2006年2月2日木曜日

地方経済の悩み


 ある会合に出席した折に、そこに出席していた方からこんな話を
聞きました。それは、東京で開かれた同業者との情報交換した時の
話だそうですが「どの企業(特に地方の販売店)も、外商(店売り
ではなく、訪問販売のこと)売り上げで大苦戦している。その原因
は出先機関の官庁や企業が、経費削減・合理化の一つとして地元か
らの購入をやめ、本社(本部)で一括購入してしまう、販売店には
何の落ち度もないのに・・・」このような内容です。

 また、何気なくある業界紙に目を通していたら、次のような記事
に出会いました。それは前記の話の顕著な例といえるかもしれませ
ん。概略を申し上げますと「全国の郵便局は長年、文具事務用品を
地元の業者から購入してきた(年間40億~50億円)。それをオ
リジナルカタログによる通信販売の導入に切り替え、地域の文具納
入業者を排除した事業展開としたため、郵政公社の事務用品購入に
ついての再考要望書を提出した。」このようなものでした。

 同じような現象は、郵政だけでなく、いろいろな業界でも、大手
商社や大メーカーのような全国ネットの企業でも、多かれ少なかれ
既にある現象です。いままでは各支店や営業所などが近くの販売店
から購入していた物品、例えば複写機や事務用品、家庭用品、玄関
マットのようなものまで、本社で一括購入することは珍しくないよ
うです。その方が安くなるとすれば、経費節減が時代の潮流でやむ
を得ない事ではありますが・・・・・・。

 更にまた、コンピューターメーカーや家電メーカーなどが、大量
仕入れをする販売会社には安く卸す、大手マンション建設業者が、
中央で一括仕入れを行って地方へ納品させる・・・極端な例では、
地方販売会社の仕入れ価格より中央の販売会社の売り価格の方が安
いという現象も出てくるわけで、いずれにしろマーケットの大きさ
が違いますから、地方販売会社の商売は苦しくなることは事実です。

 しかし、地域経済にとっては大変な事態だと感じています。郵政
に関しては私も、郵政民営化に原則賛成した立場であった者として、
正直ショックを受けました。考えてみれば、厳しい競争社会の中で
郵政公社も生き残りをかけて頑張っているわけで、コスト削減と事
務効率化を推進する行為そのものを批判するのは難しいと思います
が、でも、その「程度」が問題だと思っています。

 地域社会が疲弊してしまったら、ますます人口は減るでしょうし、
郵便物も減るでしょうし、儲からなければ貯金をすることもできま
せん。そうすれば、郵政そのものが存続できなくなる・・・互恵の
心、共存共栄の精神を大企業ほど、持たなくてはならないと思うの
です。もちろん地域企業の努力、近代化は必要です。品質の良いも
のを安く提供するシステムを作ることは必要です。ただ新規参入を
困難にし、地域企業の存在を無視するようなシステムは民営化を志
向する郵政であっても、いかに国際的な競争に打ち勝つためとはい
え桁違いの大きな企業であるだけに問題です。

 話は少し違いますが、たばこ税の問題でも同じようなことが起き
る可能性があります。たばこ税は県・市町村で売れた分によって地
方に配分されることはご存じだと思いますが(長野市には毎年
約21億円ぐらい入ります)、例えば東京に本社がある大手スーパ
ーが東京で仕入れて地方の店に配分していれば、税金だけは東京へ
入ることになる・・・。

 もう一つの地方販売企業が苦戦している原因は、インターネット
の普及が大きいと思います。大手企業は、いち早くインターネット
による見積りシステムを導入して、全国への販売が、誰でもどこか
らでも見積りに参加できるようになって、パソコンと電話があれば、
いつでもどこからでもできるシステムが広がってきました。ただこ
の現象は、一方で平等に地方販売企業にも機会が生まれているとい
う側面があるかもしれません。

 官公庁でも電子入札・見積りのシステム化が図られている昨今、
訪問しての売り込みは必要なくなり、価格だけの世界で顔も見えな
い、手配さえできれば全国誰でも商売ができるようになってきてま
す。そんな急激な構造変化の中で、地方の企業がますます衰退して
いく・・・企業として特色を持った商品を作る、あるいは探し当て
なければならない事は言うまでもありませんが、地域が地元にある
企業を育てるという機運やシステムも必要な事だと思います(入札
制度改革の論議でも常に問題になるポイントです)。

 規制のない自由な経済活動が、資本主義社会のよいところであり、
それぞれが切磋琢磨することによって、社会は進歩し、豊かな社会
を実現することができると私は信じています。ただ、このような風
潮が続くと、地方社会にとっては由々しき問題です。ITの発展で、
急に加速・顕在化されてきた現象とも言えます。

 地方分権と言いつつ、このままでは国も経済もますます一極集中
の気配がしますが、その一方で、地元経済が発展してこそ、会社の
利益があがると考えている企業もあるようです。そういう会社は地
元購入を主体に、地域の活動にも積極的に協力してくださっていま
す。その方が長期的に考えれば自分に利益があると考えておられる
のだと思います。

 最近は多くの企業が「地域に密着した活動・営業を行う」と言っ
ています。「地域に密着した」という意味合いが必ずしもはっきり
しませんが、もう少し大きな目でみた施策が必要なのかもしれませ
ん。地域社会を大切にするコストとして、多少は高くても地方で調
達する、地域の企業を育て、共存共栄をはかる、そのことによって、
地域の皆さんの支持が得られる・・・そのことによって自分の会社
も儲けさせていただく・・・地域に根ざして永続発展する組織とす
れば、そのことの大切さをもう少し知ってほしいものです。

 行政とすれば、地域の企業の努力・奮闘・そして工夫に期待する
と同時に、それぞれの企業が地域社会にどんな貢献をしているか・
・・を評価・判断(この基準が難しいのですが)して取引会社を決
めていくことが大切だろうと思います。現段階ではこんなことしか
申し上げられないのは残念です。