長野県議会6月定例会における田中知事の発言内容の中で、どう
しても県民・市民の皆さんに実態を知っていただかなくてはならな
いと考えることがあります。
県議会の一般質問で、浅川治水問題について、西沢正隆氏、小林
実氏のお二人が取り上げられましたが、それに対する知事の答弁が
まったく理解に苦しむ、事実を曲解したものであり、地域住民のこ
とをまったく考えていない内容なのです。細かい点を挙げればたく
さんありますが、ここでは2点だけ申し上げます。
まずひとつは、平成5年の確認書は「虚偽」だと発言したことで
す。
この確認書は、当時の長沼地区北陸新幹線対策委員会と鉄道建設
公団(現在の鉄道・運輸機構)、長野県、長野市の間で、新幹線車
両基地を造るに当たって取り交わしたものです。「虚偽」の理由は、
確認書において県はダムを4年半で造るとしているが、はなから不
可能なことを約束しているという主張です。
この発言内容は理解に苦しみます。4年半という言葉はどこにも
ありません、当時の交渉過程を調べてみると、県は用地買収が完了
次第、付け替え道路から着手し、ダムの完成は「平成12年頃をめ
どとしておりますが、当地域の諸状況を勘案し、早期完成に努めて
いく」ということで合意しています。さらに後になって完成は平成
19年(浅川ダム本体工事契約)に変更ということになっています。
4年半というのは多分、新幹線の営業開始時期を念頭に入れての例
の思い付き発言とは思いますが、それにしても、「虚偽」とは耳を
疑う発言です。
いずれにしろ、4年半後に造るとは県は約束していません。以後
の県のHPやマスコミ報道等で、平成19年3月の完成であると地
元は理解していたようですし、“当時の県”は事態の進展に応じ、
地元ときちんと交渉していたようです。
さらに田中知事は「地元住民らにはきちんとお伝えしている」と
発言していますが、「期限まで(4年半で)の完成は不可能で虚偽
の約束をした」という話は、これまで一度も対策委員会としては受
けていないそうです。それだけでなく、ダムをやめるに当たって、
「ある」と称した代替案もまったく提示されず、「きちんと説明し
た」というのは、何を指して言っているのか、昨年12月に知事は
一度だけ地元に入ったけれど、単なるお詫びだけ・・・
もう1点は、北陸新幹線の工事についての発言で、「長沼地区の
一部については、鉄道・運輸機構は用地測量を3月に終了、その後、
物件調査、付け替え用水路や道路等の詳細設計をしており、地元の
了解を得て9月末までに用地測量を終了する予定で、18年度末ま
での事業用地取得は問題ない」との認識を示したことです。
事実を申し上げます。用地交渉に先立つ用地測量は、本来地域の
皆さんの要望事項が将来に渡って履行が確約され、設計協議終了後
に新たな確認書の交換の後、地元自治体が了解してから行われるも
のです。したがって、確認事項である浅川治水がきちんと履行され
るという担保がなければ、地元は用地測量を絶対に認めないとおっ
しゃる、したがって長野市も認めない。要は両者の了解なしで行う
ことは不可能なのです。
ただ地元の皆さんは新幹線については賛成しており、促進したい、
けれど確認書の内容が担保されなくては、協力し難い・・・そこで
長野市が間に入り、工事を担当する鉄道・運輸機構と地元で「公式
である最終的な設計協議の同意はできないけれど、準備だけは進め
よう。すなわち、県がきちんと浅川治水を考え、国の認可がとれる
計画を整備し、地元の皆さんが了解したらその翌日にも設計協議完
了、土地買収完了という手続きが進められるように、県を当てにせ
ず準備作業をどんどん進めましょう」という地元の皆さんの善意に
よる同意の下で、取り組んでいただいてきたものです。
したがって鉄道・運輸機構さんに確認していただければ分かるこ
とですが、測量は確かに9月には終了するようですが、現段階でで
きることはそこまで・・・のはずです。地元の了解、地元市長の了
解が無い限り、公式な設計協議は終わらないのですから、用地買収
はできず、新幹線は北陸へはつながらない可能性があるのです。
地元の皆さんが善意で事業の促進に協力しているのに、さも自分
がやったようにおっしゃって、しかも県議会議員さんに誤解(北陸
新幹線の土地買収は大丈夫と思わせる)を与えるような発言をされ
ることは、本当に許されないことであるということは、地域の皆さ
んと私の現在の心境です。
この件については、発言の翌日、怒った地元の皆さんが「公開質
問状」を提出していますが、6日に届いた返事は、当時の県の姿勢
を批判したものと、公開された場を持って話をしたことを確認書の
当事者である地元の皆さんに話をしたことにしている、一般的な社
会常識からは考えられないものです。また、7日には県議会の総務
委員会に参考人として地元対策協議会の皆さんが出向き、県の対応
の不備について指摘しております。
地元の皆さんからは、鉄道・運輸機構さんには申し訳ないが、県
が現状を正しく認識するよう現時点で同意を取り消し、きちんと設
計協議の同意をしてからでなくては測量ができないことを世間の皆
さんにも分かるようにすべきだ、という意見が台頭してきているた
め、今まで善意により進めてきた作業についても中断することを視
野に入れ、鉄道・運輸機構から委託を受け用地買収を行う県に対す
る「真摯(しんし)たる対応」の指導と、北陸新幹線整備の遅れと
いう影響を受ける事業主体として県に対して意見具申をするよう、
鉄道・運輸機構に12日付の文書で要請したようです。鉄道・運輸
機構と県の対応いかんでは、測量どころか、地元との話し合いにも
応じていただけない状況に陥ることが予想されます。
どうしてあんな発言をしたのか、その意図はよく分かりませんが、
知事は「私はいじめられています」ということを一般の方に表現し
たいのかもしれませんが・・・どうも理解できません。いずれにし
てもこのまま推移すれば北陸新幹線は開通できず、長野以北の皆さ
んにご迷惑を、もっと言うと多大な損害が出る事態になりかねない
のです。そのような状況を皆さんにもぜひ理解していただきたいと
思います。