私は、市長選に当たって市民党を標榜(ひょうぼう)してきまし
た。地方自治体は、市民の皆さんの生活に直接関係する仕事が多い
だけに、できるだけ多くの皆さんと情報を共有し、話し合っていく
必要があると私は思っています。すなわち、一つの政党に片寄るこ
となく、多様な考え方の人たちをすべて包含する包容力が大切であ
る、と私は信じているのです。
しかし、残念ですが、市民の大多数の皆さんから支持を頂いたと
は言えない結果になってしまいました。私は、市長に就任した8年
前から、すべての市民の皆さんから支持していただける首長であり
たいと考えて市民党を名乗ってきており、そのことについては、ブ
レてはいないのですが・・・。
このたびの市長選に当たり、私は、次の4年間に何を実行するの
かを具体的にお示しする自分のマニフェストづくりに随分時間を費
やしてきました。現職であるが故に当然ですが、実現不可能なこと
をお示しすることがないように、また、理念より具体論となるよう
に心掛けてまとめたつもりです。
一方で、立候補された相手のお二人のお考えについては、理念と
してはとても魅力的でしたので、どんな長野市の姿を描いておられ
るのか、もっと具体論で意見交換できれば良かったと思っています。
ただ、その中で、長野市民会館の建て替えや、住民自治協議会と
区長制度など、幾つか具体論もありましたので、ここであらためて
私の考え方をお示しさせていただきます。
(1)長野市民会館について
長野市民会館は、昭和36年の完成で築48年、市役所第一庁舎
は昭和40年に完成、築44年です。いずれも、昭和56年以前の
旧耐震基準による建物であり、大規模な地震が頻発している昨今の
状況を見るにつけ、大勢の市民の皆さんがお越しになる施設だけに
とても心配でした。
そうした中で平成18年に第一庁舎の耐震診断を実施した結果、
震度5強以上の地震で倒壊の恐れがあることが分かったのです。市
民会館は、それより4年も古いことから、耐震診断を実施しても費
用対効果が低いということで、劣化診断や耐久度調査だけにとどめ
ています。
市民会館の耐震対策としては、耐震補強工事をするという選択肢
もあります。しかし、仮に高額な費用を掛けてこの工事をしても、
今ある建物の耐震強度はアップしますが建物の寿命を延ばすことは
できません。結局は、5~10年後に建て替えを検討しなければな
らないということで、無駄な投資になってしまいます。
また、建設から50年近く経過していますので、老朽化が著しい
上に、使い勝手、エネルギー効率も悪く、維持費も割高です。ユニ
バーサルデザインという面でも問題があり、人にも環境にも、そし
て財政的にもさまざまなマイナス面を多く抱えていることから、建
て替えという方向が出てきたのです。
オリンピック施設で代替できるのではないかという意見もありま
した。しかし、建物本来の利用目的が違い、音楽会や舞踊、演劇、
講演などに使用するには不向きで、舞台装置を設置するために手間
とお金が掛かるなど、市民会館の代替施設とするには難しいようで
す。
また、文化芸術を推進したり、学術会議などを誘致したりする長
野市の立場としては、ホクト文化ホールだけでは需要に応じられな
いと考えています。さまざまな催し物を開催する立場の方々からも、
同様の申し入れを頂いており、市内の文化団体、舞踊団体、音楽団
体等々からも必要性について多くのご要望を頂いています。
財政的な理由もあります。平成17年1月1日の合併により、市
民会館の建て替えに「合併特例債」という起債を利用できることに
なっているのです。この「合併特例債」は、国が費用の7割を交付
税で面倒をみてくれることになっていますので、地方自治体にとっ
て大変有利なわけです。
「合併特例債だって借金ではないか」という声もあると思います。
私も同感です。ですが、この「合併特例債」は、長い目で見て国の
財政負担を減らすことにつながる市町村合併をすることで得られた
支援ですから、ここで利用をためらう必要はないとも思っています。
ただ、この支援を受けるには、平成26年度までに建設を完了し
なくてはならないという制限事項が付いていますので、今、検討を
進める必要が生じているのです。何年か後に検討すればいいとした
場合には、財源確保のタイミングを逃してしまうことになり、この
ような国からの支援なしに費用を捻出(ねんしゅつ)することは、
かなり難しくなると思っています。
“ハコモノ行政”に対する批判的なご意見や、自治体の財政が厳
しいということで、さまざまなご意見がある中ではありますが、多
くの方々が利用する施設ですから、問題を放置しておくことはでき
ません。
このようなことから、市民会館の建て替えを検討せざるを得なく
なっているのです。
一部に誤解があるようにも思うのですが、この長野市民会館の問
題は、あくまでも長野市の耐震対策の一環として出てきた問題です。
耐震対策として、今、長野市が最優先に進めているのは、学校施
設の耐震化です。可能な限り早く完了できるよう努力していますが、
学校施設全400棟のうち、何らかの耐震対策を必要とする施設が
今年4月の時点で138棟もあります。工事発注に必要な構造設計
が追いつかないこともあり、これだけの建物の工事を一斉に実施す
ることはできません。また、施設ごとの耐震性にも差がありますの
で、より危険度が高い施設から対策を実施するようにしています。
当然ですが、耐震補強工事を実施しても建物の寿命を延ばすことに
はなりませんので、古い施設は建て替えています。
具体的には、市役所第一庁舎と同程度の危険性がある施設のうち、
補強工事によるものは平成22年度までに完了、建て替えるものは
遅くとも平成24年度までに着工することにしています。平成26
年度には、学校施設の9割の耐震化が完了する予定です。
そのほかの耐震対策としては、昭和56年5月以前に着工した個
人所有の木造住宅の無料耐震診断や、補強工事への補助金も用意し
ています。これまでに、簡易診断と精密診断を合わせ約2,350
戸の診断を行い、約120戸の補強工事に補助しました。
また、病院や店舗、事務所など、たくさんの人が利用する特定建
築物の耐震診断にも本年度から補助金を用意しています。市内の建
物の耐震化を促進し、安心して住めるまちにしていきたいと考えて
います。
相手候補の方々は、市民会館の建て替えを白紙に戻すと訴えてい
らっしゃいましたが、私も、まだ白紙だと思っています。11月
16日には、建て替える必要があるか否かも含めて市民の皆さんと
討論する「市役所第一庁舎・長野市民会館に関する市民会議」を開
催することにしていますので、ぜひ、ご参加ください。
(2)住民自治協議会と区長制度について
市内には、市長が委嘱する区長さんが460人いらっしゃいます
(あくまでも各区で選ばれた方に委嘱しているもので、市が区長さ
んを選任しているわけではありません)。この460人すべての区
長さんは、二つの立場を合わせ持っています。一つは、住民の皆さ
んから選出された区や自治会の代表者として活動する立場、もう一
つは、市長の委嘱により市の行政事務の一部を行っていただく立場
です。
区長さん方には、この二つの立場で日々活動していただき、地域
を支えていただいているわけですが、区長さんの中からは、仕事が
多すぎて困る、地域の中でご高齢の方が多くなり区長のなり手がい
ない・・・などの声も聞こえてきていました。
市が進めてきた都市内分権構想の一環として、区長さんの立場の
うちの一つ、“市長の委嘱”という立場を発展的に解消することに
しています。このことが、区長制度そのものの廃止と混同されてし
まった向きがあるようです。
市とすれば、区長さんへ集中している負担を分散・軽減したい、
区長さんと対等な立場で地域のまちづくりを進めていきたい、との
考えから”市長が委嘱する制度”を発展的に解消するのであって、
決して区長制度そのものを無くそうとしているのではありません。
このような誤解が生じてしまったのは、これまで都市内分権を推
進するに当たり、区長さん方のお気持ちや、区長さん方のこれまで
のご尽力に対する配慮が足りなかった面もあったのではないかと反
省しています。
区長さん方には、今後も住民自治協議会の中核として活動いただ
くとともに、それぞれの区や自治会の代表者として地域を引っ張っ
ていっていただかなくてはならないと考えています。また、日々地
域を支えていただいている区長さん無しには地域はまとまらず、住
民自治も成り立たないとも考えています。そして、区長さんのリー
ダーシップ、地域を思う気持ちが生かされる仕組みでなければ、新
たに設立された住民自治協議会の運営も難しい面が生じてくるので
はないかと感じています。
この話については、これまで3年がかりで区長さん方と話し合っ
てきたのですが、区長さんへの委嘱について混乱を招いてしまった
ことは事実です。今後の区長制度の在り方については、さらに区長
さん方のご意見をお聴きし、十分な検討を経た後に、あらためて結
論を出す必要があると考えています。
市長選挙を前に、争点になりそうな問題は先送りすべきだと私の
陣営内部からの意見もありました。しかし、長野市の未来のために
は、躊躇(ちゅうちょ)することは許されないのです。たとえ、選
挙で不利に働くと考えられることであっても、そのために長野市が
後退することがあってはいけないと思い、あえて私は発言してきた
つもりです。
また、結果的に選挙戦の争点にはなりませんでしたが、ごみの有
料化についても、「引っ込めろ」あるいは「時期を変えるべきだ」
と、随分言われてきました。ただ、そうはできなかったことは、ご
理解いただきたいと思います。
市長選挙の開票の結果、相手候補お二人を合わせた得票数は、私
の得票数を超えています。このことは真摯(しんし)に受けとめな
ければいけません。私が直すべきところは、陣営の中からも耳にた
こができるほど聞かされてきました。私としては、行政経営という
ことに重きを置いてきたことからあまり気にしていなかったことば
かりで、反省しきりです。
ただ、これまで私がとってきた施政方針、そして具体論には大き
な間違いはなかったのではないかと思っていることも事実です。で
すが、この選挙を通じてご指摘いただいたことは、修正しなければ
なりません。“みんなの声が「ながの」をつくる”を合言葉に、こ
れまでにも増して皆さんの声を反映した長野市づくりを進めていき
たいと思っています。