新年度が始まり、3カ月が過ぎようとしています。各種事業も軌
道に乗り、順調に進んでいます。特に、複数の部局にまたがる政策
課題へ対応するために立ち上げた副市長プロジェクトは、成果を意
識したスピーディーな対応と、着実な進展を図ることにより、政策
課題の解決に向け動き始めています。多様な課題に的確かつ迅速に
対応するため、トップマネジメントの強化を図った副市長2人体制
の効果を強く感じています。
こうした中、本年度最初の市議会となる6月市議会定例会が、6
月7日から22日まで開催されました。「平成24年度長野市一般
会計補正予算」などを議決いただき、また本会議や委員会において
出された貴重な質問、意見、提案を今後の市政運営に反映したいと
考えています。
今回は、開会および閉会のあいさつで申し上げたことや、一般質
問で出された事項などを中心にお話しします。
最初に、平成23年度一般会計決算見込みについてです。
基幹収入である市税は、東日本大震災の影響などにより対前年度
比4億円減の約575億円となる見通しですが、特別交付税などの
確保が図られたほか、国・県財源の有効活用や、経費節減に努めた
ことなどから、当初予算で予定していた26億円の基金の取り崩し
が、最終的に10億円にとどまる見通しです。なお、基金について
は、合併特例債を原資とする「地域振興基金」に10億円を積み増
すことなどから、全体の基金残高は約376億円と対前年度比約
2.5億円の増を確保し、今後の財政需要に備えた対応が図られ、
また、市債については、年度末残高が約1,338億円と対前年度
比42億円ほどを縮減できそうです。
次に、本年度の主な施策・事業の動向についてです。
(1)都市内分権の推進について
住民自治協議会が本格的に活動を開始して3年目となる本年度、
役員の皆さんの負担を軽減し、安定した活動ができるよう、地区か
ら要望のあった事務局長を雇用するための経費に対する補助制度を
創設しました。32地区のうち既に25地区において事務局長が雇
用され、新たな体制の下で本年度の活動がスタートしています。
(2)公共交通機関の整備について
4月1日に運行を開始した長野電鉄屋代線廃止に伴う代替バスは、
大きなダイヤの乱れや乗り残しもなく、4月に行った調査では、平
日の平均乗車人数は朝夕の中学生・高校生を中心とする935人で、
順調な滑り出しです。今後は、長野電鉄活性化協議会で設定した年
間利用者目標値の達成に向け、地元の皆さんと連携しながら利用促
進を図っていきます。
また、長野電鉄屋代線の跡地利用については、松代地区と若穂地
区の検討組織による活用方法に関する検討状況や、用地・鉄道施設
の現況を踏まえ、また、沿線の千曲市、須坂市、そして長野電鉄と
も協議を重ね、この秋をめどに方向性を決めたいと考えています。
なお、次世代型路面電車システム(LRT)を含めた新交通シス
テム導入や新幹線金沢延伸に伴う長野以北並行在来線の新駅設置の
可能性についての調査も実施します。
(3)環境対策の充実、エネルギーの適正利用について
太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーにより発電した電
力の固定価格買い取り制度の施行を来月に控え、買い取りの価格や
期間が決定するなど、普及促進に向けた環境が整いつつあり、今後、
発電事業への新規参入が増え、再生可能エネルギーの導入が一層進
むことが期待されます。長野市においても引き続き、公共施設への
導入や補助制度などを積極的に推進していくとともに、普及促進策
についても研究していきます。
また、長野広域連合が大豆島地区松岡に計画しているごみ焼却施
設については、本年3月、環境影響評価書の縦覧が終了し、長野県
環境影響評価条例に基づく事前の手続きが完了しました。今後、長
野市としても、地元の皆さんのご意見を十分お聴きしながら、建設
の同意が頂けるよう鋭意努力していきます。
(4)市役所新第一庁舎および新長野市民会館の建設と文化芸術活
動への支援・文化の創造について
7月下旬まで、両施設全体の施設配置や平面プランなどの基本設
計案についてパブリックコメントを実施し、市民の皆さんや議会、
市民ワークショップなどのご意見をお聴きするとともに、7月9日、
11日には、全市を対象に市内2カ所で市民説明会を開催します。
また、事業について一層ご理解を深めていただくために、各地区
で開催される元気なまちづくり市民会議においても、広く市民の皆
さんに説明し、本年度中をめどに実施設計を進めていきます。
新市民会館の運営などのソフト面については、昨年度、パブリッ
クコメントなどで寄せられたさまざまなご意見を反映し、運営管理
基本計画を策定しました。本年度は運営管理実施計画を策定し、新
市民会館が文化芸術拠点施設としての機能を最大限発揮できるよう、
事業計画、組織体制、収支計画などの具体化を図ります。
(5)中山間地域の活性化について
農業者の法人化を積極的に支援するとともに、マーケティングの
強化、ブランド化対策および6次産業化の推進など「攻めの農業政
策」を進めます。
新規就農者の育成対策については、本年度から、国が実施する
「新規就農総合支援事業」が始まりました。この事業の給付対象と
なるには、地域ごとに「人・農地プラン」の作成が義務付けられて
いるため、現在、新規就農者のいる市内十数地区について同プラン
作成の準備がされており、その他の地区についても順次作成される
予定です。また、国の事業の対象とならない新規就農者については、
できる限り長野市の「新規就農者支援事業」の給付対象とするなど、
引き続き農業の担い手の確保・育成に努めます。
(6)スポーツを軸としたまちの活性化について
サッカー・AC長野パルセイロのJリーグ準加盟申請については、
本年2月のJリーグ理事会において「審査継続」となりましたが、
パルセイロが5月31日付けで提出した再申請書類が受理され、6
月27日、Jリーグによる現地ヒアリング審査が実施されました。
パルセイロのJリーグ準加盟が承認されることを期待するとともに、
今後もパルセイロと十分連携を図りながら対応します。
南長野運動公園総合球技場の再整備については、現在、基本プラ
ンの検討を進めています。施設規模は、当初J2仕様の1万人収容
で考えていましたが、ゴール裏のスペースが広く収容規模の拡大が
可能であることから、J1仕様の1万5,000人収容を前提とし
て検討を行い、1万人収容の場合と比較検討した上で、基本プラン
を決定したいと考えています。これは、本会議一般質問において、
サッカースタジアムの規模についての質問に対して答弁したもので
す。市民の皆さんの機運も高まっていますので、スピード感を持っ
て取り組みます。
(7)国旗・市旗の掲揚について
本会議一般質問で、支所における国旗・市旗の掲揚の状況につい
ての質問を頂きました。現在は、本庁のほか、掲揚台のない5支所
を除く22支所で常時掲揚を行っています。わが国の伝統と文化を
尊重し、それらを育んできた郷土を愛する心を抱くことはとても重
要なことだと考えています。全支所で、国旗・市旗を掲揚できるよ
う、早期に対応したいと考えています。
以上、主な項目についてお話しさせていただきました。この他、
平成27年の新幹線金沢延伸に向けての長野駅善光寺口駅前広場の
整備状況、中小企業の新技術・新製品の研究開発を支援するため、
長野県テクノ財団、八十二銀行、長野信用金庫と立ち上げた「長野
市企業コーディネート・サポートチーム」、4月にスタートした長
野市教育振興基本計画に基づく「次世代を担う子どもたちの生きる
力の育成」、観光交流を推進する「四季の彩りキャンペーン」、本
年10月診療分から福祉医療費給付事業における乳幼児等の対象年
齢の「小学校3年生まで」から「小学校6年生まで」への拡大、
「新あんしんいきいきプラン21」に基づく高齢者福祉施策、「人
権同和政策推進基本方針」の策定などについても申し上げました。
閉会のあいさつの最後に、本市職員も含めた公務員の不祥事が最
近立て続けに発生していることに対し、本市職員へ猛省を促す意味
も込め、あらためて行政への信頼を揺るがす深刻な問題であると語
気を強めて述べました。職員一人一人が自らの行動を再確認すると
ともに、公務員として常に襟を正し、全体の奉仕者であることをあ
らためて自覚するよう強く促し、一日も早く信頼を回復することが
できるよう取り組んでいきます。
これまで、議会の際には、議員、市民の皆さんに分かりやすい答
弁を心掛けるように、答弁者となる部局長に指示してきました。今
回このことをあらためて徹底した結果、より簡潔で分かりやすい答
弁ができたと感じています。市長就任以来、私が掲げてきた5原則
のうちの一つ「簡素で分かりやすい市政運営」に、さらに磨きをか
けていきたいと思っています。
2012年6月28日木曜日
6月市議会定例会で申し上げたこと
2012年6月21日木曜日
全国市長会議のために上京しました
6月5日、6日、東京で全国市長会議が開催されました。この会
議では、関東、北信越、東海といった全国9支部から提出された国
の施策に対する要望などの議題を各市長が審議し、全国市長会の要
望としてまとめています。まずは総会に先立ち、各支部から提出さ
れた87の要望事項について、各市長が4つの分科会(地方行政関
係、地方税財政関係、厚生労働・環境・文教関係、国土交通・農林
水産関係)に分かれて審議し、その結果を総会において報告し、ま
とめました。
ただ、この種の会議で審議される議題は、各市から出されたさま
ざまな意見を県単位でまとめ、さらに支部単位でまとめたものです。
そのため、一般的に極めて常識的なテーマ、あるいはほとんど全て
の市に共通したテーマとなり、正面切って賛成・反対するような議
論には、なかなかなりません。具体例としては、昨年、和歌山市で
開催された中核市サミットにおいて私から「市町村が行う福祉施策
は、他市町村より手厚い支援を独自に設定する事態が生じている。
このため、地方自治体間のサービス競争を引き起こし、福祉関連の
予算が増えていく一つの要因である。これを是正するためには、国
・地方が行う社会保障の範囲および水準を国がしっかり決める必要
がある」と申し上げました。しかし、国が統一基準を定めることは
地方分権の趣旨に反するという考えもあり、議論すべき事項として
取り上げることは難しいのでしょう。その結果、当たり前のことを、
当たり前のように決議して国に要望することになってしまいます。
もちろん、それぞれの要望事項は重要なテーマであることは間違い
ありませんし、個々の意見を取り上げていたら、収拾が付かなくな
ることも事実です。
全国市長会議のもう一つの目的は、最新の国会の状況や国の施策、
動向について研修会を開催し、各市長と省庁の担当者が直接意見交
換をすることです。財政に関するテーマが多く、今後の方向性は示
されるのですが、政治主導の流れの中、国がまだ決定していない事
項が大半で、あまり参考にならないことも多々あると感じています。
研修会は分科会ごとに開催され、今回私が参加した地方行政関係の
分科会では、総務省自治行政局長から「当面の地方自治制度の課題」
として、高齢化、人口減少などの社会構造が変化する中、大都市が
抱える課題解決に向けた大都市制度見直しの検討状況、個人を識別
するためのマイナンバー法案などについて説明がありました。参加
した市長からいくつか質問が出ましたが、時間が限られていて、踏
み込んだ議論までには発展しませんでした。
参加市長が一堂に会す総会には、来賓として野田佳彦内閣総理大
臣や川端達夫総務大臣も出席され、それぞれ方針を述べられていま
したが、新聞・テレビなどで報道されている範囲を出るものではな
く、正直退屈でした。政局が微妙な折、仕方ないことではあります
が・・・。総会では、各分科会において審議された「地方分権・地
域主権改革の推進」「医療保険制度の抜本改革」「防災・災害・危
機管理対策、環境施策、都市基盤施策、農林水産業、経済・雇用施
策の充実強化」など、次々と議案が報告され、全て全国市長会の要
望としてまとめられました。
全国市長会議終了後、「現場から国を変える首長の会」主催の勉
強会に参加しました。東洋大学の根本祐二教授が講師で、題目は
「朽ちるインフラ 崩壊を避ける知恵 シティ・マネジメント」で
した。根本さんの著書「朽ちるインフラ」はベストセラーになりま
したし、先日NHKの番組「シリーズ日本新生 橋が道路が壊れて
いく・・・ インフラ危機を乗り越えろ」にも出演されていました。
1960年代、日本は高度経済成長の真っただ中で、今の都市基
盤となる大型建築物、道路、橋、水道などのインフラが次々と建設
されました。しかし、あれから50年がたち、当時建設したインフ
ラは老朽化し、今後膨大な維持費、更新費用が掛かってきます。景
気の低迷が続き、今後大きな税収増が見込めない中、こうしたイン
フラの維持・更新費用の増大に自治体はどう対処すべきかという内
容でした(実は先月、長野市の全部課長が集まる会議の中で、先ほ
どのNHKの番組を例に取り、今後インフラの維持・更新費用がか
なりの負担増となることをしっかり認識して業務に当たるように私
から話をしたところでした)。
根本教授は、学校や公営住宅などの「公共施設」と、道路、橋、
上下水道などの「インフラ」とを区分し、「シティ・マネジメント
(自治体経営)」の観点からその解決策を紹介されました。
まず、老朽化した公共施設の更新に当たっては、それぞれを建て
替えるという発想ではなく、比較的大きなコミュニティー施設を建
設し、学校や保育所、公民館、図書館などをテナントとして入れる。
これにより、各施設に必要な駐車場やトイレ、階段などを共用でき、
施設面積を20%削減できる。
また、集会所や公営住宅については、民間でも同じようなストッ
クを十分持ち合わせているので、更新したり新設するのではなく、
民間施設の活用に切り替えていく。例えば、稼働率が全国平均で約
20%といわれる集会所は、民間の学習塾を空き時間に借りて、使
用料を支払う。また、公営住宅事業はやめ、利用対象者に家賃を補
助して民間アパートに住んでもらう。これにより、民間に仕事を回
すことができ、新たな雇用が生まれる。前々回のかじとり通信でも、
こうした民間活力の導入による地域経済・社会への好影響について
述べさせていただきました。共通することは、とにかく民間ストッ
クを利用し、自治体は独自の資産を持たないということです。海外
では民間施設に公共施設がテナントとして入ることは常識のようで
す。
しかし、それよりも深刻なのがインフラの維持・更新費用です。
その解決策として根本教授は、「インフラ包括マネジメント」を紹
介されました。これは個々のインフラをそれぞれ管理するのではな
く、包括的に管理せよというものです。例えば、道路や橋の維持管
理業務を細かく分けて民間事業者に委託するのではなく、道路と橋
を一括管理するような広い範囲で管理を委託する。これにより事業
者はトータルでコスト削減を考えるようになる。さらには、道路に
穴があいてから補修するのではなく、穴があく前に対応するという
発想になり、いわゆる対症療法から予防療法に変わるというのです。
包括的に管理することで、知恵がいっぱい出てくると話されました。
また、将来の更新費用を算出する独自の計算ソフトを紹介され、
まずは時系列的に費用がどれだけ掛かるのかを分析することが必要
だと話されていました。これはまさに、かじとり通信でも申し上げ
てきた「行政にも減価償却の手法を取り入れるべきだ」という私の
考えに共通するものです。長野市としても、少し前から財政部長な
どと具体的に研究を始めたばかりでしたので、この話も興味深くお
聴きしました。
さて、全国市長会議には、長野県内19市の市長も出席しました
ので、この機会を利用して、長野県市長会も開催されました。この
中で今、社会問題になっているAIJ投資顧問に資産運用を委託し
ている県内厚生年金加入企業への支援についての話がありました。
この件は、各基金の私的な問題なので、行政による支援はなかなか
難しいとは思います。ただ、長野県内にある10基金のうち8基金
が被害に遭い、いまだ解決策が見えていないということです。この
ままでは、多くの中小企業が打撃を受けますし、地域経済に深刻な
影響を及ぼす問題に発展する可能性があります。県市長会としても
問題意識を共有しながら最善の対応を考える必要があるとの結論に
達しました(19日の新聞報道によると、国も赤字の厚生年金基金
が解散しやすいよう、国に返済しなければならない積立金を減額す
る方針を打ち出しました)。
今回の東京出張の際に、ぜひお会いしたい方がいました。川中島
地区ご出身で株式会社商船三井常務執行役員の横田健二さんです。
樋口副市長の高校の同級生ということで、このたび、ふるさとNA
GANO応援団への新規加入をお願いするために伺ったわけですが、
ご快諾を頂きました。これまでの豊かな経験や広い人脈などにより、
市政全般にご協力いただくようお願いしました。
以上、東京出張の2日間について報告させていただきました。
最近感じることは、情報化が進み、インターネットなどを通じて、
国内はもとより世界各地からさまざまな情報をリアルタイムで入手
できる時代に、全国からわざわざ市長が集まるこうした会議は、も
っと踏み込んだ議論の場となるべきだということです。しかし、そ
うした議論も、他市の政策や決定にまでは踏み込むことはできませ
んし、してはいけないことだと思っています。地方自治体は全て平
等で、お互い干渉することができない不可侵の約束事があるのです。
こうしたジレンマは感じますが、せっかく全国から市長が集まって
いるのです。お互いの立場を尊重しつつ、共通する課題の解決に向
けたより実のある会議にするために、その内容や手法を再考する必
要があると感じています。
2012年6月14日木曜日
ちょっと立ち止まって、見てください
「善光寺表参道に灯籠を復元建立する会(会長・加藤久雄長野商
工会議所会頭)」が48基の灯籠を建立され、5月24日に長野市
への引き渡し式が開催されました。長野駅から善光寺までの中央通
り(善光寺表参道)に、また一つ名物が生まれました。
善光寺表参道には、戦後まで木製灯籠(春日灯籠)があったので
すが、中央通りにアーケードができた時に、取り払われてしまいま
した。しかし、時代の流れとともに、まちの構造も変わるものです。
アーケードが造られた当時は、雨や雪にぬれないで買い物ができる
方が良いと考えられていたのでしょうが、その後アーケードが老朽
化したこともあって、アーケードがない方がまちの景観が良いとい
うことになったのでしょう、また、市民の皆さんの考えが変わって
きたこともあるのでしょう・・・、その後アーケードは撤去されま
した。そして今は、車道幅を狭めることにより歩道幅を広げ、歩行
者を優先する道路工事(舗装も石畳化しています)を行っています。
まちの在り方も、大きな時代の流れに乗っているのだなあと思いま
す。
その後、善光寺表参道ににぎわいを創出しようと、まちの皆さん
やボランティアの皆さんなどが、いろいろなイベントに取り組んで
こられました。善光寺花回廊、長野びんずる、長野灯明まつりなど
の大きな恒例行事の他、さまざまな行事が企画され、トイーゴやも
んぜんぷら座、セントラル・スクゥエア、ぱてぃお大門蔵楽庭など、
街並みも徐々に整備されてきているように思います。長野オリンピ
ックの時の表彰式会場のすごい人波は、忘れられない思い出です。
こうした中、「善光寺まで歩いて参詣してほしい」「中央通りを
少しでもにぎやかにしよう」・・・。そんな思いが多くの皆さんの
共感を呼び、善光寺も協力して、表参道に灯籠を建てようという事
業がスタートしました。
1口1万円の寄付を募り、約5,600人の皆さんから約
6,000万円の資金が集まったそうです。2008(平成20)
年8月に、1基目の灯籠が長野駅前に建立されて以来、徐々に資金
を増やしながら、この春48基目の灯籠が完成しました。寄付にご
協力いただいた皆さん、地元の皆さん、善光寺の皆さん、本当にあ
りがとうございました。
なぜ48基かというと、善光寺のご本尊である阿弥陀(あみだ)
如来様が、私たちを救うために、48の誓願を立てられたことに由
来しているとのことで、灯籠一つ一つに誓願が刻み込まれています。
また、灯籠の火袋には、長野灯明まつりで入選した切り絵が飾られ
ていて、毎年入れ替えるそうです。灯籠に灯明まつりのエッセンス
を取り入れるところは、なかなか粋なアイデアだと思いました。
灯籠の屋根部分にはソーラーパネルが取り付けられていて、夜は
LED(発光ダイオード)電球で明かりをともしますので、環境に
も配慮されています。今後の維持管理は長野市が行いますが、経費
は、ソーラーパネルの修繕費やLED電球の交換費用などわずかと
のことです。
もう一つ、街角の話題、市街地の新たな魅力を紹介します。
長野市は、文化芸術活動による潤いのあるまちづくりを推進して
います。故夏目忠雄元市長の発案で市内全域を彫刻美術館になぞら
えた「野外彫刻ながのミュージアム構想」により、1973(昭和
48)年から毎年、長野市野外彫刻賞受賞作品を市内各地に設置し
ています。その数は2011(平成23)年度末で141点となり
ました。
皆さんもご存じのとおり、市内には長野市が設置した野外彫刻以
外にも企業や個人の皆さんが設置したたくさんの作品があり、そう
したものも合わせると230点は超えると思います。
今回の長野市野外彫刻賞受賞作家である村中保彦さんの作品は、
「工事現場」という作品です。「カバ」と「ゾウ」と「キリン」に
それぞれ工事現場の「足場」が掛かっているとてもユニークな作品
で、3体がワンセットとなっています。長野駅善光寺口から北へ約
100メートル進んだ長野大通り東側の歩道の植樹帯に設置されて
おり、このちょっと変わった野外彫刻に既にお気付きの方もいらっ
しゃるかと思います。
村中さんは学生時代、工芸を専攻されていたとのことですが、今
から15年前に、山口県宇部市で開催された現代彫刻展で見た野外
彫刻に感動され、それが転機となり、野外彫刻の道に進まれたそう
です。「野外彫刻のスケールの大きさに、心の底を打ち抜かれた」
と村中さんはおっしゃっていました。宇部市の野外彫刻と言えば、
昨年同市で開催された「彫刻のあるまちづくりサミット」に出席し、
その素晴らしさについては、かじとり通信でも皆さんに報告させて
いただきました。
村中さんの作品は、ステンレスを素材としています。試行錯誤し
ていろいろな作品に取り組まれましたが、ご本人自身「工芸家が作
った屋外に設置されただけの彫刻」と感じていて、「何かが違う」
と後ろめたさ、劣等感があったそうです。また、今回の作品を制作
する前に長野市の野外彫刻を1日かけて見て回られた時、そのほと
んどが日本の彫刻史を飾る有名な彫刻家の作品ばかりだと知って、
かなりのプレッシャーを感じられたとのことでした。
村中さんは、動物の中でなぜ「カバ」を選ばれたのかとの質問に、
「好きな動物は、カバ。有機的なカバに、無機的な工事現場の足場
を掛けてみた」とのことでした。そして、カバ、ゾウ、キリンが乗
っている板のようなものは「雲」で、雲の上に「桃源郷」をつくり
たいという「自分の夢」を表現した作品になったそうです。自分の
好きな形を組み合わせたら、楽しく、そして自分の気持ちに素直に
作ることができたとおっしゃっていました。
ちなみに村中さんは、サイも好きで、本当はカバとゾウとサイの
作品を作りたかったそうですが、3体が同じような形にならないよ
うにバランスを考え、キリンに決めたそうです。設置場所が歩道と
いうこともあり、作品の高さは鑑賞のしやすさや小さな子どもや多
くの通行人の安全性も考慮して、高すぎず、低すぎないようにする
ことに気を配ったそうです。動物は子どもたちに人気のあるモチー
フでもありますので、ぜひたくさんの子どもたちに見てほしいと思
います。
野外彫刻のいいところは、絵画などとは違って、じかに手で触れ
られることだと思います。すべすべ感やざらざら感、ごつごつ感な
どを、見るだけでなく触って感じてみてください。作品に込められ
た作者の思いを感じることができるかもしれません。
実は今回、村中さんの作品がもう一つ、「工事現場」の隣に設置
されました。椅子に8羽のハトが止まったり、飛んだりしている作
品で、作品名は「希望」です。こちらは、長野ライオンズクラブの
皆さんが、クラブ結成50周年記念事業として村中さんに制作を依
頼し、完成後長野市に寄付していただいたものです。村中さんは、
制作に当たって同クラブから、東日本大震災、長野県北部の地震災
害からの復興の祈りと、社会の平和、人々の心の安らぎへの思いが
込められた作品をと依頼され、その時すぐに「ハト」をイメージさ
れたそうです。この場をお借りして、長野ライオンズクラブの皆さ
んにお礼を申し上げます。
歴史を積み重ね、長野市が日本有数の野外彫刻都市となったこと
を大変誇りに思っています。本年度の優先施策に「文化芸術活動へ
の支援と文化の創造」を位置付け、積極的に取り組んでいるわけで
すが、今後は、長野駅から文化芸術の拠点となる新市民会館までの
プロムナードになる長野大通り沿いに野外彫刻の設置を進め、身近
に作品を鑑賞しながら散策も楽しめるコース作りも目指したいと考
えています。そして、この貴重な財産を、一人でも多くの皆さんに
鑑賞していただけるよう、今年も野外彫刻めぐり事業を6回開催す
るほか、子どもたちに鑑賞の機会を提供する「キッズツアーズ」事
業を行うなど、さらにソフト面の工夫と充実を目指していきたいと
思います。
今回紹介した、灯籠や野外彫刻は、まちに彩りを添えてくれます。
善光寺表参道、そして長野大通りを歩く時は、ちょっと足を止めて、
ぜひご覧ください。
2012年6月7日木曜日
民間活力導入の状況
民間企業や地域住民、NPOなどの「民間活力の導入」は、私の
歴史的使命であることを、市長就任以来、このかじとり通信でも機
会を捉えて申し上げてきました。「行政がやれば安心」という考え
は神話にすぎず、むしろ民間の発想や競争原理によって、市民の皆
さんに多様で満足度の高いサービスを提供できると考えてきました。
民間活力の導入といっても、その手法はさまざまです。突き詰め
れば、行政の監督の下に、民間が一定の権限と工夫で事業を行うか、
原則として行政から離れて民間の責任で事業を行うかの違いで、両
者の間にはさまざまなレベル、程度の違いがあり、具体的には行政
と民間事業者とが、協定などで決めることになるのでしょう。大き
くは、次の2つに分けられます。
(1)行政の事務、事業、公共施設を民間へ移管する「完全民営化」。
この場合、民間が責任を持って事業を行うことになります。
(2)行政がその業務や公共施設の管理に責任を持ちつつ、業務や
施設管理の一部を民間へ委託する「民間委託」。このうち、公共施
設の管理運営を民間などへ包括的に委託するのが「指定管理者制度」
です。この場合、事業自体は行政の責任で実施されますから、民間
は与えられた権限の範囲で運営することになり、したがって、あま
り自由度はないかもしれません。
公共事業について、計画から資金調達、建設、運営に至るまでを
民間に委ねるのが「PFI事業」です。この事業は、民間資本を導
入して公共施設を建設し、例えば最初の10年間その施設を民間が
経営して利益をあげ、その後、行政が引き取り運営を継続するとい
ったもので、民間が経営する期間は(1)に近いのですが、その後
は(2)に近い状況も出てきそうです。
そして、民間活力の導入を進める対象事業の要件には、「住民サ
ービスの質が落ちないこと」「市場における競争原理が働くこと」
「行政コストが削減できること」の3つがあり、この要件に当ては
まる事業は、全て民営化、民間委託などの対象だと考え取り組んで
きました。
これまでの主な取り組みは、
・斎場(火葬業務)の民間委託
・第二学校給食センターの民間委託
・上下水道料金徴収・収納業務の民間委託
・東部浄化センター、犀川浄水場の管理業務の民間委託
・PFI手法による温泉施設「湯~ぱれあ」の建設
・市有施設の管理運営に「指定管理者制度」を導入(333施設:
本年4月1日現在)
・公立保育所の民営化
などですが、もちろん十分ではありません。いくつか難しい課題も
あり、簡単には民営化といかないのです。
第1に、公立保育所の民営化について言えば、保護者の皆さんの
ご理解を頂くためには、十分な説明と時間が必要になることです。
行政がやっていれば安心という「神話」は、行政の責任者としては
ありがたいのですが、実際は民間が工夫した取り組みには素晴らし
いものがありますし、行政ではできないことにもどんどん挑戦して
いただくことにより、新しいサービスなども生まれてくるでしょう。
第2は、職員の雇用という課題です。例えば第二学校給食センタ
ーの民営化が行えた理由の一つは、正規職員全員が、他の市営給食
センターに異動することができたことにあります。非常勤職員は運
営受託会社に紹介し、雇用を継続していただきました。
しかし、今後さらに民間委託を進めようとした場合に、同じよう
に正規職員が異動できる職場があるとは限らないのです。地方公務
員法には、同法で定める事由による場合でなければ、職員の意に反
して、免職などができないという、いわゆる身分保障の規定があり
ます。法解釈によっては、こうした組織の改廃の場合に職員の免職
(リストラなど)ができるとも聞いており、法的には可能なのかも
しれませんが、雇用を守ることは道義的にも当然のことですし、今
の良好な労使関係をあえて覆すようなことをやるべきではないと感
じています。民間活力の導入に当たっては、雇用の継続も重要なポ
イントです。
最近の出来事としては、公立保育所の民間委託の一環として、本
年4月に川田保育園の運営を民間に委託(民営化)しました。
川田保育園の民営化については、2003(平成15)年度に保
護者の皆さんに説明し、その後、長年にわたり話し合いを行ってき
ましたが、いよいよ民間への運営委託という形でスタートしました。
民営化するに当たっては、保護者の皆さんからのご意見、ご要望を
お聴きするとともに、保護者、有識者などで構成する「長野市立保
育園委託・移管先選考委員会」での選考を経て、市内で認定こども
園を運営する「学校法人朝陽学園」が委託先として決定されました。
昨年4月からは、朝陽学園と市の保育士が合同で引き継ぎ保育を
実施するとともに、保護者、朝陽学園、長野市による「3者懇談会」
を定期的に開催し、保護者の皆さんの民営化に対する不安の軽減に
努めるとともに、民営化後の川田保育園の目指す保育についても話
し合いをしてきました。
川田保育園の民営化は、私が市長に就任以降、公立保育所では3
例目となります。2009(平成21)年4月の三輪保育園が最初
の民営化保育所となり、その後昨年4月に、城東保育園を閉園し、
運営を隣接する済生会長野保育園に移管・統合しました。来年度に
は、下氷鉋保育園を民営化する予定で、現在準備を進めています。
公立保育所の民営化は、長野市の基本的な方針の一つです。保護
者や地域の皆さんのご理解とご協力を頂きながら、少しずつ進めて
います。
また、公立保育所の民営化については、2005(平成17)年
度に、長野市のこれからの幼稚園・保育所および幼保一体化のあり
方を検討するため、「長野市保育所等のあり方懇話会」で審議をし、
提言をいただきました。当初に計画した3つの公立保育所の民営化
にめどが付いたことから、この提言に基づいて、本年度から新たな
計画の策定に着手し、2013(平成25)年度から2022(平
成34)年度までの10年間における公立保育所の統廃合などを含
む適正規模および民営化などの基本的事項を定めることにしました。
計画の策定に当たっては、市民各層の皆さんから広くご意見をお
聴きするため、6月4日の長野市社会福祉審議会に私から諮問しま
した。今後、同審議会の児童福祉専門分科会でご審議いただき、来
年の2月ごろに答申を頂く予定となっています。
市長就任以来、私が掲げてきた5原則「入りを量りて、出ずるを
為す」「市民とのパートナーシップ」「簡素で分かりやすい市政運
営」「民間活力の導入」「無私・利他の精神」は皆さんご承知のこ
とと思います。しかし、就任から10年が過ぎ、各項目を検討して
みますと、「民間活力の導入」が一番遅れているのではないかと感
じています。時間がかかっても、市民の皆さんのご理解とご協力を
第一に考え、皆さんの合意の下で一歩一歩進めていくことが重要で
あると考えてきましたし、これからもこの考えを基本とし、推進し
ていきたいと思っています。
前回のかじとり通信で、私が長野市開発公社の理事長に就任した
ことを報告し、市長が他団体の長を兼ねることは望ましくないとお
伝えしましたが、まさに長野市開発公社のような組織の長には、民
間出身の方を登用すべきだと考えています。同様のことは市民病院
の理事長職についても言えそうです。ただこれらの職に民間出身者
を登用する場合には、それ相当の報酬を保証する必要があります。
一方、市長が当て職で就任する場合は当然無給ですから、組織運営
上は安上がりです。もちろん、民間出身の方に、報酬以上の素晴ら
しい成果を挙げていただくことが理想でしょうが・・・。株式会社
エムウェーブの社長については、民間出身の土橋文行前社長がお亡
くなりになった後、しばらく空席でしたが、ようやく民間出身の素
晴らしい土屋龍一郎氏をお迎えすることができました。
これからも、「民間でできることは民間に」という流れはどんど
ん進むはずです。民間活力の導入により、高度経済成長期以降肥大
化した行政のスリム化が図られ、小さな政府に一歩ずつ近づき、
「お任せ民主主義」の時代から脱却が図られてくるでしょう。そし
て、私が申し上げてきた「市民の皆さんとのパートナーシップによ
るまちづくり」のとおり、市民の皆さんが主役となり、コミュニテ
ィーの再生、「自分たちの地域は自分たちでつくる」といった都市
内分権が発展するのです。
さらに、行政が担ってきた事業を民間事業者が実施することで、
民間に新たな仕事、ビジネスチャンスが生まれ、工夫によって新た
な産業に発展する可能性も出てきます。産業が活性化し、企業誘致
の促進、そして何より雇用の拡大といった効果が期待できます。行
政にとっても税収が上がり、社会全体が好循環し、元気なまちが実
現するのです。ただ民間組織のやり方によっては、例えば倒産のよ
うな失敗もあり得ます。
引き続き民間活力の導入を可能な限り進めるよう、今後も大いに
頑張っていきたいと考えています。