田中知事が長野市から泰阜村へ住民票を移されました。その時の
記者会見の記録等を拝見し、県知事さんの発言・行動としては、い
かがなものかと感じましたので、私の意見を述べさせていただきた
いと思います。
転出の理由について、長野市に市民税を払いたくない、合併しな
いで頑張っている泰阜村を応援したい、本拠地ではなくて自分の好
きな場所に住民税を払うのは自由だ、国会議員だって東京に本拠が
あるのに、地元に住民票をおいているし、学生が住民票を移さずに、
東京の学校へ通っている例はいくらもあるというような理屈を言っ
て、その行動を正当化しようとしておられます。
しかしながら、知事が住民票を移され、泰阜村に住民税を納めた
いということについては、私としては、法治国家における自治体
の長として、法に基づき何らかの手続きをしないわけにはいかな
いと考えています。
すなわち、今回の知事の行動に対しては、地方税法に基づき実態
を調べた上で、生活の本拠である市町村(おそらく長野市というこ
とになるでしょう)が住民税を課税することになるでしょう。
私とすれば、何の関係もない泰阜村長さんと、知事の住民税課税
のことで協議するということは、まことに子供じみた話だと思って
います。ただ、行政として県知事ともあろうお方のこの種の行動は、
放置することは出来ないことですし、国の見解も同様のようです。
そして、笑い話みたいですが、両市村の協議が不調に終わった場合、
調停をする役目は県知事さんだそうです。そうなった場合、今まで
の判例等に照らし合わせ、公平な判断をどのように下すのでしょう
か。
住民票を異動するということは、単に居住関係の公証を変えると
いうことだけではありません。例えば、選挙人名簿の管理は住民基
本台帳を基に行われます。そのため、生活の実態のほとんどない人
達が、その被選挙人の理念が好きだというだけで住民票を異動した
ら、現在の選挙制度というものはどうなってしまうのでしょうか。
そこに住む人々の実態に合わない選挙が行われる。もしかしたら、
そんなことも起こり得ます。その他にも、国民健康保険、介護保険、
国民年金、児童手当等々、様々な行政手続がこの住民基本台帳と連
動し行われているのです。生活の本拠をもってその住所とすること
が、最も常識的なのではないでしょうか。
私も住民税を自分の払いたい市町村に納税したいということには、
一部共感を覚えます。ただし、それには条件があります。住民税は
応益負担的な要素がありますから、自分の住んでいる町に対し、受
けているサービスに見合った税金を払った上でなら、それ以上の分
を自分の好きなところへ支払うということはあっても良いと感じて
います。
例えば、親が違う市町村に住んでいて、最後はその自治体に面倒を
みていただかなくてはならない、何とか感謝の気持ちを表したい。
例えば、自分は長野市に住んでいるが、長野市に払っている市民税
の一部を「仕送り」のつもりで親の住む市町村に払い、感謝の気持
ちを表したい、そんな方はきっといるだろうと思います。
しかし、これはあくまでも個人の思いであり、現実には、国の法律
が変わらなくては不可能な話です。
私の知人の、長野市生まれで現在は東京に住んで事業に成功してい
る友人は、故郷を思う気持ちが人一倍強く、ぜひ長野を応援する気
持ちで、住民票を長野市に移し、税の一部を故郷へ払い応援したい
と言っていたことがありました。しかし、私としては、気持ちは大
変ありがたいが、住民税は住んでいる自治体に払うのが、そこに住
む者の義務であると考え、お断りしたこともあります。
なお、知事の記者会見等の記録を読ませていただきますと、長野市
の行政サービスについても色々言及しておられますが、正しい情報
が伝えられなかったと感じ、大変残念に思います。
例えば、長野市が35人学級を県の要求どおり実施した場合、市の
負担は教育費の1%にも満たないにもかかわらず、実施しようとし
ないという発言がありました。しかし、これは教員の人件費(それ
も、本来ならば県が負担すべき人件費)のみを指しているものであ
り、土地や建物などの施設や備品などを整備するために、多額の経
費がかかるということを全く無視した発言でありましたし、以前、
私が勤めていた会社への皮肉と思われる発言にも、いささか疑問を
禁じ得ません。
地域住民の模範となることが自治体の長に必要な最低限の条件では
ないでしょうか。