県市長会は、県が来年度小学校の30人規模学級の拡大に伴う
教員人件費の負担を市町村にも求めてきたことに対し、来年度4年生
に限って受け入れる考えを示しました。
8月30日の信毎の記事によると、知事は29日の記者会見で、
「県と市町村は対等だと言い、県方針に唯々諾々と従わないとおっ
しゃるなら、もっと自律的に(学校運営を)お考えになればいい。
問題の先送り以外の何ものでもない」と、痛烈な市長会批判をされ
たようです。私は県市長会の役員ではありませんが、このような
いわれ無き批判に対し、市長会の一員として強く抗議するものです。
今回の県教育委員会の提案は、
1.本年度1年生から3年生までで実施した30人規模学級(従来
の言い方としては35人学級です)を、来年度は4年生から6年
生までに拡大する。
2.ただ県財政が厳しいので、市町村も財政力に応じて応分の負担
金を納めてもらう。というものです。知事はさらに「多くの町
村長は県と一緒にやろうと言っている」と町村会との違いも強
調、一部譲歩にとどまる市長会側の対応を「残念に思う」と述
べられたようです。
この一方的な記者会見の記事を読んだ方は「市長会はけしからん」
と感じられるかもしれません。しかし全ての市長が「妥当な対応」
と認めたことに、一方的な批判を展開されるのは、あまりにも独断
的で聞く耳をもたない態度だと私は思います。
この問題について、長野市の考えをお話しましょう。
1.義務教育に係る経費については、一部国が負担するものの、教
員人件費は県負担、その他学校建築費や管理関係諸費は、市町
村負担ということは、国が決めたことです(多分法律でしょう
ね)。従って県が教員人件費を財政力に応じて、市町村に負担
を転嫁することは、地方財政法違反なのだそうです。そこを逃
げるために負担して欲しいと言わずに、「任意の協力金」と言
っているわけですが、多くの人たちが望んでいる少人数教育を
人質にとって、あたかも県の責任回避を正当化しようとしてい
ると市町村長が考えても当然でしょう。
2.国の基本は40人学級であり、それ以上の手厚いことをする場
合、自己責任でやりなさい、一切面倒は見ないとのことです。
ですから今回の教員の確保及び人件費の負担については、県が
責任を持ってやるべきことであることは自明です。
3.実は、この問題は教員給与の問題だけではないのです。教室が
足りなくなるのです。この財政窮迫下、児童減少の中で、教室
をつくらなければならない。本年の3年生までの対応は、何とか
空き教室や特別教室の転用で間に合わせましたが、来年6年生
まで一挙にやることは不可能です。やるとしても、場合によっ
ては土地の手当てをしたり、建物を造るための一定の時間が必
要です。もちろん、補助基準を超える教室分についての国の補
助金はありません。県はこの事業費を補助して下さるのでしょ
うか。
4.町村会が県知事に同調しているとおっしゃっていますが、それ
は、この問題は町村にとってほとんど影響がないからでしょう。
町村では、児童数が少ないが故に、既にほとんど30人規模学
級は実現してしまっているか、クラス増加は僅かで済むはずで
す。今回難しい局面に立っているのは、長野市や松本市など、
規模の大きな市だと私は思います。
5.それでは、なぜ4年生だけ限定的に認めようとしているかとい
うことですが、それは子供達のことを考えたからです。すなわ
ち、現在の3年生は、今年の4月にクラス替えをしたばかりな
のに、来年、4年生になったとき、また40人学級にクラス替
えをしなくてはならない。これは可哀相だということです。同
様の話ですが、もし県の言うとおり来年から6年生までを一挙
にやるとすれば、現在の5年生は、来年4月に一年間のためだ
けにクラス替えをしなくてはならない。卒業まであと1年とい
う時期にクラス替えをすることは、子供達の仲間意識の醸成と
いう点でよい結果にはならないし、将来、大人になったとき、
同級生という素晴らしい人間関係が出来ないのではないか。も
ちろん他にもいろいろ心配があるというのが、長野市教育委員
会と私の議論でした。そこで、この段階で教育現場に混乱を起
したくないという観点から、新4年生だけは子どもたちのため
にも、長野市として受け入れざるを得ないのではないかという
ことになったわけです。
6.現実問題として、正規の教員不足が深刻です。30人規模学級
の導入に当たり、生徒支援加配、日本語指導や帰国子女加配、
そして少人数学習指導加配などの先生を減らし、クラス担任に
したということを聞いており、そのために現場は非常に苦慮し
ているという話も伝わっています。さらに6年生まで実施する
となれば、相当正規の教員が足りないはずですが、急に多くの
採用は出来ないため、臨時の教師を採用することとなり、その
資質が問われるのではないか、という心配もありました。最近
の新聞報道ですが、教員不足時代という記事が載っていた記憶
があります。優秀な人材が短期間に大勢確保できるとは思えま
せん。
以上、これが長野市及び長野市教育委員会の意見です。県市長会
の意見とは全く同じではないかもしれませんが、大きな違いはない
と思います。
本年の4月からの実施についても、県教委と市町村教委が十分話
し合った結果ではなく、1月4日、県の仕事始めの記者会見で、知
事が4月から実施すると発言されて、県教委も大慌てした経緯があ
ります。もちろん市教委だって大慌て、そして一番大変だったのは、
現場の校長先生でしょう。教師が足りなくて、必死に教員免許状を
持った人を探し、員数合わせをせざるを得なかった、と聞いていま
す。人気取り政策ではなく、現場の意見を十分聞いて、長期的視点
に立った施策を実行してもらいたいものです。
少人数学級は、以前からも全ての皆さんの要望でした。(ユタ州
レイトン市マウンテンビュー小学校を視察しましたが、一クラス25
人ぐらいだったようです)。
戦後、私達の子どもの頃は一クラス55人だったように記憶して
います。その時代から社会が徐々に豊かになるに従い、先生が増え、
40人学級までになったわけですが、そのほかにも少人数学習集団
によるコース別学習やティーム・ティーチングなど、県教委も学校
現場と相談しながら、いろいろ工夫して先生の加配をして、必要な
部分を少人数教育でやってきました。全てではありませんが、少人
数学級は実現してきたのです。
特に算数のコース別学習は実質的には個々の児童へのきめ細かな
指導により、大変効果があると聞いています。学習科目(体育・音
楽)によっては、一律30人規模学級より大勢でも効果が上がると
いう面も事実のようです。
30人規模学級の実現が、支援加配、日本語指導や帰国子女等の
加配教員の減少につながらないことも、心からお願いしたいと思っ
ています。