先週号では、長野市における法定合併協議会に至るまでの経過に
ついて述べさせていただきましたが、今週号では現在、全国的に進
んでいる市町村合併の背景と長野市として検討を進めている都市内
分権について申し上げたいと思います。
国は、「真の地方自治実現」あるいは「三位一体の改革」などと
いろいろ理由をつけてはいますが、厳しい財政状況のもと、「地方
へ今までどおりのお金は回せないよ」ということが現在の政策の根
本にあるように思います。
確かに国も地方も借金だらけであり、大リストラをしなくてはな
らないことは、誰の目から見ても明らかですから、公共事業の見直
し等もあるとは思いますが、一つの方策が地方自治体の合併推進な
のです。
地方自治体のコストを下げなくては、国から地方への金の流れを
減らすことはできません。最小でも人口1万人を目途にするという
方針のようですが、健全な財政規模の地方自治体をつくるという目
的のためには、まだまだ甘いのかもしれません。
過去、地方交付税、補助金、譲与税・・・・名目はいろいろです
が、国は地方に金を回してきました。特に小さな町村に対し、過疎
債等の名目で人口の割合から考えれば優遇してきたことは事実で
しょう。あれもこれもと要求してきた地方の姿勢も問題ですが、それ
に応えてきた国の姿勢も、正にバブルの発想だったということでし
ょう。そのバブルが崩壊したわけですから、国も地方もそれなりに
リストラを含め努力しなくては成り立たないのは、自然の理でしょ
う。
さて、長野市と周辺町村の合併の話です。全体の行政コストを
下げることが大切であることはお分りいただけると思います。ただ
それだけでは、「お金のためだけですか?」と言われると返答がで
きません。行政コストを下げながら、市域が広くなって人口が増え
ても、市民が自主性をもって市政に参加し、長野に住むことに誇り
をもてるかどうか、住みやすいまちと感じていただけるかどうか、
生まれてくる子ども達に、我々は自信をもって引き継いでいけるか
どうか・・・・・。それらが大切なことであって、そのためにこれ
から議論し、実践していかなくてはなりません。
今回の合併論議の中で、周辺町村長さんのご意見を聞いていて、
合併とは直接的な関係はないのですが、昨年11月に発表した
「長野市版都市内分権」に対する期待が大きいことが分かりました。
このことについては、市の職員による庁内プロジェクトチームが、
約1年かけてまとめた「長野市都市内分権調査・研究報告書(中間
報告)」をもとに市内各地で説明会を行っている段階です。
今後、市民会議やパブリック・コメント、あるいはみどりのはがき
などでいただいた意見を加味しながら、最終報告を作成する予定
です。また、正式な審議会に諮問し答申を得ていきたいと考えてい
るプロジェクトです。
「長野市版都市内分権」は、長野市という地方自治体の一体性を
確保しながら、行政をできるだけ市民の皆さんの目線に近いところ
で市民の皆さんと協力して行う、すなわち、本当の地方分権を実現
するための手段であると考えています。現段階までの議論では、総
論的には皆さんの反対は多くないと感じていますが、今後、各論に
入っていくと、なかなか難しい議論・対立も出てきそうな予感もあ
ります。例えば、地域の負担が増えるという意見をいただいていま
すが、自分達のことは自分達で決める「分権」とはそういうもので
す、とお答えすることにしています。
この長野市版都市内分権が出てきた背景には今回の合併論議が
あったことは事実です。すなわち、国は合併する自治体には、一定
の期間、地域審議会を設けることができるとしており、現在、一定の
自治を認めるよう法改正の準備をしています。ところが長野市の場
合、4町村にだけ自治を認めるということは、大多数の市内の方か
らすれば不公平という意見が出てくる可能性があります。それなら、
合併地域も含めて都市内での地域自治を考えたらどうか、もともと
長野市は合併によって大きくなった多軸都市なのですから・・・・。
もう一つの背景は、行政のタテ割りシステムを打ち破って、横軸
が一本通った社会をつくりたい、そんな想いも込められています。
元気なまちづくり市民会議等、長野市内あちこちで皆さんの話をお
聞きしてみて、行政のタテ割りシステムが、どうもうまく機能して
いないと感じていました。確かにタテ割りシステムは役割分担や責
任体制がはっきりするし、効率を上げるという意味では素晴らしい
のですが、同じようなことを部署が違うが故に別々にやったり、
矛盾したことをやらざるを得なかったり(企業なら利益をあげると
いう一点で、統合できるのですが)、セクト主義も良い意味の競争
になっていないと感じ、それを打ち破るシステムとして横軸システ
ムを考えようと言っているうちに、都市内分権という言葉に出会った
のです。
合併の背景には、もちろん地方自治体が直面している厳しい財政
問題があります。小さな自治体の自立が大切という意見もあります。
その両方を成り立たせる方法は何か、私は「都市内分権」によって
この矛盾したテーマを解決できると考えています。行政は効率を求
め、スリムな自治体をつくる必要性があります。生活圏が行政の壁
を越えて広がってきている現実もあります。広域行政も進んでいま
す。多様化する住民要望に応える体制づくりも必要で、それには一
定の規模がいるのではないでしょうか。
そして、私達が忘れてはいけないことは、合併は目的ではありま
せん。手段です。同じように自立も目的ではないと思います。目的
は「住民の幸せ」、「住み良いまちづくり」であり、個々人の主体
性が発揮できるまちをつくれるかどうか、そんなまちづくりを今問
われているように思います。