平成18年度を都市内分権元年と宣言し、国の地方分権の流れの中、
長野市版の地方分権を実現する施策の展開を始めました。
「地方分権」が大切だということは、どなたに聞いても異論はあり
ません。ただ、具体論と国の姿勢があまりはっきりしない、そう感
じる中でのスタートでした。
私は、市長就任後、各支所の状況を確認したり、市民の皆さんのご
不満をお聞きしたりする中で、これまでの行政システムが限界にき
ているのではないか・・・と強く感じるようになりました。
これまでは、公平性・公正性という観点から市内一律の施策を行っ
てきており、地区ごとに異なる施策を行うことはあまりありません
でした。しかし、地区ごとに住民の皆さんの年齢構成や地区の立地
条件などは、当然異なっています。すなわち、画一的な施策だけで
は、地区の住民ニーズや特性に細かく対応することができず、暮ら
しやすい地域づくりができないのではないか、という思いを強くし
たのです。
地区の実情を十分に尊重して施策を展開することができないか、そ
の後庁内でいろいろ議論した中で出てきたのが「都市内分権」の考
え方です。住民の皆さんに市内30地区ごとの「住民自治協議会」
をつくっていただき、住民自治協議会と行政が「協働と創意工夫」
で、より住みやすい地域を実現していこうという考え方です。
住民自治協議会の設立にあたっては、「地区を代表する」「計画性
を持つ」「適切な役割分担で運営する」、この三原則だけは満たし
ていただきたいとお願いしてきました。この三原則以外については、
“地域のことは地域で決める”ということを基本にして、すべて地
域で決めていただいて構わないということも申し上げてきました。
市内30地区すべてで住民自治協議会を設立していただくことがで
きたのは、今年の3月末です。その後、4月20日には、住民自治
協議会と市の協働関係を明確にするために、条例に基づいた基本協
定も締結させていただきました。
来年度からは、「地域の自治の仕組み」「活動の内容」「お金の使
い道」を地域住民の皆さんが決定する住民自治協議会の本格的な活
動が始まることになります。
(1)「地域自治の仕組みを決める」
これまでは、交通安全や青少年の健全育成、環境美化など、課題ご
とに役員を選出していただき、市長が役員として委嘱するとともに、
各地区で課題ごとの団体を組織していただくことで、地域の活動が
進められていました。また、地区ごとの組織の上部組織として、課
題ごとに市全体の連合組織も設けられていました。いわば、縦割り
組織での活動だったと言えます。
来年度からは、市長委嘱制度と各種団体の連合組織は廃止する予定
です。このことによって各種団体の活動は、各地区で仕組みを決め
た住民自治協議会の部会としての活動になり、縦割り組織から横軸
を通した組織に再編されることになります。
(2)「活動内容を決める」
これまでは、市が主導して活動内容を決めていましたから、市から
の依頼事務が多く地区の活動も硬直しがちで、住民の皆さんにとっ
ては多分にやらされ感があったのではないでしょうか。また、地区
によっては、役員の選出にも困難が伴っていました。
来年度からは、市が地区へお願いしていた依頼事務を大幅に減らす
ことにしています。具体的には、これまでお願いしていた68項目
の事務のうち、5項目を廃止し、41項目を必要に応じて地区に選
んで実施していただく「選択事務」にしたいと考えています。その
結果、今後も30地区に共通して市から依頼する「必須事務」は、
22項目になります。
そのほか、地区独自の課題にも発展的に取組んでいただきたいと思
っています。地域の特性・実情に応じた活動が盛んになってほしい
と考えています。
(3)「お金の使い道を決める」
今までは、各種団体ごとに市が補助金や交付金などを交付していま
した。
来年度からは、これらの補助金や交付金を一つにまとめ、「地域い
きいき運営交付金」として住民自治協議会へ一括交付したいと考え
ています。総額は、2億4,400万円余りで、1地区あたり約
260万円から2,000万円になる見込みです。
この交付金は、できるだけ使い道を限定せず、住民自治協議会が柔
軟に運用できるようにして、住民の皆さんの意向を反映した活動が
しやすくなるようにしたいと考えています。
そのほかにも財政支援策を考えています。
一つは、「地域やる気支援補助金」です。これは、より一層の活動
を望む地区への支援を目的に、住民自治協議会から事業提案を受け、
審査をした上で交付したいと考えています。
提案の審査は、市が行うのではなく、NPOなどを対象に交付している
「ながのまちづくり活動支援事業補助金」と同様に、学識経験者な
ど第三者に審査していただく予定です。現在のところ、1地区あた
りの限度額100万円、総額1,000万円を見込んでいます。
もう一つは、「やまざと支援交付金」です。これは、過疎化により
人手不足に悩む中山間地域の自治活動を支援するために交付したい
と考えています。中山間地域特有の課題を解決するとともに地域の
共助機能の拡大を促進する一助として、1地区あたり60万円を、
中山間地域を含む11地区の住民自治協議会へ交付するものです。
いずれの支援策も、年度中に詳細を詰めて来年度予算案に盛り込み、
市議会にお諮りしたいと考えています。
そのほか、住民自治協議会への人的支援策の一つとして、中山間地
域の11地区を対象に、今年度から「地域活性化アドバイザー」を
配置しています。地域活性化アドバイザーは、活性化対策や集落支
援など、各地域の特性に応じて「地域にとって何が必要なのか、何
をしていけば良いのか」を住民自治協議会と一体となって考え、具
体的な活動を通して支援できる立場として配置したものです。
これらの支援を通じて住民自治協議会の活動が軌道に乗り、地域課
題がより解決しやすくなり、これまで以上に暮らしやすい地域が実
現できれば良いと思っています。
ただ、これまで足掛け8年を費やして都市内分権を進めてきたわけ
ですが、まだ完全に詰め切れていない部分も多くあると思っていま
す。新たな取り組みですので、今後もさまざまな試行錯誤があるこ
とを前提に、十分な話し合いを継続し、改めるべきことは改めてい
きたいと考えています。
ここで一つお詫びしなければいけないことがあります。それは、区
長さんへの委嘱の取り扱いについて混乱を招いてしまっているとい
うことです。
市内には460人の区長さんがいらっしゃいます。460人すべて
の区長さんは、二つの立場を合わせ持っています。一つは、区の住
民の皆さんの立場で活動する区や自治会の代表という立場。もう一
つは、市長の委嘱により市の行政事務の一部を行っていただくとい
う立場です。
区長さん方には、この二つの立場で日々活動していただき、地域を
支えていただいているわけですが、区長さんの中からは、仕事が多
すぎて困る、ご高齢の方が多くなり区長のなり手がいない・・・な
どの声も聞こえてきていました。
今回、市が都市内分権推進の一環として、区長さんの立場のうちの
一つ、“市長の委嘱”という立場を発展的に解消することにしてい
ます。このことが、区長制度そのもの廃止と混同されてしまってい
る向きがあるようです。
私とすれば、区長さんの負担を軽減したい、区長さんと対等な立場
で地域のまちづくりを進めていきたい、との気持ちから区長委嘱を
発展的に解消するのであって、決して区長制度そのものをなくそう
としているのではありません。
このような誤解が生じてしまったのは、これまで都市内分権を進め
てくるにあたり、区長さん方のお気持ちや、区長さん方のこれまで
のご尽力に対する配慮が足りなかった面もあったのではないかと反
省しています。
区長さん方には、今後も住民自治協議会の中核として活動いただく
とともに、それぞれの区や自治会の代表者として地域を引っ張って
いっていただかなくてはならないと考えています。また、日々地域
を支えてきていただいている区長さん無しには地域はまとまらず、
住民自治も成り立たないとも考えています。そして、区長さんのリ
ーダーシップ、地域を思う気持ちが活かされる仕組みでなければ、
新たに設立された住民自治協議会の運営も難しい面が生じてくるの
ではないかと感じています。
今後の区長制度のあり方については、さらに区長さん方のご意見を
お聞きし、十分な検討を経た後に結論を出す必要があると考えてい
ます。
2009年10月16日