2009年5月14日木曜日

地域活性化アドバイザーの皆さんへ


 本年度、中山間地域を抱える住民自治協議会に対して市の嘱託職
員を派遣する、地域活性化アドバイザー制度を創設したことは、3
月末のメルマガでもお知らせしたとおりです。

 先月、3日間の日程で、この地域活性化アドバイザーの研修会を
開催し、市長として私も講師を務めました。
 地域活性化アドバイザー制度の創設は、都市内分権を掲げて進ん
できた私にとって、極めて重要な一歩と考えていますので、研修会
では、アドバイザーの皆さんにぜひ頑張ってほしいと考え、私の思
いを語らせていただきました。
 以下は、そのときの話を若干整理したものです。

 都市内分権は、長野市長としての私の最大テーマであり、市民の
皆さんが市政に参加する新しい仕組みだと考えています。
 国が主張する地方分権は、建前としては戦後一貫して唱えられ続
けており、本来ならば大切なテーマだったはずです。しかし、実際
には、国の方針は一貫して中央集権社会を目指していたと思わざる
を得ません。地方分権は、口先だけだったのではないか、結果論で
はありますが私はそう感じています。ただ、貧しい時代において、
中央集権社会の方が効率がよいということもあったことは事実でし
ょう。

 県議会議員、長野市長を経験され、地方行政で活躍された故夏目
忠雄さんが、参議院選挙に出馬した昭和49年夏、その公約は「地
方の時代」でした。それを公約しなければならなかったということ
は、まだ地方の時代ではなかったことの証明でしょう。
 当時、すでに戦後約30年たっていましたが、「地方の時代」と
いう言葉は単なる掛け声で、実現するための工程表もなく、選挙の
ために使われる空論だったと思うのです(ただ、私は夏目さんを批
判しているわけではありません。彼は、地方を大切にされた、私が
心から尊敬する市長さんです)。

 ようやく制度が整ったのは、平成12年、「地方分権一括法」が
施行されてからです。国の機関委任事務が廃止され、すべてが地方
事務になりました。不十分なことは多々あるのですが、形式的には
地方の時代が始まったといえる大きな出来事だったと思います。

 それまでの地方には、国からの委任を受け、国が決めたことを正
確に行うことが必要とされており、自主性は必ずしも求められては
いませんでした。従って、市の職員には、決まっていることを誤り
なく実行することのみが求められていたのだと思います。
 そこへいくと県職員の場合は少し違っていて、政策的思考を求め
られていたように感じています。長野オリンピックの準備段階に、
当時、私が外部のボランティアとして、NAOC(長野オリンピッ
ク組織委員会)に派遣されていた市職員と県職員、そして民間会社
の社員に接した際に、それぞれの違いにびっくりしたことを思い出
しています。

 平成12年から7年、少しずつ地方の時代になりつつあることは
事実ですが、なかなか一気には進んではいません。地方分権一括法
ができても、個別法がそのままのものも多く、そちらが優先してし
まうためか、すべてが地方事務にはなっていないのです。
 税源も国から譲られてきてはいますが、全部ではありません。要
は、地方の自由度を上げるための財政が伴っていないのです。国と
地方の仕事量が4対6なのに、税源は6対4になっている。これを
せめて5対5にしてほしいというのが、全国市長会などの要望です。

 究極の地方分権体制とは何でしょうか。私が尊敬する童門冬二先
生の説ですと、それは、江戸時代の幕藩体制だろうということです。
藩外との交流が制限されていたこと、藩札が存在していたこと、藩
単位で経済が完結していたこと等々、良い悪いは別として究極の分
権体制ということは、童門先生のおっしゃるとおりかもしれません。

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 このような分権の流れの中で、市町村は地方分権をどのように考
えていくべきなのか、ということが私のテーマになりました。分権
なんて言わずに国の言うとおりにしている方が地方にとっては楽な
のです。ただ、それでは、自主性が発揮できない、地方の特色が出
せない、ほかの都市に比べて長野市は素晴らしいと言うことができ
ない。これでは努力のしがいがないではありませんか。苦労してで
も長野市を日本一素晴らしいまちにしたい、市民の夢を実現したい、
と私は考えました。

 以前、このメルマガにも書かせていただいたことですが、地方自
治体が自主性を発揮するためには、権限・財源を国から地方へ大幅
に移すことが必要であるというのは当然で、地方としても、移され
た権限・財源を受けて、きちんとした地方経営ができるだけの実力
を持たなくてはならないと思っています。国の指示通りにしていた
方が楽ではありますが、それでは、分権の受け皿にはなり得ません。

 同じことが地方自治体の中でも言えるのではないでしょうか。行
政のシステムとしては市民にできるだけ近いところに意思決定の場
を作っていく、すなわち都市内分権を進め、住民が参加しやすい制
度にすることが必要なのではないか、ということです。
 確かに地域の負担は増えるかもしれませんが、市民が市政に参加
する手段として、地域の課題を迅速かつ効果的に解決するための仕
組みとして、都市内分権が必要だということなのです。特に長野市
のような中核市は、地方自治のモデルとして、率先して都市内分権
を採用すべきだと思っています。さらに、市町村合併によって大き
くなってきた都市にとっては、“行政が遠くなった”という市民の
声に対して、これ以外の方法は考えにくいという事情もあると考え
ました。
 都市内分権、すなわち長野市版の地方分権です。

 都市内分権を推し進めるために必要なのが、人と資金であること
は、ほかの事業と同じです。資金のことは何とかするとしても、地
域の運営をしていく上で、人の問題は重要です。本来的には、地域
の皆さんが自ら頑張っていただくということであり、地域によって
は自ら事務局を設けて、準備をしていただいているところもありま
す。
 ただ、残念ながら、中山間地域は著しい人口減少や高齢化が進ん
でいるということで、住民自治協議会を運営していくことにかなり
の支障があるのではないかと感じました。
 そこで、第一段階の支援策として、地域活性化アドバイザー制度
の創設に踏み込んだのです。

 アドバイザーの身分ですが、本来は市の嘱託職員ではなく、住民
自治協議会が雇用すべき職員だと考えています。ただ、現段階では
住民自治協議会の準備ができていないので、やむを得ず市の嘱託採
用としたものです。そのため、考え方としては、市長(支所長)の
指示を受けるのではなく、基本的な軸足は住民自治協議会に置いて、
協議会の会長・役員の皆さんとともに地域のための仕事をしていた
だきたいと考えています。

 アドバイザーの仕事の唯一の目的は、「地域の活性化」です。必
要なお金については、市や県にさまざまな制度がありますから、勉
強してください。そして、それらを踏まえた上で、地域の皆さんと
相談しながら、あるいは農業公社などと提携して、何としても元気
な地域をつくってもらいたいと思っています。マニュアルはありま
せん。皆さんが中山間地域に住む方々と相談して、必要な仕事をつ
くり実行してください。
 このようなことも、研修会では申し上げました。

 都市内分権の本格稼働まであと1年です。“地域の中で生計が立
てられなくては、活性化はあり得ない”そんな気構えで取り組んで
ほしいと思っています。
 この人事は、私にとって今年最大の目玉です。アドバイザーの皆
さんが頑張ってくだされば次につながり、新しい職場が生まれると
いう意味もあります。皆さんからの提言で、“中山間地域にこんな
事業を起こしたいから人を雇用する”というスキームも生まれるか
もしれません。必要な資金は、皆さんからの提案を受けて、農業公
社などと協力して何とかしたいと考えています。

 数年前、私は、塩野七生さんの著書『ローマ人の物語』からヒン
トを得て“屯田兵に似た制度をつくりたい”と庁内で主張したこと
があります。また、“開拓時代のアメリカ西部には、あちこちに農
場があって、中心地には、酒場、ホテル、グローサリー(食品雑貨
店)があった・・・それが集落の原型だったのだろうと感じている”
なんて発言をしたこともあります。

 いずれにしろ、数年後、地域の人から、アドバイザーに来てもら
って本当に良かったと言ってもらえるかどうか・・・アドバイザー
の皆さんに期待しています。