2012年3月29日木曜日

本年度を振り返って


 本年度最後のかじとり通信になりました。1年間いろいろなこと
がありましたが、思いつくままに、出来事を振り返ってみたいと思
います。

 世界的な話題はさておき、国内のことについてアトランダムに並
べてみますと、東日本大震災、福島第一原発の事故、TPP(環太
平洋経済連携協定)、歴史的円高、景気の低迷、雇用問題、消費税
増税問題、大阪都構想、AIJ投資顧問問題、大相撲の八百長疑惑
による人気低迷・・・。何か面白くない事件、憂鬱(ゆううつ)な
ことが多かったような気がします。特に、地方公共団体にとっては、
口出ししても犬の遠吠えみたいな話ばかりで、何とも歯がゆい1年
間だったように感じています。

 長野市政について1年間を振り返れば、本当にいろいろなことが
ありましたが、総じて見れば、おおむね順調に推移した1年だった
ように感じています。ただし、今月起きた豊野支所管理職職員の酒
気帯び運転による事故は、昨年10月にも市職員による同じような
事件があったばかりであり、市民の皆さんに対して誠に申し訳なく、
断腸の思いでいっぱいです。市民の皆さんには、本当におわびのし
ようもありませんが、市職員の綱紀粛正を図り、信頼回復に努めて
まいります。

 1年を振り返るとき、やはり東日本大震災の影響は、大変大きな
ものでした。
 本市では、震災発生直後から消防職員をはじめ、上下水道局職員
や保健師など多くの職員を現地に派遣しており、その後、事務職員、
技術職員を派遣するなど、精いっぱいの協力をさせていただきまし
た。また、市民の皆さんからお預かりした義援金および救援物資を
被災地に届けるとともに、同じく地震の被害を受けた栄村も含めて
1億円の見舞金を支出しました。

 日本中が元気をなくしている中、2011篠ノ井イヤー、
2011信州新町イヤーは、長野市から元気を発信しようと実行さ
れました。両イヤーとも、実行委員会、そして市民の皆さんのご協
力のおかげで、素晴らしい成果を挙げることができました。昨年
10月には、「ふるさとNAGANO応援団」の皆さんにも篠ノ井
と信州新町を視察していただき、大変喜んでいただけました。応援
団の皆さんからは、いろいろご示唆も頂き、有意義な視察となりま
した。

 夏の電力不足も大変心配しましたが、私をはじめ市の部課長が市
内の企業や団体を訪問して節電のお願いをし、また、8月の市議会
定例会一般質問の日は、朝7時に開始して午後1時までに終わらせ
るなど、節電に対して多くの皆さんにご協力いただき、夏を無事乗
り切ることができました。

 その他、市政全体を見渡しますと、農業の再生を目指した新規就
農者支援事業は、目標とする30人には及びませんでしたが21人
の申し込みがあり、新規就農者で組織する「ながの農業再生塾」も
立ち上がりました。
 春・夏・秋の長野の祭りを中心としたイベントも、にぎやかに盛
り上がってきており、冬の灯明まつりも徐々にではありますが、長
野の冬を代表する祭りになってきました。
 長野広域連合が計画するごみ焼却施設の建設も、ようやく県条例
に基づく環境影響評価書がまとまり、次のステップに進むことにな
りました。
 また、松代新斎場も、地元との間で建設合意の協定書を調印する
ことができましたし、大峰新斎場も新年度には造成工事が始まりま
す。

 長野市民会館と市役所第一庁舎の建設についても、長い時間をか
けて市民合意を得てきたところですが、建設関連の新年度予算も市
議会の議決を得ることができたので、実施設計などの次のステップ
に進みます。
 長野市民会館の解体工事も大詰めを迎えています。工事用の囲い
があるので市民の皆さんからはよく見えないかもしれませんが、工
事は順調に進んでいます。23日、工事現場に行ってみたところ、
建物は既に壊され、瓦礫(がれき)を搬出中で、残す立ち木を選別
し、それ以外は篠ノ井中央公園に移植するとのことでした。5月に
は地上物件は全て撤去され、広い更地が出現するものと思います。
 なお、担当課の事務室で、旧市民会館の屋根裏から出てきた建設
当時の古い棟札(むなふだ*)を見せてもらいました。設計は佐藤
武夫事務所、建設会社は熊谷組、そして当時の建設に携った建設下
請け業者を含む多くの関係する皆さんの名前が、墨で黒々と書かれ
ていました。その中に、後に長野市だけでなく日本の建築・設計事
業に大きく貢献された宮本忠長さんの名前を見つけ、若き日の宮本
さんを懐かしく思い出しました。私的なことで申し訳ありませんが、
私の父の名前もありました。歴史の記録として、どこかで保管する
ことはできないかと感じました。

 昨年9月には市議会議員一般選挙が行われ、次の4年間の議会構
成が決まりました。市議会と市行政は、車の両輪です。お互い切磋
琢磨(せっさたくま)して、市政発展のため頑張りたいと思います。

 サッカーJFL(日本フットボールリーグ)のAC長野パルセイ
ロが、JFL参加1年目で18チーム中2位という素晴らしい成績
を残しました。しかし、4位の松本山雅FCがJ2に昇格して、パ
ルセイロが昇格できないのは、市にJリーグ基準のスタジアムがな
いからだと多くの皆さんに言われました。Jリーグへの昇格条件に
は、スタジアムだけでなく、ホームゲーム1試合平均3,000人
以上の観客数など乗り越えなければならないなどのハードルがある
こともご理解いただきたいと思いますが、皆さんのパルセイロにか
ける大きな期待を裏付けるものと、意を強くしたところです。

 早稲田大学とのコラボレーションで、市内で電動バスの実証実験
が始まりました。本年度から始まり3年間にわたるという長期の実
証実験で、大変ありがたいものです。不肖ながら私も副市長も、早
稲田大学の出身なのでなんとなく面はゆいのですが、でもうれしい
ことです。二酸化炭素を出さない、環境に優しい電気で走るバスの
乗り心地、運営コスト、経済性など、将来に大きな夢を抱かせる実
験で、素晴らしい成果を期待しています。

 中国石家庄市との友好都市締結30年を記念して、昨年11月に
王副市長さんを団長とする友好代表訪日団がお越しになりました。
経済団体とも積極的に交流するなど目的が明確で、今までの訪問団
とは少し違った積極的な姿勢で市内各所を視察されました。4月に
は、答礼の意味も含め、長野市から友好都市締結30周年記念訪問
団を派遣します(私も訪問する予定です)。友好を深めると同時に、
経済や観光交流の可能性についても話し合ってきたいと思っていま
す。

 昨年6月、株式会社エムウェーブの土橋文行社長が、急逝された
ことは非常に残念で、がっかりしてしまいましたが、その後、若い
土屋龍一郎氏を新社長にお迎えすることができました。しっかりと
した経営を行い、長野オリンピックを象徴する本市の大事な財産で
あるエムウェーブを、そして長野市をスケートの拠点とする目標を
達成したいものです。

 今月16日、芋井中学校の閉校式が行われました。1947(昭
和22)年の創立以来、中等教育の担い手として地域に貢献し、多
くの人材を送り出してきましたが、本年度をもってその歴史に幕を
閉じることとなりました。閉校式には、卒業する3年生9人を含む
14人の生徒と地域の皆さん約50人が出席され、思い出が詰まっ
た母校に別れを告げました。65年の間、学校を支えてきていただ
いた地域の皆さんや多くの先生方に感謝いたします。
 全国的に中山間地域の過疎化や少子化が進み、学校の在り方につ
いて検討することが避けて通れない状況の中、今回の閉校は、芋井
地区の住民自治協議会やPTAの皆さんが、より良い教育環境につ
いて幾度も議論を重ね、子どもたちのことを最優先に考えられた結
果であり、その決断にあらためて敬意を表したいと思います。

 平成16年4月1日から2期8年間、私を支えてくれた酒井登副
市長が、3月31日をもって任期が満了し、退任されます。平成
16年4月に市職員から助役に任命され、平成19年4月からは地
方自治法の改正で副市長となり、市職員としての期間も含めると
42年間奉職されたことになります。その間、長野オリンピックの
開催には準備段階から関わり、長野冬季オリンピック招致委員会出
向後も大活躍されましたし、ハイテクオリンピックを実現するため
のフルネットセンター整備でも、中心となって活躍されていたこと
を思い出しています。
 市長の仕事の一つに決裁事務があり、議会で議決いただいた条例
の施行や各部局の事業実施の承認、決定などを文書で確定する手続
きです。決裁文書は毎日何十件もあり、この決裁事務が苦手な私は、
酒井副市長の決裁印がある文書は問題ないものと決裁をしていまし
たし、副市長にもそう伝えていました。もちろん、重要案件につい
ては事前に意見交換をしていますが、最終的にはこの決裁により市
行政の意思が決定され、そしてそれは全て市長の責任となるのです。
信頼できる副市長でなくてはできないものでした。

 また、中村治雄上下水道事業管理者も任期満了により、同日付け
で退任されます。平成20年4月からの4年間、長野市上下水道事
業の責任者として活躍していただきました。市職員を60歳で定年
退職された1年後、特別職として戻っていただいたという数少ない
例です。60歳定年というのは、どうももったいないという思いが
私の中にはあるものですから、将来のことも考えて試みた人事でし
た。東日本大震災に際しても、県内水道事業体をとりまとめ、応急
給水活動の指揮を執るなど、中村管理者はよくその任を全うしてく
れたと感謝しています。
 
 「ゆく河(かわ)の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず
・・・」あまり正確には覚えていませんが、「方丈記」の一節だっ
たと思います。毎年職員が退職して、その後任として新たな職員が
着任するこの時期に、いつも思い出す一節です。人は変わるけれど、
組織としての行政はきちんと機能していく・・・当たり前ですが、
大切なことでしょう。

*棟札:棟上げのとき、工事の由緒・年月日・建築者などを記して、
棟木に打ち付ける札

2012年3月22日木曜日

イヤーキャンペーンが幕を閉じます


 観光誘客イヤーキャンペーンは、本年度の2011篠ノ井イヤー
と2011信州新町イヤーをもって終了します。これは、平成18
年3月に策定した「1200万人観光交流推進プラン」に基づき、
地域の観光資源を生かし「地域ブランド化」を推進し、各地域の魅
力を高めようと展開してきたものです。

 篠ノ井イヤーの最後を飾るのは、3月18~24日の日程で始ま
った「信州しののい 川村驥山(きざん)展 生誕130年記念」
と、20日に開催された「冬の古道めぐり」です。18日の驥山展
オープニングセレモニーに出席した私は、会場となった驥山館(*)
と市立博物館を、驥山館館長の川村龍洲(りゅうしゅう)さんにご
案内いただき、130点ほどの作品を約1時間30分かけてじっく
り鑑賞し、書の魅力を堪能しました。

 天才書家と言われる川村驥山先生は、日本の近代書道の第一人者
であり、1951(昭和26)年に書道界において、初の日本芸術
院賞を受賞された書家です。受賞に際し驥山先生は、「書」が「芸
術」として認められたと、大変な喜びようだったそうです。
 1882(明治15)年、現在の静岡県袋井市に生まれ、
1945(昭和20)年の東京大空襲の直後に63歳で篠ノ井に疎
開し、以後篠ノ井で住民と親交を深めながら作品も発表、中央書壇
にも大きく貢献し、1969(昭和44)年、篠ノ井の地で87歳
の生涯を閉じました。
 明治天皇・皇后両陛下の銀婚式典では、わずか12歳の驥山少年
が2千字を全部暗記して書き上げた作品「出師表(すいしのひょう)
」と「孝経(こうきょう)」を献上し、ご覧になられた明治天皇は、
「これぞ、まことの神童」と感心されたとのことです。
 両陛下に献上されるほどの作品を書くこともさることながら、2
千字全てを暗記してしまうとは、すごいことですよね。

 今回の展覧会のために、個人や企業、長野中央・長野南警察署な
どの官公庁、篠ノ井高校、通明小学校などの学校が所蔵している作
品約100点が一堂に集められました。普段なかなか見ることがで
きない大変貴重な作品ばかりです。作品をご提供いただいた皆さん
のご協力と多くの作品を集められた驥山展の責任者で、2011篠
ノ井イヤー実行委員会「書と歴史・文化グループ」リーダーの宮崎
一(はじめ)さんほか関係の皆さんの並々ならぬご労苦に対し、深
く感謝を申し上げます(特に、個人の皆さんから作品をお借りする
のは大変だったことでしょう)。

 展示品の中で印象に残った作品の一部を紹介します。
 驥山先生の書の原点と言われている作品「大丈夫」は、なんと5
歳にして書かれたもので、「立派な男子になる」という強い思いが
込められた作品です。「先憂後樂」(長野南警察署蔵)は、住民の
安全安心を担う警察官の心得を書かれたそうです。「政治家もよく
使う言葉だな・・・」なんて思いました。どっしり、そして太々と
書かれた「質実剛健」は、現在の行書の良き見本であり、驥山先生
の絶筆となった作品「心」の前では、多くの人が長い時間足を止め
て見入っていました。

 実は、驥山先生は大のお酒好きでした。「酒」なくして先生を語
ることはできないほどです。昼から深夜まで飲み続けた後に、酒で
墨を摺(す)り書いた作品「飲中八仙歌」は、驥山先生の最高傑作
と言われています。また、「読書は酒を飲むが如(ごと)し」で始
まる「飲酒詩・自詠」は、銘酒の醸造主に贈ったものです。書と酒
をこよなく愛した、人間味あふれる驥山先生・・・こうした視点で
作品を見るのも面白いかもしれません。

 この展覧会には、市役所からも所蔵品を提供させていただきまし
た。第二応接室に飾られている掛け軸、1対です。14字から成る
ものですが、どの字を見ても驥山先生の書であることが瞬時に分か
る作品だそうです。余談ですが、私はこの応接室に普段入ることが
なかったのですが、半年ぐらい前に偶然この掛け軸を見掛けました。
その時、素晴らしい作品であることが一目で分かり、また表具も立
派なものでしたので、誰の作品かと職員に聞いてみると、驥山先生
の作品とのことでした。私の目も、まんざらではないということで
しょうか。

 篠ノ井市民会館では、24日まで驥山先生の写真展も開催されて
います(併せて、これまで1年間の篠ノ井イヤーの様子を収めた
「しののいの賑(にぎ)わい写真展」も同時開催されています)。
著名人や多くの弟子たちに囲まれた驥山先生の写真をはじめ、中に
は、親しげに酒を酌み交わす様子や昼寝している様子を撮った写真、
ドラム缶風呂に入っている写真など、驥山先生の偉大さ、そして気
さくな人柄がにじみ出ている写真が数多く展示されています。また、
当時の篠ノ井の風景、人々の暮らしぶりが感じられる写真もありま
す。大変貴重な写真ばかりですので、書と併せて、ぜひこちらもご
覧ください。ちなみに、驥山先生は、丸いメガネとその風貌から、
ガンジー先生と呼ばれ、親しまれていたそうです。

 信州新町イヤーも、28日の閉会式をもって終了します。信州新
町美術館で、今日から31日まで、この1年間に行われた各種事業
や信州新町の魅力を撮影したフォトコンテスト作品展も開催されて
います。実行委員会の役員さんをはじめ、ご協力いただいた地区の
皆さん、参加された多くの皆さんの笑顔あふれる、思い出がいっぱ
い詰まった写真が数多く飾られることでしょう。私も、昨年4月2
日の開会式「ろうかく梅園花まつり」に参加し、また、夏の「カラ
ー花まつり・ジンギスカンまつり」や「ろうかく湖花火大会・とう
ろう流し」にもお招きいただきました。10月の「義仲・巴(とも
え)全国連携大会」も懐かく思い出されますし、11月に開催され
た「信州新町能」で能を演じた地元信州新町出身の能楽師古川充
(みつる)さんとは市長室で懇談しました。
 また、琅鶴(ろうかく)湖では定期的に屋形船が運航され、毎月
第2土・日曜日にはジンギスカンデーとしてジンギスカン街道加盟
10店舗で食事などをすると割引券が当たる抽選会が行われるなど、
さまざまな事業が行われました。
 「アート&グルメ」をキャッチフレーズに、合併以前から持ち合
わせる素晴らしい地域の資源を広く発信されたと思います。

 両地区のイヤーキャンペーンはこれで終了となりますが、地域の
盛り上がりが、ぜひこれからも継続され、観光資源を生かした地域
づくりが一層進むことを願っています。
 2011篠ノ井イヤー実行委員会の渡邉一正会長さん、2011
信州新町イヤー実行委員会の中村一雄委員長さんをはじめ、両実行
委員会の役員の皆さん、関係された全ての皆さんのご努力に心から
感謝申し上げます。本当にお疲れさまでした。

 これまでのイヤーキャンペーン事業は、飯綱、戸隠、鬼無里、松
代、篠ノ井、信州新町などのブランド価値を高めてきました。4月
からは、「新1200万人観光交流推進プラン」として、これらの
地域などに存在するさまざまな観光資源と善光寺を結び付け、観光
客を増やすことと市内での滞在時間を延ばすことを目指し、長野新
幹線の金沢延伸と善光寺御開帳が開催される2015(平成27)
年に焦点を合わせたテーマ別キャンペーンを展開します。

 「遠くとも一度はまいれ善光寺~善光寺ふた旅」をメーン・キャ
ンペーンネームとし、新年度のテーマは、「ながの『四季の彩り』
キャンペーン」です。長野市の強みである善光寺のブランド力や自
然豊かな長野市ならではの四季の楽しみなどを踏まえつつ、長野市
全域で観光キャンペーンを展開していきます。

 新年度も、「元気なまち『ながの』」を目指し、これまで以上に
積極果敢に取り組んでいきたいと考えています。

* 驥山館:「大丈夫」や芸術院賞受賞作「楷書醉古堂劍掃語」な
ど、川村驥山の秀作が多数常設展示されています。
住所 長野市篠ノ井布施高田380(JR篠ノ井駅から徒歩約10
分)
電話番号 026-292-0941      

2012年3月15日木曜日

良き本との出会い


 中谷巌(いわお)さんの本に出会ってから、これまで多くのこと
を勉強しています。自分の考えを変えざるを得ないなあと感じたこ
とが何度もあり、かじとり通信でも幾度か引用させていただきまし
た。今回は、中谷さんの本について、少し踏み込んで紹介します。

 中谷さんの経歴ですが、一橋大学経済学部卒業後、日産自動車株
式会社勤務を経て、ハーバード大学に留学し、博士号を取得。一橋
大学教授、多摩大学学長などを歴任。現在、三菱UFJリサーチ&
コンサルティング株式会社理事長、多摩大学名誉学長、一橋大学名
誉教授です。
 また、細川内閣の経済改革研究会委員、小渕内閣の経済戦略会議
議長代理、ソニー株式会社取締役会議長を歴任され、オーストラリ
ア国立大学名誉法学博士でもあります。
 この経歴を拝見して、ただ者ではないと思いました。学者の世界
で一流を極め、政府の経済政策面にも大きな影響を与えた実績は、
私のような素人から見ると、文字通り輝ける日本人でしょう。

 今回紹介する本は、次の3冊です。
「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社インターナショナル・
2008年出版)
「日本の『復元力』-歴史を学ぶことは未来をつくること」(ダイ
ヤモンド社・2010年出版)
「資本主義以後の世界」(徳間書店・2012年出版)

 お会いしたことはありませんが、それぞれその内容に魅了されま
した。特に、最初に紹介した「資本主義はなぜ自壊したのか」を読
んだ時の衝撃は、とても大きいものでした。
 まず、中谷さんの評論は極めて正直であることです。この本の冒
頭で、ご自分がグローバル資本主義、すなわち規制緩和や市場開放
といった大きな改革を目指し、政府の委員などを務め、いわゆる
「小泉構造改革」の一翼を担ったが、どうもそれは間違っていたと
いうことを率直に認めておられます。

 次の「日本の『復元力』-歴史を学ぶことは未来をつくること」
でも、「戦後の日本人は自らの育った国の歴史を忘れ、歴史から遊
離した宇宙人のような抽象的な存在になることによって、(略)
『軸』や『ルーツ』を喪失してしまった。(略)私自身、一時はこ
のような誇りを忘れた戦後教育の犠牲者であった。つい最近に至る
まで、日本の歴史を知らず、日本の文化・文明を語れず、日本人の
美意識の繊細さに感動することもろくになかった。恥ずかしい限り
のアメリカかぶれ人間であった」と書いておられます。
 
 世の中には、評論家のような人がたくさんおられ、それぞれ一家
言を持ち、それなりに納得できる文章をお書きになるのですが、
「自分は間違っていた。世論や政策をミスリードする片棒を担いで
しまい、申し訳なかった」などという意味の発言をされる人には、
あまりお目にかかったことがありません。「自分は絶対に正しい」
という立場で、自分の論理を主張され、いつの間にか少しずつ中身
を変えて、「前に言ったように・・・」なんて言っておられるよう
な人が多いと感じています。

 議論の進展に伴い、考え方が変わることは仕方のないことですが、
その結果、過ちに気付いた時には、間違っていたと謝る姿勢が大切
だと思うのです。自民党は、現在の民主党の政策が、そのマニフェ
ストと全く違っているのだから、まず民主党は、謝るべきだと主張
しています。誰でも良かれと考えて仕事をしているわけですが、神
様ではないのですから、間違いは誰にでもあります。素直に間違い
を認めて、方向転換すれば、それで終わりだと思います。ところが、
政治家は責任を取れ、辞めろと言われるので、謝れないのでしょう
か・・・。先日ある全国紙を読んでいたら、「政治家は絶対に謝っ
てはいけない」という論がありましたが・・・。私は、全く反対の
考えです。

 中谷さんの本の中で、一番印象に残ったのは、「資本主義はなぜ
自壊したのか」にある還付金付き消費税の提案です。消費税の逆進
性を克服するこの考え方に感心して、以前かじとり通信でも紹介さ
せていただきました。日本の財政は確かに危機的であり、何とかし
なくてはなりません。無駄を省けという議論は正論ですが、問題を
先送りしているだけでは解決できないのではないか。財政危機を克
服するには消費税の増税しかない。還付金付きにした上で消費税を
上げることこそが一番大切です。それも、所得水準なんて考えずに、
全国民に還付金を配ってしまうというのは、良いことのように感じ
ています。
 所得が低い人に還付金を配ることはもちろんですが、中間層にも
配るべきです。いや、大金持ちにも配りましょう。需要が必ず盛り
上がり、デフレ克服のきっかけになるような気がします。所得の二
極分化が起こってしまっていることが、日本の衰退を招いているわ
けで、分厚い中間層を復活させ、一億総中流意識を再度醸成するこ
とが大切という議論にも賛成です。

 しかし、その後、三橋貴明さんの本「2012年 大恐慌に沈む
世界 甦(よみがえ)る日本」を読んで、少し考えが変わったのも
事実です。消費税の増税には、そのタイミングを慎重に計る必要が
あり、大規模な公共投資と一緒に行う方法もあるというのが今の私
の考えです。これについては、2月2日付けのかじとり通信でも書
かせていただきました。

 3冊目の「資本主義以後の世界」では、「『脱原発』を基本にし
て、再生エネルギーの開発に全力を注ぐ。太陽光発電や風力発電、
地熱発電、バイオマス発電(略)などに対しては惜しまず税金を注
ぎ込む。そして、日本を世界トップの『再生エネルギー大国』にす
る。それが『文明の大転換』の基本になる」とおっしゃっています。

 その一方で、中谷さん自身、「やや論理的に分裂気味になる」と
矛盾を指摘しながら、次の提案をしています。「私の提案は、2基
でも3基でもいいから日本に原子力発電所を残す必要があるという
ものだ。(略)それは国営の機関が採算性を度外視して運営・管理
しなければならないだろう。(略)世界最高水準の超堅牢(けんろ
う)な原子力発電所をつくり、それを厳重に国家管理する。同時に、
原子力開発・核の研究は続け(略)原子力発電で出るプルトニウム
は慎重かつ厳重に蓄積・管理する」と、安全保障の観点で、原子力
技術から一切手を引いてはならないとおっしゃっています。

 中谷さんは、「アポリア」(解決の糸口を見いだせない難問)と
しながらも、脱原発の方向へかじを切ったように見えますが・・・。
 つい最近の新聞の「日本よ」というコラムの中で、石原慎太郎東
京都知事は、「われわれがいかなる生活水準を求めるのか、それを
保証するエネルギーを複合的にいかに担保するのかを斟酌(しんし
ゃく)計量もせずに、平和の内での豊穣(ほうじょう)な生活を求
めながら、かつての原爆体験を背に原子力そのものを否定すること
がさながらある種の理念を実現するようなセンチメンタルな錯覚は
結果として己の首を絞めることにもなりかねない」と言っておられ
ます。
 中谷さんの本の内容とはかなり違いますし、正反対でしょうね。
原発については、まだまだ情報も議論も足りないと思っています。

 また、現代社会の諸問題を生み出す源について中谷さんは、「近
代以前の人間は、(略)『贈与』という行為を通じて人と人とのつ
ながりを生み出す『社会』もしくは『共同体』をつくり上げ(略)
てきた。現代人は『贈与』の精神を忘れ、市場を通じた『交換』こ
そが人間を幸せにすると錯覚したのである。だから『社会』が荒廃
し、文化が廃れていく。資本主義が大きな壁にぶちあたり、新たな
フロンティアを見いだせないということ(略)の根源にある問題は、
『贈与』の精神を忘れたということにあるのではないだろうか」と、
言及しています。そして今、「贈与」の精神とともに失われつつあ
るのが、「慈善」の精神ではないでしょうか。「権利としての福祉」
という言葉を耳にしますが、現代社会の諸問題を考えるとき「贈与」
や「慈善」の精神を忘れては語ることができないでしょう。

 中谷さんは、その他たくさんの提案をしています。
 「グローバルスタンダードで日本人は幸せになったか?」という
テーゼ(命題)は印象的でした。「TPP(環太平洋経済連携協定)
では、日本は救えない」「『農業の復活』に賭けるべきではないの
か」といった提案や論点も掲げておられます。

 私の力では、本の全体像を紹介することは、とてもできるもので
はありません。しかし、歴史に対する造詣の深さ、宗教や文化の話
は、現在の閉塞(へいそく)感を打ち破る具体的な話として、大変
感激しました。皆さんも、一度読まれてみてはいかがでしょうか。

 中西輝政さんの「なぜ国家は衰亡するのか」(PHP新書)も示
唆に富んだ本です。
 ギリシャ・ローマの興隆衰亡を概観しながら、大英帝国の衰退の
歴史になぞらえ、今の日本の現状を述べておられます。

 渡部昇一さんの史観も傾聴に値すると思います。少し古い本です
が「歴史の読み方-明日を予見する『日本史の法則』」(祥伝社ノ
ン・ブック)では、私たちが受験勉強で学んだルソーの知性万能主
義・社会契約説の誤りについて、分かりやすく解説されていました。

 「日本人とユダヤ人」(山本書房)をはじめ、日本人の考え方を
鋭く、そして説得力のある分析をしている山本七平さんの本は、私
の座右の書です。「人間集団における人望の研究 二人以上の部下
を持つ人のために」(祥伝社)では、「人望」と「人気」は別のも
のであり、リーダーに必要な資質は、「人気」ではなく「人望」と
定義されています。人と人との強い信頼関係を築けるかどうかの違
いだと理解しています。

 行政に取り組んでいる者として、理論はきちんとまとめておかな
くてはなりません。
 しかし、思想家でも学者でもありませんから、全く固有の理論を
つくり上げることは難しいですし、そのような理論は、他から見れ
ば、独り善がり!と言われてしまうのが落ちでしょう。
 そこで私は、いろいろな方の本を読んで、これはと思う部分を引
用させていただき、自分の意見にしています。ちょっと、ずるいか
もしれません。

2012年3月8日木曜日

市民の皆さんとの対話


 地域の身近な課題などについてのご意見やご要望を、私が出席し
て市民の皆さんからお聴きする本年度の「元気なまちづくり市民会
議」は、昨年6月の篠ノ井信里地区を皮切りに、先月の大豆島地区
まで市内全地区で計29回開催され、本年度の日程を全て終了しま
した。また、新年度の施政方針・重点施策・予算などについて説明
する「市政方針市民会議」や、男女共同参画社会の実現を目指し意
見を交わす「しなのき市民会議」、中山間地域の活性化について意
見を交わす「中山間地域市民会議」、外国籍の皆さんを対象にした
「国際交流市民会議」、そして私が市内各地に出向き、意見交換を
する「移動市長室」も合わせると、全部で39回出席したことにな
ります。

 会議は、ご出席いただいた皆さんから、いろいろなご意見を頂き、
それに対して市側が答え、最後に私が総括的な話をする形式が多い
のですが、市の回答や説明に皆さんがどのような印象をお持ちにな
ったのか、気になるところです。 

 その他、このような市民会議以外にも、道路建設や河川改修など
の期成同盟会の総会や長野広域連合が建設を計画しているごみ焼却
施設についての大豆島地区での会議などにも出席し、さまざまな形
で意見交換をさせていただきました。
 ご出席いただいた皆さん、お忙しい中、ありがとうございました。

 このように地域の皆さんの声を直接お聴きすることに加え、各住
民自治協議会(住自協)の活動の支援を担当する職員(地区活動支
援担当職員:各支所長などが兼務しています)からも各住自協の状
況を聴こうと情報交換会を行いました。既存団体を残して活動をス
タートした所や、反対に全部解散して新たな組織をつくった所、住
民の皆さんに住自協をより身近に感じてもらうために広報紙を充実
した所、地区活動10年構想を作成した所、他の住自協との交流を
始めた所、地区の特徴を生かした花いっぱい運動やホタルの再生な
どの活動に取り組んでいる所、また、住自協事務局の運営を円滑に
するために事務局長を置きたいが、その費用が捻出できないといっ
た話もありました(この費用については、新年度予算に計上しまし
た)。
 各住自協とも状況はさまざまですが、住自協の役員の皆さんが一
生懸命取り組んでいる様子が報告されました。

 その中で、「これは、どうにかしないと将来大きな問題になるな」
ということが話題になりました。それは、高齢者の一人暮らしなど
による「孤立化」です。
 中山間地域では、地域の担い手として期待される若い世代が都市
部に移り住むことで、高齢化が著しくなり、高齢者の一人暮らし世
帯が増えています。「家の前の道路の草刈りや除雪ができない」
「移動手段がなく、買い物や地区の会議にも行けない」といった問
題が起こっていることは市民会議でもお聴きしていましたが、支援
担当職員からの報告によると、「人口の減少により、将来的には、
区の統合の検討が避けられない集落や、中には消滅してしまう集落
もありそうだ」とのことです。

 そして孤立化は、中山間地域に限ったものではなく、都市部でも
じわじわと進行しています。特に、マンションやアパートでは、隣
近所の関係が希薄で、隣に住む人が誰だか知らない、何か異変が起
こっても誰も気が付かないということを耳にします。そういう意味
では、むしろ中山間地域の方が「誰が住んでいるか分かるから、ま
だいいのではないか」といった話にもなりました。

 孤立化による最悪の結果が孤独死です。先日、さいたま市で親子
とみられる3人が餓死しているのが見つかったという痛ましい事件
がありましたが、近年、こうした誰にも気付かれずに亡くなる孤独
死が増えており、一つの社会問題となっています。個人情報保護が
足かせとなり、必要な情報を入手できない、悲惨な結果を招く前に
手が打てないといったことが背景としてあることも事実です。

 各住自協では、東日本大震災の後、防災に対する住民の関心や意
識が高まり、地区の防災活動が盛んになったとの報告も支援担当職
員からありました。防災マップを作成したり、一人暮らしの高齢者
の避難方法を考えたりするなどの取り組みが積極的になされている
とのことです。住民同士のネットワークが広がり、そして「絆」が
強くなるこうした活動は、孤立化を防ぐ一つの方法だと思います。

 いずれにしても、住自協の活動の推進と地域のコミュニティーの
再生は、大変重要であることをあらためて強く認識しています。旅
行に出掛けて家を留守にしたらお土産を買ってくるような、とれた
野菜などをお裾分けするような隣同士のお付き合いがあれば理想な
のでしょうが・・・。しかし、隣同士のお付き合いも人口減少など
の理由により困難な地区などには、例えば、民生委員さんや郵便・
新聞配達の皆さんなどと連携したネットワークをつくるなど、何ら
かの方法で住民同士がつながっているシステムを構築する必要があ
ります。国、地方自治体、関係機関が連携して、早急に対応策を考
えなくてはいけない案件だと感じています。

 一方、本年度の「年代別懇話会」(昨年度初めて開催しました)
では、中山間地域の持つ魅力を将来の長野市の発展につなげてはど
うかといった話題を中心に話し合われました。
 この懇話会は、「長野市の将来にどんな夢を描くのか。自分が市
長だったらどんな市にしたいのか」といった長野市の将来像につい
て、公募に応じていただいた皆さんを中心に幅広い年齢層の皆さん
が集まり夢を語り合う場です。18~39歳のグループ(コーディ
ネーターは、昨年、長野青年会議所理事長を女性で初めて務められ
た加藤恵美子さん)と、40歳以上のグループ(こちらのコーディ
ネーターは、フリーパーソナリティーの武田徹さん)の2つに分か
れ、昨年10月の「顔合わせ会」と「キックオフ・トーク」からス
タートし、各グループ4回の懇話会を重ね、先月15日に各グルー
プが成果を発表し合いました。

 双方が導き出した将来の長野市発展のキーワードは、「都会には
ない豊かな自然」です。特に、自然に囲まれた「里山」での生活を、
もっと外に向けてアピールしてはどうかというものです。ゆっくり
と流れる時間、便利さからの脱却、不便さを楽しみながら、あえて
手間暇掛けた生活を送ろう。非日常的な癒やしの空間の演出が大事
だとのことでした。これらを、18~39歳のグループでは、「長
野のおばあちゃんちへようこそ」、40歳以上のグループでは「昭
和村」とタイトルを付けて、発表しました。

 また、18~39歳のグループが提案した「学生オーベルジュ」
は、面白いと話題になりました。オーベルジュとは、宿泊施設を備
えたレストランのことで、これをヒントに、学生が「食」と「おも
てなし」について学ぶ高等教育機関を設置してはとの提案であり、
長野県短期大学の4年制化に併せて、新学科の開設を検討してはど
うかという踏み込んだものでした。

 メンバーの皆さんは、生業の傍ら懇話会に出席してくれました。
大変だったと思いますが、最後にこうした機会を与えてくれたこと
への感謝の言葉を頂き、充実した懇話会にすることができて良かっ
たと思いました。

 長野市は、「元気なまちづくり市民会議」をはじめとして、いろ
いろな形で市民の皆さんと対話しています。これらを通して、地域
の活動の様子、困っている問題、解決しなければならない課題、将
来のまちの在り方などをお聴きし、議論しながら長野市の施策に反
映しています。
 「みんなの声が『ながの』をつくる」・・・私のキャッチフレー
ズです。 

2012年3月1日木曜日

3月市議会定例会での施政方針


 本年度を締めくくる、そして新年度のスタートに向けた3月市議
会定例会が、2月23日~3月19日の日程で開会しました。会期
が26日間と長期間になりますが、新年度予算案や諸議案を審議す
る重要な定例会ですので、精力的に取り組もうと気持ちを引き締め
ています。開会に先立ち、私の市政運営に臨む所信の一端と合わせ、
新年度の予算案と主な施策およびその大要について「施政方針」と
して申し上げました。説明時間が40分を超える内容であり、全て
を今回のかじとり通信で説明することはできませんが、以下要点を
絞ってお話しします。

 まずは、新年度予算案についてです。
 歳入については、基幹収入となる市税は、景気低迷による法人市
民税の減のほか、3年に1度の固定資産(土地・家屋)の評価替え
の年となるため、全体で559億7千万円と、対前年度比20億7
千万円の大幅な減を見込んでいます。また、財源不足を補う財政調
整基金などからの取り崩し額は、対前年度比8億円増の34億円を
見込み、市債は、返済時に償還額が100パーセント地方交付税で
措置される臨時財政対策債について対前年度比10億円増の70億
円とし、公共事業に充てる建設市債については99億9千万円で、
ほぼ前年度並みの発行額とするとともに、地方交付税措置のある有
利な市債の借り入れに努めました。

 歳出については、制度変更に伴う子ども手当の給付額縮減による
扶助費の減や、市債残高の減少に伴う公債費の減(これはすごく良
いことです)などにより、義務的経費が対前年度比21億1千万円
の大幅な減となった一方、普通建設事業費については、景気・雇用
対策に配慮し、ほぼ前年度並みの事業費を確保しました。

 予算編成方針に掲げた3つの優先施策には重点的に財源の配分を
行い、「エネルギーの適正利用」に3億1千万円、「文化芸術活動
への支援と文化の創造」に3億7千万円、そして「公共交通機関の
整備」に11億7千万円、総額18億5千万円の事業費を計上しま
した。
 また、大規模プロジェクト事業として、小・中学校耐震化事業に
63億9千万円、長野駅周辺第二土地区画整理事業に34億円、市
役所第一庁舎・長野市民会館建設事業に計4億7千万円など総額
119億8千万円の事業費を計上しています。

 これらの結果、平成24年度の当初予算額は、一般会計で
1,518億6千万円、そのほか、特別会計では10会計総額で
698億4千万円、企業会計では5会計総額で536億1千万円と
なりました。
 いずれにしても、「入りを量りて出ずるを為す」の基本理念の下、
健全財政を堅持しつつ、「選択と集中」により、めりはりのある予
算が編成できたものと考えています。

 次に、新年度に取り組む主な施策とその大要についてです。
(1)都市内分権の推進について
 住民自治協議会が本格的に活動を開始して、間もなく3年目を迎
えようとしています。さまざまな課題はあるものの、住民自治協議
会会長をはじめとする役員の皆さんのご尽力により、昨年度と比べ
少しずつ落ち着きを見せ始めているのではないかと感じています。
 一方で、会長などの役員任期が、1~2年と比較的短いことから、
住民自治協議会の自立・発展、そして継続性確保のため、事務局長
の雇用経費に係る補助について予算を計上しました。

(2)公共交通機関の整備について
 バス交通については、地域循環バス・空白型乗合タクシーなど9
路線の実証運行を2カ年にわたり行ってきた結果、新年度から7路
線を本格運行へ移行します。
 また、本年10月からは、バス共通ICカード「KURURU
(くるる)」の運用開始を予定しており、皆さんにご好評を頂いて
いる中心市街地循環バスぐるりん号については、車両の更新・増車
により現行20分の運行間隔を15分にするとともに、運行時間帯
も朝夕1時間ずつ拡大し、運行内容の充実を図ります。併せて、早
稲田大学が実施する電動バスの実証実験にも、積極的に協力してい
きます。
 なお、LRT(次世代型路面電車)など新交通システムについて
は、来年度に基礎調査を実施し、平成25年度中に方向性を決定し
たいと考えています。

(3)環境対策の充実、エネルギーの適正利用について
 これまでの太陽光発電システム設置補助に加え、太陽熱利用の普
及促進を図る補助制度を創設、電気使用量の大きい市有施設にデマ
ンド監視装置を導入、防犯灯のLED(発光ダイオード)化などを
推進します。さらに、市民の皆さんが再生可能エネルギーを気軽に
体感し、理解を深めていただけるよう、「次世代エネルギーパーク」
をエムウェーブに整備します。
 なお、長野広域連合が市内に建設を計画しているごみ焼却施設に
ついては、「環境影響評価書」が県により2月27日から縦覧に供
されています。市としても、建設予定地区の皆さんのご意見を十分
お聴きしながら、建設について同意していただけるよう鋭意努力し
たいと考えています。

(4)文化芸術活動への支援と文化の創造について
 文化芸術の担い手を育成するとともに、市民の文化芸術活動を支
援することにより、文化的風土を醸成し、「ながの」の個性と魅力
あふれる市民文化の振興を目指します。
 文化芸術に親しむきっかけづくりとして、親子で参加できる鑑賞
会などの「子どものための文化芸術プログラム」を実施するほか、
野外彫刻の設置数や「街角に音楽があるまちづくり事業」の実施回
数を増やしていきます。多くの市民の皆さんが身近に文化芸術に触
れる機会を設けることで、文化芸術活動の裾野の拡大と地域の活性
化を図りたいと考えています。

(5)中山間地域の活性化について
 「農業法人化事業」(長野市農業公社が実施)や、農産物に付加
価値を付ける「農産物加工施設等支援事業」、また、都市と農村の
交流を図る「小・中学生農家民泊誘致受入事業」については、引き
続き積極的に推進します。
 「新規就農者支援事業」については、事業初年度である本年度の
助成金交付対象者は、県外出身者を含め21人となりました。目標
としていた年間30人には達しませんでしたが、今後も広くPRを
続け、県内外から就農希望者を募ります。なお、新年度からは国も
新規就農を支援する「新規就農総合支援事業」を実施する予定であ
り、長野市の事業がその先駆けとなったものと自負しています。こ
うした国の事業も活用しながら、農業の担い手の確保・育成に努め
ます。

 そのほか、防災対策、新斎場の整備、産業基盤の整備、子育ち・
子育て支援、中心市街地の活性化、観光交流の推進、スポーツを軸
としたまちの活性化、魅力ある教育の推進などについて申し上げま
した。

 なお、スポーツを軸としたまちの活性化のうち、サッカー・AC
長野パルセイロについては、2月21日のJリーグ理事会において、
Jリーグへの準加盟が「審査継続」という残念な結果となりました。
パルセイロ側のJリーグへの入会目標年次と、市のスタジアム整備
の目標年次が不一致であったことが理由であるとの報告を受けてい
ます。今後は、ホームスタジアムである南長野運動公園総合球技場
の改修に向けた全体計画の検討を進めますが、準加盟が認められる
ようパルセイロ側とも協議し、少しでも早期に整備ができるよう努
めていきます。併せて、パルセイロ側には、経営安定化のためにも、
観客動員数と、サポーター数の増加への取り組みを求めていきます。

 さて、本定例会には、組織・機構の見直しの一つとして、現在の
産業振興部を分割し、商工観光部と農林部に再編するための条例改
正案を提出しました。
 平成16年度に産業振興部を設置して以来、商工観光行政および
農林行政を一元的に所管することで、商工・観光・農林業の施策の
連携強化や、情報の共有化による迅速な調整・対応を図ってきまし
た。その結果、グリーンツーリズムをはじめとする体験・体感型観
光への取り組みなどの効果が得られるとともに、「産業振興ビジョ
ン」の策定などによって、産業間連携の基盤が整ってきました。
 一方、各分野を取り巻く状況は大きく変化しており、例えば、観
光分野においては、平成27年の新幹線金沢延伸と善光寺御開帳に
焦点を当てた新たな観光誘客策の推進や、より広域的な観光に向け
た施策の展開が急務となっています。また、農業分野においては、
もうかる農業の実現を図るとともに、「ながのブランド」の農産物
を国内はもとより海外へも売り込む「攻めの農業」を展開していく
必要があります。
 こうしたことから、商工観光部門と農林部門のそれぞれに専任の
部長を配置し、より積極的な取り組みを強化するものです。

 以上の施政方針は、市ホームページに全文が掲載されていますし、
市議会の様子は、市ホームページのインターネット市政放送でもご
覧いただけます。
 ぜひ、多くの皆さんにご覧いただき、より一層市政への理解を深
めていただきたいと思います。