2回に分けて、就任以来5年間、一生懸命取り組んできたこと、
まだまだ至らぬ点等について報告してきましたが・・・今回はこれ
だけはどうしても皆さんに知っておいてほしいと日ごろ感じている
ことを書いてみたいと思います。それは、自治体の財政事情であり、
その中でも退職金問題です。
市長就任以来、「入りを量りて、出ずるを為す」をモットーに長
野市政の運営、いわゆる経営をしていますが、なかなか厳しい現実
にぶつかっています。夕張市が、財政再建団体になった記事は、行
政を運営するものにとって衝撃的なニュースでした。
どこも苦しい、トヨタ自動車の本拠地がある豊田市等は別格で財
政事情は良いとのことですが、地方都市の長野市は、県都であり、
中核市であるといいながら、まだまだ景気は上昇機運とは言えず、
税収は上がってきません。
統計数字を見ながら、他都市との比較をしているのですが、行政
の統計は必ずしも同一の基準になっているとは言えず、よく分から
ないことが多いというのが実感です。
市長に就任して最初にびっくりしたこと、特に民間企業との比較
でびっくりしたのは、決算書上に市職員の退職給与引当金という項
目が無かったことです。どうやっているのかと言うと、毎年予算を
組む段階で、新年度の退職者の退職金を計算して予算書に計上する
のがルールでした。私は思わず「エー!」と声をあげました。払え
なかったらどうするの?毎年退職者の人数はバラつくはずだけれど、
どうするの?疑問だらけでした。
さらに平成17年1月に4町村と合併をしましたが、そのとき、
もっとびっくりしたのは、町村の退職金についてです。町村職員の
退職金は、県内町村等が事務委託している町村総合事務組合(地方
自治法に基づく一部事務組合)に負担金を払っていて、退職者が出
ると町村総合事務組合が直接退職者に退職金を払っているのです。
問題がないように見えますが、その負担金と退職金のバランスがと
れていないのです。
長野市は4町村と合併したとき、町村総合事務組合から請求がき
ました。合併で町村が町村総合事務組合から抜けるときは、町村総
合事務組合は当然精算を要求することになりますから、長野市に合
併した町村の過不足を精算してくださいというわけです。
市の場合も民間に比べたら健全とはとても言えないのですが、そ
れでも毎年3月市議会へ、4月からの新年度一年間に退職する人の
退職金を計算して、予算を組み、予算書として提案・議決をするわ
けです。町村の場合は予算書にどう載せるのか、詳細は分かりませ
んが、その年度の退職者に支払う退職金総額について、町村議会は
知らないでも過ぎてしまうのではないでしょうか?
合併の場合は、市町村間で合併協議がありますから、もちろん事
前には分かります。それを承知で合併の承認をしたわけですから、
今さら文句を言っているわけではないのですが、実態を市民の皆さ
んに知っていただくために、あえて書かせていただきました。4町
村合併の時、町村総合事務組合の精算として長野市は約10億円を
支払いました。これは既に町村を退職された方に支払われた退職金
ですから、長野市としてはどこへも請求できないわけです。そこで、
4町村から引き継いだ財政調整基金8億6千万円を財源として充て
ましたが、不足分は長野市が負担せざるを得ませんでした。
前述したとおり、市長就任後、退職金について民間との違いを、
どうしたらよいかいろいろ悩みました。他市の状況等を聞きました
が、どこも似たり寄ったりのようでした。
確かに民間企業の場合は、決算期末に在籍している社員全員の退
職金を全額退職給与引当金として積み立てるか、あるいは外部に積
み立てることが原則ですが、長野市が直ちにそれをやるとすれば、
百数十億円が一挙に必要になるはずですから、それは不可能です。
そこで私は、第一段階としてできることから行おうと決心し、次
のような手を打ちました。長野市の職員構成を調べると、当時30
代半ばの職員が男女共に多いことが分かりましたので(理由は長野
オリンピックです、オリンピック開催が決まってから仕事量が増え、
NAOCへの派遣職員も含め、人数が増加していました)、その人
数が一番多い年代の人が辞めるときスムーズに退職金を払うため
に、毎年一定の金額を退職金に計上し、その年必要な額はその中か
ら支出して、残りは積み立てることにしました。
その一定の金額を計算してもらったら、平成14年当時で年16
億円になりました。大変な金額ですが、目をつぶって積み立てよう
・・・そうすれば約25年後の長野市の退職者最多期もあまり影響
しなくて切り抜けられるはずであるし、その後は人数がぐっと減り
ますから負担は減ってくるはずと考えました。一応平成14年度か
らその方法で実行しており、平成17年度末現在、27億円の積み
立てができています。
他の自治体では、来年から団塊の世代の大量退職者が出るため、
退職金の支払いが大変とのことで、国は退職手当債を発行すること
を認めているようです。これも問題の先送りですが、まあ仕方ない
のでしょう。
長野市は幸いなことに、団塊の世代の退職者はそれほど多くはあ
りません。何故だろうと考えてみたのですが、昭和41年の大合併
が影響しているようです。団塊の世代が社会に出てきたのは昭和4
2年~44年ころでしょう。そのころ長野市は大合併の余波で職員
数がかなり多くて苦しんだのではないでしょうか。それ故に、長野
市は採用抑制策をとったのではないか、そのおかげでその時代に入
った人が定年を迎える現在、あまり苦しまなくても済んでいる・・
・といえるのですが、約25年後には現在30代後半の職員が定年
を迎える時期で逆に悩むことになる、そしてその時は団塊の世代の
時とは違って、長野市独自の問題ですから、国の助成策は出てこな
いと覚悟しなくてはいけません(現段階はまさに皆で渡れば怖くな
いという状況です)。
過去、市町村の財政状況を語るとき、一般会計について問題にす
ることが多かったと思います。しかし、長野市には一般会計だけで
なく、水道事業会計をはじめとする企業会計、国民健康保険特別会
計などの特別会計といったいろいろな会計があります。そのほか、
市役所そのものではありませんが、実質的に市役所がその仕事をや
っていると市民が思っているであろう、市と密接な関係をもってい
る開発公社や社会福祉協議会などの外郭団体もあります。
近年、地方自治体の破綻(はたん)が問題になってきて、総務省
は一般会計の借金だけでなく、市の全ての会計について評価対象と
し、外郭団体の債務についても、「市が客観的に負担する蓋然(が
いぜん)性の高い部分」を対象とする方向で検討を進めています。
当たり前のことですが、そのときの基準、あるいはモデルをどうす
るのか・・・なるべく厳しくするべきであると思います。幾つかの
会計を作ることで故意とはいわないまでも実態を見えにくくしてい
る可能性もあると思います。将来必要となる市職員の退職手当の扱
いについても同様と考えます。
私に対して「市長はお金のことばかり言いすぎる」と批判する方
がいらっしゃることは承知しています。でも夢が無いと言われよう
が、間違っていると言われようが、お金、すなわち長野市の財政を
きちんとしなくては、将来は無いと私は固く信じています。国・県
の動向を見ながら、そして長野市の将来をみつめながら、次の時代
に飛躍できるような状況を作り出すことが私の責務であると思って
います。
企業でさえ、永遠の存在でありたいといつも願っている、まして
行政は永遠の存在であることが必然なのです。未来の子どもたちに
ツケを残すことは、できるだけ避けなくてはならない・・・財政に
ついて考えるとき、私はいつもそんなことを考えています。