2009年7月9日木曜日

底割れを防ぐ経済対策


 昨年6月、少しおこがましいかなと思いながら3回にわたって
「お金をおもちゃにした“つけ”」というテーマでメルマガを書か
せていただきました。
 私は、経済の専門家でも評論家でもありません。ただ、どう考え
てもおかしい、こんなことが許されて良いはずがないと考えて、サ
ブプライムローン問題について勉強をして書かせていただいたのが
このメルマガです。

 その後、9月になっていわゆる「リーマン・ショック」が襲い、
世界の経済は一挙に大混乱に陥りました。そして、今年に入ってか
ら、ビッグスリーと言われるアメリカの自動車メーカーのうち、ク
ライスラー、ゼネラル・モーターズ(GM)という世界最大級の企
業が相次いで実質倒産するという、今までの常識では考えられない、
とんでもない事態に発展してしまいました。

 日本では、小泉・竹中改革の良い部分が効いてきたおかげで、金
融機関は何とか健全性を保っているように感じています。国による
資本注入という、非常時なので許されたのであろう政策でこれまで
何とかしのいできたということでしょう。
 そして、その政策がアメリカ政府の政策に受け継がれ、膨大な株
式の保有という資本注入によって、GMは国有化されたと言って良
いと思います。

 日本の資本注入は金融機関だけかと思っていたのですが、今年の
4月からは、改正された産業活力再生特別措置法によって金融分野
以外の企業にも許されることになりました。具体的には、エルピー
ダメモリという半導体大手企業への資本注入が決定したようです。
あの日立製作所にも・・・という報道もあったように記憶していま
す。

 このように、国による資本注入という手段が非常時には有効だ、
ということが証明された格好です。ただ、こんなことが長続きした
らどのような社会が生まれるのでしょうか。私には、見当も付きま
せんが、国営企業のまん延は、すなわち、自由な経済活動に行政が
介入するということで、資本主義社会を終えんに向かわせるかもし
れないのです。
 市場原理主義を信奉しているアメリカですら、国が資本注入せざ
るを得なかったように、今回のサブプライムローン問題の影響の恐
ろしさは、計り知れないものがあると感じています。

 アメリカでは、注入した資本はできるだけ早く回収する、つまり、
いったん保有した株式を売ってしまうことで、国は手を引く段取り
を模索する、という話のようです。しかし、そんなにうまく株式が
売れるのでしょうか。それだけの投資家がいるかどうかということ
でしょう。
 ただ、資本注入とか株式保有というのは、補助金とは違い、うま
くいけば返ってくるお金だと言えます。これは、一時的に企業の信
用力を補完し、資金繰りを助け、そして企業を再生させることが目
的ですから、再生した企業が再び利益を上げられるようになれば、
お金はいずれ返してもらえることが期待できるわけです。つまり、
“支出はしても無くならないはずのお金”、とも言えるわけです。

 日本の場合、以前、国が金融機関へ注入した資本は、健全化を達
成したところから徐々に返済されているようです。そして、日本の
金融システムも回復してきているようですから、現在のところは成
功だったと言えるのでしょう。

 さて、日本経済の状況ですが、昨年の秋以来、どこも不況、不況
の大合唱で、好況だという業界はあまり無いようです。国は、
100年に一度の経済危機ということで、いろいろな経済対策を打
ち出してきました。それを受け、長野市としても一生懸命、経済対
策に取り組んでおり、関係する補正予算額は88億2,000万円
余りにもなりました。
 長野市が実施してきた主な経済対策は次のとおりです。

(1)定額給付金、子育て応援特別手当
  究極のバラマキ政策と言われましたが、6月末現在で、対象者
 のうち「定額給付金」は約92%、「子育て応援特別手当」は約
 95%の方々に受け取っていただきました。
  まだ「定額給付金」を受け取っていらっしゃらない方には、今
 月中に再度、申請書をお送りすることにしています。また、一人
 暮らしのお年寄りの方などには、民生児童委員さんからも申請の
 呼び掛けをしていただくようお願いしています。
  この二つの給付金の申請締め切りは、10月15日です。何と
 か対象者全員にお受け取りいただきたいと思っています。

(2)中小企業への支援
  中小企業向け融資制度では、新規貸付利率引き下げ、貸付限度
 額拡大、借換時の返済期間延長などを実施しました。平成20年
 度の融資実績は、1,908件、185億6,000万円余りに
 上っています。また、信用保証協会の100%保証が別枠で受け
 られる緊急保証制度は、制度が開始された昨年10月末から4カ
 月間で1,178件もの利用がありました。これらは、企業の資
 金繰りを助け、景気の底割れを防ぐ意味でとても有効だったと思
 っています。
  また、市独自の政策として、7月1日から3年間、資本金
 1,000万円以下の中小企業などを対象に法人市民税均等割の
 税率を標準税率に引き下げることにしました。1企業当たり年1
 万円~2万4,000円の減税になります。

(3)雇用を増やす政策
  国の政策により県が創設した雇用対策のための基金を活用し、
 予定も含め、市として280人分の新たな雇用を創出しています。
  また、介護保険施設などで働く人の待遇を改善し、介護現場の
 人材不足解消と雇用増加を図るため、国は介護報酬を3%アップ
 しました。市では、このことが、皆さんから頂く介護保険料の値
 上げにつながることを抑制するため、国からの交付金で基金を創
 設し、現在の保険料を平成23年度まで維持することにしていま
 す。

(4)公共事業の前倒し
  国の経済対策を受けて、平成21年度以降に予定していた事業
 を前倒しして実施しました(小・中学校の校舎・屋内運動場の耐
 震補強や改築工事、緊急性や優先度の高い道路や排水路、河川の
 改修、防災工事、地上デジタル放送完全移行に備えた小・中学校
 や市立公民館へのデジタル対応テレビの配備など)。

(5)プレミアム付き商品券「ながの“きらめき”商品券」の発行
  長野市独自の対策として、10%のプレミアムを付けた商品券
 を5億5,000万円分発行しました。市内に少しでも多くのお
 金が回って景気を刺激したいということで発行したのですが、幸
 いにも大変な人気で、2日間で売り切れてしまいました。お買い
 上げいただいた方は、ぜひ、有効期限の8月末までに使い切って
 いただきたいと思います。

 以上、これまでに国や県、そして市が取り組んできた主な経済刺
激策を書き出してみましたが、新年度になり、国では、さらに総額
13兆9,200億円余りの大型補正予算を組んでいます。これま
での補正予算が、主に緊急的な施策だったのに比べ、今回はやや長
期にわたる施策がプログラム化されていると言って良いようです。
 このうち、地方へは、総額1兆4,000億円の「公共投資臨時
交付金」と総額1兆円の「経済危機対策臨時交付金」が配分される
ことになっています。長野市への配分は、これまでに決定した分だ
けでも15億円余りです。これらを最大限利用して地域経済のさら
なる活性化に取り組むため、先日6月市議会定例会が終わったばか
りですが、7月17日に市議会臨時会を開催し、長野市としての新
たな補正予算を決定したいと思っています。

 さらに、国が来年度予算に向けてのシーリングを決めたという報
道もありました。シーリングとは、予算編成に向けて各省庁の要求
枠が無制限に大きくならないよう、あらかじめ限度額を設けること
です。来年度予算のシーリングでは、従来とは違って制限枠をかな
り緩めたようです。来年度も景気拡大型の予算を組むという姿勢の
表れでしょう。

 これだけの景気刺激策を行っていますので、景気が良くならない
はずは無いと考えていたのですが、最近になり、景気が上昇してき
たという新聞記事もようやく見られるようになってきました。
 もっとも、マクロとミクロの経済では、かなりずれがあるはずで
すし、時期、業種、地域などによってもずれるのは当然ですから、
景気が回復した部分と、まだまだという部分があることは避けられ
ないとは感じています。
 ただ、このまま景気が回復したとしても、今までと同じような経
済状況には戻らないと思っています。危機を乗り越えた新しい時代
にふさわしい、新たな経済社会が生まれてくるのでしょう。