4月25・26日、岩手県の葛巻(くずまき)町と小岩井農場を
視察してきました。葛巻町は、新エネルギーの町として、また小岩
井農場は、日本一の民間総合農場の経営をしているという評判でし
たので、以前から一度訪ねてみたいと思っていました。
私が長野市の重要課題として今考えていることの一つは、市域の
70%を占めている中山間地域の活性化です。その地域の農林業
(畜産も含む)は基幹産業だけれど元気がない、二酸化炭素削減に
向けて、何とかならないか・・・これらが共存できる政策を模索し
たい、そんな観点で視察してきました。
岩手県葛巻町は、長野からは新幹線を乗り継ぎ、盛岡を過ぎて沼
宮内(ぬまくない)という駅で降りて、車で約30分、人口8千人
余りの町です。
「北緯40度 ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」のキ
ャッチコピーのとおり、酪農(ミルク)と林業(ワイン)を産業と
して確立し、自然エネルギー導入にも積極的に取り組んでいます。
この町がすごいのは、これらを開発公社など第三セクターで進め、
開発公社と町役場が一体となり、開発公社主導で第一次産業を商売
として成立させ、開発公社は利益を上げ、町の雇用に大きく貢献し、
利益を町へ寄付もしているということです。
(1)まず牧場。人口8千人の町で、飼育している乳牛が1万4千
頭、人口よりはるかに多いのです。牧草を育て、乳業が成り立っ
ていること、預かり牛の預かり料は一日当たり一頭500円(長
野市の戸隠牧場では180円(市外から来る場合は250円))
です。高くても預ける人がいるということは、それだけ預ける側
にメリットがあるということでしょう。
(2)山ブドウを育て、自前のワイン工場をつくって、営業活動を
して、大変なブランドに成長している。しかも何より雇用を生み、
利益を上げて税金を払っていること。
(3)クリーンエネルギーということで、行政と民間とで果敢に挑
戦。大型風力発電の設置に取り組み、さらに、牛ふん・生ごみの
バイオガスや端材などの木質バイオマスによる発電施設の整備な
ど、町内には10の新エネルギー施設を有し、現在、町全体が消
費しているエネルギーに対して自給率は78%で100%を目指
していること・・・すなわちクリーンエネルギーが産業として確
立しつつあること。
(4)山の上の牧場の一部に、観光施設・宿泊施設を造って視察や
観光に来るお客さんを泊めていること。私たちもそこのホテルに
泊めていただきましたが、とても瀟洒(しょうしゃ)な宿泊施設
でした。隣接して売店や食堂、そしてバンガローを高級にした戸
建ての宿泊施設も整備されていました。町には年間50万人ぐら
いの方が訪れるそうで、十分もうかっている施設と拝見しました。
第一次産業である酪農・林業の基盤の上に、乳製品やくずまきワ
インの第二次産業、そして交流・宿泊拠点となるホテルやコテージ
などの第三次産業を結び付けて、開発公社など主要な第三セクター
は黒字で経営しています。
でも一番すごいのは、町民・職員の意識改革かも知れません。葛
巻は何も無い、どうしようもないというあきらめの心境だった町民
を、徐々に奮い立たせ、葛巻町民であることを、誇りに思える町に
したことは、時間もかかったでしょうが、その辛抱強さ、ぶれない
信念、そしてアイデア・・・大変な努力だなあと感心しました。
町長は、町の職員になって、町営牧場担当から開発公社に出向、
前町長の意向を受けて20年以上も開発公社の仕事に従事、専務と
して開発公社の運営を軌道にのせて、町長に転身した方でした。そ
して後任の現在の専務は、ワイン造りの修行に派遣され、ワイン造
りに没頭した後、さらに開発公社を発展させている、「公社経営」
の鬼みたいな人と思いました。そして町民が、その活動を支持して
いること、ここまでくるには、歴代町長の苦しみ、それを支援して
きた町民の心意気・・・それにしてもすさまじい活力です。
国や県の応援もあるのでしょうが、素晴らしい自立した町、そし
て酪農と林業とエネルギー産業で、まちづくりを行っている見本を
見せていただきました。
翌日、小岩井農場を視察させていただきました。ここは、明治
24年に開設された農場で、共同創始者である小野義真(おのぎし
ん・日本鉄道会社副社長)氏、岩崎彌之助(いわさきやのすけ・三
菱社社長)氏、井上勝(いのうえまさる・鉄道庁長官)氏の三名の
頭文字をとって「小岩井(こいわい)」と命名されたとのこと、当
時は貴族が各地で牧場を開設した例は多いのだそうですが、必ずし
も成功しなかった、その中で、小岩井農場は三菱社の岩崎久彌氏が
経営を引き継ぎ、以来100年以上営々と経営を引き継いで今日の
隆盛を築いてきているとのことです。
葛巻町の牧場も、創業期には小岩井農場から二代続けて専務理事
を迎え、その牧場経営の神髄を学んだとのことでした。
小岩井農場は岩手山の南麓(なんろく)にあり、面積3千ヘクタ
ール(約900万坪)の広い敷地で、その3分の2が山林、700
ヘクタールが耕作地で、中央部の40ヘクタールほどを「まきば園」
として一般客に開放し、残りの部分が施設用地になっているとのこ
とです。
事業案内をみると、酪農事業、種鶏事業、たまご事業、山林事業、
環境緑化事業、農場商品販売事業、観光事業、技術研究・品質保証
・環境対応などで、農林畜産業を基軸に時代の要請に挑戦と書いて
ありました。
一番感心したのは、山林事業です。1千平方メートルを毎年植林
し、翌年はその隣に植林していく、法正林(ほうせいりん)という
手法だそうですが、それを100年繰り返し、100年たったら最
初に植林した木を伐採し、また、そこへ植林する計画とのことでし
た。広大な土地があるからできることでしょうが、そのスケールの
大きさにすっかり魅せられてしまいました。
それぞれの内容はとても語りつくせませんが、牧場経営から派生
していろいろな産業に手を伸ばしている、まさに21世紀型の産業
と感じました。例えば、酪農事業といっても、牛づくり、乳製品を
つくるだけでなく、バイオマスによる「自然エネルギー」すなわち
畜産バイオマス発電に取り組んで、メタン発酵発電施設を造るなど、
循環型社会に向けて挑戦していました。
以上、駆け足で葛巻町と小岩井農場を訪問した報告ですが、後者
については、我々の想像を絶する規模と歴史をもった農場でしたの
で、参考にすることは難しそうですが、葛巻町の取り組みについて
は、長野の中山間地域経営の参考になる素晴らしい取り組みと思い
ました。