市民サービスというと、行政が行う保育園や健康保険などを思い
出される方が多いと思いますが・・・私は、行政が行うすべての事
業が市民サービスだと思っています。
長野市では、昨年、市が提供しているさまざまな市民サービスに
ついて、市民の皆さんからどのくらいの対価を頂くのが良いのか、
ということの考え方の原則を決めて発表しました。誤解のないよう
にお願いしますが、あくまでも考え方であって、新しい金額を決め
たわけではありません。
市民サービスを提供する対価として、市民の皆さんからは税金を
頂いているのですが、そのほかにも、サービスの利用者には、税金
とは別に施設などの使用料や講座の受講料などの料金を負担してい
ただいています。
しかし、ご負担いただいている料金の算定基準は必ずしも統一さ
れておらず、類似するサービスと比較して均衡の取れていないもの
もあり、このような状況に以前から疑問を感じていました。
そこで、市の行政改革推進審議会に諮問して、サービス利用者に
ご負担いただく金額の考え方の原則をまとめていただきました。
今後、料金を改定する場合には、この原則に基づいて慎重に検討
し、市民の皆さんからいろいろなご意見を頂いた上で最終的には市
長が決断して議会の了解を得る、そんな手順で実施することになり
ます。現在は、その手続きを開始した段階です。
今回は、行政改革推進審議会の方々にまとめていただいた考え方
の原則について、私なりにお話しさせていただき、皆さんにご理解
いただきたいと考えています。
まず、一般的なお話をさせていただきます。
施設などのハードに関するものでも、診療や保育園運営などいわ
ゆるソフトに関するものでも、市がサービスを提供するために必要
な費用は、市民の皆さんから頂く税金や、サービス利用の際にお支
払いいただく料金などにより賄われています。
可能であれば、別途、料金などを頂くことなく、税金のみでサー
ビスを提供したいのですが、現実には税金だけで賄うことはできま
せん。また、後で述べさせていただきますが、サービスを利用する、
利用しない、という公平性の観点からも、税金だけで賄うべきでは
ないとも思っています。
仮に、税金だけで市民サービスすべてを賄おうとした場合には、
税金をもっと頂くか、提供するサービスを減らすことを考えざるを
得ないのです。ただ、これでは、サービスの低下どころか、行政が
成り立たないことは、誰が考えても明らかです。
必要なサービスを維持していくためには、公平性の観点から見て
も、どうしても利用される方に使用料や受講料などの料金を負担し
ていただくことも必要になってしまいます。
このことをご説明するために、まず、市が提供している市民サー
ビスを分析・分類してみました。
(1)国が基準を定めて、サービスの提供方法を決めているために、
長野市として自由に料金を決めることができないものがありま
す。典型的なものは義務教育で、これは無料です。料金を頂く
サービスではありませんが、生活保護などもこの区分の中に入
ります。
一方で、例えば保育料のように、国が決めた基準があるもの
の、実際には市が独自の予算を使って保護者の負担を軽減して
いるようなものもあります。国民健康保険なども同じ区分に入
るサービスです。
(2)国の補助を受けて整備した施設などで、無料でなくてはなら
ないと国が規定しているものもあります。図書館、公園などは
この区分に入るでしょうし、道路も有料道路としてつくったも
の以外は、当然無料です。
(3)公営企業が提供している市民サービスというものもあります。
長野市の場合、具体的には上下水道局が提供するサービスです。
これは、行政が提供するサービスではありますが、企業と同様
に原価計算をし、利益を見込んで料金を頂いてしっかり経営す
る、そんなサービスです。
(4)市が独自に計画し、国や県に依頼して補助金を受けて提供す
るサービスもあります(補助金を受けられない場合ももちろん
ありますので、企業に協賛していただけるとありがたいのです
が・・・)。補助金などの支援が受けられないサービスの典型
は、スキー場や動物園の経営でしょう(今秋竣工(しゅんこう)
予定のレッサーパンダ舎の改築には、地方交付税で支援しても
らえる合併特例債の活用を考えていますが、運営経費への支援
はありません)。支援が受けられるサービスには、冬の道路除
雪などがあります。
(5)民間企業に代わって市が提供するサービスもあります。赤字
などが理由で企業がやむなくサービスの提供をやめてしまう場
合に、長年利用してきた方々の生活が成り立たなくなってしま
うことから、行政として取り組まざるを得ないことがあります。
その場合は、企業に赤字を補てんするための補助金を出したり、
廃止代替として実質、行政直営でサービスを提供したりしなく
てはなりません。赤字のバス路線などがその典型です。
(6)公益を追求するサービスと、私益的な利用に提供するサービ
スということで考えてみますと、こんな考え方もあるでしょう。
施設サービスの中では、例えば、スポーツ施設や会議場などは、
私益的なサービスと言えるでしょう。ただ、これらを長野市が
主催する事業で使用するときは、公益と言えると思いますし、
市ではありませんが、学校行事や地域行事でお使いになるとき
も公益的と言えることは当然です。
市が提供するサービスには、いろいろな形態・考え方があること
がお分かりいただけたでしょうか。
ただ、すべてのサービスについて言えることですが、お使いにな
るのは市民全員ではない、ということです。それぞれのサービスに
は、利用する(できる)人と、利用しない(できない)人が必ずい
ます。利用しない人の中にも、本当は利用したいけれど、何かの理
由(例えば、遠い、狭い、古いなど)で使えない、使わない、とい
う人もたくさんいるわけです。全市民が同一に利用するというサー
ビスは、実はあまり多くないと言えるのです。
従って、市が提供するサービスをすべて無料にするということは、
利用しない(できない)人からみれば不公平だということになるで
しょう。無料ということは、すなわち、すべて税金で賄われている
わけですから・・・。
ただ、利用の有無にかかわらず、消防や救急、義務教育、地区の
公園など、本来、市民の皆さん誰もが利用できるよう、税金で賄っ
て提供すべきサービスもあるわけです。今回は、このような本来行
政が提供すべき公益性が高いものを除いたサービスについて、利用
者負担の割合に関する考え方の原則をまとめたということです。
言い換えますと、今回、この考え方の原則をまとめ、利用者とし
て応分のご負担をお願いすることは、税負担、すなわち市民全体の
負担を減らすことにつながる、ということをご理解いただきたいと
思います。
次に、市民の皆さんが一番気にされていると思われる、ご負担い
ただく金額を具体的にどう決めるべきか、という点についてです。
まず、市が提供するサービスに対して応分のご負担をお願いする
ためには、サービス提供に要するコスト(原価)を明らかにするこ
とが必要ですし、そのコストの算定もある程度統一的な方法で算出
する必要があります(統一的といっても、例えば個々の施設は全部
違いますから、個別に妥当性のある検討が必要なことは当然です)。
長野市民会館のコストを例にして考えてみましょう。
まず、基礎的なコストとして、施設をつくるための建設費、用地
費があります。この費用から、施設の耐用年数に基づいて算出した
額を、減価償却に相当するコストとして考えることもできます。た
だし、長野市民会館建設のための借入金返済は終わっていますし、
昭和36年の建設から約50年間使用しているということもあり、
現在のコストとしては、施設建設費用はゼロだと考えても良いでし
ょう。
このほかのコストには、施設維持や運営に掛かる費用があります。
これらの費用には、人件費をはじめ、保守点検費、修繕費、清掃費、
そして電気・上下水道といった光熱費などがあり、毎年掛かる費用
です。特に光熱費や修繕費などは、施設が古いが故に効率があまり
良くはなく、割高になっていることも事実です。
また、役務提供費も掛かります。例えば講演会や講座を開催する
と、講師料や謝金、消耗品費などが必要になります。そのほか、全
体を管理する部門の費用も掛かります。
このような費用を合計し、サービス提供に要するコストを算出す
る予定です。併せて、税金以外にご負担いただくべき金額をお示し
していきたいと考えています。
ただ、市が提供するサービスの内容は、大変多岐にわたっている
こと、内容・性質によって利用する人も異なることから、利用者の
負担と税による負担を一律にすることも現実的ではありません。サ
ービスを大まかな類型に分けて、類型ごとに利用者負担の割合を決
めることが、一番合理的なのでしょう。
以上が、市民サービスの利用者に負担していただく費用に対する
基本的な考え方です。この考え方に基づいて、負担していただく金
額を再検討してみますと、これまでどおり無料のままや低料金で提
供すべきであるというサービスも多いのですが、安すぎるのではな
いかというサービスも結構あるのです。
市民の皆さんにご負担いただく金額のことですから、当然、さま
ざまな配慮が必要になることは言うまでもありませんが、公平性と
いうことを視点に、市民の皆さん全体の負担を減らしたいというこ
とを考えますと、何とかしなくてはいけないのではないか・・・、
そんな思いも強くしています。
行政改革推進審議会でまとめていただいた内容は、長野市のホー
ムページにすべて公開しています。今回書かせていただいた原理原
則の詳細は、こちらをご覧いただければ幸いです。