2006年3月16日木曜日

最近、感じていること (その1)


 今、市議会では予算、条例等の審議の真っ最中です。行政の場合、
予算については特に皆さん関心が高く、市民要望、議会各派要望を
見据えて、細かく審議していただくのですが、それに比べ「決算」
への関心は、どちらかというと低いのではないかと感じています。

 「決算」は議会で審査、認定してもらうこととなりますが、仮に
認定されなかった場合でも、決算の効力に影響はないということが、
原因かも知れません。ただ当然のことですが、認定されなかった場
合には、首長の政治的責任は残る、言い換えれば、自治法上も首長
の責務の大きさを前提としているということです。決算が認定され
ないということは、地方議会で100条委員会(注1)が成立する
ことと同じくらい重大問題ですから、自治体の首長を務める者とす
れば「不徳の致す所、即・辞任」という覚悟でいるべきだと私は思
っています。そういえば民間企業の場合、株主総会で決算が否決さ
れたらどうなるのでしょうか?経営者の責任が追求され、経営者は
不信任となるでしょうが・・・。いずれにしろ決算は大切です。

 決算認定だけでなく、行政の監査制度全般についても、いろいろ
感じています。どんな組織でも、事業を実行する執行側と正しく行
われているかチェックする監査側に役割分担が分かれていますが、
現在の社会では、このバランスが崩れているのではないかというこ
とです(すなわち執行側が強すぎるということです)。

 ライブドア事件等企業の不祥事も、監査が機能しないので、検察
や警察が動いたのでしょう・・・経営者の責任は当然ですが、監査
陣の責任も大きいと思います。上場企業については公認の監査法人
が監査をしていますが、監査法人の役目は、会社の為ではなく、会
社の株主や取引先というステークホルダー(注2)のために、会社
の作る決算書類が正しいかどうかを判定するのが役目です。ですか
ら会社が監査法人を雇うのではなく、証券取引所等第三者が監査法
人を指名し、その費用は会社から徴収するというシステムが必要と
思っています。

 地方自治体では監査委員がその役割をしています。監査委員の任
命は、議会の議決が必要ですが、提案者は市長です。市長が監査委
員を選ぶわけですから、客観的な見方が薄れてしまう可能性は含ん
でいるわけです。また、議会がチェック機能を果たしているのだか
らいいという意見はあります。包括外部監査などの制度も出来てい
ますが、行政のある部分だけの監査です。現段階で考えるなら、議
会の選任・監視のもとで包括外部監査と監査委員を統合した制度が
必要かもしれないと思っています。地方自治法の改正で収入役がな
くなるようですが、監査委員の役目も強化するため、根本的に改め
ることが必要です。

 私は一昨年、長野県市町村職員共済組合の監事に指名されました。
この組合は市町村職員の年金資金を一括預かって運用し、将来にわ
たって退職職員に年金を支給していく義務がある組織で、現在
1900億円以上の資金を管理しているのですから、その監事とい
うのは大変責任が重いものです。しかもその事務局長には、組合の
依頼を受けて長野市の管理職を派遣している立場ですから、人一倍
心配は大きいのです。もちろん共済組合は責任を持って年金資金を
運用等していただいています。でもそれは性善説に立った話で、こ
ういう問題について性悪説に基づいて考えないといけないと私は常
々考えてきました。

 私は監査の席上、会計監査には監査法人を導入すべきである、費
用はかかるがそれは必要経費であり、節約すべき費用ではない、そ
の監査法人が正しいと証明してくれなければ、私は監事の仕事はま
っとうできない・・・と主張しました(監査法人の指名は総務省な
いし県が行うことは、前述の趣旨からは当然です)。

 若干話は変わりますが、文芸春秋の3月特別号に、文京学院大学
教授の菊池英博さんが「サラリーマン大増税の嘘を暴く」という題
名で、財務省が演出する「財政危機」宣伝にだまされるな、と書い
ておられます。その妥当性については、私が申し上げる筋ではない
と思いますが、ひとつだけ、以下の文章は気になりました。

 『重要なのは「粗債務」「純債務」という考え方である。政府債
務を把握する指標には、「粗債務」(資金の借り入れ・保証などの
債務)と「純債務」(粗債務から政府が保有する金融資産を控除し
たネットの債務)の二つがあり、一国の債務をもっとも正確に表す
のは純債務であるというのが国際的に共通の理解である。それは当
然で、いくら借金があってもそれに見合う資産があれば問題はない。


 確かに借金があっても、資産があれば問題ないというのは、私も
長い間会社経営をしてきた経験からよく分かります。ただその場合
の資産の換金性が高いかどうかということが問題にはなりますが・
・・。

 地方自治体にとってもこの問題は関係があります。地方自治体は
借金に苦しんでいますが、企業会計的に考えれば、健全な資産がど
れだけあるかということが無視されていますから、一方的に借金の
大きさだけで判定されてしまう傾向があることが不満です。どれほ
ど昔からは分かりませんが、地方自治体が皆さんから頂いた税金や
国・県の補助金等で営々と築いてきた建物、道路・・・等々たくさ
んあります。それらの資産は、計数的には全て無視されての話です
から、特に長野市のように五輪施設という他の市町村に無い立派な
ものを持っている自治体は苦しいですよね。また、市民の誇り、生
活のしやすさ等ということまで考慮できれば・・・これも計数的に
表すことはできそうもありませんね。どの場合も換金性が高くない
ことは問題になりそうです。

 そして借金の一部分は、時期が来れば国が「交付税で面倒みるよ」
という約束(?)がありますので、考えようによっては、その部分
は地方自治体の実質的な借金ではないとも思えます(地方債を発行
した以上、借金には違いないのですが・・・)。
 また、借り先は国からが一番多いでしょうから、国が借金の返済
額と交付税を相殺してくれれば、単年度に発生する借金の額は少な
くて済むので、地方自治体は、精神的にも随分楽になるような気が
します。

 もうひとつ似たような話ですが、地方自治体の財務状況の表し方
ですが、単式簿記(いわゆる役所式)ではなくて、企業と同じ複式
簿記で表してみれば、長野市は超優良会社です。この場合にも行政
の持つ資産の換金性は問題になるとは思いますが・・・・。

 いずれにしろ借金を減らし財政再建をしたいとの思いはどの自治
体でも同じでしょう。ただ、貯金を取り崩して予算を組むとか、や
るべきことをやらずに、借金を減らしたというのではなく、財政構
造を改革していく、すなわち「入りを量りて、出(い)ずるを
為(な)す」ことこそが必要だと心に命じています。

(注1)地方自治法第100条に基づく地方議会の調査権を行使
するために設けられた特別委員会
(注2)「利害関係者」のこと。企業活動と関係するあらゆる関
係者を指します。