2008年6月26日木曜日

長野市の平成19年度決算


 先月末にうれしい報告がありました。まだ、取りまとめ作業を進
立ち、先輩の皆さんが努力して積み立ててこられた市の積立金を取
り崩すことなく、年間の収入で支出を賄えることが確定したのです。
このことは、6月市議会定例会冒頭の、私のあいさつの中でも報告
させていただきました。

 平成19年度の当初予算の段階では、財源不足を埋めるために積
立金から29億2,000万円を取り崩すことになっていました
(ひところは60億円以上も取り崩す予算案を組まざるを得ない時
期もあり、このままでは、数年で積立金は枯渇し破産するのではな
いかと“ゾッ”としたこともありました)。
 しかし、法人市民税をはじめとする市税が当初見込みを上回る見
通しとなったほか、国からの地方交付税も堅く見積もっていた以上
に配分されましたし、予算の執行段階においても事業内容を再確認
したり、経費節減に努めたり、その中には入札差金もあったり、執
行をやめたものもあったりで、効率的な財政運営に努めてきました。
その結果、市の借金のうち217億円を予定通り返済し、新たな借
り入れは、目標としてきた100億円以内(93億円余)にとどめ
ることができました。そして、積立金を取り崩さずに決算を迎える
ことができたわけですから、大変ありがたい結果であったと思って
います。

 この決算により、市長就任以来、私が重視してきた市政運営5原
則の一つである「入りを量りて出ずるを為す」ということが、曲が
りなりにも実現できたと言えます。まあ、財政の数値は複雑なので
手放しで喜ぶわけにはいかない面はありますが、私としては、最大
の公約を実現できたという思いを強くしています。

 ただし、これは平成19年度の“決算”の話です。実は、本年度
(平成20年度)の“予算”は、まだ18億円の積立金を取り崩す
ことを前提に組んでいますから、安心はできません。しかし、“決
算”の数値は実際の結果ですから、“予算”の数値より重視すべき
であると私は考えており、財政健全化に向けた大きな壁を越えるこ
とができたと思っています。人間の体に例えれば、「長野市の財政
は、現時点では健康状態にある」と申し上げてもよいのでしょう。

 予算と決算でなぜこんなに数字が違うのか・・・皆さんは不思議
に思われるかもしれません。あるいは、いい加減に予算をはじいて
いるのではないか、と思われるかもしれませんが、決してそうでは
ないのです。

 予算を組み立てていく過程では、予算案を議案として提出する3
月市議会定例会を目指して、かなりハードな作業をしています。
 まず、前年の夏から秋口にかけて、国や県の動向をにらんだり、
補助金・交付金の可能性を調査したりしながら、市民の皆さんから
受けた要望をどう反映して、どんな施策に取り組むかを検討してい
きます。もちろん、この過程で、市議会各会派の議員さんからも、
大変多くの要望が提出されます。

 それらを総合的に勘案して、課ごとに予算を組み立てていきます。
この段階がなかなか大変で、市長は概略の方向性と方針を述べるだ
けと言ってもよいのですが、各課にはいろいろな要望が来ています
から、どうしても予算要求は肥大化する傾向になってしまいます。
それに対して財政課は、各課からの要求を査定して、市全体の予算
としてまとめるのですが、時間的な余裕がない中で、スリム化を目
指さなければならないわけですから、財政課の担当者と各課の担当
者はかなり激しい折衝を繰り広げることになります。いずれにしろ
市長が示した大枠の範囲に抑えることが至上命令ですから・・・残
業代がかさむ原因の一つになってしまっているかもしれません。

 そして、財政課の査定が終わり、予算原々案となって、最終段階
の市長査定に上がってくるわけです。毎年1月後半ごろが市長査定
です。その場で、各課は財政課に削られた部分の復活を要望してき
ますし、財政課の立場からは「それはこういう理由で駄目です」と
拒否する、それらに対して市長としても「こうすべき」という考え
があります。これでは、市長査定がいつまでも終わらなくなってし
まいますので、その場では、財政部長が「この範囲なら可能」とい
う多少の余裕を市長にそっと耳打ちしてくれます。まあ、それは、
市長の顔を立てるために、「市長は多分こう言うだろう」と、あら
かじめ予測している面も感じていますが・・・。
 そんなやりとりを重ねて市長査定が終わり、部長会議の決定を経
て、予算原案が固まりますと、市長が3月市議会定例会に提案し、
議決されれば新年度予算成立ということになります。

 予算を組む段階では、もちろんルールがあります。
 まず、支出予算ですが、公共工事の場合には、資材の単価や経費
の率などにルールがあります。しかし、事業を実施する段階では基
本的に入札を行います。
 入札では、落札価格の上限となる予定価格と下限となる最低制限
価格を、予算の範囲内で設計した事業の積算額に基づいて設定しま
す。この範囲の中で、最も低い金額を提示した事業者が落札するこ
とになります。実際に予算を執行する金額は、落札された金額によ
り決まることになりますので、場合によっては、予算額を大きく下
回ることもあるのです(入札では、現在でも低価格での落札が少な
くないことから、工事に必要な資材や人件費など、最低限の経費す
ら賄えないような価格で落札されることを防ぐために、下限の価格
となる最低制限価格を設けています)。

 また、安全率を見ざるを得ないものもあります。生活保護費や児
童手当をはじめ、特別会計の介護保険事業や国民健康保険事業など
へ支出している社会保障費については、対象となる人数など、どう
しても正確に見込むことができない数値が出てきてしまうのです。
そのため、これまでの決算などから推計して、赤字にならないよう
に見積もらざるを得ないことになります。

 収入予算では、国からの地方交付税も予算段階では、総務省など
から公表される資料を使って財政担当者が独自に積算して得た予測
値ですし、皆さんからいただく市民税も、過去の傾向や経済動向を
調べたり、各企業の聞き取り調査などを行ったりして得た情報から、
税務担当者が予測している値なのです。

 このような事情の積み重ねにより、予算と決算がピタリ一致する
ということは不可能であり、どうしても開きが生じてしまうことに
なります。そして、決算段階で収入が大きく減ったり、支出が増え
たりして、予測しなかった赤字が出る可能性があることも、常に念
頭に置いておかなくてはならないことです。でも、決していい加減
に見積もっているわけではないことはご理解いだだきたいと思いま
す。

 平成19年度は、さまざまな努力の結果として、うれしい報告が
できたのですが、国の財政もご存じの通り、単年度主義ですから、
補助金・交付金などを長期にわたって約束してくれているわけでは
ありません。しかも、国は約800兆円を超える多額の借入金を抱
えているのですから、財政再建のため「地方への補助金・交付金は
出せません」と、突然、緊縮財政の方針を示す可能性もあるのです。
 さらに、サブプライムローン問題を発端とする世界的な景気減速
感、原油や原材料、食料品、飼料の価格高騰などによる景気の先行
きの不透明さが増してきているわけですから、税収も落ちるかもし
れない・・・心配すればきりがありません。

 そのような中で、長野市では、ごみ焼却施設の建設、小・中学校
や市役所庁舎、市民会館の耐震対策、斎場の整備など、今後も大型
事業を行う必要性に迫られている状況です。
 そして、本当の意味での財政再建ができて、「安心した」と胸を
張れるのは、どういう状態をいうのか、よく分かりませんし、いつ
になるのかも分かりません。
 それゆえに、私とすれば、若干あいまいではありますが、「入り
を量りて出ずるを為す」という基本的な原則を掲げ、目指す方向だ
けは、常に明確にしておきたいと思っています。

 今回のことで気を緩めることなく、これからも、財政の見通しを
時々の状況に合わせて見直すとともに、引き続き行政改革を進め、
効率的な行財政運営に努めていきたいと考えています。