10月30日(土)、長野青年会議所(JC)の招きで、麻生総
務大臣が忙しい日程の合い間をぬって、「地方分権シンポジウムin
城下町まつしろ」のため長野市を訪問してくださいました。ここに
至るまでのいきさつは、今年の春、私が昔の仲間を訪問して「エコ
ール・ド・まつしろ」の宣伝をした折、麻生総務大臣から「一度行
ってみたいな、ただ公式な訪問は難しいなあ」との話になり、「そ
れならお互いJCの仲間だったのだから、長野JCに頼んで、長野
に来てもらえる企画を何か作ってもらうよ」ということになって、
半年以上にわたり内容や日程等について調整が行われ、ようやく10
月30日に決まりました。7月の国政選挙などの関係で随分遅くな
ってしまい、しかも内閣改造で、もし彼が大臣でなくなったら・・・
失礼ですが、正直に言うとちょっと心配でした。
私は偶然にも28日の午後から東京での会議が続いておりました
ので、30日の朝、東京駅で麻生総務大臣をお迎えし、新幹線の車
内で昔話をしたり、三位一体改革や市町村合併の話、そしてその日
のシンポジウムの打ち合わせ等をしてきました。
総務大臣が、現段階において大変微妙な立場におられることは承
知していました。特に三位一体改革について、地方6団体の意見が
提出され、そのことに各省庁が反対、与党の自民党も反対表明とい
う状況であり、総務大臣は間に挟まれて悩んでいる。また、度重な
る台風や新潟中越地震の影響で長野へ来ることが果たして可能なの
か。さらに、マスコミも注目していることでしょうし、彼独特の自
由な発言ができるのかどうか、心配でした。「悪いなあ!行けなく
なったよ」と言われる可能性は充分あったわけです。
でも電車の中で話をしていくうちに、彼の論理は揺らいでいるわ
けではないことを確信でき、私の心配は、失礼なことであって全く
杞憂だったことが分かりました。安心して長野へ、そして松代へ来
ていただくことができました。
松代ロイヤルホテルで長野JCの倉石理事長、パネラーをお願い
する作家の童門冬二さん、長野市の助役、収入役など、関係者を交
えて打ち合わせを兼ねた食事をとり、この席で長野JCが取り組んで
いる「信州松代真田地鶏」を中心にした弁当をご馳走になりました。
午後1時、シンポジウムがスタート。第1部は麻生総務大臣の基
調講演があり、この中で国と地方の関係について、歴史的な視点を
交えて講演をいただきました。印象的だった話は、まさに地方分権
の時代であった幕藩体制から、明治維新は列強に負けまいとして中
央集権国家を作り上げ、富国強兵に努力した明治の先人たち。その
中央集権の流れは敗戦後も続いて、国民は豊かになった、それは間
違っていなかった。
でも豊かになったが故に、みんながいろいろ考えるようになって、
自分達のことは自分達で決める、いわゆる地方分権の流れが出てき
て、その結果として平成12年施行の地方分権一括法が成立した。
その時点で議論の末、国家と地方の役割をきちんと決めてある。そ
して今回、三位一体改革で、地方分権一括法になかった税源の話に
踏み込んだ、すなわち権限だけでなく、その財源も地方に渡そうと
いうことである。まさに地方分権の正念場だ・・・・というもので
した。歯切れがよく、分かりやすい話でした。
そのあとのパネルディスカッションでは倉石理事長にコーディネ
ーターを務めていただき、パネラーは総務大臣、作家の童門冬二さ
ん、そして私(市長)の3人で、三位一体改革の話、市町村合併の
話等について意見交換を行いました。童門さんは、作家になる前、
東京都の職員だった経験のある人で行政をよく知っている。その上
で作家としての知識を生かし、江戸時代は100%自治の幕藩時代
だったという話をする中で、殖産興業を一所懸命やって産業の育成
をした藩だけが生き残ったということを語ってくださいました。
このパネルディスカッションの中で私からは、
1.麻生大臣の立場を考えると、三位一体改革、すなわち地方6団
体がまとめた3兆円の税源移譲と3兆2千億円の補助金・負担
金の廃止は何としてもやらなくてはならない。地方は苦しくと
も受けるべきで、それが将来の真の地方自治につながるはず。
2.市町村合併をしなくても、現在ある広域連合に徴税権を与える
など、特別地方公共団体の権限・機能を充実することにより、
実質的に合併と同じ合理化は期待できる。
3.現在の地方自治法では、地方公共団体という場合、県と市町村
を一緒に扱っているが、県と市町村では役割分担が大きく異な
っており、現在の枠組みは随分乱暴である。
4.政令指定都市と中核市の間にあるハードルを低くしてほしい、
具体的には都市計画の決定権と教員の人事権は中核市としてほ
しい(広域連合の権限にしてもらっても良い)。
5.市町村間のトラブルは県が裁定する、それは結構だが、県と市
町村間のトラブルは誰が裁定するのか、そのシステムがない。
今後県と市町村は対等の関係だとすれば、国はそのシステムを
作るべきであろう。
6.具体的な話として、平成16年度予算で、交付税と臨時財政対
策債の減額は大きすぎた。こんなに一度に減額されたら、地方
は成り立たない(国や県は直接住民に接していないから無理に
推し進めようとする、数年は我慢できるが長くは続かない)。
地方は中央を信用しなくなるのではないか。あまり急がないで
ほしい。
といったことを中心に主張させていただきました。
麻生大臣は、三位一体改革は地方分権の流れの中で大切とした上
で、交付税や補助金を減らして税源移譲をすると、人口の多いとこ
ろは税収がたくさん上がることになり、小さなところはやっていけ
ない。その辺をカバーするのが地方交付税である。ある程度の財政
補償処置はやらざるを得ないといった話をされました。
それぞれの立場で活発な意見交換が行われ、80分のパネルディ
スカッションは大変刺激あるものとなりました。
シンポジウム終了後、小雨が降る中、松代をご案内しました。真
田邸では善光寺木遣り松代分会の皆様に木遣りでお迎えをいただき、
邸内の座敷では着物姿の女性の方々からお茶の接待を受けましたし、
文武学校では、弓術所での作法やお花の会等、いろいろな展示会を
見学しました。
また、象山神社では、佐久間象山先生が幽閉中、多くの維新の志
士が訪れ会談した高義亭を訪ねた後、松代城跡を回って、松代を後
にしました。観るだけではない、利用して保存する文化財という発
想に、大臣は大変賛同してくれました。
その日の夜、大臣の歓迎を兼ねて「信州松代真田地鶏」のお披露
目記念パーティーが開かれました。長野JCが今年から始めた「ま
つしろ遊食プロジェクト」で、松代でしか味わえない新たなる食文
化の創造を目指し企画したものですが、倉石理事長が挨拶で曰く、
「10年後には信州松代真田地鶏が日本を制覇する」と凄い入れ込
みようでした。麻生総務大臣は、「エコール・ド・まつしろ」や
「まつしろ遊食プロジェクト」の取り組みが、地域の活性化につな
がると話しておられました。
麻生総務大臣との付き合いは彼が昭和53年の日本JC会頭の時
以来ですが、当時から吉田茂という大宰相の孫だけに、なかなかの
発想の持ち主とは思っていました(同じ発想という意味ではありま
せん)。今回じっくりお付き合いしてみて、失礼ながら、凄く大き
くなったこと、役人とは違う民間感覚に優れた感性の持ち主である
と改めて感じました。