先月末、麻生首相が、自ら、不況克服のための緊急経済対策を発
表しました。「現在の経済は、100年に一度の暴風雨が荒れてい
る。金融災害とでも言うべき、アメリカ発の暴風雨と理解している
・・・」という冒頭発言に始まる言葉は、基本的には地方自治体に
身を置くわれわれの認識と一致していると感じています。
国家経済は国政で対応すべき問題であり、地方自治体が意見を言
うことは犬の遠ぼえみたいで、私はあまりしたくない、地方自治体
は所与の条件の中で最大限の努力をすべきなのだ・・・と考えてい
ますが、今回は、地方自治体にとっても大きな影響があることです
ので、あえて書かせていただきます。
本年6月に、3回にわたって「お金を「おもちゃ」にした“つけ”
はどうなるの?」と題して、このメルマガでサブプライムローン問
題を取り上げたことを覚えていただいているかもしれません。今回、
麻生首相が緊急経済対策を発せざるを得なかった問題の根源は、こ
のサブプライムローンにあることは事実でしょう。でも、私がメル
マガ原稿を書いた6月の時点では、まだ、国際的な金融世界の問題
で、実体経済にどんな影響が出るかはよく分かっていませんでした。
当時は、世界的な株式相場の減速がきっかけで、原油を筆頭に、
食料などの資源価格が暴騰するという事態に遭遇していました。こ
れは、株に投資していた資金が、株は駄目だということで原油や食
料に向かったとか、中国やインドなどの新興国家の経済が発展して
資源を大量に使うようになった、などと説明されてきましたが、本
年9月、問題の震源地である米国の大手証券会社リーマン・ブラザ
ーズの破たんを引き金にして世界同時株安が加速し、ついに実体経
済に深刻な影響が出始めたということでしょう。
今までは、景気が悪くなると、企業の業績や雇用の問題はもちろ
んですが、「今後、地方の税収が減るだろうなあ」と、地方自治体
としての収入面を心配していました。今回は、どうもそれだけでは
済みそうもなく、地方自治体にも具体的にいろいろな影響が出てき
そうな様子です。6月の時点でメルマガに書かせていただいた意見
は、今でも特に変える必要はないと思っているのですが、現在の事
態が6月に書かせていただいた内容の延長上にあるということもあ
り、もう一度、書かざるを得ないと考えました。ですので、今回は、
その続編ということでご理解ください。
10月に入って、景気が急速に落ちてきたようです。先日、ある
会社の社長さんとお話しする機会があったのですが、その際の話で
は、「当社の9月末の中間決算は増収増益で好調。でも10月に入
ってから急速に悪化している」とのことでした。普通の企業にとっ
ては、9月末の中間決算ですら相当深刻なのに、それ以後、急速に
悪化しているということですので、来年3月の決算数字はもっと悪
くなる可能性が高いと予想され、心配です。
それまで好調であった業績が、10月に入って急に悪くなること
は、考えにくいと思うのですが、景気は、心理的要素が大きいとも
言われていますので、サブプライムローン問題に加え、証券会社や
銀行の破たん報道が続いて、もしかすると日本も・・・そんな心理
が働き、買い控えや設備投資の抑制など、景気後退への動きが出て
きたのでしょうか。
麻生首相は、「選挙より経済」として、予想されていた総選挙を
延期しての緊急経済対策の発表となりました。ねじれ国会の下です
から、すぐできる政策と、国会の議決に時間を要する政策がありそ
うですが・・・確かに過去に例を見ない大掛かりな政策であると私
は感じました。
麻生首相の発言を追っていくと、対策は大きく分けて二つです。
一つ目は国内でできること。それは生活者の安全保障であり、金
融の安定ということで、考えられる限りの大胆な対策を、経済対策
としてまとめた、とのことです。
二つ目は、国際的にしなければならないことで、金融安定化のた
めに、国際協調を進める、とのことでした。
私は、ここで不思議に思うことがあります。一つ目のことについ
ては、報道各社や政党関係、経済団体などのコメントがいろいろな
角度から、論じられており、分析がされていますが、二つ目につい
てはどこも取り上げていないように思うのです。
私は、麻生首相の記者会見の中継をテレビで拝見していて、二つ
目の部分に“なるほど”と感じたのですが、その後の新聞報道に全
くと言っていいほど現れてこない、これは変だと思っています。根
源的な問題ですから、もっと解説なり、批評があってしかるべきで
はないでしょうか。
実は、このメルマガを書くために、新聞報道を改めて見返してみ
たのですが、二つ目として発言があった経済対策の内容は、とうと
う発見することができませんでした。仕方がないので、インターネ
ットで首相官邸のホームページを開き、記者会見の項目の中からよ
うやく見つけることができたのです。
私はあえて、麻生首相のおっしゃる二つ目から考えてみます。
金融機関に対する監督と規制の国際協調体制について、サブプラ
イムローン問題に端を発した金融危機の問題には、以下の三つの問
題があると、麻生首相は指摘しておられます。
(1)貸し手側が行ったずさんで詐欺的な融資
(2)証券化商品の情報が不透明
(3)格付け会社の格付け手法に対する疑問
これらのことは、失礼ながら、私が6月のメルマガで指摘させてい
ただいたことと同じであり、当然のことです。
麻生首相は、「こうした証券化商品が世界中の投資家の投資の対
象になったことで、危機が全世界に広まってしまった。金融機関と
いう、本来、厳格な規制が必要とされる分野で、ここまで大きな問
題点を見過ごした監督体制について、反省すべきである」というこ
とを指摘しておられます。そして、「このことは、各国当局がおの
おの監督を行う仕組みでは不十分で、いかに国際協調を構築するか
が大切で、金融に関するいわゆる首脳会議において議論をしよう」
と主張しておられます。
私は、麻生首相の意見には大賛成です。が、仕方ないことではあ
りますが、表現が随分穏やかすぎると感じています。米国の責任を
もっと糾弾してもよかったのではないでしょうか。補償を求めても
良いぐらいです。倒産したリーマン・ブラザーズの最高経営責任者
は昨年、最も優れた経営者として表彰されているのだそうです。冗
談でしょうと言いたいところですし、金融工学と称する経済分野で
ノーベル賞を取った学者さんも、確かアメリカ人だったような記憶
があります。
続いて、格付けの在り方についても指摘しています。「格付け会
社は、債権市場発展には不可欠なインフラであるが、深刻な問題が
あったことは否めず、世界的な金融不安を増長した。こうした影響
力を有する格付け会社に対する規制の在り方がどうあるべきか、ま
た、アジアなどローカルな債権の格付けを行う地場の格付け会社を
育成する必要がある」と主張し、これも国際会議の場で議論したい
とおっしゃっています。
この点について、私は納得がいきません。格付け会社は「債権市
場発展に不可欠なインフラ」という認識がどうも分かりません。格
付け会社というのは、要は投資会社が自己責任を放棄して、安易に
投資ができるようにするためにあるのだと私は思っていますから、
そのようなものは不必要ではないかと考えています。投資会社は、
自己責任で投資先を調査して、自己責任で投資すべきということは、
当たり前ではないでしょうか。
さらに、会計基準の在り方についても言及しています。「今回の
ような金融市場が大きく乱高下する状況において、すべからく時価
主義による評価損益の計上を要求することが、果たして適切だろう
か。時価主義をどの範囲まで貫徹させるべきか、さらに有価証券を
売買するか、また、満期まで保有するのかによって、いかなる評価
方法が適切であるのか。国際的な合意を目指して議論したい」との
ことです。
この点についても、私は疑問があります。有価証券は変動する商
品ですから、時価をきちんと把握しておくことは、正しいと思って
います。まあ、売買用の証券か、保有用の証券かを分けて、保有用
については何らかの対策をとるような合意はなされるかもしれませ
んが、あくまで時限立法の範囲にしておくべきではないでしょうか。
以上が、麻生首相が発表された二つ目の経済対策についての私の
感想です。
次回は、一つ目の対策について、新聞報道などを参考にしながら、
書かせていただきます。