旧聞に属する感じで恐縮ですが、7月7日~9日の3日間、福田
かせていただきます。
開催から約1カ月半を経たこと、そして、ここしばらくの間の報
道が北京五輪一色になっていたということもあり、何かはるか前の
出来事のようにも思えるのですが、大変重要なことであり、新聞論
調を含めマスコミの評価も一巡したように思いますので、私なりに
このサミットについて考えてみました。
サミットは、1975年(昭和50年)、フランスのランブイエ
で6カ国が参加して第1回が開催されて以来毎年開催されており、
今回で34回目、日本での開催は5回目です。メンバーは時代の流
れとともに多少増えてきており、現在のメンバーは、G8(主要8
カ国)ということで、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイ
ツ、カナダ、イタリア、ロシアの8カ国、それにEU(欧州連合)
委員長が加わっています。
今回は、主要テーマが地球温暖化問題ということで、MEM(主
要経済国会合)のブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカ、
インドネシア、韓国、オーストラリアも招待国として、また、関係
国際機関として、国連、世界銀行、OECD(経済協力開発機構)、
IEA(国際エネルギー機関)なども参加したようです。
サミットの目的は、経済・社会問題を中心に、国際社会が直面す
るさまざまな課題について、非公式かつ自由闊達(かったつ)な意
見交換を通じて、物事を決定し、その成果を宣言としてまとめるこ
となのだそうです。
他の国際フォーラムとは異なり、事務局はなく、それぞれの国で
総合的・横断的にさまざまな分野を総覧する立場にある首脳がトッ
プダウンで物事を決めるため、迅速な決断と処置を行うことが可能
な仕組みということです。
ただ、私見を述べさせていただくと、サミットが、国連総会など
が形式化して多くの国の利害調整が難しくなり、重要事項などを迅
速に決めることができなくなっていることから始められた会合だと
すれば、参加国が増えるということはいかがなものでしょうか。ま
た、自由闊達な意見交換というのも、メンバーが多くなるとどんな
ものでしょうか?
イタリア在住の塩野七生さんが、『文芸春秋』9月号に「サミッ
ト・雑感」という文章で、サミットはもうやめたらいいのではない
かと、幾つかの理由を挙げて述べておられます。
参加国が増えていることについては、「当事者を参加させれば問
題の解決も早くなる、などという、人間性に無知でしかも偽善的な
考えをもったのも、サミットを機能不全にした要因の一つであった。
当事国同士で話し合って解決できた局地紛争が、一つでもあったろ
うか。・・・サミットの利点は、当事者でない人たちが、当事者を
越えた視点に立って考えた政策を、そのもつ経済力を活用して具体
的に実施することにあった」と指摘されています。まさに卓見であ
ると思います。
今回のサミットの結果についてのマスコミの論調は、おおむね辛
口の評が多く、福田首相の人気回復にはつながらなかったというも
のが多かったのですが、分かりやすくて、私が受けた印象に一番近
かった論評を転載させていただきます。
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排出国ぶつかる国益(7月10日付け産経新聞)
地球温暖化の責任を問うべきは「過去」なのか「未来」なのか・
・・。北海道洞爺湖サミット最終日に開かれたMEMでは、G8と
中国、インドなどの間で、温室効果ガスの排出削減をめぐって責任
のなすりつけとも映る場面が見られた。
背景には、1997年(平成9年)に採択された京都議定書が、
先進国の過去の排出分に責任があるとしているのに対して、現在の
議論は、今、排出増加を続ける途上国、とりわけ中国やインドなど
の新興国に「未来責任」を問うているからだ。
「これまで蓄積している温室効果ガスの発生源は、19世紀後半
以降、工業化を先に進めてきた先進国だ。責任を認めた上で、議論
を進めるべきだ」(新興国)・・・「それは否定していない。先進
国が率先して削減を進めていくべきだとの認識だ」(先進国)・・
・9日のMEMでのやりとりだ。
また、中国やインドなど新興国側は「新興国といわれるが、いま
だ国内に多くの貧困を抱えている。経済成長が少しでも脅かされる
ことはできない」とも訴えた。
G8に中国、インドなどの9カ国を加えたMEMは、「温室効果
ガス」削減の長期目標について「世界での共有を支持する」との首
脳宣言を採択した。排出削減の義務付けを警戒する中国、インドな
どの反発もあり、「2050年までに半減」などの具体的な数値目
標や時期を明記することができなかった。
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このように、「2050年までに排出半減の長期目標を世界が共
有する」としたG8側のサミット首脳宣言に比べ、MEMの合意は
かなり後退している印象は免れませんが、私は次の2点において一
歩前進ととらえるべきだと考えています。
まずは、京都議定書を批准しないアメリカを、曲がりなりにも巻
き込んで数値目標を入れたこと。そして、削減義務を負うことは絶
対にできないと言っていた新興国を、「長期目標について世界での
共有を支持する」というところまで巻き込んだこと。これは、言葉
の遊びのようにも聞こえますが、新興国の妥協をここまで引き出せ
たことは、上出来だと私は思いますし、新興国側にも、それだけ地
球温暖化に対する危機感があるということを明らかにできたことに
も価値があると思います。
現在の世界的な危機は、三つのFだという論を読んだことがあり
ます。三つのFとは、「Fuel(フュエル:燃料)」、
「Food(フード:食料)」、「Finance(ファイナンス
:金融)」。すなわち、アメリカのサブプライムローン問題に端を
発した金融市場の乱れから、投機資金が商品先物市場に流れ込んだ
結果、原油や食料価格の高騰を招き、これら3つが絡み合って現在
の危機的な経済状況を引き起こしている、というものです。
また、石原東京都知事は、新聞に連載しているエッセーの中で、
「環境破壊」「物価高騰」「H5N1型鳥インフルエンザ」という
三つの事項により、人類は、その存在そのものを危うくする危機に
瀕(ひん)していると指摘しています。
そのうち、「環境破壊」「物価高騰」の元凶は、市場原理主義と
株主至高の価値観だろうと主張しておられました。
確かにこれらは、現在の地球的な規模での危機を表しているもの
とは思いますし、これらも含めて総合的にサミットで論ずべきとの
意見だろうと思います。ですが、限られた時間のなかで議論すると
すれば、やはり「地球温暖化」でしょう。すべての危機のベースに
なるかもしれない大問題であり、後戻りが許されないテーマだと思
います。
身近な地球温暖化対策や長野市としての取り組みについては、第
219号や第267号のメルマガなどでも触れてきました。当時と
比べれば、クールビズの取り組みも随分浸透しましたし、過剰包装
やレジ袋を断るということも一般的になってきました。
そして、皮肉なことに、このところの原油価格の高騰を受けて燃
料などを節約せざるを得なくなり、その結果、削減できた温室効果
ガスの排出量も相当な量に上っているのではないでしょうか。
このように、私たちは、着実に温室効果ガスの排出量を減らして
きていると思えるのですが、京都議定書で日本が世界に約束した
「2012年(平成24年)までに日本の温室効果ガス排出量を
1990年(平成2年)に比べて6%削減する」という目標には、
まだ遠いようです。
少し前のデータですが、2006年度(平成18年度)の段階で
の排出量は、前年に比べて1.3%減少したとのことですが、
1990年(平成2年)と比べると6.2%上回った状態なのだそ
うです。あと4年余りで約12%の削減。京都議定書の数値ですら、
並大抵なことでは実現が難しいというのが現実です。
今回のサミットにより、あと40年間で温室効果ガスを半減する
という長期目標を示したことは大きな成果といえます。しかし、こ
れを実現していくための方法をいかに具体化していくか、われわれ
人類の存亡をかけた重要な課題です。
サミットでの話は、日本で、あるいは世界での削減ということに
なるのですが、どうもピンと来ないというのが実感です。私たちは、
自分のことと考えて、一人一人がどう対処するかというレベルに引
き戻していくことが、大切なような気がします。
日本の温室効果ガス排出量の削減目標を実現するための国民的プ
ロジェクト「チーム・マイナス6%」では、身近な温暖化対策とし
て次の6点の実行を提案しています。
・温度調節で減らそう 冷房時の室温は28度、暖房時は20度
に設定しよう
・水道の使い方で減らそう 蛇口はこまめにしめよう
・自動車の使い方で減らそう エコドライブをしよう
・商品の選び方で減らそう エコ製品を選んで買おう
・買い物とごみで減らそう 過剰包装を断ろう
・電気の使い方で減らそう コンセントからプラグをこまめに抜
こう
私たちの日常生活では、二酸化炭素の排出量など、あまり気にし
ないで行動することが多いと思います。食事の時にカロリー摂取量
を気にするように、これからは、二酸化炭素排出量も意識して生活
できるようになると効果がありそうです。
ちなみに、長野市の家庭部門の温室効果ガス排出量は、2004
年(平成16年)の時点で、1990年(平成2年)に比べ
48.2%も上回っているそうです。目標達成にはかなりの努力が
必要です。
目標の達成には、ライフスタイルの見直しや省エネ機器の購入は
もちろんですが、高気密・高断熱住宅や低公害車の普及、太陽光発
電、バイオマスなど、再生可能なエネルギーの利用も進める必要も
あります。また、実用可能な燃料電池車や家庭用燃料電池が開発さ
れていますが、今後の技術革新などにより低価格化が進み、普及す
ることを願っています。