念して誕生したこの祭りも今回で9回を数え、世界的にも有
名な照明デザイナーの石井幹子(もとこ)さんの企画により、善光
寺が平和の光でライトアップされました。
特に今回は、東日本大震災、栄村を中心とした地震などにより未
曽有の被害を受けた被災地の一日も早い復興を願い、これまでの五
輪にちなんだ5色の光に、平和の黎明(れいめい。夜明け)をイメ
ージした紫色とあけぼの色の2色を加えて、「復興と平和の黎明」
をテーマに制作されました。山門は青紫色とあけぼの色で夜から夜
明けを、仁王門は黄色と白色で夜明けから朝を表現し、一番奥の本
堂は赤色の光により、赤々と昇る太陽をイメージしたと石井さんか
らお聞きしました。
また、オープニングセレモニーには、福島県から長野市に避難し
ている子どもたちが招待され、カウントダウンに合わせて一緒に点
灯のスイッチを押しました。そして、ライトアップされた瞬間、山
門前に集まった皆さんから、「ウワー」という歓声が沸き起こりま
した。
ライトアップされた善光寺の本堂や山門を見上げながら、先ほど
の石井さんのお話を思い出し、作品の奥深さに感激しました。今回
は、この祭りに合わせて期間限定の山門夜間特別拝観が初めて行わ
れ、山門の上から門前町の夜景を楽しもうと、入り口には長蛇の列
ができていました。この祭りに新しい魅力が加わったとうれしく思
いました。今年は、昨年よりかなり多くの皆さんがオープニングセ
レモニーにお越しになり、祭りを楽しんでおられたように感じまし
た。
長野市の冬は、とても寒いこともあって、観光客が極端に減少し
ます。スキーやスケートを楽しむ人口が減ってきたことも原因でし
ょうか。市民の皆さんを含めて、この祭りをきっかけに、大いに冬
の長野市を楽しんでいただきたいものだと熱望しています。
市内の小学生などがデザインした切り絵を灯籠に張り、浮かび上
がる絵柄と灯(あか)りを楽しむ「ゆめ灯り絵展」も開催され、
750基の灯籠(昨年より100基多いそうです)が、表参道(中
央通り)の善光寺交差点から北野文芸座までの間とJR長野駅善光
寺口駅前広場に展示されました。今回のテーマは「平和」で、姉妹
都市であるアメリカ・クリアウォーター市の皆さんに加え、今回初
めて友好都市である中国・石家庄市の皆さんからも切り絵をご応募
いただき、全部で35点の作品をお寄せいただきました。ご応募い
ただいた皆さん、ありがとうございました。
「長野灯明まつり」が始まった日、トイーゴ広場では、「長野市
民平和の日のつどい」を開催しました。昭和60年の「平和都市宣
言」を記念してスタートしたこの事業も、今年で25回目を迎えま
した。「平和」をテーマに、今年も「灯明まつり」と同時開催する
ことができました。これからも、2つのイベントが融合し、「平和
の大切さ」を発信する冬の一大イベントに発展することを期待して
います。
「平和の祭典」といえばオリンピックです。長野オリンピックが
開催されて14年がたちますが、その時の感動を伝え、地域の活性
化につなげようと、今年も「東口フェスティバル」がユメリア通り
で12日に開催されました。長野オリンピックの翌年から毎年開催
され14回目ということですが、イベントを通じて、地域の連帯が
強まり、ふれあいの輪が広がっていると思います。
また、前日の11日には、JR長野駅東口駅前広場に2008年
に建てられた「長野オリンピック10周年記念メモリアルタワー」
をシンボルとした「メモリアルタワー祭り」が初めて開催され、地
域の元気とパワーを感じました。
「継続は、力なり」。これからも、冬のイベントとして、善光寺
口に劣らぬにぎわいが生まれ、大いに盛り上げていただきたいもの
です。
ここで、オリンピックの話題を2つ紹介します。
2018年冬季オリンピックの開催地が、韓国の平昌(ピョンチ
ャン)に決定したことは、皆さんもご存じのことと思います。2月
7日から10日にかけて、平昌の行政のトップである李(イ)郡守
(首長)さんが、県内のオリンピック会場や施設の視察にお越しに
なり、8日に長野市のボブスレー・リュージュ・スケルトン競技会
場のボブスレー・リュージュパーク(スパイラル)を視察されまし
た。視察前の懇談では、3回目の立候補で開催地に決定されたその
熱意と努力に敬意を表するとともに、同じアジアのオリンピック開
催都市として協力できることがあれば積極的に取り組みたいとお伝
えしました。また、具体的な話として、平昌では同競技会場がまだ
建設されていないとのことで、それならば完成までの間、合宿や練
習にぜひスパイラルを使用してもらえないかと提案してみました。
実は、これについては、塚田前市長さんが以前韓国を訪問した際に
韓国側にお話しされたり、昨年県議会議員さんが平昌を訪問した際
に、スパイラル活用を記載した私の親書をお渡ししていただいた経
過もあります。同競技人口が少ないと言われる中、平昌に施設が建
設されれば、日本と韓国で連携した大会なども開催される可能性が
高まり、競技者の裾野拡大につながるのではないかと感じています。
いずれにしても、平昌での冬季オリンピックが成功裏に開催され
ることを、同じアジアの開催都市として応援したいと思います。
もう一つは、14歳から18歳までの若者を対象としたオリンピ
ック、「ユースオリンピック」を長野に誘致してはどうかという話
題です。ユースオリンピックは、第1回夏季大会が2010年にシ
ンガポールで開催され、今年1月には第1回冬季大会がオーストリ
アのインスブルックで開催されました。今後は、2014年に第2
回夏季大会が中国の南京で、2016年に第2回冬季大会がノルウ
ェーのリレハンメルで開催される予定です。そこで、東京が
2020年の第32回オリンピック競技大会および第16回パラリ
ンピック競技大会に立候補していますので、長野市も同じ年のユー
スオリンピック第3回冬季大会に立候補してはどうかというもので
す。実は、最近こうした声をよく聞くようになりました。
まだ、具体的な話にはなっていませんが、とても夢のある話です
し、長野が再び感動の舞台になることは素晴らしいことですよね。
平和な社会の実現は、みんなの願いです。昨年経験した未曽有の
大震災の後、私たちは、平和の重みを一層実感しています。一人一
人が、平和を愛する気持ちを強め、広げていきたいと考えます。
2012年2月23日木曜日
平和を願って
2012年2月16日木曜日
「明日のしののい」を語る
地域の潜在的な魅力を掘り起こし、ブランド化を目指す、観光誘
客キャンペーンとして本年度実施している「2011篠ノ井イヤー」
と「2011信州新町イヤー」も残すところ1カ月半となりました。
両キャンペーンとも地域の魅力・個性を思う存分引き出したさまざ
まな企画やイベントを行い、地域の活力アップに貢献しています。
こうした中、「信州しののい 人・モノ・交流文化のまち」を基本
コンセプトに展開されている篠ノ井イヤーの1年を振り返り、そし
てこれからの篠ノ井のまちづくりをどのように進めるかをテーマに
した「2011篠ノ井イヤー記念フォーラム」が2月4日、篠ノ井
市民会館で開催されました。
会場入り口には、これまで行われた数々のイベントの写真パネル
が展示されていました。4月の「オープニングセレモニー」に始ま
り、うららかな春の日差しの中の「合戦場めぐりと桃・桜花見コー
スのウオーキング」、5月の「春の篠ノ井フェスティバル」、7月
の「建具組子細工・竹工芸の職人展」、炎天下の中、長野市近郊か
らも獅子が集まった「獅子の祭典」、秋の「書道パフォーマンス」
「少年サッカー大会」など、私もできる限り参加させていただきま
したが、1枚1枚の写真がとても懐かしく、そして同時に「よく、
やったなあ」と皆さんの努力に感謝の気持ちでいっぱいになりまし
た。まさに、2011篠ノ井イヤー実行委員会の渡邉一正(わたな
べ かずまさ)会長さんはじめ、篠ノ井地区の皆さんの総力の結集
だと感動しました。
しかし、「長い道のりだった。篠ノ井地区としては前例がない中、
最初は手探りの状態であった」と渡邉会長さんは振り返ります。篠
ノ井の魅力とは何なのか。そこで、最初に行ったのは住民の皆さん
へのアンケート調査で、地域の魅力を掘り起こすことから始めたそ
うです。そうしたところ、何と1,000を超える項目が出され、
検討に検討を重ね37項目に絞り、事業化にこぎ着けたとのことで
した。フォーラムの中でも、これまで実施した全ての事業がスライ
ドショーで紹介され、会場にお集まりの皆さんも思い出がよみがえ
り、感慨深くご覧になったと思います。
フォーラムでは、「明日のしののい」をテーマにパネルディスカ
ッションが行われました。パネリストの皆さんを紹介しますと、地
域プランナーで、エコール・ド・まつしろ2004のアドバイザー
としてご支援いただいた、株式会社おくとプロ代表取締役社長の上
村道正(かみむら みちまさ)さん(辛口コメンテーターとも紹介
されていました)。子育て支援・男女共同参画社会の推進に活躍さ
れている、財団法人21世紀職業財団長野駐在代表の宮本照子(み
やもと てるこ)さん。育苗家で、NHKの「趣味の園芸」をはじ
め多数のテレビ番組などに出演されていて、篠ノ井中央公園の整備、
茶臼山自然植物園の再生や緑育を推進している矢澤秀成(やざわ
ひでなる)さん。そして、渡邉会長さんと私。コーディネーターは、
ラジオ番組などで皆さんおなじみの武田徹(たけだ とおる)さん
でした。
ポスト・イヤーキャンペーンをどうするか。パネリストの皆さん
から、それぞれの立場、経験から大変参考になるたくさんの提案が
出される中、私は、「篠ノ井には、以前からたくさんの魅力があっ
た。しかし、昭和41年の長野市との合併以来なかなか表に出てこ
なかった。それがようやく今回のイヤーキャンペーンで花開いたと
思っている」と申し上げました。そして、これからの篠ノ井の新し
い魅力として、「矢澤さんの緑を育てる活動」と「サッカーのAC
長野パルセイロ」の二つを挙げました。
その矢澤さんからは、「植物と花」をキーワードに、すてきなお
話を頂きました。今年の4月に「ながの花と緑そして人を育てる学
校」が篠ノ井中央公園に開校します(校長は、矢澤さんです)。
「学校は2年制で、2年間学んだ人にマイスターの資格を与え、篠
ノ井中央公園などで活動してもらうとともに、身近な公園をそれぞ
れ特色のある公園にする。そして、篠ノ井中央公園から篠ノ井駅前
までの商店街、さらに茶臼山自然植物園を花でつなぎ、ガーデン都
市・篠ノ井を目指してはどうか」と、とても魅力的なお話をお聞き
することができました。また、矢澤さんが、子どもたちを対象に開
催している「育種寺子屋」では、花と花を交配させ、できた種を育
て、世界に一つだけの花を咲かせる取り組みを昨年から行っていま
す。「種から花を育てるには時間がかかる。しかし、できた花を見
るよりもできるまでの期間が大事。篠ノ井中央公園も、出来上がっ
た後より、造る過程を楽しんで、みんなで素晴らしい公園にしよう」
とお話しされました。
矢澤さんの話に宮本さんも、「花と緑のあるまちは、文化の薫り
がする素晴らしいまちになる」と賛同され、さらに世代間の交流が
できる場は、地域文化の継承にとても重要だと提案されました。2
年前に篠ノ井に引っ越してこられた宮本さんは、先日絵画展に行か
れたそうですが、「澄ました雰囲気ではなく、『この絵はどういう
思いで描かれたのですか』と、作者と見た人がそんな会話で交流で
きる絵画展はどうか」などと、住民の目線から具体的な事例をお話
しされました。イヤーキャンペーン事業の一つ「こねつけコンテス
ト」にも参加され(惜しくも最優秀賞は逃しましたが、優秀賞だっ
たそうです)、その経験から、「イベントを『してもらう立場』で
はなく、自ら参加して『する立場』になれば、やりがいが見つけら
れる。そうした人がもっと増えればいい」とも話されました。また、
先日篠ノ井市民会館で小学生も出演した落語会があったそうですが、
残念ながら観客が少なくてもったいないと思ったそうです。コーデ
ィネーターの武田さんも落語を聴きに来ていたそうで、「笑って涙
を流したほど面白かった。もっと声を掛け合って多くの人が参加で
きればよかった」と感想をおっしゃいました。
上村さんからは、「こうした地域イベントは、1年目に行政が種
をまき、2年目から市民がそれを育てることが大切。そして、もう
一つのポイントは、子ども。矢澤さんの花を育てる活動を中心にし
て、子育てにつなげてはどうか。子育て支援策ということであれば、
行政もお金を出しやすいですよねえ、市長さん」と話を振られ、会
場から大きな拍手が沸き起こったのには、頭をかいてしまいました。
そしてもう一つ、「世の中どこに行っても観光だらけ。篠ノ井は
観光地ではない。みんなが住みたくなるまちを目指すべき。住みた
くなるまちには若い人が集まる。そして、花と緑と子どもに着目し
て、園芸甲子園といった企画はいかがか。更級農業高校といった立
派な環境がある」と政策的な視点からのお話がありました。そして、
やはり篠ノ井は、書家・川村驥山(きざん)ゆかりの地であり、
「書のまち」を目指してはどうかと皆さんから提案を頂きました。
また、渡邉会長さんは、「篠ノ井には、病院や老人ホーム、学校
は比較的多くあるが、駅前商店街の活性化が課題だ。そうした中、
駅前通り沿いに開設した篠ノ井イヤー案内所『およんなし亭』や、
ひと月に1回行われた『ながの軽トラ市in篠ノ井』は将来の方向
性を見いだした。まちづくりの動機付けにはみんなを引っ張るリー
ダーが大事だ」と話されました。
最後に私から篠ノ井地区の夢のあるプロジェクトとして、茶臼山
公園一帯にモノレールを造りたいといった話と、AC長野パルセイ
ロへの応援の話をしました。サポーターとして、また観客としてス
タンドに足を運んでほしいと、篠ノ井地区を挙げた応援をお願いし
ました。そして、何よりも地域全体で盛り上げる、そのパワーが大
切であることを話しました。
今回のパネルディスカッションは、「花」、そして次世代を担う
「子ども」がキーワードであったと思います。会場から何度も賛同
の、そして励ましの拍手を頂き、終始アットホームな雰囲気で、
「明日のしののい」について語り合いました。
ところで、フォーラムの中で、篠ノ井音頭が披露されました。昭
和41年の長野市との合併以降途絶えていた踊りを復活したもので
すが、4月のオープニングセレモニーでは踊っていなかった小学生
の女の子たちが、今回は大人に交じって踊っていました。こうした
若い世代の皆さんが、伝統を引き継いでいくことが大切だと感じて
います。
いよいよ2011篠ノ井イヤーも大詰めです。残すは「信州しの
のい 川村驥山展」と「冬の古道めぐり」の2事業となりました。
最後まで皆さんで盛り上げていただき、これからの篠ノ井地区の発
展と振興につなげてほしいと願っています。
2012年2月9日木曜日
昨今の報道から思うこと
前回のかじとり通信の冒頭で、年末年始の報道について少し感想
を申し上げました。「これは」と思う内容のものがあまりなかった
のですが、それでも、新聞や本から得心したものが二つありました。
一つは、「鋭い痛みを伴う大怪我(けが)の治療に追われ、自覚
症状に乏しい深刻な病の進行を見逃していたようなものだ」という
ものです。「鋭い痛みを伴う大怪我」とは、東日本大震災のような
国民の生命を脅かす出来事などであり、当然こうした問題への対応
は最優先されるべきものです。それに対し、「自覚症状に乏しい深
刻な病」とは、日々の生活の中ではその変化の違いが分からない、
じわりじわりと進行している地球温暖化問題などを意味するものと
思います。
もう一つは、「ドイツのナチス党はクーデターで権力を奪ったの
ではない。極めて民主的と評されていたワイマール憲法の下で選挙
に勝ち、全権委任法を議会で制定して総統ヒトラーが誕生し、独裁
者になった。独裁を許したのは国民であった」というものです。
「なるほど、こういう見方もあるのか」と驚きを感じつつ読みまし
た。それでも自分なりに少し調べてみようと思い、「全権委任法」
についてインターネットで検索してみました。全権委任法とは、
「非常事態に立法府が行政府に立法権を委譲する法律。一般に、
1933年のドイツでヒトラー政権に立法権を委譲した法律を指す」
とあり、「独裁を許したのは国民であった」の意味がようやく理解
できました。
つまり、独裁といえども、それを許した国民の存在があったわけ
で、自覚症状に乏しい深刻な病の進行を見逃してきたからなのでし
ょう。自覚症状に乏しい深刻な病には、対症療法だけでは回復が困
難で、病にかからない体質へ改善すべく根本からの治療が必要なの
かもしれません。これができるかできないかも、われわれ一人一人
の意識にかかっているということなのです。
そして、その自覚症状に乏しい深刻な病の一つは、今、国民(政
治家も含め)が、ポピュリズムに陥っていることではないでしょう
か。国会は、党利党略、選挙対策ばかりで、民主主義の悪い面が出
ているように思えます。大衆迎合では、今の激動の時代を乗り切る
ことはできません。言葉の遊びはもうたくさんです。「決断と実行
」、今では懐かしい昔のキャッチコピーのような言葉です。
話は変わります。今、ヨーロッパの金融不安が深刻な状況となっ
ています。ギリシャ、イタリアなどのようにはなりたくない(でも、
旅行で訪れるには、楽しい国ですよね)。
お金の管理ができなければ、個人であれ、国家であれ、最終的に
は破綻し、他人や他国の助けを借りなければならないことになるで
しょう。「入りを量りて、出ずるを為す」は、どこの社会でも、当
たり前のことなのです。
ところで、以前からどうも分からないことがあります。歴史的な
円高が続いていることです。「日本の財政状況は最悪。イタリアよ
りも悪い」と言われながら、日本国債の金利は安く、「円」が高く
なる。なぜでしょう。
やはり、ヨーロッパを含めた世界の金融不安が深刻であることが、
円高の大きな要因ではないでしょうか。相対的に日本はまだいい。
そして、そうした中でも、やはり日本の実力は上がっている。そう
信じたいと思います。いずれにしても、日本の評価が高いというこ
とであり、それならば喜ぶべきではないでしょうか。1ドル360
円の時代を知っていますが、ニクソン・ショックでドルが安くなり、
「青年の船」に乗った時、船の中の両替所で、ある日1ドル180
円ぐらいになって、うれしかったことを思い出します。
そうであれば、日本がもう一段強くなる大きなチャンスを持った
ということでしょう。国としても、安くなったドルや海外資産を買
い込むチャンスですし、先日も、日本が中国の国債を買うことに合
意したとの報道もありました。円が安くなったら・・・、その時は
ドルや海外資産を売ることもできます。
しかし、こうした円高の中、その影響をまともに受けるのは、輸
出企業です。今、こうした企業は苦境に立たされています。日本で
のものづくりはもう無理だからと工場などの海外移転が進んでいま
す。実際、海外に工場を造って進出した企業をたくさん知っていま
す。昨年のタイの洪水では、現地の日本企業の工場も水害に遭い大
変だったわけですが、その映像を見て、日本企業が海外でものづく
りをしている実態をいや応なく実感させられました。
海外でのものづくりが進む要因は、円高だけではなく、人件費の
多寡、優秀な人材の確保、規制の程度などいろいろあり、利益を追
求する企業としては仕方のないことだと思います。しかし、アメリ
カがものづくりをやめて(すなわち、ものづくりを海外に移転して
)、金融大国になってしまった事実には、日本も注意しなくてはな
らないと思います。
このように日本の輸出産業が停滞する中、先日、ついに日本の貿
易収支が赤字に転じたという記事を見ました。しかし、「日本のG
DPの中で輸出が占める割合は、15~20%程度だから、大した
ことはない」とおっしゃる人もいますが・・・。
円高悪玉論ばかりが横行していますが、一方的な論調に翻弄(ほ
んろう)されるべきではないと思っています。歴史の中でも、世論
が思わぬ方向に傾いていった事実があるということです。
年末にテレビで見た日露戦争を描いた司馬遼太郎さんの「坂の上
の雲」の最終回に、こんな場面がありました。アメリカのセオドア・
ルーズベルト大統領の仲介で日露講和条約が結ばれた時、日本の新
聞は一社を除き、条約反対論を掲げ、それに呼応するような形で日
比谷焼き打ち事件などが起こった。また、当時講和交渉の全権大使
だった小村壽太郎外務大臣は、国賊とののしられ、命の危険すらあ
ったとのことです。
世論、それも、皆が一致して大合唱する時の危険性を感じていま
す。昔読んだ山本七平さんの本に、「全員一致の議決は、無効とす
る」といった文章を記憶しています。つまり、どんな正しい意見で
も、一つの意見には必ずその意見と矛盾するものを含むので、全員
一致はありえないということや、全員が一致してしまえば、その正
当性を検証する方法がなくなってしまい、したがって、誤りでない
ことを証明する方法がないから無効という考え方です。
いずれにしても、多様性を失った社会は脆弱(ぜいじゃく)化し、
やがて衰退していくのではないかと危惧しています。さまざまな意
見が飛び交い、活発に議論される社会こそが健全と言えるのではな
いでしょうか。
2012年2月2日木曜日
財政赤字が日本を救う
年末年始のマスコミ報道は、日本を元気にするような明るい話題
に乏しく、いささか残念に思いました。昨年1年間の報道を振り返
えると、東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故と広がる放射
能汚染、尖閣諸島問題、沖縄米軍基地問題、ヨーロッパの金融不安、
日本財政の危機的状況、社会保障と税の一体改革、TPP(環太平
洋経済連携協定)、政治主導、消費税率アップ、北朝鮮問題、野田
政権誕生、衆参ねじれ、閣僚の相次ぐ不適切発言などがありました
が、各社とも同じような論調で伝えているものが多かったように思
え、見出しだけは独自性を主張しているようですが、中身は似たよ
うなものと感じました。
できるだけ多くの報道から最新かつ良質の情報を収集したいので
すが、内容に差異がなく、興味を失ってしまうことが、一番困った
ことでもありました。マスコミには、国民が政治・経済や文化、国
際社会などに興味や関心を持てるような工夫を、そして鋭い切り口
からの報道を望みます。
そのようなことを思いつつ、東京へ行った際、何か興味を引く本
がないかと東京駅八重洲口にある大型書店に立ち寄ってみました。
何冊か手に取ってみましたが、いずれもこれまでのマスコミの主張
とほとんど同じで、あまり食指が動きませんでした。しかし、一冊
だけ目に留まった本がありました。「2012年 大恐慌に沈む世
界 甦(よみがえ)る日本」(三橋貴明さん著・徳間書店)です。
「大恐慌に沈む・・・」、この本も、また悲観的な内容の本かと一
瞬目をそらしかけましたが、「大恐慌に沈む世界」の中で、「甦る」
のは「日本」とあり、「これは、ちょっと違うぞ」と思い、購入し
てみました。
三橋さんは著書の中で、まず、「財務省やマスコミは、やたら
『財政健全化』あるいは『財政黒字』という言葉を好む。(略)国
内マスコミは日本の財政について、『日本の国の借金はGDP(国
内総生産)の2倍にも達している!破綻だ!』と叫び、国民の危機
感を煽(あお)っている」。(略)しかし、「実は、日本の国の借
金は、少なくともここ数年間はそれほど増えていない」。一方、
「中国や韓国は確かに政府の負債残高が凄(すさ)まじいペースで
増えてはいるが、GDPもその分だけ拡大している。(略)そもそ
も資本主義とは、各国の経済主体(企業、家計、政府など)が負債
(借金)を増やし、投資を拡大していくことが成長の基本である。
(略)日本の財政の問題は政府の負債残高増大そのものではない。
GDPが成長していないことこそが、問題なのである」。したがっ
て、「『国の借金が大変だから、増税しよう』という主張はマクロ
的に間違っている」とし、マスコミや一部の政治家が「国の借金」
の本質を理解していないことを酷評されています。
そして、財政健全化の方法には、デフレ下とインフレ下では真逆
となり、
「デフレ下の国では、財政赤字を増やすことこそ健全な財政」
「高インフレ率の国では、財政黒字を増やすことこそが健全な財政」
と主張されています。
この本の中で三橋さんは、日本では1990年代のバブル崩壊後、
企業は投資を回避して経費削減にひた走り、家計も投資が激減し、
過剰貯蓄状態となった。そこに輪をかけるように、政府までもが財
政再建のためにと増税や公共投資などの支出の削減に乗り出したた
めに、GDPがマイナス成長となり、日本は長期デフレ状態から脱
却できないままでいると説明しています。これを打破するためには、
「日本政府が国債を発行(借金)し、(場合によっては)日銀が長
期国債を買い取ることで政府の資金調達をサポートし、国内の『有
効需要(公共投資など)』となるように支出を拡大すればいいだけ
なのである」と主張されています。これにより、雇用が創出され、
税収が上がり、ひいては国の借金が減ることになるのです。財政赤
字がさらに膨張した場合、デフォルト(債務不履行)の危険性が増
大するのではないかとの疑問に対しては、「日本やアメリカなどの
先進国の自国通貨建て国債のデフォルトなど、考えられないという
より、あり得ない。何しろ、国債を発行する中央政府は、『徴税権』
及び『通貨発行権』を持ち合わせているのである。通貨を発行でき
る中央政府が、自国通貨建ての国債のデフォルトなど起こすはずが
ない。(略)中央政府は中央銀行に命じ、国債を買い取らせてしま
えば済むのである」と論破されています。そして、「日本、スイス、
アメリカ、ドイツの4カ国は、『国債のデフォルトが決して起きな
い4カ国』」と主張されています。ただし、国債償還のために通常
以上に通貨を発行すれば、当然インフレを引き起こすことになりま
すが、これに対して三橋さんは、「『政府のデフォルト』と『イン
フレ率上昇』は全く別の現象であり、解決策も異なる」と言うので
す。
難しい本で、簡単にまとめることはできませんが、要は、自国通
貨建ての国債であればデフォルトの心配はないのだから、日本は、
財政赤字を増やしてもっと公共事業を行い、需要を喚起してGDP
の成長を促すべきであるということです。三橋さんは、具体的な公
共事業として、まずは、東北復興と福島第一原発事故終息のための
事業、次に、既存の原発や皇居、国会議事堂といった政府の重要施
設の耐震化事業、そして、高度経済成長期に建設され50年が経過
した道路や橋梁(きょうりょう)など(私見ですが、建築物も含ま
れると思います)のインフラの補修事業を挙げられています。こう
して、「日本が正しいデフレ対策を実施し、内需が拡大すれば、外
国からの輸入が増える。これは、アメリカは無論のこと、需要不足
に悩む欧州、さらにはアジアの輸出国をも助けることになる」と、
次の経済覇権国は日本だと主張されています。
また、三橋さんはこの本の中で、現在のように税収の「源」とな
る名目GDPが成長しない状況下では、国の借金を減らそうと増税
をしても結局減収となり、そうなればさらに増税をするという負の
連鎖に陥ると訴えられています。
社会保障と税の一体改革の議論の中で、これまで消費税増税は適
切な手段であると考えていましたし、賛成の立場で何度か「かじと
り通信」にも書きました。しかし、この本を読んでみて、確かに増
税は必要かもしれませんが、今このタイミングは適切ではない、あ
るいは今このタイミングで行うのであれば、せめて大規模な公共投
資と一緒に行うべきではないかとも考えるようになりました。また、
三橋さんは、アメリカのオバマ大統領が打ち出したアメリカ国内の
雇用創出を目指す「輸出倍増計画」の実現が目的のTPP交渉につ
いても触れており、TPPに対し、少し考え方を変える必要がある
のかなあとも感じています。TPPに関しては、農業分野に限らず、
あらゆる分野、そしてその背景・目的などについて十分検討される
べきであると思います。
そして、あらためて市長として、今何をすべきかを考えてみまし
た。
まず、国と地方自治体の一番の違いは、国は通貨を発行できます
が、地方自治体は当然のことながらできないということです。市債
なりで借金はできますが、これも国との協議が必要です。つまり、
地方自治体として大事なことは、やはり限られた予算の中で「入り
を量りて、出ずるを為す」を基本理念に、必要な公共事業を必要な
時期に行い、市内にお金を流すことではないかと考えています。
いずれにしても、平成24年度予算編成に当たって重点的な予算
配分とした「小・中学校耐震化事業」など大規模プロジェクト事業
を中心に、Jリーグ基準のサッカースタジアム整備や茶臼山再整備
計画、さらには農業法人を含む中小企業の育成など将来を見据えた
公共事業を計画的に進めることによって、景気を回復し、雇用を創
出していくことが大変重要であると再認識しています。